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わたしの構想

ビッグデータ本格活用へ

わたしの構想No.39 2018/12発行
識者:中村 潤(芝浦工業大学工学マネジメント研究科 教授)、眞野 浩(エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者)、トリスタン・チョン (西安交通リバプール大学 蘇州国際ビジネススクール ビッグデータ分析研究所 副所長)、北川拓也(楽天株式会社 執行役員 CDO)、ディートマー・ハーホフ(マックス・プランク・イノベーション・競争研究所 所長)
*原稿掲載順
企画:柳川範之(NIRA総研 理事、東京大学大学院経済学研究科 教授)

ビッグデータ本格活用へ
デジタル革命の核心となるビッグデータ。しかしその利活用はまだ発展途上だ。この新しい競争力のパラダイムに、各国がしのぎを削る。日本は十分な備えができているのか。
本号は、二〇一八年一一月一日、NIRAとドイツ日本研究所の共催で開催された「ビッグデータ」ワークショップ(カリフォルニア大学サンディエゴ校&マックス・プランク・イノベーション・競争研究所協賛)から、ビッグデータ利活用の現状をお届けする。


 わたしの構想No.39「ビッグデータ本格活用へ」PDF    ■ 英文版PDF

 企画に当たって
柳川範之(NIRA総研 理事、東京大学大学院経済学研究科 教授)
「本格活用への突入前夜―ビッグデータの実態を正確に把握せよ」
Keywords………ビッグデータを何のためにどう使うのか、技術革新で何がどこまでできるようになったのか

 識者に問う
「ビッグデータ本格活用へ」

ビッグデータで何ができるのか。
利活用の促進のために、何が必要か。

1 中村 潤 芝浦工業大学工学マネジメント研究科 教授
  「IoT時代にあってもアナログ技術を手放すな
  Keywords……すべてがつながるIoT ソリューション、ブランドフリーのIoT モジュール、アナログ技術

2 眞野 浩 エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者
  「ビッグデータの利活用を促進する安全で効率的なデータ取引市場
  Keywords……特定のデータを必要とする者にデータ提供を仲介、中立性・公平性・透明性

3 トリスタン・チョン 西安交通リバプール大学 蘇州国際ビジネススクール ビッグデータ分析研究所 副所長
  「経営学におけるパーシステント・ホモロジーとビッグデータの活用
  Keywords……新しいビジネスチャンス、経営学のデータ分析手法、幾何学の取り入れ

4 北川拓也 楽天株式会社 執行役員 CDO
  「データドリブン時代に企業ガバナンスはどうあるべきか
  Keywords……隠れた価値を見いだす、経営の将来を左右、ビッグデータ集約と活用のガバナンス

5 ディートマー・ハーホフ マックス・プランク・イノベーション・競争研究所 所長
  「デジタル化への移行とビッグデータに備えよ
  Keywords……新たに競争力を強化、中小企業支援、デジタルインフラ、デジタル教育、オープンガバメント、未来志向の法整備

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

中村 潤氏
大澤幸生(編著)・早矢仕晃章・秋元正博・久代紀之・中村潤・寺本正彦〔2017〕『データ市場―データを活かすイノベーションゲーム』近代科学社

眞野 浩氏
眞野浩〔2017〕「オープンなデータ流通を推進するデータ取引市場実現の取組み」『IT-Report2017 Winter』一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)
https://www.jipdec.or.jp/library/itreport/2017itreport_winter.html

トリスタン・チョン氏
Herbert Edelsbrunner・John L. Harer〔2010〕Computational Topology: An Introduction, American Mathematical Society

北川拓也氏
Alex Moazed, Nicholas L. Johnson〔2016〕Modern Monopolies: What It Takes to Dominate the 21st-Century Economy, St Martins Pr
(アレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソン〔2018〕『プラットフォーム革命―経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか』藤原朝子(翻訳)、英治出版)

ディートマー・ハーホフ氏
Commission of Experts for Research and Innovation〔2018〕Research, Innovation and Technological, Performance in Germany: EFI Report 2018
https://www.e-fi.de/fileadmin/Gutachten_2018/EFI_Report_2018.pdf

