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わたしの構想

高齢者が働く社会

わたしの構想No.9 2015/03発行
識者:上田研二(株式会社高齢社 最高顧問)、 廣瀬通孝(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)、 ケイトリン・リンチ(オーリン大学人類学 准教授)、 八代充史(慶應義塾大学商学部 教授)、     大内伸哉(神戸大学大学院法学研究科 教授)                 *原稿掲載順
企画:柳川 範之 (NIRA理事)

 元気な高齢者が増えている。少子高齢化で年金を支える社会保障の担い手が減る中で、就労意欲のある高齢者が仕事を続け自立できる環境整備が求められる。より多くの人が高齢期になっても働ける社会の在り方や働き方、雇用制度はどうあるべきなのか。



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 識者に問う
 「元気な高齢者がよりよく働けるために、何をすべきか」
 高齢者の雇用はどうあるべきか。 改正高年齢者雇用安定法の評価を含め、労務管理・労働法の研究者、ICTによる高齢者の活用に取り組む研究開発者、高齢者雇用の人材派遣会社トップ、高齢化社会のフィールドワークを行う米国の文化人類学者に話を聞いた。

*以下、記事中の敬称は略

1 上田 研二    「生涯現役で働ける社会を目指せ

2 廣瀬 通孝    「「高齢者クラウド」で元気な高齢者の支援を

3 ケイトリン・リンチ  「高齢者に意味ある仕事を作ろう

4 八代 充史    「企業の体力を加味した雇用対策を

5 大内 伸哉    「雇用社会の将来をとらえた雇用政策を

インタビュー実施:2015年1月
聞き手:榊 麻衣子(NIRA研究コーディネーター・アシスタント)
    川本 茉莉(NIRA研究コーディネーター・アシスタント)
編集:原田 和義

 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

 企画に当たって
  「高齢者が働く社会」 柳川範之(NIRA理事)

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 1 生涯現役で働ける社会を目指せ
    上田 研二 株式会社高齢社 最高顧問


 定年後も働く意欲のある人が、“生涯現役”で働ける社会が望ましいと考えている。定年後、「定年だ、バンザイ」と旅行やゴルフを楽しむが、やがて「毎日が日曜日」の生活に飽きてくる。私が起業した高齢社は、こうした60歳以上を対象にした人材派遣会社で、高齢者に働く場と生きがいを提供することを目指している。
 登録者は週に3日程度の仕事をしたい人が圧倒的に多い。高齢者が求めているのは、居場所・生きがい・人とのつながりなどだ。既存のハローワークに行っても期待を裏切られるので、こうした会社は喜ばれる。仕事のやり方は2人で1人分を受け持ち、勤務を2人で補完し合う。
 仕事内容は、点検業務や営業巡回、留守番的な窓口対応、コンビニ店員、運転の補助などさまざまだが、そのマッチングが非常に難しい。給料は時給で賞与なし。年金受給者ならそれでも応じるので、会社として成り立っている。
 当社のやり方は、本人、奥さん、派遣先、そこの社員、高齢社とみんながプラスになるような仕組みだ。例えば、派遣先企業は顧客への業務を平日に行いたいが、顧客側が土日を希望する。小さい子どもがいる社員は休日出勤を渋る。そこに高齢社の出番がある。休日割り増しも不要だし、派遣先の社員からも土日に休めるので喜ばれる。
 今後、日本全体では、零細企業などで企業年金がないため高齢者の二極化が予想され、対策が必要となろう。定年後に新しく仕事を学ぶことも大切で、国・企業・個人が研修費を負担し合い、教育訓練システムを作るべきだ。高齢化社会は老若男女が一緒に考えていくことが必要である。

上田 研二 (うえだ・けんじ)
60~75歳未満の高齢者を対象とした人材派遣会社「高齢社」の創業者。年金併用型で無理なく働く仕組みで、「働く場」と「生きがい」を提供する。
高校卒業後、東京ガス(株)に検針員として入社。1998年東京ガス(株)を理事まで昇格し定年退職。1991年以降は子会社、協力会社2社の経営再建を果たし、2003年に引退。2000年に株式会社高齢社を設立、2010年より現職。一般社団法人高齢者活躍支援協議会理事長を兼務。新聞、雑誌の掲載、年間10回を超える講演活動もこなしている。

