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わたしの構想

人口減少時代の地域の強み

わたしの構想No.3 2014/04発行
小田切徳美(明治大学農学部教授)、 寺田典城(参議院議員、前秋田県知事)、 内山 節(立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授)、 松原 宏(東京大学大学院総合文化研究科教授)、 セーラ・マリ・カミングス(株式会社文化事業部代表取締役)             *原稿掲載順

人口減少が続くなか、地域の強みとは何か。本号の識者からは、地域のコミュニティの温かさ、セーフティネットとしての役割、自然や伝統などといった人々の生活を挙げる意見があった。また、地域がもつ感性や教育力、起業力に優位性を見出す指摘もあった。

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 識者に問う
 「都市とくらべた地域の「優位性」とは何か」

 大都市に人口や経済が集中する一方、人口の急速な減少に悩む地域では、地域社会の維持が困難になりつつある。都市とくらべたときの地域の「優位性」を明らかにすることが、地域と都市の役割分担を問い直し、地域の今後の戦略を考えるうえで重要となる。
 地域がもつ「優位性」とは何か。また、そうした地域の「優位性」を発揮するにはどうしたらよいのか。
 地域について造詣の深い、哲学、農政学及び経済地理学の研究者、地方自治体の首長やまちづくりの実践を経験した第一線の方々に聞いた。

*以下、記事中の敬称は略

1 小田切 徳美 「大田園回帰の時代をめざせ

2 寺田 典城  「人材育成は地域でこそ可能だ

3 内山 節   「新しい産業は地域から起きる

4 松原 宏   「地域の経済循環を確認せよ

5 セーラ・マリ・カミングス 「地域の質の高い暮らしを未来に残せ

インタビュー実施:2014年2月  
                           聞き手:島澤 諭(NIRA主任研究員)

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストこちらから)

 企画に当たって
  「人口減少時代の地域の強み」 神田 玲子(NIRA研究調査部長)

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 1 大田園回帰の時代をめざせ
    小田切 徳美  明治大学農学部教授


 ここ数年、若者の間で「田園回帰」の動きが確実に起こっている。例えば、島根県では、離島や中山間の特に最奥部で域外からの人口の流入増がみられる。若者が地方に向かうのは、人との実体的なつながりや、自分の居場所を求めているからだ。かつては「鬱陶しい」「遅れている」と言われた集落のネットワークやコミュニティを「温かい」と感じ、自立して働く地域の人々の姿を「かっこいい」と感じている。これが地域の価値、魅力である。
 英国、特にイングランドでは、都市よりも農村の人口増加率が高く、人々は30歳を過ぎると農村居住を好む、いわゆる逆都市化の動きが続いている。しかし、日本で始まった動きは、まだ政策による後押しの面もある。「大田園回帰の時代」を自然な流れへと定着することが期待される。
 そのためには、近隣の中小都市が衰退を余儀なくされる中で、生活する上で欠かせないインフラを維持するための政策が必要だ。厳しい財政制約を考慮して、農山村を一定規模の都市を中心とする圏域の中でとらえ直し、維持すべき機能と撤退する機能とを、圏域の観点から判断していく。そこでは、未来を担う若者の意見が反映されるべきだ。
 また、近年、農山村にも、複数の集落を束ねた形で、若者や女性の意思を包摂する新しい地域コミュニティが生まれつつあることも注視すべき変化だ。これまでの集落の最大の欠点は、意思決定が伝統的に年長者・男性によって行われ、若者や女性が排除されてきたことだ。若者がその人生をかけるに値するような価値の高い地域となれば、若者の回帰の動きは定着するだろう。

小田切 徳美 (おだぎり・とくみ)
地方部、特に農山村における地域再生の課題を研究。専門は農政学、農村ガバナンス論。
東京大学大学院農学研究科単位取得満期退学(農学博士)。東京大学農学部助教授などを経て現職。島根県中山間地域研究センター研究アドバイザーなどを兼任。
主著に、『地域再生のフロンティア』〔編著〕(農山漁村文化協会、2013年)、『農山村再生に挑む』〔編著〕(岩波書店、2013年)など。

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 2 人材育成は地域でこそ可能だ
    寺田 典城  参議院議員、前秋田県知事


