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シンクタンクにおける情報発信と活用
   −より高次の情報発信を目指して−

NIRA政策研究情報センター
研究員  齋藤 智之

 

 「平成不況」の長いトンネルを抜け、国内経済が回復の兆しをうかがわせつつある昨今、その牽引役として、いわゆるIT革命に端を発した情報通信の分野における著しい成長が果たしてきた役割は少なくないだろう。そしてまた、このような情報通信産業の躍進に呼応するかたちで、シンクタンクにおける情報発信のあり方も大きな変革を迫られ、またその成果が徐々に具現化しつつあるように思われる。こういった認識に立ち、今年度は「シンクタンクにおける情報発信と活用」をテーマとしたアンケート調査(動向調査B)を実施し、その結果に論考を加えたものを以下に取りまとめた。

 動向調査Bにおいては、『シンクタンク年報2005』に掲載されている295機関のうち244機関から回答を得た(回収率:82.7%)。また、シンクタンクにおける事業活動はいずれも、組織形態(法人格)や設立経過年数、人的規模に少なからず左右されるという観点から、本稿ではクロス集計を用いている箇所がある。そこでクロス集計を行う際の基礎データとすべく、有効回答機関244のうち2004年4月1日現在における、それぞれ「組織形態」「設立年数」「役職員数」の内訳を調べた結果、次の通りであった。なお「組織形態」において「その他」と回答した機関(6機関)は、独立行政法人、認可法人、協同組合、任意団体のいずれかであった。

 また、調査票の自由記載項目を紹介するに当たり、編集の都合上、若干の修正を加えたものがある。

組織形態 設立年数

役職員数


1.電子メディアによる情報発信

 今日、電子メディアを通じた情報発信はシンクタンクにとって、もはや必須の様相を呈している。そこでまず初めに、ホームページとメールマガジンというインターネットを利用した情報発信事業の実施状況を調べてみた(表1-1、表1-2)。有効回答のうち、ホームページを「開設している」と回答した機関は94.7%、また「開設を検討している」と回答した機関は4.1%で、合計するとほぼすべての機関(98.8%)がホームページの有用性を認めていると考えられる。これに対し、メールマガジンを「配信している」と回答した機関は有効回答のうち16.5%にとどまり、半数を上回る65.7%が「配信する予定はない」と回答した。

表1-1 ホームページの開設状況
機関数
パーセント
有効パーセント
有効  
開設している
開設を検討している
開設する予定はない
不明
合計
231
10
3
0
244
94.7
4.1
1.2
0.0
100.0
94.7
4.1
1.2
0.0
100.0

表1-2 メールマガジンの配信状況

機関数
パーセント
有効パーセント
有効  
配信している
配信を検討している
配信する予定はない
不明
合計
無回答
合計
38
24
151
17
230
14
244
15.6
9.8
61.9
7.0
94.3
5.7
100.0
16.5
10.4
65.7
7.4
100.0

 ここでホームページとメールマガジンの特質の違いについて考えてみたい。ホームページでは図表や写真など視覚的な内容を含め、比較的細微な情報を閲覧者側に一気に大量発信することが可能である。しかしメールマガジンはある程度限られた情報量を、基本的にはテキストデータとしてしか送信することができない。もちろん、どちらも情報を発信してから受信されるまでの時間的ロスが極めて少なく、また印刷物などと比べると、コストが安価であるという点では共通している。

 では、シンクタンクが電子メディアを利用して情報発信を講じていく際、メールマガジンを活用する意義とはいったい何か。その答えは一言で言うと、情報発信における能動性ということだろう。つまり、ホームページは閲覧者からのアクセスがなければ、そのコンテンツを発信することができないのに対し、メールマガジンはいったん登録さえしてしまえば、送信先のメールアドレスが消去・変更されない限り、情報をほぼ継続的に送信することが可能である。当然ながら、送信されてきたメールマガジンの中身を一読するかどうかは受信者自身の判断を仰がなくてはならないが、メールマガジンを送信することによって、少なくとも以前そのシンクタンクの活動に何らかの関心を寄せた人々の注意を喚起することができるものと考えられる。情報過多の時代において、シンクタンクは今後とも、ほかの国内シンクタンクだけでなく、テレビや新聞をはじめとする内外のマスメディアや大学などとの間で熾烈な情報発信競争を強いられる宿命にあるだろう。このような状況下において、シンクタンクにとって潜在的なサポーターの関心を何らかのかたちで確保し続けることは、決定的に重要な課題である。その一助としてメールマガジンを利用することは、少なからず有益とは考えられないだろうか。