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 2 「高齢者クラウド」で元気な高齢者の支援を
    廣瀬 通孝 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授


 少子高齢化が進行する日本では、2055年には1.3人の働き手で1人の高齢者を支えなければならなくなるという。高齢者層を「支えられる人」ととらえている限り、この問題に解がないことは明らかである。しかし実際には働く意欲や元気のある高齢者も多く、この人々が労働力として社会参画できれば光明が見えてくるであろう。
 高齢者は若い人に比べて、知識や対応力などの点で強みがある。ところがその一方、体力の衰えがあること、専門知識や経験があることの裏側にはつぶしがきかないなど就労をさまたげる要因も多い。高齢者は若年層に比べて多様な特性をもち、それゆえ各企業は高齢者の雇用に二の足を踏むのである。現在われわれは、ICTによりこのような多様性に富む労働力を生かす仕組みを作ろうと、研究開発プロジェクト「高齢者クラウド」を推進している。この研究が実を結べば、安定した新たな社会構造を作り上げることができるだろう。
 高齢者クラウドでは、個々人の時間・空間・スキルを分解し、それらを組み合わせて1人分の働きをこなす“仮想労働者”を構成する。これは「モザイク型就労モデル」と呼ぶ新たな就労システムであり、それによって柔軟な就労と安定した労働力の効率的供給の両立が可能になる。蓄積された高齢者の経験・知識・技能情報や求める働き方などを、雇用側の仕事データと緻密にマッチングすることによって、例えば海外事業部長経験者に庭の草むしりのような仕事を振ることはなくなるだろう。
 いわばICTを使った電子派遣システムだが、興味をもつ就労支援型の企業も増えている。これからデータを使った実験が始まるが、まだいくつもの試行錯誤が続いている。

廣瀬 通孝 (ひろせ・みちたか)
「高齢者クラウド」プロジェクトの研究開発責任者。超高齢社会の新たな推進力として、ICTによりシニア層の経験・知識・技能を生かすシステムの構築を目指す。東京大学博士(工学)。
東京大学助教授、同大学先端科学技術研究センター教授等を経て、2006年より現職。日本バーチャルリアリティ学会の設立に貢献、会長を務めたのち、現在同学会特別顧問。東京テクノフォーラムゴールドメダル賞、電気通信普及財団賞。
著書に『バーチャルリアリティ学』〔共著〕(コロナ社、2010年)など。

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 3 高齢者に意味ある仕事を作ろう
    ケイトリン・リンチ オーリン大学人類学/Olin College of Engineering 准教授


 高齢者にとって「働く」ことの意味は、賃金を得るだけではなく、充実感を得ることでもある。政府が働くことを強制するのではなく、退職を「楽しみ」にしている人に対し、仕事が満足感を与えてくれることを気付かせることが必要だ。私は、ボストン郊外で注射針などの特殊な針を製造している“Vita Needle”という家族経営の工場で、5年間に及び調査をし、高齢者の働く意味や生きがいについて多くの示唆を得た。従業員の半数は74歳以上で、職場で「自分が必要とされる」ことを実感している。日本のシルバー人材センターでも清掃、植栽、ゴミ収集などの仕事を紹介しているが、重要な点は、人生における生きがいや帰属、人のつながりが仕事から感じられるかどうか、だ。
 雇用者側も、高齢者はお荷物だという認識を変え、高齢者が働きやすい職場環境や条件を作ることが重要だ。例えば、ドイツのBMWでは、作業現場の光源を明るくしたり、床を柔らかくするなど、生産ラインの1つを高齢者用に調整し、高い生産性を獲得できることを検証した。高齢者は、長年の経験や若い人とは異なる動機・労働倫理を有し、ある意味ではより信頼できる労働者である。職場を高齢者仕様にするためにかけた費用分を補って余りあるものが得られる。
 さらに事務職や製造業に限らず、より幅広い仕事、例えば人の世話など、これまで女性が無報酬で行っていた仕事にも対価が支払われるようにする必要がある。就業時間を柔軟にすることで、高齢者の労働を促すことができる。高齢者が社会での帰属意識、存在意義を見つけられる仕組み、世代を超えてつながる機会がある豊かな社会を築くべきだ。

