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NIRA政策提言ハイライト

社会保障、将来への不安を残さない議論を

NIRA政策提言ハイライト 2017/09発行

■ 衆議院解散と消費増税分の使途の見直しと「一体改革」
 北朝鮮の問題が連日報道されている2017年9月25日、安倍晋三首相により9月28日召集の臨時国会冒頭に衆議院を解散が表明されるととともに、2019年10月に予定されている消費税10%への増税分の使途を変更し、大幅に子育て支援や教育の無償化に充てる旨の意向も示された。
 消費増税分の使途については、2012年の民主・自民・公明による3党合意に基づく「社会保障と税の一体改革」において、社会保障の維持可能性や安定化も含めて「すべて社会保障の財源に充て」る、とされていた(内閣官房ほか 2015, 7頁)。
 具体的には以下の図に示されているが、一体改革では、消費税率5%から10%への引上げ分5%の使途の見通しの内訳は、「社会保障の充実」に約1%分(その内訳として、子ども・子育てに0.7兆円、医療・介護に1.5兆円、公的年金に0.6兆円)、「社会保障の安定化」に約4%分を充てるとしていた。このことは、直近の6月に社会保障制度改革推進会議に提出された内閣官房社会保障改革担当室 (2017) の資料にも同様のことが明記されている。つまり、増税分はすべて社会保障の財源とすることは当時からうたわれており、そこには社会保障の安定化のための予算がかなりの割合で含まれている計画であった。しかし今回の首相の提案は、それを変更し、制度の維持・安定化のための財源の一部を、保育無償化や子育て支援、教育の無償化に振り向けるというものである。

■ 受益と負担を考慮した社会保障改革
 NIRA総研では、かねてより社会保障改革について議論を重ねてきた。なかでも、NIRA報告書『社会保障改革しか道はない』では、社会保障改革における4つの柱と、付随する7つの具体的な政策目標を提示している。具体的には報告書をご参照いただきたいが、そこでは、社会保障の持続性の確保を重視したうえで、受益と負担のバランスをふまえて、より困難に直面している人を重点的に支援するための制度改革案を示している。

■ 制度の維持可能性と国民の不安
 今回安倍首相が明示的に掲げた子育てや教育は、これまでさまざまな形で問題視されてきた。とくに子育ては、なかにはネットのブログ記事に言及した印象的な指摘もなされてきたもので、もちろん重要な課題ではある。しかしそれ以外にも、たとえば団塊の世代が後期高齢者になる2025年が間近に迫っているなかで、医療・介護の支出増大への対応と制度の維持可能性確保は、喫緊の課題なはずである。しかしながら、今回安倍首相からは医療や介護についての具体的な指摘はなされていない。
 「社会保障」への財源投入というと、サービスの充実ばかりに議論が集中しがちではあるが、財源は無限ではない。人口構造の大きく変化していく現在、誰をどのように支援すべきか、という視点がより重要となっている。また、将来にわたってサービスを提供するための制度の維持可能性も含めて「社会保障」の重要課題である。それら視点を欠いたまま、給付の拡充のみが喧伝されるだけでは、かえって国民の将来への不安を増大してしまうことにもつながりかねない。改めて、受益と負担の構造をふまえて議論を詰め、急ぎ改革につなげていかなければならない。



<参考文献>
NIRA研究報告書 (2015)『社会保障改革しか道はない――2025年度に向けた7つの目標
内閣官房・内閣府・総務省・財務省・厚生労働省 (2015)「社会保障と税の一体改革」平成27年5月11日。
内閣官房社会保障改革担当室 (2017)「社会保障と税の一体改革における財源・使途の状況」平成29年6月22日。
内閣府 (2017)「中長期の経済財政に関する試算」平成29年7月18日。

尾崎大輔(研究コーディネーター・研究員)

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