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わたしの構想

ポスト・トゥルースの時代とは

わたしの構想No.31 2017/09発行
識者:今井貴子(成蹊大学法学部 教授)、飯田連太郎(東京大学大学院法学政治学研究科附属ビジネスロー・比較法政研究センター 特任研究員)、逢坂 巌(駒澤大学法学部 准教授)、園田耕司(朝日新聞 政治部記者)、古田大輔(バズフィード・ジャパン 創刊編集長) *原稿掲載順
企画:谷口将紀(NIRA総研理事、東京大学大学院法学政治学研究科 教授)

ポスト・トゥルースの時代とは
 イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ新大統領誕生など、世界の政治が大きく動いた二〇一六年。ワード・オブ・ザ・イヤーに「ポスト・トゥルース」が選ばれた。この言葉は、客観的な事実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状況を表している。
 各国におけるポスト・トゥルースの影響や、このような時代に政治やメディアに求められている役割について考察することで、ポスト・トゥルースへどのように対応するべきか示唆を得たい。

 わたしの構想No.31「ポスト・トゥルースの時代とは」PDF    ■英文版PDF

 企画に当たって
谷口将紀(NIRA総研理事、東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
「問われる政治とメディアの緊張感」
Keywords……政治の分極化、インターネットメディアの発達、市民の分断、反響室効果、情報リテラシーの向上

 識者に問う
「ポスト・トゥルースの時代とは」

世界の政治が大きく動きつつあるいま、各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。
このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。

1 今井貴子 成蹊大学法学部 教授
  「政治、エスタブリッシュメントへの信頼が崩壊
  Keywords……イギリス、EU 離脱、信頼の崩壊、置き去りにされた労働者

2 飯田連太郎 東京大学大学院法学政治学研究科附属ビジネスロー・比較法政研究センター 特任研究員
  「党派的な分極化が招いた政治的分断
  Keywords……アメリカ、政党の分極化、イデオロギーの乖離、メディアの強い党派性、メディアへの不信

3 逢坂 巌 駒澤大学法学部 准教授
  「政党組織・ジャーナリズムの強化を
  Keywords……政党組織の弱体化、無党派層の増加、ジャーナリズムの強化、草の根運動

4 園田耕司 朝日新聞 政治部記者
  「ファクトチェック、報道検証で「事実」の信頼を高める
  Keywords……既存メディアへの不信、公権力の監視、ファクトチェック、報道検証

5 古田大輔 バズフィード・ジャパン 創刊編集長
  「社会を分断し、そしてつなげるインターネット
  Keywords……インターネット、フィルターバブル、社会の分断、ファクトに基づいた情報の検証

            インタビュー実施:2017年5月
            インタビュー:川本 茉莉(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)
                   榊 麻衣子(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)
            編 集:新井公夫

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

今井貴子氏
ブレイディみかこ〔2017〕『子どもたちの階級闘争―ブロークン・ブリテンの無料託児所から』みすず書房

飯田連太郎氏
Jonathan M. Ladd〔2011〕Why Americans Hate the Media and How It Matters, Princeton University Press

逢坂 巌氏
逢坂巌〔2014〕『日本政治とメディア―テレビの登場からネット時代まで』中公新書

園田耕司氏
園田耕司〔2016〕「〈アメリカ・ジャーナリズムの現在〉ポピュリズムが生み出すメディア不信」『Journalism』no. 317(2016 年10 月号)、朝日新聞社

古田大輔氏
Eli Pariser〔2011〕The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You, Penguin Press
(イーライ・パリサー〔2016〕『フィルターバブル―インターネットが隠していること』井口耕二(翻訳)、ハヤカワ文庫NF)

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 企画に当たって
谷口将紀(NIRA総研理事、東京大学大学院法学政治学研究科 教授)
「問われる政治とメディアの緊張感」

