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わたしの構想

女性就労とオランダモデル

わたしの構想No.5 2014/09発行
権丈英子(亜細亜大学経済学部教授)、 八代尚宏 (国際基督教大学客員教授)、マルセル・ウィガース(ランスタッド株式会社 代表取締役会長兼CEO)、 水島治郎(千葉大学法政経学部教授)、     デイヴィッド・バーンズ(IBM Corporation 人事政策担当副社長)        *原稿掲載順

 オランダのパートタイム雇用の枠組みは、わが国の女性就業の促進に有効か。本号の識者からは、ワーク・ライフ・バランスを実現し、今日の変化の激しい事業環境に適応するために参考にすべきとの意見がだされた。また、日本に導入するには長時間労働の是正や男性中心の職場の意識改革が必要であり、働く場所や時間を柔軟に選択できることも合わせて実施すべきとの指摘があった。

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 識者に問う
 「オランダのパートタイム雇用モデルはわが国にも有効なのか」

 オランダでは、パートタイム労働とフルタイム労働の待遇を均等化し、また、労働時間の短縮・延長を労働者が申請する権利を認めるなど、労働時間の選択の自由度を高めたことが女性の就業率アップに貢献してきたとされている。
オランダのパートタイム雇用モデルとはどのようなものか。
わが国においても、均等待遇によるパートタイム労働の積極的な推進は、女性の社会参画に寄与するのか。
オランダモデルをわが国に取り入れるなら、そのためには何が必要とされるのか。
オランダの労働事情と働き方の多様性について、経済学、政治学の研究者、オランダ企業日本法人のCEO、米国企業本社の人事政策担当副社長に話をきいた。

*以下、記事中の敬称は略

1 権丈 英子 「参考となるオランダ型アプローチ」 

2 八代 尚宏 「多様な働き方が可能なパートタイム雇用

3 マルセル・ウィガース 「パートの均等待遇で社会を変える」 

4 水島 治郎 「均等待遇は長時間労働の是正から

5 デイヴィッド・バーンズ 「働き方をもっと柔軟に

インタビュー実施 :2014年7月
聞き手:豊田奈穂(NIRA主任研究員)

 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

 企画に当たって
  「女性就労とオランダモデル」 神田玲子(NIRA理事)

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 1 参考となるオランダ型アプローチ
    権丈英子 亜細亜大学経済学部教授


 オランダにおける人材活用のアプローチは、労働時間の選択の自由度を高め、希望に沿った形で多くの人が働く参加型社会を目指すものだ。個人は、子育てやスキルアップなど、自分の人生設計に合わせて労働時間を調整することができ、ワーク・ライフ・バランスをとりながら、長いスパンで仕事が続けられる。
 オランダでは、働く時間が短くても活躍する機会は豊富だ。週2日のパートタイムでは仕事が限られるが、3、4日であればキャリア上の不利益も小さいといわれている。既に管理的職業の20%超はパートで、その水準はEU平均を大きく上回る。さらに最近では、働く場所に柔軟性を持たせるテレワークの取組も進んでいる。
 多様な働き方のメリットは、個人の満足度を高め、長期的に働くことによって教育訓練投資を生かすことができ、企業にとっても人材確保や生産性の向上につながることだ。共働きで家計も豊かになるとともに、ライフスタイルも変わって社会の消費構造が転換することで経済成長にも役立つ。オランダでは、女性の就業率が劇的に高まる一方、最近は男性のパートも増えており、社会全体の満足度は高い。
 労働者が労働時間を柔軟に選択できるオランダ型アプローチは、日本にはまだ新しいかもしれない。しかしながら、それこそさまざまな理由により、人々の働き方に対する意識や社会のニーズも随分と変わってきている。男女が、ワーク・ライフ・バランスをとりながら能力を発揮し活躍できる社会を創ることは、そう遠くない未来に求められるようになるのではないだろうか。

