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NIRA政策提言ハイライト

過去の事例に学ぶ財政危機からの出口戦略

NIRA政策提言ハイライト 2011/12発行

繰り返される財政危機

 欧州債務危機が長期化し、混迷の度合いを深める中で、 ユーロ圏においては危機からの出口を模索する懸命の努力が続けられている。財政危機は古くから世界各国で繰り返されてきた問題であり、 過去の事例に学ぶことは現在進行中の危機からの出口戦略を考える上でも有益なヒントを与えてくれると思われる。
 NIRA研究報告書「財政再建の道筋」(伊藤元重NIRA理事長他)の第2章においては、 第二次大戦後の内外における財政危機/破綻の主要事例を検証した上で、危機の発生・波及の経路や収束過程等について明らかにしている。 これらの知見に照らすと、欧州債務危機の出口戦略について、どのような選択肢を示し得るだろうか。


危機増幅のメカニズム

 報告書では、過去の財政危機/破綻の多くの事例において、財政危機、金融システム危機、 通貨危機の間で連鎖反応が発生するとともに、それらと実体経済との間で悪循環に陥ったことを指摘している(下図参照)。 このような危機増幅のメカニズムは、共通通貨ユーロというやや特殊な背景を有する欧州債務危機においても、以下のような形で働いたといえる。

リーマンショック後の景気後退や金融システム不安に対処するための財政支出の拡大により、欧州各国の政府債務残高が増加(図中①)。
周縁国における財政危機の表面化による債務不履行懸念、国債価格暴落により金利が急騰。 同国債を大量保有する中心国を含めた金融システム危機に発展(図中②)。
リスク回避のための資本流出(周縁国⇒中心国、ユーロ圏外)が進み、 ユーロはドルや円に対して大幅に減価(図中③)。
金利の上昇、緊縮財政政策、信用収縮等のデフレ圧力の拡大により、実体経済が悪化 (図中④)。これによる税収の低下が財政危機をより深刻化させるという悪循環に陥る。

欧州債務危機の出口戦略
 過去の財政破綻の事例は、 概ね以下のようなプロセスを経て収束するのが一般的である。

資金繰りに行き詰った政府は通貨価値(固定相場制含む)の維持を放棄して、 中銀による国債直接引受けを含む大胆な金融緩和策を実行する(図中⑤を転換)。
これは通貨の暴落や急激なインフレの発生、対外純債務の急増(図中⑥) など強烈な副作用を伴う。政府は支払い不能に陥り、デフォルトによる債務削減に追い込まれる。
デフォルトやインフレによる債務負担の軽減によって財政の資金繰りが安定化し、 大幅な通貨安の下での純輸出増加の牽引(図中⑦)によって経済が再生に向かう。

 このように過去の事例に倣えば、欧州債務危機を収束させるためには、支払い不能状態に陥った周縁国がユーロを離脱して、 自国通貨を大幅に減価するとともに、デフォルトによって債務負担を軽減した上で、経済の再生を期することが定石である(ただし、 ユーロからの離脱をいかに円滑に行うかという技術的な課題は残る)。しかし、 ユーロ圏諸国は加盟国の離脱や無秩序なデフォルトを起こさないとの姿勢を堅持しており、 以上のような経路を通じた危機からの出口を自ら封印してしまっている。このような中で危機を収束させるためには、以下のようなポリシー・ ミックスが必要であると思われる。

債務の削減やユーロ共同債等の発行により周縁国の財政負担を軽減するとともに、 金融システムに財政資金を投入し、図中①、 ②間における負の連鎖を断ち切る。
ECBは国債の大量購入等を通じて各国政府の資金繰りを支援するとともに、 金利上昇や信用収縮等による実体経済への悪影響(図中④)を緩和する。

 しかし、現実には財政負担の増加や急激なインフレの再現を嫌うドイツ等の反対により以上のような抜本策は採用されず、 EFSFやIMF等による流動性供給で時間稼ぎをしつつ、緊縮財政政策(及び周縁国にとっては十分に緩和的でない金融政策)による 「デフレ政策」を通じた調整(実質為替レートの切下げと同値)が行われている(図中④、⑤)。周縁国における経済・ 財政の構造改革は不可欠であるが、ある程度の負担軽減や財政移転等を伴わない調整は実体経済への悪影響が大きく、 サステイナブルなものにならない可能性もある。問題の先送りによる事態の深刻化を避けるため、 中心国による一層の財政支援とECBによる大胆な金融政策の発動を早期に決断すべきである。


  図 財政危機、金融システム危機、 通貨危機の間における連鎖反応
政策提言ハイライト(ソブリン)図
     (出所)『財政再建の道筋』[2011]図表2-11(一部変更)。


太田 哲生  NIRA総括主任研究員


<リンク>
財政再建の道筋―震災を超えて次世代に健全な財政を引継ぐために―
(NIRA研究報告書/2011年4月)

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