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 企画に当たって

柳川範之(NIRA総研 理事、東京大学大学院経済学研究科 教授)
「本格活用への突入前夜―ビッグデータの実態を正確に把握せよ」

理念が先行するビッグデータの活用
 ビッグデータという言葉が、マスコミで頻繁に登場するようになり、その重要性がかなり認識されるようになってきた。そこには大きく分けて三つの理由が考えられよう。
 第一の理由は、コンピュータの能力が高まったことにより、大量のデータを短時間で処理することが可能になったことだ。第二の理由は、IoT(モノのインターネット)に代表されるように、今までに得られなかった種類のデータを大量に獲得し、それを伝達する技術革新が起きている点だ。まだ本格的に実用化していないため、実感がわきにくい点があるが、これからはビッグデータを容易に獲得できるようになり、今までとは異なる時代がやってくる。そして、第三の理由は、データ解析技術やAI(人工知能)の発達によって、大量のデータを分析する意義が大きく高まっていることだ。特に機械学習の進展は、大量のデータがAIの学習にとって重要な要素であることを、われわれに強く認識させることになった。
 その一方で、ビッグデータという言葉だけがやや独り歩きしている面がある。例えば、とにかく大量のデータを集めさえすれば、あとはAIが適切に分析して、何か適切な「解答」を導出してくれるかのような議論も散見される。
 しかし、AIの基本が統計処理である以上、何のために、どんなデータを大量に集め分析するのかが明確でなければ、どれだけビッグなデータを集めても、意味のある結果は得られない。したがって、ビッグデータを何のためにどう使うのかを、もっと議論し検討する必要がある。
 そして、その検討を行うためには、実際にどのような技術革新が起き、何がどこまでできるようになったのかを把握しておくことも求められよう。また、制度や法律面がどこまでその技術を適切に生かす形で整備されているのか、あるいは整備していくべきかについても、整理しておく必要がある。しかし、残念ながらビッグデータについては、理念が先行している面が強く、そのような詳細な具体論が十分には議論されていないのが現状だ。そこで本号では、このギャップを埋めるべく、内外の専門家からビッグデータに関するさまざまな側面について語っていただいた。

データ取得の手段が多様に
 そもそもまず、IoTなどの技術革新によって、だれがどのようなデータを得ることができるのだろうか。ビッグデータの取得というと、グーグルやアマゾン等のいわゆる世界的なプラットフォーム企業によるデータ取得が注目される。しかし、芝浦工業大学の中村潤教授は、IoTモジュールによって、プラットフォーム企業に依存することなくデータを集約できる可能性を指摘している。また、IoTモジュールといえども、そこに搭載されているアナログの技術を、日本は重要視すべきだと警告している。
 もっとも、活用できるデータは、自分が直接獲得した情報だけとは限らない。エブリセンスジャパン株式会社の眞野浩代表取締役最高技術責任者は、集められたデータを取引することの重要性を指摘している。眞野氏は個別企業がビッグデータを集めるのはなかなか困難であるとして、市場でデータが取引される状況を想定する。ただし、データの適切な取引を実現させるためには、プライバシーやノウハウなどをどう保護するかなど、制度整備が必要な分野であることを指摘している。

データをどう活用するか
 そして、集めてきたデータをどう分析するのかも、大きな課題だ。西安交通リバプール大学のトリスタン・チョン・ビッグデータ分析研究所副所長は、経営問題のように、多様な側面があり単純なデータ分析がなかなか難しい課題について、トポロジーを用いた新しい分析手法(注)の可能性を紹介している。
 楽天株式会社執行役員・CDOの北川拓也氏は、ビッグデータが具体的にどのような形で活用できるかを論じるとともに、本格的に活用できるようになった時代には、経営にどんな影響が出るかも検討している。北川氏は、ビッグデータの価値の最大化が経営を左右することになり、データドリブン指向の経営がますます進むと予測している。