権丈英子 (けんじょう・えいこ)
オランダモデルに精通し、早期からワーク・ライフ・バランスの観点で、日本への応用を提唱する。
専門は労働経済学、社会保障論。アムステルダム大学Ph.D.(経済学)。アムステルダム大学研究員、亜細亜大学経済学部准教授等を経て、現職。労働政策審議会労働条件分科会委員等を歴任。著書に、『国際比較の視点から日本のワーク・ライフ・バランスを考える』〔共著〕(ミネルヴァ書房、2012年)、Social Policies, Labour Markets and Motherhood〔共著〕(Cambridge UP、2008年)ほか。

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 2 多様な働き方が可能なパートタイム雇用
    八代尚宏 国際基督教大学客員教授


 オランダのパートタイム雇用モデルは、日本にとっても大いに参考になる。その基本的な考え方は、欧米型の職務の範囲を明確にし、同一労働・同一賃金の原則を確立することである。日本では、職務の概念が不明確であり、周囲の人の仕事との分担も曖昧で、個人の成果が不明瞭となりがちだ。また、労働生産性の低さを長時間労働で補っており、頻繁な転勤等、無限定な働き方となっている。これは80年代までの高成長期には、成功した仕組みだったが、低成長期には矛盾が生じている。事業環境の変化が激しい情報化社会では、企業内での熟練形成だけにかかわらず、外部人材の積極的な活用を、男女を問わず、図ることが重要となる。
 オランダ型のパートタイム雇用によるワークシェアリングの働き方を、日本のシステムに取り入れるためには、「メンバーシップ型」の長期雇用保障や年功昇進・賃金体系を、唯一の望ましい働き方とする通念を変えなければならない。職務が明確な「ジョブ型正社員」を増やし、外部の労働市場からも人材を登用しやすくする。そうなれば、成果を明確に評価することも容易になり、「労働時間ではなく成果に応じた報酬」という、女性にとっても不利にならない、新しい労働時間制度の導入も容易となる。
 こうした多様な働き方が可能な基盤を整備した上でパートタイム雇用を導入すれば、女性の登用だけではなく、高齢者雇用の促進にも役立つ。また、男女にかかわらず、多様なダブル・ジョブをもつことも可能となり、個人の職業能力向上に相乗的なプラスの効果が生まれる。これはダイナミックな能力別人事を実現する第1歩となろう。

八代尚宏 (やしろ・なおひろ)
労働市場をはじめ多分野での規制改革を提言。共稼ぎを前提とし、多様なアクターが対等な立場で競争できる働き方を社会に問う。
専門は労働経済学、経済政策。メリーランド大学博士(経済学)。旧経済企画庁、OECD勤務、上智大学国際関係研究所教授、国際基督教大学教授等を経て、現職。昭和女子大学特命教授を兼務。著書に、『社会保障を立て直す』(日経プレミアシリーズ、2013年)、『日本的雇用慣行の経済学』(日本経済新聞社、1997年)ほか。

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 3 パートの均等待遇で社会を変える
    マルセル・ウィガース ランスタッド株式会社 代表取締役会長兼CEO


 オランダの女性の活躍には、雇用期限のないパートタイム労働の浸透が寄与している。90年代以降、短時間勤務でもキャリア形成を可能にする法制度が確立、現在、女性の多くが週20 ~32時間の就労をしている。男性のパートも浸透し、パートの割合は総就業者の4割近い。日本では、パートは一般に有期の非正規雇用とされ、フルタイムを前提とした正規雇用と比べ待遇が劣る。オランダでは、同一労働・同一賃金に加え、雇用の安定、社会保障の面でもパートとフルタイムの均等待遇が実現し、労働時間が柔軟な無期雇用が浸透している。職務表に基づき成果の質で給与が支払われるので、管理職を含めた多様な仕事でパートでの就労が可能だ。実際、役職や責任の重い仕事に女性が就いている。
 70年代までは、オランダでも、日本と同様に伝統的な男女の役割分担が一般的だった。
その後、女性もキャリアを持ち、男性も親の役割を果たすために、社会が変わるべきという危機感が高まった。パートタイム就労者の無期雇用化・待遇改善は、社会保険料などの費用を一時的に押し上げるが、急速に少子高齢化が進み、移民を受け入れにくい日本の労働市場では、女性や高齢者の労働参画の推進、男性中心の職場の意識改革など、社会全体で改革を進める以外には選択肢はない。
 一方、オランダの課題は、雇用の2割以上を占める有期契約がさらに増加傾向にあることだ。無期契約のパートが均等待遇を実現する一方、有期契約は雇用が不安定になる。解雇が容易なため、景気の影響を受けやすく、失業者には政府が社会保障を提供している。