 では、ホームページやメールマガジンを運営する場合、実際に両者をどのようにリンクさせればよいのか。そこでホームページ、メールマガジンを「開設・配信している」と回答した機関(それぞれ231機関、38機関)がどういった内容を掲載しているかについて、「組織概要」「研究成果(全文)」「研究成果(抄録)」「研究成果(タイトルのみ)」「イベント情報」「出版物情報」「求人情報」「掲示板」「リンク集」「データベース」「会員専用ページ・メール」「その他」の12項目を設定して調べたところ、図1-1の結果が得られた。

 ホームページについては、ほぼすべての機関(97.8%)が「組織概要」を紹介しているほか、半数を上回る機関が「出版物情報」(69.1%)、「イベント情報」(64.3%)、「研究成果(タイトルのみ)」(63.9%)、「リンク集」(57.8%)を掲載している。また研究成果に着目すると、タイトルのみを紹介している機関が63.9%であるのに対し、抄録や全文まで掲載しているのはそれぞれ44.3%、23.5%にとどまった。その要因として、国内シンクタンクにおける研究事業全体に占める受託研究の割合が高く、研究成果を一般に公開したくてもできない現状や、また研究成果を全文あるいは一部公開することによって報告書のような出版物などの購買層を失いかねないという懸念があることが考えられる。一方、メールマガジンの内容として、半数以上の機関が「イベント情報」(71.1%)や「出版物情報」(57.9%)を掲載しているが、そのほかの掲載内容についてはおしなべて数値が低かった。また、半数近くの機関(44.7%)が「会員専用メール」のサービスを実施しており、研究成果についてはホームページの場合と同様の傾向が見られる。

図1-1 掲載内容(複数回答可)

 先に述べたように、ホームページの特質がその情報量の多さと、図表など視覚的な情報の発信に適しているのに対し、メールマガジンは情報を能動的に送信することができ、速報性が高いという特徴を有している。今回の調査結果からも、会議やシンポジウムといった各種イベントの開催案内や新刊の出版物などを紹介する目的で、メールマガジンが主に宣伝媒体として利用されている現状が明らかとなった。従って、両者の長所をバランスよく活用するかたちで、まずメールマガジンを通じて研究事業を含む最新の活動内容について購読者の関心を継続的に維持し、その購読者が何か興味深いニュースを見いだした場合、さらに詳細な情報をホームページ上で円滑に取得できるような相互補完性の高い連動システムを構築する必要がある。いずれにせよ、費用対効果の面からも電子メディアを今後どのように運用していくかといった問題は、シンクタンクにとって少なからず重要な意味を持つことだろう。

 なお、メールマガジンの配信状況を役職員数別に比較してみると、「配信している」割合が最も高いのは「100名以上〜300名未満」(36.4%)であり、最も低いのは「10名未満」(8.8%)であった(表1-3)。役職員数の増加にほぼ従って実施率が高くなっているのは、いわゆる規模の経済により、組織規模の大きい機関ほど情報発信といった、いわば付帯的業務にも着手するだけのマンパワーがあることを示しているといえるだろう。

表1-3 メールマガジンの配信状況と役職員数のクロス集計表
メールマガジン
( % )
配信している
配信を検
討している
配信する
予定はない
不明
役職員数  




全 体
10名未満
10名以上〜50名未満
50名以上〜100名未満
100名以上〜300名未満
300名以上
8.8
16.1
26.3
36.4
33.3
16.5
15.8
7.3
15.8
9.1
16.7
10.4
73.7
67.9
47.4
36.4
50.0
65.7
1.8
8.8
10.5
18.2
0.0
7.4

 次に、ホームページやメールマガジンを更新あるいは送信する頻度と、使用している言語について考察したい。まず更新・送信頻度の平均については、ひと月当たりそれぞれ2.5回、3.9回であった(有効回答数それぞれ217、37)。つまり、ホームページはだいたい2週間に一度、メールマガジンは毎週1回のペースで更新・送信するのが一つの目安となるだろう。

 では、それらはどのような言語で作成されているのか。ホームページ、メールマガジンを「開設・配信している」と回答した機関(それぞれ231機関、38機関)に対し、「日本語のみ」「日本語と英語」「日本語と英語以外の外国語」「日本語、英語および英語以外の外国語」「その他」という5項目のうち一つを選択するよう求めたところ、ホームページにおいてはおよそ7割弱の機関が「日本語のみ」(67.5%)と回答しており、残りの約3割が「日本語と英語」(29.4%)と回答した(図1-2)。「その他」の使用言語としては、中国語、ロシア語、韓国語が挙げられた。またメールマガジンについては、実施している機関のほぼすべてが「日本語のみ」(97.4%)と回答しており、「日本語と英語」を使用している機関は2.6%にとどまった(図1-3)。

