NIRALogo
第2部 シンクタンクの動向

シンクタンクにおける人材育成とその課題

 過去2年にわたり、「シンクタンクの動向調査」では、シンクタンクにおける財政状況や研究資金源をテーマに調査を行ってきた。今年度は、人材育成とその課題をテーマに、『シンクタンク年報2004』に掲載の311機関を対象に調査(動向調査B)を行い、244機関(回答率:78.5%)から回答をいただいた。この結果を元に、各機関からいただいた意見、関連する動向調査Aの集計結果も併せて以下に取りまとめた。


1.研究者の採用状況、在職平均年数、最終学歴等

(1)研究者の採用状況(有効回答:243機関)

 採用者(新卒、中途)、退職者(定年、中途)について過去5年間の実績の有無をたずねたところ、以下のとおりであった(図1−1)。「新卒採用者あり」と回答したのは44.0%で、「中途採用者あり」57.2%、「定年退職者あり」は25.1%、「中途退職者あり」が63.0%であった。採用・退職共に、この5年間実績がなかったのは52機関(21.4%)で、逆に、双方の実績があったのは80機関(32.9%)であった。

 採用状況についての満足度については、「満足している」「満足していない」が共にほぼ4割であった。採用実績のあった166機関のみを集計しても、その割合はほぼ同様の結果となった。

(2)研究者の在職平均年数(有効回答:241機関)

 次に、研究者の在職年数について、「[1] 1年未満」「[2] 1年以上3年未満」「[3] 3年以上5年未満」「[4] 5年以上10年未満」「[5] 10年以上」の項目を設定し、その割合を調べた(図1−2)。在職年数が「[5] 10年以上」が7割を超えると回答した機関は21機関(8.7%)、5割以上も含めると70機関(39.0%)であった。一方で、「[2] 1年以上3年未満」が3割未満とした機関は103機関(42.7%)、「[3] 3年以上5年未満」が3割未満と回答した機関も154機関(63.9%)となっている。組織にとって“中堅どころ”となるべき3〜5年選手の割合が低い機関が多いところをみると、キャリアを積んで転職する研究者も少なくないことが想定できる。

(3)研究者の最終学歴と専門分野(有効回答:237機関、5646人)  研究者の最終学歴の内訳は以下のとおりであった(図1−3)。またその専門分野については、「機械、土木、建築その他工学」が全体の26.2%を占め、次いで「経済学」が15.2%、「情報、電気、電子(情報科学、電気通信工学等)」が7.7%となった(なお分野については、日本学術振興会の学問分野に準じ、社会科学については細分野(法学、政治学、経済学、経営学、社会学、統合政策学)とした)(図1−4)。

2.研究環境について(有効回答機関:242機関)

 研究者の研究環境について、「[1] 個室スペース」「[2] 間仕切り等による専有スペース」「[3] パソコン等OA機器装備」「[4] 研究補助員」「[5] その他」の項目を設定し、その有無をたずねた(図2)。「[3] パソコン等OA機器装備」については「ある」とした機関が96.7%で、普及率の高さを示した。「[2] 専有スペース」も、「ある」「一部ある」と回答した機関を合計すると55.8%となった。また「[4] 研究補助員」については、「ある」「一部ある」と回答した機関を合計すると約6割であった。しかし、「[1] 個室スペース」については9割近くが「ない」と回答している。

3.研究者の能力と育成について

(1)研究者に求められる能力(有効回答:240機関)

 研究者に求められる能力として、「[1] 企画立案能力」「[2] プレゼンテーション・折衝能力」「[3] コーディネート能力」「[4] 調査分析能力」「[5] 情報発信能力」「[6] その他」の6項目を設定し、特に重要と思われる項目を3つまで選択してもらったところ、以下のような結果となった(図3−1)。「[1] 企画立案能力」(91.7%)と「[4] 調査分析能力」(86.3%)を選択した機関の割合が高く、「[2] プレゼンテーション・折衝能力」(48.3%)、「[3] コーディネート能力」(44.6%)は二分されるかたちとなり、「[5] 情報発信能力」を選択した機関はおよそ4分の1にとどまった。その他として、「発想・構想能力」「問題解決能力」の回答もあり、さらに「文章作成能力」や「一般社会常識」など基礎的な項目を能力として求める機関もあった。