根本に潜む市民の分断
 オックスフォード大学出版局は、二〇一六年のワード・オブ・ザ・イヤー、日本流でいえば流行語大賞に「ポスト・トゥルース(post-truth)」を選んだ。ポスト・トゥルースとは「世論の形成において、客観的事実の影響力が、感情や個人の信念に対する訴えかけに劣る状況を意味する、またはこのような状況に関する形容詞」と定義されている。
 ポスト・トゥルースという単語自体は以前から存在していた。ただし、それが広く知られるきっかけになったのは、二〇一六年に行なわれたEU(欧州連合)離脱をめぐるイギリスの国民投票とアメリカ大統領選挙である。
 イギリスの国民投票では「EUに週三億五〇〇〇万ポンド(約五三〇億円)も仕送りをするのを止めて、そのお金を国民保健サービスに使おう」というスローガンが、離脱賛成派によって喧伝された。BBCによると、イギリス政府の対EU支出は週当たり一億六〇〇〇万ポンド、政府支出の一%強にすぎなかったが、こうした「事実」はかすんでみえた。
 アメリカのトランプ政権は、いまなお不正確または不適切な発言でたびたび物議を醸している。なかでも極め付きは、大統領就任式に過去最大の人出があったという公式発表の真贋―同じ場所で撮影された写真の比較では、オバマ大統領就任式の観衆の方が明らかに多かった―を追及された際に、大統領顧問が発した「あなたはうそというけれど、報道官は『代わりの事実(alternative facts)』を示したまでよ」という言葉であった。
 ところが、両国政治のエキスパート、今井貴子・成蹊大学教授と飯田連太郎・東京大学特任研究員によると、イギリスの国民投票の結果は離脱派のキャンペーンに影響されたものではなく、うそや誇張によってトランプ支持が増えたのでもない。別々に行なわれたインタビューで、二人がそろって強調したのは、政治が分極化する一方で、インターネットメディアの発達によって、それぞれの支持勢力は自らにとって都合のよい情報ばかりを受け入れるようになり、既存のマスメディアや異なる意見には耳を傾けなくなる市民の分断こそが、ポスト・トゥルースの政治の根本に潜む問題点という認識である。
 これは、政治コミュニケーション論でいうところの「反響室(echo chamber)」効果に通じる。ケーブルテレビやインターネットの広がりによって、保守派の人ならば、保守的な社論を掲げる新聞を読み、保守派の司会者がリベラル派を散々にこき下ろすトーク・ラジオを聞き、保守派のコメンテーターが登場するテレビ番組を見て、そしてインターネットでの保守的言論空間で情報交換するといった具合で、自らの政治的傾向に沿う言説ばかりをえり好み(選択的接触)できるようになった。この結果、反響室のなかにいるように、その人のなかでは同じ声ばかりが延々とこだまして、自分の意見を一層強固なものにする。さらにいえば、その際に重要なのは各人の嗜好に合う情報であるかどうかで、真偽のほどは二の次である。
 翻って日本の状況はどうか。確かに日本でも、ネット右翼という言葉が象徴するとおり、インターネット利用の拡大にともなって、左右両極の言説がそれぞれ顕在化している。しかし、欧米と比べて、有権者レベルにおいて人びとの政治的分極化が進んでいるという議論はそれほど強くない。人びとの党派性を補強するという意味でのフェイク・ニュースの作用は相対的に小さいが、逢坂巌・駒澤大学准教授の見立てでは、無党派層の多い日本なればこそ、マスメディアやインターネット上の誇張されたニュースに世論が雪崩を打って反応しやすく、時には政権の帰趨まで左右しうる。虚偽または誇張された情報が説得効果をもちやすい分、潜在的なインパクトは日本の方が大きい、という訳だ。