 社会的な格差の拡大が指摘される中で、地域には空き家や田畑があり、住むところや食料を安価に確保できる点は幸いといえよう。都会のように高い所得を得られる仕事は少ないが、低所得者が安心して暮らせ、子育てや教育もできる、いわばセーフティネットとしての役割を果たしうることが、地方の価値である。子育て支援や幼児教育、義務教育が充実すれば、若い世代にもその魅力をアピールすることができるだろう。
 実際、地域の教育力は優れている。秋田県では、30人学級をはじめ様々な取り組みを先駆けて行い、全国学力テストで高順位が続いている。県が設置した国際教養大学もそのユニークな教育で評価が高い。外国人との共同生活や海外への留学を義務づけ、若者が外へ出て違う社会や異文化を見ることができるようにした。その経験は日本全体の役に立つはずだし、たとえ地元に戻らなくても、いずれその恩恵は回り回って地域にも及ぶはずだ。グローバル化が進む日本では、様々な経験を積んだ、既存の殻を破るような人間が求められており、こうした人間を育成できる可能性が地域にはある。
 人口減少が続く地域社会の一番の問題点は、都市のように頻繁な人の行き来がないため、地域での住民の役割が固定され、窮屈な社会となっていることにある。しがらみを断ち切って社会的にも移動を可能とするには地域の外からの力も必要だ。その中で地方自治体が果たす役割は、「人材育成」と住民の生命や財産を守るための「安全・安心」に尽きるのだと思う。

寺田 典城 (てらた・すけしろ)
秋田県での行政経験をもとに、地域主権、財政健全化、グローバル社会で通用する人材育成、教育の充実、産業振興などを基本政策とする。結いの党副代表。
早稲田大学法学部卒業。横手市長(2期)、秋田県知事(3期)を経て、2010年より現職。県知事時代に国際教養大学を設立。英語に特化した教育、高い就職実績などで注目を集める。
[公式HP] http://sukeshiro.com/

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 3 新しい産業は地域から起きる
    内山 節 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科教授


 国際的な大競争の中で、追随者との過酷な競争に巻き込まれることなく、持続性のある新しい産業を起業する力は、都市ではなく、むしろ地域にある。昨今の電機メーカーの苦境をみると、技術力とか資本力は意外にもろく、すぐに追いつかれることがわかる。産業の持続性を担保してくれるのは、地域のコミュニティ力やネットワーク力の強さだ。仲間と協力し助け合える関係に包まれている産業というのは、意外と大変なときでも乗り切っていけるものだ。
 都市部では「働く=雇われる」、地域では「働く=自分で仕事を起こす」という側面が強く、地域でこそ起業が求められている。しかし、起業を成功させるには、地域住民だけではなく、外部の協力者も必要になる。昔、山あいの養蚕業は、「仲買人」といわれる人々が、人間的なつきあいをしながら、時には損をしても皆がうまくやれるように支えてくれた。今は、幸いなことに、仲買人の役割を果たしたい人が、定年退職者の中にたくさんいる。それなのに、これまでは、そういう人たちの協力を得ながら地域産業を起こしていくことに視野が向いておらず、それが、地域を苦しくさせていた。
 地域から産業を起こす上での一番大きな阻害要因は、どういう方向性で地域づくりをしていくのか提示していない市町村が多すぎることだ。今、地域でビジョンをつくると、「元気なまちづくり」とか、みな同じになってしまう。これでは全然魅力にならない。都市に住む人々やIターンによって移り住んできた人々の発想を生かすことを考えてみてはどうだろうか。

内山 節 (うちやま・たかし)
哲学者。1970年代から東京と群馬県上野村を往復して暮らし、上野村の営みや山里の文化の考察に基づく思想を展開。
NPO法人森づくりフォーラム代表理事。地域づくり情報誌『かがり火』編集長。主著に、『内山節のローカリズム原論―新しい共同体をデザインする』(農山漁村文化協会、2012年)、『共同体の基礎理論―自然と人間の基層から』(農山漁村文化協会、2010年)など。

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 4 地域の経済循環を確認せよ
    松原 宏 東京大学大学院総合文化研究科教授


 地方の中小都市や過疎地の人口減少といった量的縮小は、地域の質を劣化させる方向に働かざるをえない。しかし、ひらめきやアイディアなどのように、量の変化に左右されない要素もある。こうした「感性」と、日本のどの地域にも存在する自然、歴史、文化といった地域資源を結びつけることができれば、地域経済は十分に存立可能だ。例えば、音楽、映画、美術といった感性系を素材にした芸術の分野は、過疎地の方が優位ともいえる。
 地域経済の活性化のためには、地域資源の再発見と整備が鍵となる。1つの小さい地域だけだと資源に限界があるので、地域が外部と連携することが必要だ。大分県の湯布院は、地域にないものを連携によって補っている好事例だ。もともとは普通の温泉街だったが、遠くから当地を応援し、評価してくれる大勢の人たちの記憶、希望、意見という「知識のフロー」を上手く取り込み、成功している。外部からの「知識のフロー」が、いわば地域資源となり、それを生かした活性化が、今も持続している。
 地域の自治体が外部とのつながりを考える際には、地産地消とか、域内循環を強めるだけではなく、どういう形で自分の地域のモノ、カネ、人の循環が域外と結びついているのかを確認する必要がある。地域経済を牽引する産業部門の取引状況、生産の競争や分布状況、人の地域内外の移動とそれを支える交通体系などを客観的に把握する。これまでは、域内のことを中心に議論されていたが、これからは域外との関係にも視点を置くことで、地域経済の活性化といった政策課題に答えていくことが重要となる。

