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わたしの構想

シニア世代の能力を生かせ

わたしの構想No.20 2016/02発行
識者:長田久雄(桜美林大学大学院老年学研究科 教授)、原田悦子(筑波大学人間系 教授)、権藤恭之(大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学講座 准教授)、藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長)、伊藤由希子(東京学芸大学人文社会科学系経済学分野 准教授)                 *原稿掲載順
企画:柳川範之 (NIRA理事)

シニア世代の能力を生かせ
シニアの能力は年々若返る傾向にある。社会活動を営む上で十分な知恵や機能を持つ人は少なくない。日本が本格的な高齢社会に向かう中、シニア世代が年齢の垣根を越えて就労できる「エイジレス就業」が実現できれば、社会全体の活力維持にもつながる。シニアの能力が存分に発揮できるような、職場環境や政策上の課題は何か。

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企画に当たって
「シニア世代の能力を生かせ」 柳川範之(NIRA理事)


 識者に問う
「シニア世代の能力は、どうすれば発揮できるのか」

高齢社会に突入したわが国では、シニア世代もまた、その能力を十分に生かして社会を支えることが求められていく。
社会で生かされるべきシニアの能力とはどのようなものか。
シニアが能力をよりよく発揮しうるための課題とは何か。
高齢者の実態に詳しい、老年学・認知心理学・医学・経済学の学識者に、考えを聞いた。

*以下、記事中の敬称は略


1 長田久雄「シニア就労に社会の意識改革が必要
 
2 原田悦子「シニアに合った就業環境があれば能力を発揮する

3 権藤恭之「シニアの知恵を活用せよ

4 藤原佳典「楽しみながらボランティア活動を

5 伊藤由希子「米国“O*NET”のような職業データベースの構築を

               インタビュー実施 :2015年12月~ 2016年1月
               聞き手:西山裕也(NIRA主任研究員)
               編 集:原田和義

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 企画に当たって
「シニア世代の能力を生かせ」 柳川範之(NIRA理事)


 少子高齢化が進み、人口が減少している日本では、あらゆる世代が、今まで以上に活躍できる社会にすることが求められよう。特に高齢者と呼ばれる世代の人たちを、単に支えられる存在とみなすのではなく、実態に即した形でよりよく活動できるようにすることが必要だ。ただし、そのためには高齢者の実態を正しく把握し、それに基づいて適切な働き方、活動の仕方を考えていくことが大切だろう。
 このような問題意識から、今回の「わたしの構想」では、高齢者に関するさまざまな専門分野の方々に、シニア世代が有している能力とその活用について語っていただいた。
 高齢者のことは、わかっていると感覚的に思っていることが多いが、実は科学的な根拠に基づいて、議論されることがあまり多くない。老年学の長田久雄桜美林大学教授は、65歳以上の高齢者のうち、約8割は労働力になり得ると述べている。また、権藤恭之大阪大学准教授は、大多数は健康で、75歳ぐらいまでは普通に働けると述べている。しかし、現状では、そのような就労機会が十分には与えられていない。
 ただし、高齢者が何でもできると考えるのも過大評価で、原田悦子筑波大学教授は、やはりある程度、高齢者にとって働きやすい職場環境を整えていくことが必要で、それが結局のところすべての人に働きやすい職場となると主張されている。
 また、狭い意味で働くことを考えるだけではなく、藤原佳典健康長寿医療センター研究所研究部長が述べられているように、地域活動や社会貢献にはシニアならではの役割があり、そのための環境整備ももっと必要になるだろう。
 いずれにしても伊藤由希子東京学芸大学准教授が指摘しているように、職業に関するデータベース等をより整備して、これらの点をもっと科学的に分析し、そこから有意義な政策等を導き出していく努力が、今後一層必要だろう。

柳川範之 (やながわ・のりゆき)
NIRA理事。東京大学大学院経済学研究科教授。東京大学Ph.D.。専門は契約理論、金融契約。



 識者が読者に推薦する1冊 (推薦図書リストはこちらから)

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1 シニア就労に社会の意識改革が必要
長田久雄 桜美林大学大学院老年学研究科 教授


