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NIRA政策提言ハイライト

第四次産業革命をテコに「次元」の違う統計人材を育成せよ

NIRA政策提言ハイライト 2019/01発行

 政府が公表する統計やデータの信頼性を揺らがせる出来事が立て続けに起きている。データ駆動社会をけん引している政府そのものが、データの価値を認識していないのではないかと思われても仕方ない。政府の信頼を取り戻すためには、今回の出来事を、担当者の責任追及で終わらせるのではなく、統計人材の育成に本腰を入れる契機ととらえるべきだ。

■失われた日本の基盤
 連日のように報道される「毎月勤労統計調査」の不正問題。この調査は、賃金に関する統計調査のなかで基幹的なものだ。景気判断のほか、雇用保険や労災保険の給付の算定に利用されている。毎月、該当事業所に調査票を郵送し、従業員に支払っている給与額、出勤日数、人数などを書き込んだものを返送してもらう(注1)。今回の不正は、500人以上の従業員を雇っている全事業所を対象とする「全数調査」が大前提だったが、実は、東京都で、全事業所数の3分の1を対象とする「抽出調査」であったというものだ。
 その後、この「毎月勤労統計」以外の重要統計でも、政府内で不適切な対応があったことが明らかとなった。政策判断に不可欠な統計やデータを巡る、政府の不適切な対応は、統計作成・公表の責務を政府が十分に果たせていないことを示している。

■人材育成のためのイノベーション
 かつて、日本の統計は信頼性が高いといわれていた。日本人の勤勉さや、地道にしっかりと仕事を行うことが評価されていた頃である。しかし、バブル崩壊後の日本社会は、コスト削減、スピードアップ、新規事業の開拓に優先順位が変化する中、統計の分野に限らず、着実に仕事をこなす手間を疎んじてしまったのかもしれない。
 ここは再び、人材育成に注力するしかない。もっとも、かつてのように、コツコツと言われたことを忠実にこなす人材を育てよ、というのではない。成果の質を維持しつつ、前例踏襲にこだわらない多様な方法を発想でき、最善の手段を選択できる人材だ。NIRAわたしの構想No.7「脱・停滞へのイノベーション」で、金出武雄教授がいうように、人材育成には20年かかるという。20年は回り道のようだが、これが一番の近道である。今こそ、じっくりと、専門家の育成に取り組むべきだ。予算はないかもしれないが、ここは勢いにのる第四次産業革命の力を借りることを考えればよい。
 例えば、2017年春から、滋賀大学がデータサイエンス学部を創設し、専門家の育成に乗り出したことは、NIRAわたしの構想No.32「第四次産業革命に挑む」でも紹介した。通常、データアナリストのカリキュラムは、データの分析・評価の授業が中心となっている。しかし、そもそものデータがどのように収集されたか、また、収集の方法によってデータがどのような影響を受けているのか、その実態を知らなければ、いくら最新のツールを使って分析・評価しても、判断を間違えることになる。学部長の竹村教授が提案する「情報を生かした産業革命」に適した人材を育成するためには、統計の実査に関する学問的知見の習熟も重視されるべきだ。データを収集するという実査は実務の仕事と思われがちだが、そこに学問的な面白さが潜んでいる。デジタルを使った手法がデータにどのような影響を及ぼすのかなど、未知な問題も多い。
 また、学生が大学を卒業した後に統計のプロとして将来のキャリアの見通しを立てられるようにすることも必要だ。2008年に公表したNIRA研究報告書「統計改革への提言―『専門知と経験知の共有化』を目指して-」(宮川努教授座長)では、公務員の職種のなかに統計専門職を設け、一括採用を行うことを検討すべきであると提案した。統計専門職が異動を重ねて各省の統計業務を経験することができれば、政府統計の全貌を理解し、データに潜む特徴なども把握することができる。OJTで経験知を習熟することは、巷間のデータアナリストとは「次元」の違う人材になれるチャンスだ。
 さらに、政府の組織内でキャリアを閉じるのではなく、民間、政府、大学などを縦横に行き来しながら、幅広い業務を経験できる仕組みを作ることも必要だろう。専門性の高い職場環境を整備することができれば、優秀な人材が集まり、統計の質の向上にもつながる。

 第四次産業革命の流れのなかで、統計の職業こそ、もっとも脚光を浴びる職業の一つになりうるはずだ。そのためには、20年先の未来を見据えて、上記で示したような大学教育カリキュラムや人事制度、キャリア形成を見直すことが必要だ。今回の議論を、当事者の責任追及で終わらせてはならない。イノベーティブな発想で、統計人材の育成に抜本的に取り組んでいけるかどうかがカギを握る。

 (注1)ただし、常用労働者が5~29人の事業所については、統計調査員が訪問、聞き取りを行っている。また、全事業所を対象にオンライン調査も導入されている。

<参考文献>
NIRAわたしの構想No.7(2015)「脱・停滞へのイノベーション
NIRAわたしの構想No.32(2017)「第四次産業革命に挑む
NIRA研究報告書(2018)「統計改革への提言―『専門知と経験知の共有化』を目指して-

神田玲子(NIRA総研理事・研究調査部長)

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