 第1部で、加藤・近藤論文は、現在の政策形成過程にかかわる人材については必要な資質や条件を欠いており、政策形成能力に優れた人材の育成機関として大学の果たすべき役割は高まっていると述べ、優れた政策を示すための条件として、論理的思考力や分析力を養うことも重要であるが、「一般教養を充実させ、“世の中がどうあるべきか”“人としてどう生きるべきか”といった理念を語れる素地をつくること」をその第一としている。シンクタンク研究者というと専門分野における知識や能力を有することが評価されるが、個々の政策が極めて多くの分野にかかわっているという事実をかんがみれば、極めて重要な指摘であると考える。

(2)研究者の養成について(有効回答:240機関)

 研究者の養成について、「[1] 社内研修制度」「[2] オン・ザ・ジョブ・トレーニング」「[3] 社外研修制度」「[4] ジョブ・ローテーション」「[5] 外部講習会・セミナー等への参加奨励」「[6] 学位、単位等のための便宜供与」「[7] 自主研究のための資金援助」「[8] 海外研修・派遣制度」「[10] 他の国内シンクタンクや企業への出向」「[11] その他」の項目を設定し、複数回答とした(図3−2)。実施・導入の割合が最も高かったのは、「[5] 外部講習会・セミナー等への参加奨励」で、85.8%であった。「[6] 学位、資格等取得のための便宜供与」についても47.9%の機関が実施していると回答している。またすべての項目について「実施・導入がない」とした機関が8機関あった。

 青山論文は、「日本的に考えれば、プロポーザルを書ける人材を育てる必要があるということであろうが、アメリカでは、シンクタンクの側に“育てる”という発想はほとんどない。書ける人材を採用するのである。(中略)研究員自らがシンクタンクにとって必要な人材となるよう努力するのである」と述べている。人材育成の環境は社会が用意するものであるとするアメリカに比べると、日本社会における環境整備にはなお時間がかかることは否めないが、「シンクタンクの最大の財産は人である」との視点に立ち、研究者が自己研鑽を積めるシステムがさらに充実することを望みたい。

4.研究者の人事評価制度について(有効回答:238機関)

 研究者の人事評価制度について、「[1] 人事考課制度(目標達成・自己評価・上司との評価確認)」「[2] 自己申告制度(キャリアパスや、担当業務について上司を通さずに直接人事部に希望申告)」「[3] 年俸制度あるいは研究職独自の給与体系」「[4] 裁量労働制度(時間配分・業務遂行方法を研究者の裁量にまかせるシステム)」「[5] フレックスタイム制度」「[6] その他」の項目を設定した(図4)。「[1] 人事考課制度」については61.3%の機関が導入しており、「[4] 裁量労働制度」についても46.6%が導入していると回答した。一方、すべての項目について「実施・導入がない」と回答した機関は14.3%(35機関)であった。

 それぞれの項目について営利法人の占める割合は、[1] 58.2%、[2] 65.9%、[3] 55.7%、[4] 55.0%、[5] 54.3%という結果であった。

 人事評価制度について、現状に対する満足度を併せてたずねたところ、「満足している」と回答した機関はおよそ4割にとどまった。また「満足していない」「どちらともいえない」と回答した機関にその理由をたずねたところ、「研究成果や実績を評価することが難しい」との理由が多く、「系列会社の人事制度を取り入れており、独自の評価制度・給与体系を確立することが難しい」「人事評価制度そのものがない」、あるいは「新たな制度を確立中である」との回答も寄せられた。

5.研究費用と管理について(有効回答:228機関)

 研究経費について、「[1] 人件費」「[2] 直接経費」「[3] 一般管理費」「[4] その他」の割合について問うたところ、以下の結果となった(図5)。

 「[1] 人件費」については、「5割以上」の機関が113機関(49.6%)で、うち52.2%が営利法人であった。また「7割以上」と回答した機関が約1割あった。「[2] 直接経費」については「5割未満」の機関が176機関(77.2%)で、そのうち約半数が営利法人であった。「[3] 一般管理費」については8割弱の機関が「3割未満」であった。

 さらに、現在の研究経費に対する満足度をたずねたところ、「満足している」が44.2%、「満足していない」が39.3%との回答であった。営利・非営利の別でみると、非営利法人はその割合はほぼ半々であったが、営利法人については「満足している」とした機関は4割にとどまった。