情報リテラシーを高めよ
 それでは、いかにしてポスト・トゥルースの政治に対抗すべきか。
 まず挙げられるのは、政治家らの発言が事実かどうかを確認し、人びとに知らせる「ファクトチェック」である。二〇一五年には、国際ファクトチェッキング・ネットワーク(IFCN)という団体も設立された。日本でも、『朝日新聞』や『東京新聞』などでファクトチェックの記事が掲載されるようになったが、その先駆者である朝日新聞政治部の園田耕司記者は、ファクトチェックを社会のウオッチ・ドッグ(番犬・監視役)というマスメディアの役割を果たすための手段と位置付けるとともに、第四権力と呼ばれるメディア自身の在り方をも検証の対象とし、もって研ぎ澄まされた事実を伝えるプロフェッショナル・ジャーナリズムを全うするとの抱負を述べている。こうした動きは、インターネットメディアでも始まっている。本企画では、バズフィード・ジャパンの古田大輔創刊編集長が、SNSなどで広がっている情報を検証して、うそを見破る「デバンキング」という先進的な試みを紹介している。
 もちろん、ファクトチェックにも課題は残る。虚偽が広まる前に正確な検証を行なうスピードとコスト負担の両方が必要な上、検証結果が「この部分は正しいが、その部分は誇張、あの部分は誤り」などと読みづらい記事になってしまうこともしばしばだ。さらに、真正性よりも自分との親和性を情報選別の基準にする人びとが、ファクトチェックを受け入れるとは限らない。
 病気の克服には治療薬の開発と並んで予防策の普及が有用であるように、ファクトチェックやプロバイダーの責任などの制度整備と同時に、迂遠ではあってもわれわれの情報リテラシーを高める不断の努力も忘れてはならない側面だろう。

谷口将紀(たにぐち・まさき)
NIRA総合研究開発機構 理事。東京大学大学院法学政治学研究科 教授。東京大学博士(法学)。専門は政治学、現代日本政治論。

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 識者に問う
各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。
このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。

1 今井貴子 成蹊大学法学部 教授
「政治、エスタブリッシュメントへの信頼が崩壊」


 二〇一六年六月のEU離脱を問うイギリスの国民投票における離脱派勝利は、歴史的な「事件」として刻まれた。この投票結果には、政策論よりも事実を誇張や歪曲、捏造さえして感情に訴える離脱派リーダーたちのキャンペーンが少なからず影響したと見られている。
 だが、離脱投票者は必ずしもそれらに踊らされていっときの衝動で行動したわけではない。国民投票後の世論調査では、大半の投票者がキャンペーン開始前に投票先を決め、離脱派の九割近くは国民投票が再度実施されても同様の投票をするとしていることが明らかになった。投票に先立って離脱支持者の多くは、政治家や専門家たちが躍起になって示したEU離脱による甚大な損失という「事実」を、リアリティーに欠ける説教と一蹴した。ポスト・トゥルースとも表現されるその状況は、本質的にはエスタブリッシュメントへの信頼が崩壊した「ポスト・トラスト」の時代といえるものだろう。人びとが信じたい情報のなかに立てこもり、自分と異なる意見や反論あるいは検証すら遮断してしまう社会では、水平的にも垂直的にも信頼の基盤はますます失われていく。
 エリートに対する信頼失墜の淵源は根深い。実質よりもキャッチフレーズが先行する「スピン」政治、世論に反したイラク侵攻、金銭スキャンダルなど、政治エリートへの信頼を瓦解させる事態が次々と起きた。グローバル化とヨーロッパ統合が進展する一方で、社会の上層部と中間層以下とのあいだの格差が浮き彫りになった。追い打ちをかけるように金融危機後の緊縮財政は人びとの生活インフラを直撃し、「置き去りにされた」労働者の表現し難い不満・不安の矛先は、人心から乖離したエリートたちと移民に向けられた。
 二〇一七年六月に実施された総選挙では、保守党政権の緊縮政策を徹底批判したコービンの労働党が予想を覆して議席を伸ばしたのに対し、離脱交渉で優位に立とうとしたメイ首相の保守党は惨敗し少数政権に転落した。この選挙で問われたのは、キャッチフレーズを超えた政策の実質であった。われわれという「事実」を見て議論せよという有権者の声は、信頼再構築への重大な端緒だと捉えるべきだろう。