 65歳以上の高齢者(シニア)のうち、約8割は労働力になり得る。国際的に見ても日本のシニアは勤労意欲が高い。働くかどうかの選択はむろん本人の自由だが、働きたい人が自分に合った仕事を見つけられ、働き続けられる仕組みがある社会が望ましい。超高齢社会では高齢者の就業が社会的にも必要であるが、それにもかかわらず、現状では、彼らに就労の機会がうまく与えられていない。
 理由の1つに、高齢者への差別や偏見、いわゆる「エイジズム」がある。社会や企業の側に、高齢者の能力を過小評価する風潮が根強く、まずはこれを取り除かなければ、高齢者を受け入れることは難しい。かといって、高齢者は何でもできるといった過大評価も問題だ。「老化」は否定できないものだ。暗いところでの作業ではリスクが高まったり、能率が悪くなるといったことは起こる。作業の質はそれほど下がらないが、若い人より量は減る。
 すなわち体や心の老化のあり方の正しい理解が欠かせない。どういうサポートをすれば高齢者が無理なく安全に働けるのかという視点が必要だ。過不足のない正しい認識で高齢者の就労を促進するために、社会全体の意識改革が求められる。
 そのためには、産官学民の協力を社会に根付いた形で行う必要がある。産は雇う側、官はその支援役であり、学は基礎的な研究や情報の収集発信を担う。民はシニア自身だ。学が、企業の中で高齢者にどのように働いてもらうかを研究する際にも、当事者である企業やシニアに参加してもらうことで、新しい発見が生まれる。垣根を乗り越え、相互作用を活性化させていく動きを進めたい。

長田久雄 (おさだ・ひさお)
年を取るということを、可能な限りポジティブな視点から捉えることを信念として、加齢による心理的な変化および生涯発達の研究に携わる。特に、認知症の心理とその社会的な特徴に向き合う。専門は老年心理学。博士(医学)山形大学。東京都老人総合研究所 (当時)助手、東京都立保健科学大学(当時)教授等を経て、2002年より現職。
著書に『心ふれあう「傾聴」のすすめ―高齢社会でのコミュニケーション・スキル』(河出書房新社、2008年)他。

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2 シニアに合った就業環境があれば能力を発揮する
原田悦子 筑波大学人間系 教授


 見えづらくなった、覚えられなくなったといった機能の低下を一番感じているのは高齢者本人だ。そこで高齢者は、日々の行動でトラブルが起きないよう、また自分の能力を高く保(たも)てるよう、いろんな方略を編み出している。農業等でシニアが活躍する姿を目にしやすいのも、自らの能力に合わせて、一人ひとりが自分のやり方を工夫しながら仕事ができるからではないか。
 高齢者にマニュアル通りの働き方を求めるのは得策ではない。画一的な完璧主義を捨て、働き手の個々の事情を許容する「緩やかさ」があれば、シニア自身が現場で工夫しながら、持っている能力や機能で力を十分発揮できる。つまり、職場環境が決め手である。
 若者との協働環境を作り出していくことも、有効であろう。新しい機器を使うのが苦手とされるシニアも、若者と一緒に作業をしながら使っているうちに、自分なりの使い方が見いだせるようになっていく。このとき、若者の側にも、高齢者との協働作業で、自己評価が高くなり、積極性が高まるメリットがある。今後、こうした組み合わせを生かせる「価値づけ」を、職場や社会の仕組みにいかに組み込んでいくかが真の課題ではないか。
 高齢者が働きやすい職場を作ったとき、そこはおそらく、老若男女を問わず誰にとっても「働きやすい職場」になっているであろう。それはまさに、「高齢者が使いやすい製品やサービス」を追究することにより「みんなにとっての使いやすさ」を実現していこ うとする「みんなの使いやすさラボ(略称:みんラボ)」※1の精神でもある。