ケイトリン・リンチ (Caitrin Lynch)
高齢化やジェンダー、オフショア生産などに焦点をあて、労働と文化的様相との力学を研究。高齢者を積極的に雇用しながら高い生産性を維持する米国ヴァイタニードル社のフィールドワークは、米メディアでも大きく取り上げられた。
シカゴ大学Ph.D. (文化人類学)。ドルー大学人類学助教、ジョンズ・ホプキンス大学メロン博士研究員等を経て、現職。 著書にJuki Girls, Good Girls:Gender and Cultural Politics in Sri Lanka's Global Garment Industry,Cornell University Press, 2007.

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 4 企業の体力を加味した雇用対策を
    八代 充史 慶應義塾大学商学部 教授


  現在、改正高年齢者雇用安定法では定年は60歳。また60歳定年到達以降の雇用延長として、65歳定年、定年廃止、65歳までの継続雇用――のいずれかを企業に求めている。
 企業へのアンケート調査では、定年年齢の引き上げや定年制の廃止を選択する企業は少なく、8割以上の企業が、「60~64歳までに定年とし、その後は継続雇用」を選択している。多くの企業が「継続雇用」を選択する理由は、雇用を延長するにせよ、いったん定年を機に、新たな賃金水準などに弾力的に調整できることだ。労働時間は短く、賃金も下がる。定年前の1人分の賃金で何人かを雇えるので、ワークシェアリングの機能も果たす。当面、継続雇用が1つの落としどころだろう。
 しかし、個別企業の観点からすると、従業員が雇用延長を希望すれば、全て拒むことができない状況は問題がある。本来、個別企業の雇用は、人材の獲得や他社との差別化などの多様な観点から、各社の合理的な戦略に基づいて判断されるべきものだ。例えば、新卒を採りにくい中小企業や、離職率の高い企業は、定年延長で定着をはかる。リーディング企業が、高齢者雇用に積極的な企業としてのブランディングを図る場合もあるだろう。
 少子高齢化が進む中で、今後も雇用延長の義務化という形で、個々の企業が高齢者の雇用責任を担う体制が本当にいいのか、議論が必要だ。高齢者の雇用促進は重要な政策課題だが、現役世代に比べ引退世代が膨らめば、企業体力を奪う可能性もある。義務化によらずに、高齢者雇用に対する需要をどのように作るか、知恵が求められる。

八代 充史 (やしろ・あつし)
企業内労働市場の理論に依拠しながら、現代日本企業の人的資源管理を実証的に研究。これまでの研究対象はホワイトカラーの異動と昇進、女性労働者の雇用管理、現在は人的資源管理の国際比較および歴史研究に従事。
専門は人的資源管理論、労働経済学。博士(商学)。日本労働研究機構を経て、1996年慶應義塾大学商学部助教授、2003年より現職。
著書に『管理職層の人的資源管理―労働市場論的アプローチ』(有斐閣、2002年)、『人的資源管理論―理論と制度(第2版)』(中央経済社、2014年)ほか。

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 5 雇用社会の将来をとらえた雇用政策を
    大内 伸哉 神戸大学大学院法学研究科 教授


 65歳までの雇用を義務づける改正高年齢者雇用安定法は、高齢者の雇用機会を増やし、公的年金の財政的負担を軽減することに役立ちそうだが、その他にもいくつかの波及的な影響が考えられる。第1に、若者の雇用機会を狭める可能性がある。第2に、当の高齢者にとっても、厳しい人事管理の下で戦力として働くよう、雇用継続を強制される企業より、求められる可能性がある。
 さらに、定年のもつ定年時の雇用終了と定年までの雇用保障という2つのバランスが、法改正により前者が実際上なくなり、崩れてしまった点も重要だ。このため、定年までの雇用保障を軸とした日本型システムが変容していくことも予想される。これは実力主義への移行を意味する。
 一方、定年制の意義そのものも変わりつつある。それは正社員の変化と関係している。伝統的な正社員は、定年までの雇用保障と引き替えに、企業の広範な人事権に服して技能を磨き、長期的に企業に貢献する存在だった。しかし、グローバル化による競争の激化やITの急速な発展の中、こうした正社員のニーズは減少し、即戦力として働くプロ型の労働者のニーズが高まる。プロ型の労働者には長期雇用は想定されておらず、定年も関係ない。
 労働力減少時代には、豊富な経験をもつ高齢者は貴重だ。ITの発展は、高齢者の体力面のハンディをカバーし、その蓄積された技能を活用しやすい状況を作る一方、高齢者が身につけた技能をたちまち陳腐化させる危険もはらんでいる。政府には、これからの雇用社会の変化を的確に予想し、国民が職業人生をとおして、高い生産性を維持して働けるような雇用政策の実現に力を入れる必要がある。