新時代に合わせた規制や制度の整備
 このようなビッグデータを巡る議論は、他国ではどのように行われているのだろうか。マックス・プランク・イノベーション・競争研究所所長のディートマー・ハーホフ教授は、ドイツの状況を概観している。ハーホフ教授によれば、ドイツはビッグデータの活用において後れをとっており、特に中小企業はビッグデータ活用が十分にできていないという。そして、新しい時代に合わせて、規制や制度を整備していく必要があるとされている。
 ドイツに比べて、日本はビッグデータ活用が進んでいるのか、遅れているのかについては、詳細な実態分析を待たなければ、明確なことは言えない。しかし、日本も、ビッグデータ活用において、規制や制度を整備していく必要があることはいうまでもないだろう。特にプライバシーや個人情報保護とのバランスを適切に取っていき、線引きが曖昧な、いわゆるグレーゾーンを減らしていくような取り組みが今後一層必要になるだろう。また、それを考えるためにも、実態として、どのようなビッグデータがどのように使われる可能性があるのかについて、正確に把握することが今後一層重要になるだろう。

(注) データ分析に幾何学を取り入れ、データセットの幾何構造や位相空間的な特徴から解析する手法。トポロジーは、位相幾何学。

柳川範之(やながわ・のりゆき)
NIRA総合研究開発機構 理事。東京大学大学院経済学研究科 教授。東京大学博士(経済学)。専門は契約理論、金融契約。

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 識者に問う
ビッグデータで何ができるのか。
利活用の促進のために、何が必要か。

1 中村 潤 芝浦工業大学工学マネジメント研究科 教授
「IoT時代にあってもアナログ技術を手放すな」


 スマートフォンを始めとするスマートデバイスが普及し、私たちは膨大な数のアプリやサービスを自在に利用できるようになった。これらが相互に連携すれば、多様なIoTサービスを作り出せるだろう。例えば高齢者向けの買い物サービスを考えてみる。カメラ付きロボットをショッピングセンターに配置し、利用者がテレビを使ってそのロボットを制御できれば、家に居ながら、自由度と臨場感の高い買い物の体験ができる。
 こうしたサービスを実現するには、デバイス同士がつながり、データがクラウド上に集約される必要がある。そのソリューションが、IoTモジュールとサービスプラットフォームの組み合わせだ。この買い物サービスでは、IoTモジュールにWi-Fiの送受信機とHDMI端子、音声認識、動画変換機能などを搭載し、これが、テレビやカメラ、ロボットといった各種の機器をつなぐ役割を果たす。同時に、これらの機器から送られたデータがクラウド上で集約され、さまざまなアプリを組み合わせて必要なサービスを提供する。利用者は、ロボットから自宅のテレビに届けられる映像を見ながら、コントローラや音声でウインドウショッピングなどのサービスを享受できるようになる。
 IoTモジュールは、どのメーカーの機器にも装着可能であるため、特定の機器の仕様に固定化される恐れがない。あらゆる機器からグーグルやマイクロソフトのプラットフォームにも依存することなくデータを集約することができ、それを分析することで、クラウドを通じて関連性の高いサービスを一体的に提供することが可能となる。すべてがつながるIoTソリューションを実現するには、ソフトウエアは重要だが、IoTモジュールに搭載されるアナログの技術を日本は手放さないことだ。さらに、先の話をすれば、今後は動画・音声の変換・認識処理の重要度が高まっていくのは間違いないが、人が見たり触ったり感じたりする情報はすべてアナログであり、アナログデータとサービスプラットフォームをつなぐ技術は必ず必要になる。日本はアナログの電気設計技術を生かしたIoT時代のデバイスで強みを発揮できる、そう私は考えている。

中村 潤(なかむら・じゅん)
パナソニックの映像・通信製品等の設計・技術開発を主に請け負うPersol-AVC-Technology Co., Ltd.の取締役副社長を兼務。同社は台湾企業Dynalab Inc. と共同で、IoT分野のビッグデータを利活用するサービスプラットフォームの創出にも取り組んでいる。専門は技術経営。人間の思考過程の可視化に関心がある。東京大学大学院工学系研究科博士(工学)。同大学院博士課程(技術経営戦略学専攻)で最優秀成績賞(首席)。総合商社、経営コンサルティング等を経て、現職。国際戦略経営研究学会常任理事。