図1-2 ホームページにおける使用言語 図1-3 メールマガジンにおける使用言語

 いずれも電子メディアを通じた情報発信は、日本語を中心に行うのが当たり前という認識が広まっていることが看取されるだろう。しかしグローバル化の時代を迎え、いまや首都圏のみならず地方のシンクタンクも国内外を問わず、より積極的に情報発信を講じていく必要性が高まりつつあるとは考えられないだろうか。当然のことながら、海外でも地方行政や地方政策を主要な研究課題とするシンクタンクが数多く活動している。これまでは日本国内における「地域の連携」(ローカル・トゥ・ローカル)が盛んに叫ばれてきたが、時代はさらに一歩進んで、日本の地方シンクタンクも諸外国の地方シンクタンクとのパートナーシップ(グローカル・トゥ・グローカル)を築き上げなくてはならない時期に差し掛かったのではなかろうか。

 もちろん、シンクタンクが発する情報をすべて世界各国語に置き換えるのは不可能であり、不毛な試みでさえある。需要があってこそ、はじめて供給がなされるべきだろう。しかし、こと英語に関しては、すでに世界言語としての地位をほぼ確立していることは衆目の一致するところだろう。従って、たとえ目に見えるかたちでの必要に迫られなくとも、日英両語での情報発信に努めることが今後とも肝要ではなかろうか。

 最後に、従来の書籍に代表されるような紙媒体による情報発信から、ホームページやメールマガジンといった電子メディアへの移行状況について考えてみたい。情報発信手段として「紙媒体のみによる情報発信」「紙媒体と電子メディア双方による情報発信」「電子メディアのみによる情報発信」の3項目を設定し、合計が100%となるよう回答を求めたところ、各項目の平均はそれぞれ43.3%、39.4%、17.3%となった(有効回答数227)。

 今後、シンクタンクにおける情報発信のあり方を考える上で、「紙媒体と電子メディア双方による情報発信」の割合をどれだけ向上させることができるかが、重要なポイントとなるだろう。なぜなら、ある一定量の情報を発信するのに、たった一種類の媒体しか使用しないのは実に非効率的と考えられるからである。もちろん、受託研究による成果の公開の制約や、報告書等の紙媒体の売り上げの減少等に対する危惧もあるから、あらゆる媒体による情報発信は極めて困難であるし、またコスト面からも、複数の媒体による情報発信が必ずしも採算に合うとは限らない。しかしシンクタンクは、できるだけ複数の媒体を併用し限られた情報を「再利用」することで、これまで以上に効率性の高い、戦略的な情報発信を講じることが可能となるような気がしてならないのである。

 では組織形態によって、情報発信における電子化への移行の具合に何らかの差異が見られるだろうか。この問題を考察するには、それぞれ「紙媒体のみによる情報発信」「紙媒体と電子メディア双方による情報発信」「電子メディアのみによる情報発信」の平均値を組織形態ごとに比較すると分かりやすい(図1-4)。すると「財団法人」(103機関)において全情報量の48.3%、以下それぞれ「社団法人」(18機関)において60.6%、「営利法人」(96機関)において36.3%、「特定非営利活動法人」(5機関)において32.0%、「その他」(5機関)において24.0%の情報が、紙媒体のみを通じて発信されているという結果が得られた。また先に述べたように、紙媒体と電子メディアを併用することによって効率的と思われる情報発信を最も推し進めていたのは、「その他」(62.0%)であった。

図1-4 紙媒体から電子メディアへの移行

 続いて、紙媒体と電子メディアのいずれかを選択する際、あるいは両方を併用する場合、具体的にどういった基準を設け対応しているかという質問に対しては、およそ3種類の回答が得られた。まず、電子メディアの長所を活用するため、[1]ホームページやメールマガジンの速報性や廉価性を優先するタイプであり、これには「機関誌、論文、研究成果などはすべて紙媒体で発信し、研究会、調査、イベント案内、調査結果の紹介のみ電子メディアで行う」〈社団法人〉や、「速報性のある情報はメールマガジンで提供する」〈財団法人〉などの回答が含まれる。次に、[2]情報発信の対象に焦点を当てて考慮するタイプであり、「会員限定の情報は併用して対応するが、一般への情報は電子メディアで発信する」〈社団法人〉や「海外の研究者を対象に、特に電子メディアでの情報発信を行っている」〈社団法人〉というような回答である。最後は、[3]電子メディアと紙媒体の連動性を重視するタイプである。例えば、「まずは研究成果などを報告書といった紙媒体で取りまとめ、それをいかに効率よく提供するかという視点から電子メディアを用いることが多い」〈社団法人〉、「紙媒体で提供するレポートを一定期間後にホームページ上に掲載している」〈営利法人〉といった回答がこれに該当するだろう。今後、電子メディアを最大限に活用した情報発信の方法を模索する上で参考とされたい。


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