大内 伸哉 (おおうち・しんや)
高齢社会では、企業が高年齢者の労働力を活用する必要に迫られるのみならず、高年齢者のほうも実力主義が求められると主張。今後は弱者のみを前提とした労働法は労働者を幸せにせず、政府は弱者を強者に引き上げる政策を強化すべきとする。 専門は労働契約論、労働者代表法制。東京大学博士(法学)。神戸大学法学部助教授を経て、2001年より現職。
著書に『雇用改革の真実』(日経プレミアシリーズ、2014年)ほか。

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 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

上田 研二 氏
上田研二 〔2012〕『私はやった、あなたもできる!―定年後に働く、うれしい毎日』WAVE出版

廣瀬 通孝 氏
石井威望 〔1990〕『二周目の人生設計』講談社

ケイトリン・リンチ 氏
Caitrin Lynch〔2012〕Retirement on the Line: Age, Work, and Value in an American Factory ILR Press (ケイトリン・リンチ〔2014〕『高齢者が働くということ』平野誠一訳、ダイヤモンド社)

八代 充史 氏
玄田有史 〔2005〕『仕事のなかの曖昧な不安―揺れる若年の現在』中公文庫

大内 伸哉 氏
大内伸哉 〔2014〕『君の働き方に未来はあるか?―労働法の限界と、これからの雇用社会』光文社新書

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 企画に当たって
  「高齢者が働く社会」 柳川範之(NIRA理事)


 少子高齢化に伴って生じる経済へのマイナスが指摘されている。しかし、多くの高齢者には長年の経験や知恵があることも事実だ。やる気にあふれた人たちも多い。そのような高齢者を社会が十分に生かせず、高齢者の存在をマイナスであるかのようにとらえるのは極めて不幸なことだ。もっと、高齢者を積極的にとらえることができないだろうか。それが今回の企画の出発点だ。
 もっとも、それをたとえば、「高齢者をもっと雇用すべきだ」といった単純な精神論で考えるのも、おかしな話だ。本来能力がある人が能力を発揮できていないとすれば、その裏側に制度的な要因、システム全体の問題があると考えるべきだろう。制度的要因を直ちに解決することはなかなか難しいかもしれない。しかし、困難だからといって手をこまねいていたのでは、事態は一歩も前に進まない。多くの人々が知恵を出し合って困難を乗り越え、事態を多方面から変化させていく必要がある。
 今回の「わたしの構想」では、このような観点に基づいて、多方面で活躍されている方々から、興味深い問題点の指摘と、将来に向けての提言を提示して頂くことができた。これらの提言から、浮かびあがってくるポイントは大きく分けて2つだろう。
 1つは、現在の高齢者は、今まで考えられてきた高齢者像とは大きく異なるという点である。寿命は延び、人々の健康状態は大きく改善している。体力も向上している。特に近年の変化で特筆すべき点は、ITの発達により、高齢者が様々な形で活躍する方法が格段に拡大している点であろう。この変化を積極的に生かしていかなければならない。
 もう1つの点は、日本の諸制度は昔のままであり、元気な高齢者に活躍する機会や場所を十分に提供できる仕組みになっていない点である。雇用制度を中心として、高齢者が積極的に活躍できる仕組みを整えていくことが急務であろう。

柳川 範之 (やながわ・のりゆき)
NIRA理事。東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学Ph.D.。専門は契約理論、金融契約。


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E-mail:info@nira.or.jp

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