マルセル・ウィガース (Marcel Wiggers)
世界最大級の総合人材サービス企業であるオランダのランスタッド・ホールディング日本法人を率いる。
同社オランダ法人派遣スタッフ勤務の後、1985年コンサルタントとして入社。イタリア法人、日本法人の立ち上げなどに携わった後、アジア地区担当マネージング・ディレクターを経て、2011年より現職。オランダ出身。

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 4 均等待遇は長時間労働の是正から
    水島治郎 千葉大学法政経学部教授


 オランダの女性パートタイム雇用の増加は、80年代以降の、サービスセクターにおける労働需要の増加が契機となった。当時、労働組合は組合員数が先細りする製造業に対し、拡大著しい「女性」「パートタイム」「サービスセクター」を組織戦略の柱とし、積極的な待遇改善に乗り出した。この判断は正社員クラブといわれる日本の労働組合とは大きく異なる。その後、パートタイムとフルタイムの均等待遇(96年)や、労働者が労働時間の増減を雇用主に申請できる労働時間調整法(00年)が成立し、パートタイムの労働条件は大幅に改善された。こうした仕組みは日本にはない。
 従来、オランダでは、子どもが小さい間、母親は子育てに専念すべきというキリスト教的な家族観が根強く、今でも、フルタイム労働をためらう女性は多い。こうした中、パートタイム労働が現実的な選択肢とされている。オランダの女性の就業率が高いことをもって、フルタイムの就業率の高い北欧と並ぶ男女平等が実現された理想郷とするのは一面的だ。
 日本でも、パートとフルタイムの均等待遇は実現すべきだが、現実には困難だ。日本は採用、待遇などが両者で異なり、何をどのように均等にすればよいのか、その基準が全くない。また、企業の間で顧客を優先する意識が強く、依頼に対して残業をいとわず対応する働き方が重視される。企業意識を変えなければ実現は難しい。まずは、男性中心の残業を前提とする長時間労働に網をかけ、働く時間をきちんと枠内に収める必要がある。それによって、すべての人が決められた時間で働く同じ環境が整い、ようやく何を比較するかという均等待遇に向けた議論も可能になる。

水島治郎 (みずしま・じろう)
オランダ政治を軸に、ヨーロッパ比較政治を研究。オランダモデルをめぐる議論を通して、現代ヨーロッパの変容を探る。
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。ライデン大学客員研究員、甲南大学法学部助教授等を経て、2007年より現職。千葉市男女共同参画審議会会長も務める。著書に、『労働―公共性と労働-福祉ネクサス』〔編著〕(勁草書房、2010年)、『戦後オランダの政治構造』(東京大学出版会、2001年)ほか。

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 5 働き方をもっと柔軟に
    デイヴィッド・バーンズ IBM Corporation 人事政策担当副社長

