NIRALogo

1 シンクタンクにおける財政状況と公共政策の位置付け

 長引く日本経済の不況下にあって、国、地方公共団体の財政状況は逼迫し、雇用情勢や産業構造の変化は激しくなっている。こうした環境の下で、シンクタンク業界はどのような実情にあるのだろうか。わが国におけるシンクタンクの多くが、企業・企業グループ、所管省庁等の影響を色濃く受けていることをかんがみれば、シンクタンクの諸活動がその余波を受けているのは疑いのないところであろう。実際、営利法人を中心に、事業の見直しを迫られ、公共政策への関与の比率を弱めてコンサルティング業務等の収益事業に活路を見いだす動きも見られる。

 こうした問題意識をふまえ、シンクタンクにおける事業経費ならびに収入からみた調査研究事業の占める割合、設立母体との関係、公共政策に関する調査研究等業務の位置付けとそれに必要な財政措置等について、アンケート調査(動向調査B)を行った。この結果と各機関からいただいた意見を、以下に取りまとめた。

(1)総事業費(支出ベース)に占める事業経費の割合(有効回答:233機関)

 事業費の費目として、(1)自主的な調査研究等事業、(2)公的機関からの調査研究事業、(3)営利法人からの調査研究等事業(含むコンサルティング)、(4)その他(管理費等)、の4項目を設定し、総事業費(支出ベース)に占める割合をみた。

 また、その推移を見るうえで、「5年前」「現在」「5年後の見通し」について回答を求め、「5年前」「現在」については、その割合を「ゼロ」「3割未満」「3割以上5割未満」「5割以上7割未満」「7割以上」の要素で集計し、「5年後」については、「増える」「変わらない」「減る」の3要素で集計した((2)、(3)も同様)。また組織形態の「その他法人」については「公益法人等」に含めた。

 5年前と現在とを比べると、公益法人等、営利法人ともに(2)についてやや変化がみられる(公益法人等の「3割未満」が増加、営利法人の「3割以上5割未満」が増加)ほかは、とくに大きな変化はみられない(表1-1)。「5年後の見通し」については、(1)〜(4)とも「変わらない」との回答が最も多かった。組織形態別にみると、公益法人等は「自主的な調査研究等事業」について、「減る」より「増える」との回答が上回り、「公的機関からの調査研究等事業」については「減る」との回答が多い。営利法人については、「自主的な調査研究等事業」「営利法人からの調査研究等事業」について「減る」より「増える」との回答が上回り、「公的機関からの調査研究等事業」については公益法人と同じく「減る」が「増える」を上回る結果となった(図1-1)。

表1-1 総事業費(支出ベース)に占める事業経費の割合(5年前、現在)

公益法人等                                         (機関数)
 (1)自主的な
調査研究等事業
(2)公的機関からの
調査研究等事業
(3)営利法人からの
調査研究等事業
(4)その他:
管理費等 
5年前現在5年前現在5年前現在5年前現在
ゼロ2121131568685450
3割未満5953364925282831
3割以上5割未満1218201410588
5割以上7割未満811191615814
7割以上212232327888

営利法人                                          (機関数)
 (1)自主的な
調査研究等事業
(2)公的機関からの
調査研究等事業
(3)営利法人からの
調査研究等事業
(4)その他:
管理費等 
5年前現在5年前現在5年前現在5年前現在
ゼロ54569414136974
3割未満3434252844461613
3割以上5割未満351423181557
5割以上7割未満44111061423
7割以上224442191865

図1-1 総事業費(支出ベース)に占める街頭事業経費の今後の見通し(5年後)

(2)総収入に占める事業等収入の割合(有効回答:245機関)

 収入の費目として、(1)自主的な調査研究等事業、(2)公的機関からの調査研究等事業、(3)営利法人からの調査研究等事業(含むコンサルティング)、(4)会費、資産運用益、(5)その他、の5項目を設定し、総収入に占める割合をみた。

 5年前と現在とを比べると、いずれの項目についても、公益法人等、営利法人ともに大きな変化はない(表1-2)。「5年後の見通し」については、(1)〜(5)ともに「変わらない」の回答が最も多かった。組織形態別にみると、公益法人等は「公的機関からの調査研究等事業」「会費、資産運用益」が「減る」との回答が「増える」を上回り、「自主的な調査研究等事業」「営利法人からの調査研究等事業」については「増える」との回答が「減る」を上回った。営利法人も同様の結果となった(図1-2)。