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ビッグデータで何ができるのか。
利活用の促進のために、何が必要か。

2 眞野 浩 エブリセンスジャパン株式会社 代表取締役最高技術責任者
「ビッグデータの利活用を促進する安全で効率的なデータ取引市場」


 企業におけるビッグデータの活用が唱えられるようになって久しいが、個別企業が自らビッグデータを収集するのは困難だ。この課題を解決するカギが「市場」である。
 データ取引市場は、データ提供者、データ利用者と、両者の仲介を行うデータ取引市場運営事業者で構成される。当社は、このデータ取引市場運営事業者である。
 データ提供者は、自身の事業、あるいは他の事業者から特定のデータを収集・整理し、そのデータを必要とする企業や研究機関などに提供する。情報をどこまで開示するかはデータ提供者が自由に設定でき、データの交換価格はデータ提供者とデータを受け取る利用者との間で決定される。データ利用者が自分の欲しいデータの種類をリクエストすると、当社が条件に合ったデータの提供者を探して自動的にマッチングを行う。当社は民間の事業者だが、自らはデータの売買や保持を行わず、価格決定権も持たない。マッチングにより仲介を行うサービスは、中立性・公平性、および取引の透明性の担保が極めて重要である。
 データの提供者は、ノウハウが市場を通じて流出するのではないかと不安を覚えるかもしれない。例えば、農家であれば水やりのタイミングや栽培方法のようなノウハウを公開したくはないだろう。だがデータ取引市場で扱うのはあくまでも「データ」だ。気温なら気温だけというようにプリミティブなデータだけを流通できる。
 もちろん、市場は完璧ではない。プライバシー保護の観点から運営事業者は個々のデータを調査しないため、低品質のデータが売られたり、望ましくない事業者がデータを収集してしまうことはありえる。だが、当社のサービスではすべての取引がトラッキングされており、データはデータ提供者とデータ利用者相互の承認によって初めて配信される。指示すればデータの開示や、データの送信・受信ともに即座にストップ可能だ。
 二〇一七年一一月に立ち上がった「一般社団法人データ流通推進協議会」は、データを安全に取引するためのデータ取引市場運営事業者の認定基準を制定し公表した。データ取引市場運営事業者の信頼性は、こうした仕組みによって守ることができるだろう。

眞野 浩(まの・ひろし)
エブリセンスジャパン株式会社は、IoT分野の研究・開発を行うとともに、IoT情報流通プラットフォーム「EverySense」を提供。IoTデータと、そのデータを事業開発や学術研究などに利用したい企業や研究機関とをマッチングし、データの売買を仲介するサービス事業を展開している。二〇一四年シリコンバレーでEverySense,Inc. を創設。眞野氏は一般社団法人データ流通推進協議会代表理事・事務局長。データ流通市場の健全な成長と、技術的・制度的環境の整備に尽力している。

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ビッグデータで何ができるのか。
利活用の促進のために、何が必要か。

3 トリスタン・チョン 西安交通リバプール大学 蘇州国際ビジネススクール ビッグデータ分析研究所 副所長
「経営学におけるパーシステント・ホモロジーとビッグデータの活用」