今井貴子(いまい・たかこ)
イギリスを中心に先進国の労働福祉政策を比較。政党政治と政権交代に関する研究も進める。専門はイギリス政治、比較福祉政治。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。学術博士。成蹊大学法学部准教授を経て二〇一二年より現職。ケンブリッジ大学政治国際学部客員研究員、欧州大学大学院ロベルト・シューマン・センター客員研究員も務めた。論考に「イギリス保守の変容─『当然の与党』の隘路」水島治郎編『保守の比較政治学─欧州・日本の保守政党とポピュリズム』(岩波書店、二〇一六年)他。

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各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。
このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。

2 飯田連太郎 東京大学大学院法学政治学研究科附属ビジネスロー・比較法政研究センター 特任研究員
「党派的な分極化が招いた政治的分断」


 「政治家がうそをつく」という現象は古今東西、広く見られる。アメリカでもニクソン元大統領のウォーターゲート事件、クリントン元大統領の不倫スキャンダルなどがあった。しかし、これらに比べても、トランプ大統領が事実を軽視し、うそをつくという現象はかなり度を越している。
 トランプ大統領のうそや誇張のなかには、支持拡大のための戦略的な意図によるものもあるが、それによって支持率が高まったとは考えていない。ましてや、不都合な客観的事実や科学的な知見を否定し、また、怒りに任せた衝動的な発言をしたことで、支持率の拡大につながったわけでもない。トランプ大統領が有権者の支持を集めたのは、個人的な心情に訴え、自分のことが忘れられていないと感じさせたからだ。その意味で、ポスト・トゥルースの現象と大統領選は切り離して考えた方がよい。
 アメリカのポスト・トゥルースの深刻さは、大統領選挙の背後にある政党の分極化と、それを反映したメディアの強い党派性にあると思う。共和・民主両党はかつては中道寄りだったが、一九七〇年代以降、両党のイデオロギーがお互いに大きく乖離し、妥協や協力が難しくなってしまった。こうした政治的な分断に、党派色の強いマスメディアがさらに拍車を掛ける状態にある。
 アメリカのメディアは一九世紀の党派色の強い報道を反省し、二〇世紀初頭から一九七〇年代ごろまでは、公平中立な報道ということが非常に意識されていた。しかしその後、ケーブルテレビが普及し、チャンネル数が飛躍的に増えるなか、他局との差別化を図るためにより過激な主張をするメディアも出てきた。これに呼応する形で、メディアに対する信頼度も徐々に低下してきており、共和党支持者の多くはニュースメディアよりもトランプ大統領を信用しているという調査結果もある。
 この状況を打破するのは非常に難しいが、やはりメディアの役割は大きい。メディアが政権を監視し是正する役割を担うべきだ。特に保守系メディアが政権の在り方を批判し、抑制するような役割を果たせるかどうかが鍵になる。

飯田連太郎(いいだ・れんたろう)
アメリカ政治学における気鋭の若手研究者。現代アメリカにおける政党政治の変容や、それに関連する社会運動について研究を進める。専門は現代アメリカ政治。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学、ジョージタウン大学政治学部博士候補。二〇一四年より現職。

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各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。
このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。