 また、「満足している」「どちらともいえない」と回答した機関の7割がその理由を示した。内容をみると、「受託金額の減少」「経営困難・財政不足」と回答した機関が3割で、「受託金額の減少」についてはそのほとんどが営利法人、「経営困難・財政不足」と回答したのはほとんどが公益法人であった。人件費の割合については、「高い」とした機関、「不足」とした機関はいずれもほぼ1割、「直接経費を下げたい」とした機関も1割ほどであった。

6.研究者1人当たりの売上高(有効回答:220機関)

 研究者1人当たりの売上高(調査研究に対する受託収入)目標額について、「[1] 100万円以上500万円未満」「[2] 500万円以上1000万円未満」「[3] 1000万円以上2000万円未満」「[4] 2000万円以上5000万円未満」「[5] 5000万円以上1億円以下」「[6] 1億円以上」の項目を設定し、回答を求めた(図6)。

 その結果、最も割合が高かったのが、「[3] 1000万円以上2000万円未満」で全体の32.3%を占め、次いで「[4] 2000万円以上5000万円未満」の25.0%であった。また、「[6] 1億円以上」と回答した機関はゼロで、一方で「目標額の設定を行っていない」との回答も2割を占める結果となった。

 売上高目標額の満足度について問うたところ、「売上高目標額と実績額が合致していない」と回答した機関は93機関(47.9%)で、非営利法人・営利法人の割合はほぼ同じであった。また、「合致している」としたのは63機関(32.5%)で、うち営利法人の占める割合は34.9%となった。

 「合致していない」「どちらでもない」と回答した機関(うち、目標額を設定していない機関を除く91機関)にその理由をたずねたところ、半数以上の機関が「景気低迷による受託額の低下」を挙げた。ほかに、「研究者によって能力に差があるため、売上高にバラつきがある」「競争入札制度など、委託制度による弊害」などが挙げられた。さらには、受託金額が低下により、多くの研究件数を受託することになり、結果、研究者の過剰労働につながっている、という指摘もあった。

 関連して、以下の意見も寄せられた。

 経済不況、景気悪化の波は、多くのシンクタンクの経営基盤を支える受託研究の単価激減となって直接的打撃を与えており、「受託単価が低い→研究の本数をこなさざるを得ない→研究者の過重労働」という図式に拍車がかかっている。さらにこうした状況下で、研究者の採用実績はここ数年に比して低い人数にとどまる結果となった。政策形成過程において、シンクタンクの重要度が求められる一方で、現場の研究者は「目の前の仕事をこなす」ことに多くのエネルギーを費やし、自らのスキルアップを図るための時間を捻出するのは容易でない現状がうかがえる。

 構造不況が、本来それを打破・打開するための政策の立案・形成にかかわる人材の成長を阻んでいるという皮肉な結果になっていると言えよう。青山氏は、「人材は“育てる”ものではなく“育つ”ものである。……日本の人材育成システムは、もっと人材が育つ土壌と、環境の整備が必要ではないかと思う」と述べているが、なかなかに困難であるといわざるを得ない。

 NIRAではこうした現状をふまえ、2002年度より「公共政策研究セミナー」を開講している。政府、企業、団体等で実際に政策に関連する業務に携わっているがスキルアップの必要性を感じている、公共政策の実務者、研究者、コーディネーターを目指している、あるいは市民として自発的に政策を論じ行動を起こしたい、こうした問題意識を持っている方々を対象に、政策分析の基本を考え、実践的に習得する政策研究の導入セミナーである。公共政策の研究や分析を、理論的、学際的、実践的に進め、問題を提起する議論を展開できる人材養成を目指すものである。

 政策形成にかかわる人材育成は、日本にとっても急務の課題であろう。政策市場の健全化なくして、人材の育成は困難である。シンクタンク研究者が、その発想においても組織においても、タテ割りから脱却しネットワークを張り巡らせ、専門分野での知識を発揮するとともに理念に裏打ちされた研究の成果を発信することで、政策市場が活発化することを期待したい。

NIRA政策研究情報センター
島津千登世


NIRALogo
トップページ
 
[ 戻 る ]

Copyright (c) National Institute for Research Advancement (NIRA)
Copyright (c) 総合研究開発機構 (NIRA)