表1-2 総収入に占める該当事業等収入の割合(5年前、現在)

公益法人等                                                (機関数)
 (1)自主的な
調査研究等事業
(2)公的機関からの
調査研究等事業
(3)営利法人からの
調査研究等事業
(4)会費、
資産運用益
(5)その他  
5年前現在5年前現在5年前現在5年前現在5年前現在
ゼロ70771518737421235454
3割未満35343946273060683533
3割以上5割未満451719981516714
5割以上7割未満652115146968
7割以上2330335718141213

  
営利法人                                                  (機関数)
 (1)自主的な
調査研究等事業
(2)公的機関からの
調査研究等事業
(3)営利法人からの
調査研究等事業
(4)会費、
資産運用益
(5)その他  
5年前現在5年前現在5年前現在5年前現在5年前現在
ゼロ828673141487917377
3割未満16163437474813131414
3割以上5割未満12131910141467
5割以上7割未満3391214170034
7割以上12454322211066

図1-2 総収入に占める該当事業等収入の今後の見通し(5年後)

(3)設立母体との関係(有効回答:194機関)

 (1)職員総数に対する出向者の割合、(2)総支出に対する人件費等直接補助の割合、(3)総収入に対する調査研究等の受託割合、の3項目を設定し、設立母体との関係をみた。

 「5年前」と「現在」を比較すると、公益法人等、営利法人とも(1)については「7割以上」の割合が減り、全体的に減少傾向にある。(2)はほぼ変化なし、(3)については「3割未満」の割合が増加している(表1-3)。

 「5年後の見通しについては、(1)〜(3)のすべてで「変わらない」との回答が最も多かった。組織形態別にみると、公益法人等、営利法人ともに、各項目について「増える」より「減る」と回答した機関が多かった(図1-3)。

表1-3 設立母体との関係について(5年前、現在)

公益法人等                                  (機関数)
 (1)職員総数に対する
出向者
(2)総支出に対する
人件費直接補助
(3)総収入に対する
調査研究等の受託
5年前現在5年前現在5年前現在
ゼロ454269703933
3割未満122212152843
3割以上5割未満912351517
5割以上7割未満131755810
7割以上393021222418

営利法人                                    (機関数)
 (1)職員総数に対する
出向者
(2)総支出に対する
人件費直接補助
(3)総収入に対する
調査研究等の受託
5年前現在5年前現在5年前現在
ゼロ252538432317
3割未満41237618
3割以上5割未満394485
5割以上7割未満51266712
7割以上2913951714

図1-3 設立母体との関係についての今後の見通し(5年後)

(4)公共政策に関する調査研究等業務の位置付け(有効回答:250機関)

 シンクタンクは公共政策に関する調査研究等業務をどのように位置付けているのだろうか。(1)収益事業、(2)不採算事業、(3)社会的貢献事業、(4)ステータス向上事業、(5)縮小・廃止検討対象事業の5項目を設定し複数回答可とした(図1-4)。

図1-4 公共政策に関する調査研究等業務の位置付け(複数回答可)

 「収益事業」とした機関は149機関(うち6割が営利法人)で、「不採算事業」(75機関、うち7割弱が営利法人)を大きく上回っている。「社会的貢献事業」とした機関は144機関、うち6割強が公益法人等)、「ステータス向上事業」が102機関(公益・営利半々)であった。「縮小・廃止検討対象事業」との回答が5機関、また「収益事業」「不採算事業」のどちらにも回答した機関が10機関あり、いずれも営利法人であった。

(5)公共政策に関する調査研究等業務の推進に必要な財政措置(有効回答:249機関)

 公共政策に関する調査研究等業務の推進に必要と思われる財政措置として、(1)自主財源の確保、(2)使途が比較的自由な外部資金(助成金、寄付金等)の導入、(3)特定テーマに基づく調査研究等業務の受託、(4)調査研究等業務に対する評価と対価の適正化、(5)他部門における収益性の確保、の5項目を設定し、優先順位の高い順に回答を求めた。その結果、優先順位が1位としたもののみを組織形態別に集計し、さらにそれぞれについて1位、2位と回答した項目についても比較してみた(図1-5-1、1-5-2、1-5-3)。