3 逢坂 巌 駒澤大学法学部 准教授
「政党組織・ジャーナリズムの強化を」


 日本では、メディアやネット上の誇張されたニュースに世論がすぐ反応し、政治が攻撃の対象となる。これまでもメディアの力に対抗できず辞任した首相や政治家は数多い。
 メディアによって政治が影響を受けるという意味では、「ポスト・トゥルース」のきっかけとなったアメリカやイギリスよりも日本の方が先行しており、日本は民主政治の危機の真っただ中にあるといえる。
 日本でメディアの影響力が強大となったのは、政党組織の弱体化を背景に無党派層が増え、その動向によって選挙結果が大きく変わるようになったためだ。無党派の支持によって政権が代わる可能性がある以上、政治が、無党派層に影響を及ぼすメディアを統御しようと考えるのは当然のことだろう。
 一方、近年ではジャーナリズムの側でも、会社単位での政権との距離感や主張の違いが、論説のみならず記事や報道に反映されるようになってきている。ジャーナリズムの政治的な意義は、有権者に代わり環境監視と権力監視を行ない、それをリポートすることにある。政権を倒したりつくったり、政治的な主張や目的を実現することは、ジャーナリズムの仕事ではない。そのためにも裏付けのあるスクープを取ってくることで、ジャーナリズムが権力と対峙できるようになることが求められている。
 他方、政治の側も変わる必要がある。メディアに対抗する力を付けるのであれば、政党組織を強くし、草の根運動をしっかりとしていく必要がある。オバマの選挙活動をアメリカで見ていたが、最後は戸別訪問で情報を吸い上げている。日本でも、選挙期間中の戸別訪問を解禁し、政治について最もよく考え、国民のあいだで議論が活性化する選挙期間に、有権者と直接対話するべきだ。
 間違った情報・アンバランスな情報は政治を歪ませる。一九三〇年代から四〇年代にかけて、われわれの社会はそれを経験した。ネットとスマホの発達で誰しもがジャーナリズムを担いうる状況となった今日、国民個々人が情報の大切さを考え、同じ轍を踏まない創意工夫を図るべきである。

逢坂 巌(おうさか・いわお)
現代日本における政治とメディアの関係や、政党や政治家のコミュニケーション戦略について研究を進める。選挙の際の候補者による公開討論会のコーディネーターも多数務める。専門は現代日本政治、政治コミュニケーション。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程中退。法学修士。東京大学助手、立教大学社会学部助教などを経て二〇一七年より現職。著書に『政治学』(東京大学出版会、二〇一二年)、『テレビ政治』(朝日新聞社、二〇〇六年)他。

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各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。
このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。

4 園田耕司 朝日新聞 政治部記者
「ファクトチェック、報道検証で「事実」の信頼を高める」


 SNS普及による情報革命が起き、個人が社会に向けて声を上げられるようになった。その半面、自分の嗜好に合った情報を選択しがちになり、政治的に右と左の両極端へ人びとの意見が分断されている。メディアが中立で客観的な報道をしているつもりでも、両極にいる人からは偏向しているように見えてしまい、メディア批判が強まっている。それが既存のメディアに対する不信を生んでいる。
 SNS大国アメリカではその現象が非常に強く、二〇一六年の大統領選挙において、トランプ氏やサンダース氏は、既存メディアへの不信を利用して支持を拡大した。これをポスト・トゥルースともいえるが、メディアを攻撃しつつ利用することはポピュリズム政治の特性であり、日本でもSNSの普及が今後もっと広まるにつれ、アメリカと同じ傾向がさらに強まる可能性がある。
 そもそもジャーナリズムの大きな役割は、公権力が過度に行使されることがないように監視することにある。そのメディアが人びとの信頼を失ってしまったら、社会のウオッチ・ドッグ(番犬)として役割を果たせなくなる。メディアに対する信頼を回復するには、どうすればよいのか。メディアによるファクトチェックや地道な報道検証が鍵になるだろう。
 ファクトチェックは、政治家らの発言が本当に事実かを確認する手法で、アメリカが先行している。『朝日新聞』は二〇一六年一〇月から始め、大きな反響を得たが、まだ試行錯誤の段階である。また、報道の在り方そのものがニュースになる時代だ。「客観報道」のつもりであっても、報道の在り方が適切であったかという検証も重要である。メディア自身も権力の一つであると認識し、その権力の使い方をつねに自分たちで真摯に検証・監視することが求められる。
 政治権力に対するメディアの監視が効かなくなったとき、民主主義は危機的状況に陥る。人びとがフェイク・ニュースに強い不安を覚えるいま、伝統メディアに求められるのは、ファクトチェックなどの新たな手法を取り入れつつ、プロのジャーナリストとして研ぎ澄まされた事実を伝えていくという原点回帰の一点に尽きるだろう。