松原 宏 (まつばら・ひろし)
産業立地と地域経済に関する理論・実証研究を行う。専門は経済地理学、都市地理学、ドイツ地域研究。
東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)。西南学院大学経済学部教授を経て現職。
主著に、『日本のクラスター政策と地域イノベーション』〔編著〕(東京大学出版会、2013年)、『経済地理学-立地・地域・都市の理論-』(東京大学出版会、2006年)など。

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 5 地域の質の高い暮らしを未来に残せ
    セーラ・マリ・カミングス (株)文化事業部代表取締役


 日本の地域には、伝統に裏打ちされた酒造りや工芸の技術、昔ながらの街並み、おいしい料理など、昔の文化が根付いている。建国の歴史の浅い米国とは異なる財産だ。日本人は物まねが上手でオリジナリティがないというが、素晴らしいオリジナルがたくさんある。日本人自らその魅力に気づかず、生かしきれていないのは、もったいない。
 まちづくりは、まずそのまちに住む人のためのものであり、そこで受け継がれてきたライフスタイルを大事にすることから始まる。日本の地域の、都会にはない価値は、自然とともに生きることから生まれている。自分たちで土に触れてものを育てるといったサステナブルな暮らしは、ゆとりがあり魅力的なものである。地に足のついた、素朴な生活をして、子どもをたくましく育てることができる。昔の里山で培われていた暮らしの知恵や上質な自然を、50年後、100年後の子ども達に残していかなければならない。
 文化的な刺激は、地域の暮らしをより良質にする。長野県の小布施は葛飾北斎が最晩年に逗留を重ねた地で、多くの作品が残されている。それを美術館で展示するだけでは物足りない。かつて北斎の国際会議の小布施開催に尽力したのは、北斎研究という現在進行形で世界で起きている動きに小布施がつながっていくことが大切と考えたからだ。インターネットやソーシャルネットワークの発達している現在では、そのような観点でビジネスの成立を考えることも容易になった。大勢の一過性の観光客におぼれるのではなく、文化の拠点として、目標や目的をもった質の高い交流をめざすべきである。

セーラ・マリ・カミングス (Sarah Marie Cummings)
長野県小布施町の町おこしの中心的人物。現在は長野市若穂を拠点に、里山を生かした循環型農業のプロジェクトに従事。
ペンシルベニア州立大学卒業。長野冬季五輪のボランティアとして来日。(株)小布施堂取締役、(株)桝一市村酒造場取締役などを経て現職。
氏の活躍を取り上げた書籍として、『小布施ッション:長野県小布施町から洗練された発信力』〔編〕(日経BP企画、2002年)など。

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 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

 小田切 徳美 氏
 小田切徳美〔2009〕『農山村再生-「限界集落」問題を超えて-』岩波書店

 寺田 典城 氏
 船橋洋一〔2013〕『カウントダウン・メルトダウン』上・下 文藝春秋

 内山 節 氏
 内山 節〔2005〕『「里」という思想』新潮選書

 松原 宏 氏
 松原 宏〔2012〕『産業立地と地域経済(放送大学大学院教材)』放送大学教育振興会

 セーラ・マリ・カミングス 氏
 Azby Brown〔2009〕Just Enough: Lessons in Living Green from Traditional Japan,
 講談社インターナショナル.

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 企画に当たって
  「人口減少時代の地域の強み」 神田 玲子(NIRA 研究調査部長)


 今回は、日本の「地域」をテーマに取り上げる。ここでいう「地域」とは、首都圏以外の人口5万人以下の市町村をイメージしており、今後、人口が急速に減少する地域である。
 地域の衰退が議論されることが多いが、本来、地域は都市との関係性において語られるべきだろう。日本の近代化が世界に例をみないスピードで進んだのも、地域と都市の間の分業が上手く機能したためである。地域は都市に企業の働き手となる若者を送り出す一方、人手の減少を機械化によって補うことで農産物の生産地としての役割を果たした。それが効率的な社会を支えた。
 しかし、高成長の終焉とともに、人々の意識は、これまでの早い、安い、便利という効率性を追求する価値観から、モノやサービスの意義、共感、自分らしさといった多様な価値観へとシフトしている。多様化した社会における地域の役割は、高成長時代のそれとは異なるはずだ。まさに、地域と都市との新たな役割分担が改めて問い直されるべきだろう。
 本号で紹介する識者の見識は、地域と都市との新しい分業体制の姿を描くうえで、多くの示唆を与えてくれている。地域の優位性に目を向けることから、都市との新しい役割分担が生まれる。


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※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp


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