 急速な成長をもたらすインターネット経済を活用して、個別の産業で存在感を示す国がアジア地域で増えている。IoT時代のビッグデータ技術の発展が、近年、著しい変化をもたらした。例えば中国では、あらゆるデジタルメディアや販売チャンネルで、消費者とのタッチポイント(接点)が、断片的だが急速に拡大している。企業が対峙する課題はほとんど共有されていない状況だが、ソーシャルメディアやEコマース、クラウドコンピューティング、モバイルコンピューティングの統合によって、ビッグデータ技術が企業の収益に与える効果について全く新しい洞察を与えるようになっている。そのため、データ分析は政府と民間組織を一つにまとめる新たなアプローチであり、新しいビジネスチャンスになりうる、との認識が広がりつつある。
 しかしながら、経営学のデータ分析にどのような手法が可能であり最適であるか、現在の段階では明確になっていないので、それを解明し、比較考量する必要がある。経営学の分野で優れた分析手法を発見するには、理論の発展が必要であり、それがビッグデータを分析する際の手引きとなる。膨大なデータ処理は難しい。ノイズを含んでいたり、高次元、不完全なデータ構造であれば、さらに困難となる。そのため、計算幾何学や位相幾何学など新たな要素を、データ分析の「伝統的な」手法に取り入れ、複雑なデータ構造を可視化させることが必要だ。
 この数十年、研究者たちは、大規模なデータセットの位相特徴を解析する有効な計算手法として、パーシステント・ホモロジー(PH)に着目してきた。従来の手法と違い、位相空間や空間分解能としてデータを把握することで、その特徴が計算可能となる。幾何学を使ってデータを分析して、その位相的な特徴を検知することで、その基礎にある空間の真の特徴を見つけ出せる。偏ったサンプルや恣意的に選ばれたパラメータによらずに、ノイズを伴うことなく、真の特徴や構造を把握できるので、さまざまなビジネス課題で実験や研究も容易だ。企業行動の識別や解析、分類において、PHは素晴らしい結果をもたらすことができる。膨大で複雑なデータの位相解析にPHは優れたツールで、現実的な手段でもある。同時に、革新的な理論の発展に役立つだろう。

(寄稿)

トリスタン・チョン(Tristan W. Chong)
ビッグデータ分析研究所創設のキーパーソン。ビッグデータ分析研究所は、IBM中国と蘇州工業園区政府の合弁により、およそ一千万人民元で設立された学際的研究機関。マレーシアでのE - ビジネス・コンサルタント等を経て、二〇一〇年二月より現職。六〇本以上の学術論文があり、研究には中国国家自然科学基金を始め、内外から常に資金提供がある。また、シンガポール国立大学等、内外の大学で客員研究員を務める。企業・大学での講演やセミナーも多数。

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ビッグデータで何ができるのか。
利活用の促進のために、何が必要か。

4 北川拓也 楽天株式会社 執行役員 CDO
「データドリブン時代に企業ガバナンスはどうあるべきか」


 「ビッグデータ活用」とは具体的に何を指すのだろうか。私は「隠れた価値を見いだすこと」だと考えている。一つの例は企業価値の推定だ。投資家たちは四半期決算を待たず、迅速に情報を得たいと考えるようになっている。ある米国の企業は、衛星写真を元に企業の生産や集客状況を分析するサービスを提供、二〇一八年にテスラのEV生産状況を明らかにして大きな話題を呼んだ。他の有望な例としては、与信の査定が挙げられる。友人を信用するか否かをその人の所持金額で決める人はいまい。時間通りに来るか、お金やモノを貸したらちゃんと返すかなど、約束事を守ることが信用になる。つまり、返済履歴などのデータを分析すればより正確な与信の査定を行えるわけだ。まだあまり注目されていないが、ユーザーの関心がどこに向いているのかの分析も今後大きな価値を生むことになるだろう。ウェブビジネスではユーザーの行動から関心の向きを分析してサイト最適化を行っているが、今後さらに広がりを見せると考えられる。
 こうしたビッグデータの価値の最大化が経営の将来を左右するようになり、企業においてはデータドリブン指向の経営がますます進む。企業トップの役割とは四半期ごとの決算を出すことではもはやない。三年後の未来がどうなるかを見通し、どうデータを活用、保護するか意志決定することがトップの役割だ。だが、複数サービスやグループ企業からデータを集約するのは簡単なことではない。楽天グループも七〇以上のサービスを提供しており、楽天ユーザー会員数は一億以上に上る。そこで楽天では二〇一七年からCDO(Chief Data Officer)に関して、ハブ&スポークモデルにトライしている。楽天全体のCDO(現在は私)がグループ企業各社のCDOと協業するというモデルであり、施策にはデータ収集やデータガバナンスなども含まれる。さらに四半期ごとに、すべてのグループ企業のCEOや役員を集め、丸一日かけてデータ戦略を議論する会議を開催している。データ活用はすべて顧客に価値をもたらすものでなければならない。トップが率先して顧客中心の企業文化を作ることが、これからのビジネスにとって不可欠である。

