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NIRA政策提言ハイライト

AI時代に必要な「非定型的スキル」と基礎的能力

NIRA政策提言ハイライト 2018/10発行

■デジタル化が労働環境に大きな影響を与える
 社会のデジタル化が一層進展する中、ICTは労働環境に大きな影響を与えており、ビッグデータや人工知能(AI)等の技術の進展により、今後その衝撃は一段と強まると予想される。日常的に同じ作業を繰り返すといった定型的な業務等が、AI等に代替される可能性が高いためだ。

■「非定型的」なスキルの習得には基礎的能力が不可欠
 図1が示す通り、2008年を境に、高所得国では「定型的な認知的ないし肉体的スキル」と「非定型的な認知的・対人的スキル」を要する職種の雇用構成割合が逆転し、前者の割合が減少するにつれ、後者の割合は増加している。また、低・中所得国でも同様の傾向が見られる。
 今後経済発展が進み、所得が上がれば、非定型的なスキルがより求められるだろう。換言すれば、定型的な業務を遂行するのに求められるスキルを保持していても、今後の労働社会では有利にならず、定型的なスキルとは異なるスキルを習得することが必要となる。それは例えば、『世界開発報告2016』(注1)でも指摘されている通り、基本的な認知能力やICT スキルに加えて、クリティカルシンキング等の高度な認知スキル、社会情緒的スキル等、時と場合に応じて適切な対処を選択して対応するといったスキルだろう。ここで注意したいのが、こうしたスキルは、基本的な認知能力を習得していることが前提になる、ということだ。つまり、文章の論理構成を理解する力、あるいは、筋道を立てて考える力といった基礎をしっかりと体得することが不可欠だ。しかし、当然身につけているべきこの様な基礎的能力を、果たして誰しもが習得しているのだろうか。

図1 非定型的スキルが時とともにより重要になりつつある

(注)図は、ILO Laborsta(各年)に基づくWDR2016チーム作成。データは各国の単純平均、スキル要件による職種分類はAuthor2014にしたがい、各職業で最も集約的に使われている種類のスキルを反映。
(出所)世界銀行「世界開発報告( World Development Report)2016:デジタル化がもたらす恩恵」より

 NIRAオピニオンペーパーNo.31「デジタライゼーション時代に求められる人材育成」では、筆者らが学生に行ったリーディングスキルテストで、「言葉や文脈がもつ意味を理解しながら読む能力が身についておらず、AIと同じような表層的な読み方しかできない者が少なからずいる」と指摘している。つまり、通常の授業を受けていても、全ての学生が上述の基礎的能力を習得できているわけではない。基礎的能力を欠いた状態では、今後労働市場を積極的に生き抜くために重要となるスキルを身につけることは著しく困難か、あるいは不可能となってもおかしくない。

■学校教育、家庭や社会生活で基礎的能力を習得する
 学校教育において、成長過程にある学生に基礎的能力を学び取る機会を提供することは当然重要となる。同ペーパーで筆者らが主張する様に、今後の国語教育を、読む能力を養う論理的活動へシフトさせるというのも一案だろう。さらに、学校だけでなく、家庭や社会生活でも、他者との対話の中で、自分の考えを正しく伝えるために、筋道を立てて話すよう意識する等、その能力を高める手段はあるはずだ。また、社会人にとっても、新たなスキルへと進む前に、基礎的能力を本当に保持しているのか、今一度見極めることが必要ではないか。
 デジタル技術により労働市場が激変していく中、人々も求められる人材になるよう適応していかなければならない。しかし、その努力を自己責任論で片付けるのではなく、社会全体で喚起し取り組んでいくことが重要だろう。

注1:世界銀行「世界開発報告( World Development Report)2016:デジタル化がもたらす恩恵

<参考文献>
NIRAオピニオンペーパーNo.31(2017)「デジタライゼーション時代に求められる人材育成

羽木千晴(在外嘱託研究員)

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