園田耕司(そのだ・こうじ)
朝日新聞政治部で首相官邸や自民党、防衛省を担当。同紙で二〇一六年からファクトチェックのコーナーを始動させ、読者の反響を呼んだ。早稲田大学第一文学部卒。二〇〇〇年、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部報道センターを経て、二〇〇七年より現職。二〇一五~一六年、ハーバード大学客員研究員。共著に『安倍政権の裏の顔―「攻防 集団的自衛権」ドキュメント』(講談社、二〇一五年)、『この国を揺るがす男―安倍晋三とは何者か』(筑摩書房、二〇一六年)。

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各国においてどのようなポスト・トゥルースの影響がみられるか。
このような政治情勢において、政治やメディアにはどのような役割が求められるか。

5 古田大輔 バズフィード・ジャパン 創刊編集長
「社会を分断し、そしてつなげるインターネット」


 ファクトに基づかない議論は昔からあった。それが限度を超えたいまの時代が「ポスト・トゥルース」だ。
 原因はインターネットにある。誰もが自由に情報を発信・受信できるようになり、人びとはつながった。その効用は大きいが、玉石混交の情報が飛び交うようになり、自分に近い意見をもつ人ばかりがつながるようになった。
 ユーザーが好む情報を収集するグーグルやフェイスブックのアルゴリズムがそれを加速する。「フィルターバブル」だ。見えない泡に覆われ、気付かないうちにその泡の膜に選別された情報だけを受け取る。自分に近い意見ばかり受け取る人びとは、政治的に偏ってしまう。
 人びとをつなげると期待されたインターネットが、社会を分断してしまった。二〇一六年のアメリカ大統領選はその最たるものだ。トランプ氏を応援し、クリントン氏を批判する記事を書けば、うそでもトランプ氏支持者は喜んでシェアする。それによって記事を書いた人は、ネット広告収入を得ていた。金銭目的だった。
 こういった情報が世論に大きな影響を与えているのは、非常に危険だ。このような状況においてメディアが果たすべき役割は、情報の検証だ。トランプ大統領はメディアを介さずとも、ツイッターで数億人に向けて発信できる。そんな時代には、たんに政治家の発言を報道するだけではうそを報じることになりかねない。その発言がファクトに基づいたものか検証し、どういう意味をもつか解説する。そういったメディアが必要とされている。
 『バズフィード』では、怪しい情報について裏を取り、検証して報道する「デバンキング」という取り組みに力を入れている。信頼されるニュース、楽しいネタ、『バズフィード』はそれらを通じて人びとの生活にポジティブな影響をもたらすことをモットーとしている。
 情報は、人びとにとって、知的・精神的健康を養うための食料のようなものだ。記事(コンテンツ)を作るコンテンツプロバイダー、それを流通させるプラットフォームには、情報の信頼性を高めるための不断の努力が求められる。
 冒頭に掲げたように、真実に基づかない議論はもともとあった。社会の分断も。ネットはそれを顕在化させたともいえる。その分断を乗り越える試みも、ネットから生まれるはずだ。

古田大輔(ふるた・だいすけ)
バズフィード・ジャパンは米バズフィードとヤフー株式会社との合弁で、二〇一六年一月にサービスを開始したデジタルメディア。エンターテインメントを含む多様なコンテンツを発信。グローバル全体で、ニュース検証に力を入れる。二〇一六年のキュレーションサイト問題をいち早く取材、問題の顕在化に貢献した。早稲田大学政治経済学部卒。朝日新聞社入社後、社会部、アジア総局、シンガポール支局長、デジタル版編集等を経て、二〇一五年退社。同年、バズフィード・ジャパンに入社し、創刊編集長に就任。

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※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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