図1-5-1 公共政策に関する調査研究等業務の推進に必要な財政的措置

図1-5-2 公共政策に関する調査研究業務の推進に必要な財政措置

図1-5-3 公共政策に関する調査研究業務の推進に必要な財政措置

 公益法人等で最も回答が多かったのは(1)で、次いで(3)が多く、営利法人では(4)を1位にあげた機関が最も多かった。上位2位までみると公益法人、営利法人とも(3)の回答が最も多い結果となった。双方ともに業務委託による財政措置を望んでいる一方で、営利法人では実施した研究について、その評価と対価が適正でないと判断していることがわかった。

 この「評価と対価の適正化」については、各機関より、NIRAに対する要望も含め以下のような意見があった。

 以上については、NIRAとしても今後の活動への示唆として受け止め、公共政策にかかわる知的基盤整備の推進の前提ともいえる基礎的な諸課題の解決に向けて積極的な役割を果たしていきたいと考える。

(6)調査研究収入と平均受託額

 動向調査Bの結果をみると、事業経費の割合、収入の割合、設立母体との関係のいずれもその推移に極端な変化はなく、また今後の見通しについても不変であるとの回答が多かった。また全体の6割が公共政策に関する調査研究等業務について、「収益事業」であると回答している。

 では、総収入や調査研究収入、また受託調査研究の1件あたりの平均受託額に変化はみられないだろうか。この2点について、動向調査Aの集計結果から分析を試みた(いずれも回答年度によって有効回答数は変動することをご了承いただきたい)。

 まず、「総収入にみる調査研究収入の割合」についてみると、1994年、97年、98年といずれも28%前後で推移し、99年(昨年度調査)では30%を超えた。今年度については昨年度より有効回答数は減った(10%程度)が、総収入金額としては増加したにもかかわらず、調査研究収入の占める割合は減少し、その他事業収入の割合がわずかながら増加した(図1-6-1)。組織形態別にその割合をみると、財団法人において減少傾向が顕著で、営利法人においては割合が増加する結果となった。また、「事業収入」についてその内訳をみると、「システム開発・プログラム開発・情報処理」関連が65%近くを占め、昨年度の割合(50.1%)を大幅に上回っている(図1-6-2、1-6-3)。

図1-6-1 総収入、調査研究収入等の推移と割合

図1-6-2 組織形態別にみる収入状況(有効回答:252機関)

図1-6-3 総収入にみる内訳

 また、「受託調査研究1件あたりの平均受託額」については、昨年度調査ですでに減少傾向がみられたが、今年度はさらに大きな変化がみられた(有効回答数は昨年度より0.5%程度減少)。国、特殊・公益法人、地方公共団体、民間研究・助成団体、民間系列、民間その他、マルチクライアント、海外、その他の項目のそれぞれで平均受託額は減少したが、とくに顕著なのが、地方公共団体(7.2百万円→4.6百万円)、民間系列(19.6百万円→9.3百万円)、海外(12.9百万円→5.1百万円)であった(図1-6-4)。一方受託件数でみると、昨年度に比べて増加したのは、地方公共団体、民間系列、民間その他で、減少したのは民間研究・助成団体である。

図1-6-4 受託調査研究1件あたりの平均受託額

 総体としてみると、シンクタンクは調査研究収入の落ち込みを、その他の事業収入でカバーしていると言える。第1部において、熊倉氏は「計画づくりの一括受託という形での調査研究委託が減少している」とし、その理由として自治体の財政逼迫をあげているが、それを裏付ける結果となった。

 上記の平均受託額の減少という結果や、また前述の総収入に占める調査研究等事業収入の割合について、5年後の見通しとして「公的機関からの減少」「営利法人からの増加」という傾向がみられたことを考え合わせると、財政基盤の確保という側面から、シンクタンクが公共政策からやや距離を置かざるを得ない状況が推測できる。財政面や経営面については、各機関より以下の意見が寄せられた。

 政策形成システムの多元化が求められている昨今、国や地方公共団体がシンクタンクに積極的に投資するための仕組みづくりが急務である。シンクタンクという知的基盤を充実させることで、日本の政策の質がさらに向上するであろうことは言をまたない。


NIRALogo
トップページ
 
[ 戻 る ]

Copyright (c) National Institute for Research Advancement (NIRA)
Copyright (c) 総合研究開発機構 (NIRA)