※1 原田教授主催の研究事業。地域の高齢者の協力を得て、実際にモノやサービスの使いやすさ検証研究を行っている。

原田悦子 (はらだ・えつこ)
ユニバーサルデザインの観点から高齢者にとっての使いやすさを追究。「みんなの使いやすさラボ」において地域在住の高齢者ボランティアと共に研究を深めている。専門は認知心理学・認知工学。教育学博士。筑波大学大学院心理学研究科修了後、日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所研究員、法政大学社会学部教授等を経て、2010年より現職。2006年度日本認知科学会論文賞など受賞歴多数。
著書に『スタンダード認知心理学(ライブラリスタンダード心理学5)』〔編著〕(サイエンス社、2015年)他。

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3 シニアの知恵を活用せよ
権藤恭之 大阪大学大学院人間科学研究科臨床死生学・老年行動学講座 准教授


 シニアの優位性は、「知恵」をもっていることにある。知恵とは、人生の転機にいるときに、自分が置かれている状況や周囲の状況から判断して決断することができる能力で、加齢に伴い発達するといわれる。知恵のある人は普段慎み深く出しゃばらないが、必要とされる瞬間に素晴らしい助言ができるものだ。人間関係に問題がある職場で、高齢者がうまく調整役を果たしたり、若い人に適切なアドバイスができたりするのも知恵のおかげだ。1年に1度、大事な場面で知恵を発揮できれば、極端な話、ほかの時間は寝ていてもよいくらいだ。
 シニアの大多数は健康で、75歳ぐらいまでは普通に働ける。しかし、現実には元気な高齢者が、特に都市部で仕事がない状況に置かれている。これは現実の社会が効率ばかりを追い求め、「遊び」がなくなっているためではないか。シニアの知恵が生かされる社会に転換すべきだ。
 仕事経験と高齢期の認知機能の関係を調べた研究がある。それによると、認知機能を保っている高齢者は、若いときに仕事で複雑なことをしていたことが多い。現在、70歳くらいの人では、計算やデータ処理が求められる仕事、90歳くらいの人は、人間関係の調整が求められる仕事をしていた人だ。時代によって仕事で求められる能力は異なる。今後、データ処理などの仕事がコンピューターに置き換えられることを考えると、再び仕事において対人関係の調整といった、高齢者の「知恵」が生かされる社会になるかもしれない。と同時に、若い世代はどのような「知恵」を発達させるのか、考えなければならない。

権藤恭之 (ごんどう・やすゆき)
長寿の要因や高齢者の幸福感に関して研究。15年以上にわたり1500名を超える高齢者に対して精力的に聞き取り調査を実施。NHKクローズアップ現代(2014年10月15日放送)『“百寿者”知られざる世界』に出演し、健康維持だけが高齢者の幸福ではないことを指摘。専門は老年行動学。関西学院大学博士(心理学)。東京都老人総合研究所(当時)研究助手、高齢者研究・福祉振興財団老人総合研究所(当時)研究員等を経て、2007年より現職。
著書に『高齢者心理学(朝倉心理学講座15)』〔編著〕(朝倉書店、2008年)。

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4 楽しみながらボランティア活動を
藤原佳典 東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長


 シニアは現在の少子高齢化の中で、一定の労働力を担える存在だ。高齢者の中には、“スーパーシニア”ともいえる生涯現役高齢者も2割ほどいて、アクティブな方は元気に就労している。
 たとえ就労が難しくなったとしても、いきなり家に閉じこもったりせず、就労からボランティア、趣味の参加へと徐々に負荷を軽減しつつ、社会活動を続けていく。それが、われわれの目指す「サクセスフル・エイジング」である。地域活動や社会貢献では、シニアならではの役割がある。社会とのつながりから得られる生きがいや健康維持は、高齢者にもメリットになる。超高齢化に加えて、少子化や人口減少が進むわが国では、有償・無償にかかわらず、今後、ボランティア活動は高齢者の生活の一部とまで言えるようになるだろう。
 ボランティア活動で重要なのは、高齢者本人が楽しみながらやることだ。無理に嫌なことをやっても、かえってストレスが大きくなるだけだ。また、習慣的な活動であることも大切で、われわれのある調査では、毎月1回以上ボランティア活動に参加する人は、時々やる人や全くやらない人に比べ生活機能の低下を4分の1にとどめることができ、さらに楽しみながら活動するほど良い効果が出ている。
 高齢者のボランティア活動が盛んになると、質が問われるようになる。高齢期には、体調の不具合が出やすくなるので、グループで参加したり、チームを組むなどして、交代可能な体制にするとよい。また、中には自分勝手な思い込みで逸脱行動に走る人がいるので、ルールを守って参加してもらうための仕組みやガイドラインの整備も必要だ。