 テクノロジーの発達により、「どこで」「どのように」働くかなど多様な選択が可能となった。柔軟な雇用条件は、優秀な人材を引きつけ、モチベーション高く働き続けるという意味で、労働者にも経営者にとっても、メリットがある。仕事と家庭の両立も可能となる。IBMでは、全世界の社員(一定の職階以上)を対象に、その国の法律が許す限り、場所や時間の柔軟性を持たせ、多様な働き方を提供している。オランダで広く普及しているパートタイム労働も、魅力的な選択肢ではあると思う。
 しかし、パート労働は、女性就業率の向上のための唯一の解決策ではない。例えば、オランダ、スウェーデン、ドイツ、イギリス、アメリカでは、5カ国全てで、男女計の就業率と女性の就業率の差は5%以下であるが、オランダ以外の国ではパート労働はあまり普及していない。一方で、日本では10%の開きがあることから、日本の女性の就労を阻んでいるのは、パート労働の普及不足だけとはいえない。
 オランダの労働市場のルールはオランダの歴史・社会・文化の産物であり、その文脈を抜きにしてパート労働という要素だけを別の国に移植することは適切とはいえない。ただし、より包括的な改革パッケージの一つとして取り入れるなら、うまく機能するだろう。例えば、職務ベースで契約し、従業員ごとに明確な職務記述書を定義することや、「時間」ではなく「成果」によって評価する制度などを導入して、より柔軟な働き方を取り入れるべきだ。こうした前提を踏まえずに日本でパート労働を推奨しても、非正規労働の比率が増えるだけという懸念がある。

デイヴィッド・バーンズ (David N. Barnes)
IBMが事業展開する世界各地の労働雇用規制、能力開発、従業員の処遇等について、ワシントンを拠点に専門チームを率いる。事業利益の観点から各国の政策提案に関与し、多くの制度改革に成功している。
オーストラリア連邦政府勤務の後、I BM入社。オーストラリア・ニュージーランド法人広報部長、中国法人上級顧問、アジア太平洋本部政府プログラム担当副社長を経て、現職。

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 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

権丈英子氏
権丈英子 編著〔2014〕『ヨーロッパにおける非典型雇用―イギリスとオランダの現状と課題―』社会保険労務士総合研究機構

八代尚宏氏
八代尚宏〔2009〕『労働市場改革の経済学』東洋経済新報社

マルセル・ウィガース氏
Chad Steinberg, Masato Nakane〔2012〕“Can Women Save Japan?” IMF Working Paper, No.12/248
(チャド・スタインバーグ、中根誠人〔2012〕「女性は日本を救えるか」『 IMFワーキングペーパー』No.12/248)

水島治郎 氏
水島治郎〔2012〕『反転する福祉国家―オランダモデルの光と影』岩波書店

デイヴィッド・バーンズ 氏
Kathleen Christensen, Barbara Schneider(eds.)〔2010〕Workplace Flexibility: Realigning 20th-Century Jobs for a 21st-Century Workforce, ILR Press

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 企画に当たって
  「女性就労とオランダモデル」 神田玲子(NIRA 理事)


 日本では、長時間労働を前提とした働き方が、女性が働き続けるうえでの大きな障害となっている。そのような日本にとって、オランダのパートタイム雇用の取組は注目に値する。その特徴は、原則、全ての労働者に、労働時間の変更を申請する権利が与えられていることである。また、労働時間が短いパートタイム雇用になっても、時間当たり賃金・解雇条件などではフルタイム労働と同じ処遇が保障されているのも特筆すべき点だ。日本では、育児や介護期間の人には短時間労働が認められているが、それ以外の労働者を対象に実施している企業数はごくわずかである。また、日本で労働時間が短いパートを選択した場合には、補助的労働者となり賃金、昇進面での待遇が劣る、というトレードオフを働く側が受け入れなければならない。
 現在、オランダの女性の就業率は8割に達し、出生率は1.7に回復した。これもパートタイム雇用が普及したためといわれている。オランダのように、労働時間を短くしても不利な扱いを受けることなく、安心して働けることが、日本女性の就業促進のカギを握るのではないか。
 もっとも、それぞれの国の働き方は、各国の制度や歴史と深く結びついている。例えば、男女平等の先進国といわれるスウェーデンやノルウェーでは、パートタイム雇用を積極的に促進しているわけではない。まさに、各国の歴史的な背景や制度・雇用慣行に応じて、取るべきアプローチが異なるということだろう。
 本号では、オランダのパートタイム雇用モデルが、長時間労働に悩む日本女性にとって、就業促進の有効な手段となるのか、識者の意見を聞いた。

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※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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