北川拓也(きたがわ・たくや)
楽天でデータサイエンス組織を設立。執行役員とともに楽天グループ全体のCDOを務め、データ戦略を主導する。楽天データマーケティング株式会社の取締役も兼務。現下は、データ基盤の創出、科学的解析による顧客体験の展開、データを活用した広告ビジネスやビジネス・イノベーション等に取り組む。前職は理論物理学者。ハーバード大学院物理学科博士課程修了。Ph.D。“Science,” “Nature Physics,” “Physical Review Letters” 等の学術雑誌で二〇本以上の論文を出版。

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ビッグデータで何ができるのか。
利活用の促進のために、何が必要か。

5 ディートマー・ハーホフ マックス・プランク・イノベーション・競争研究所 所長
「デジタル化への移行とビッグデータに備えよ」


 デジタルの変化は、極めて速いプロセスで進歩する。人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティングによる破壊的なビジネスモデルは、これまでドイツが重点的に育成してきた産業の優位性を脅かしている。この先、数年で、多く国はこの急激な変化に対応して、新たに技術的、経済的な競争力を強化しなくてはならないが、ドイツは殊更、重要である。そのため、一貫した、かつ迅速な政策の実施が欠かせない。
 ビッグデータから生まれるサービスは、既存の技術や製品・サービスを一掃するイノベーションである。全く新しい市場が出現する。しかし、ドイツはビッグデータの活用で、米国に水をあけられている。また、ビッグデータへの取り組みで大企業と中小企業ではかなりの差があり、「デジタルデバイド」のリスクも見逃せない。多くの中小企業は、差し迫った変化の重要性を十分に認識していないか、資金不足で対応がうまくできていない。デジタル化が進む中、中小企業には特別な支援が必要となるだろう。
 ドイツにとって、もう一つの重要な政策分野に、高性能かつ移行性を備え、将来にわたって使えるデジタルインフラの整備がある。また、すべての年代を対象としたデジタル教育の強化も必要だ。とりわけ小中学校が重要だ。コンピューターサイエンスを新しい重要分野だと認識し、さまざまな教育課程のカリキュラムに取り入れていくべきだ。
 一方、行政も「オープンガバメント」で行政データを提供することで、ビッグデータの活用を促進することができる。ドイツでは、しっかりとした行政データへのアクセスのシステムがなく、自動的に入手できるようになっていない。デジタル政府・行政という点で、ドイツが追いつくためにすべきことは多いが、最近、効率的な行政データとEガバメントのポータルを設立し運営する法的枠組みは、確立されることになった。
 デジタル経済に向けて、未来志向の法的枠組みを作ること―例えば著作権やデータ保護、消費者保護など―もまた同様に必要である。既存のビジネスモデルへの既得権や特権を優先させることになれば、デジタル時代における国の競争力を脅かすことになるだろう。法律は既存の分野を守るフェンスを作ることに照準を合わせてはならない。むしろ、デジタル経済モデルを迅速に導入できるような枠組みにするべきだ。

(寄稿)

ディートマー・ハーホフ(Dietmar Harhoff)
専門はイノベーション、起業家精神、知的財産、工業経済学。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学教授。ドルトムント工科大学機械工学学士、ハーバード大学行政学修士、MITスローン経営大学院博士。ドイツ連邦経済技術省の科学諮問委員会委員(二〇〇四年~)を始め、EU競争政策に関する経済アドバイスグループ(EAGCP)委員、ヨーロッパ特許庁経済科学諮問委員会(ESAB)議長、ドイツ連邦政府研究・イノベーション専門家委員会(EFI)議長等、要職を歴任。著書多数。

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©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、川本茉莉、新井公夫、山路達也


※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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