藤原佳典 (ふじわら・よしのり)
高齢者の社会貢献支援システムの開発や世代間交流の効果と促進に関する研究に従事。元気に長生きするために「地域で防ぎ、地域で支える」ことの重要性を提言。専門は公衆衛生学、老年学。北海道大学医学部卒、京都大学大学院医学研究科修了(医師・医学博士)。2000年より東京都老人総合研究所(当時)研究員、2011年より現職。
著書に『ソーシャル・キャピタルで解く社会的孤立―重層的予防策とソーシャルビジネスへの展望』〔共著〕(ミネルヴァ書房、 2013年)他。

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5 米国“O*NET”のような職業データベースの構築を
伊藤由希子 東京学芸大学人文社会科学系経済学分野 准教授


 日本のシニア就業はこれまで、縁故や地域の仕事が頼りだった。昨今の転職サイトも若者向けで、高齢者への募集は少なく、高齢者と企業とのマッチングができていない。双方のニーズを結びつけるには、いわば職業スキルの「見える化」が重要だ。これにはアメリカの取組が参考になる。
 アメリカでは、O*NETとよばれる職業に関するデータベースが米労働省により整備され、これが個人と企業のマッチングを革命的に向上させた。自治体や人材紹介会社もこのデータベースを活用している。働きたい仕事に求められるスキルや企業側のニーズ、職業訓練の機会などの各種情報をWebで提供している。複数の職業間で類似して求められるスキルを知り、転職の参考にもできる。たとえば、「会計監査」と「遺伝情報を見る」仕事は類似している。数値のズレを見極めてその内容を推論する能力が共通して求められるためだ。また、「旅行代理店」と「ソーシャルワーカー」は、相手の話を傾聴する能力が必要とされる点で近い関係にある。日本でも、O*NETのようなデータベースが構築されれば、シニア就業の可能性が格段に広がるはずだ。
 日本特有の課題は、事務職・販売職の4割以上が、自分のスキルを自覚しておらず、また自分の仕事に専門知識は不要と考えていることだ※1。アメリカの同職者が、高レベルの専門知識が必要と考えているのとは対照的だ。若い世代も、いずれ高齢者になるときに備えて、市場のニーズと自らのスキルを自覚し、自分を売り込めることが大切となる。

※1 NIRA 実施のアンケート調査による。近日公表予定。

伊藤由希子 (いとう・ゆきこ)
国際経済と医療経済を専門に研究。産業の立地選択が生産性に与える影響をテーマに、多国籍企業の進出要因や、医療サービス立地の効率性を研究。東京大学経済学部卒業後、米ブラウン大学博士(経済学)。東京経済大学経済学部専任講師を経て、009年より現職。現在、内閣府「経済・財政一体改革推進委員会(社会保障ワーキング・グループ)」委員を務める。
著書に『国際経済学のフロンティア』〔共著〕(東京大学出版会、近刊)、『私たちの国際経済(新版)』〔共著〕(有斐閣、2009年)。

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

長田久雄 氏
柴田博・長田久雄・杉澤秀博(共編著)〔2007〕『老年学要論―老いを理解する』建帛社

原田悦子 氏
野島久雄・原田悦子(共編著)〔2004〕『〈家の中〉を認知科学する―変わる家族・モノ・学び・技術』新曜社

権藤恭之 氏
増井幸恵〔2014〕『話が長くなるお年寄りには理由がある』PHP新書

藤原佳典 氏
世代間交流プロジェクト「りぷりんと・ネットワーク」(編著)・藤原佳典(監修)〔2015〕 『地域を変えた「絵本の読み聞かせ」のキセキ―シニアボランティアはソーシャルキャピタルの源泉』ライフ出版社

伊藤由希子 氏
今野浩一郎〔2014〕『高齢社員の人事管理』中央経済社

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