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3.情報発信を支えるインフラ

 シンクタンクにおける情報発信を考察する上で、マスメディアとの連携はますます重要性を増すことだろう。だがその重要性を十分に認識しつつも、実際には着手する余裕がほとんどないといった声をよく耳にする。事実、これまでに提案されているような方策をいざ実行に移すとなると、いろいろな障壁が立ちはだかるものである。そこでシンクタンクにおいて、情報発信を支えるインフラがどの程度整備されているかといった問題を中心に、さらに調査を試みたところ、次のような結果が得られた。

 まず、情報発信のためのインフラとして考えられる要素として図3-1の項目を設定し、それぞれについて、「専任の担当者がいる」「兼任の担当者がいる」「担当者はいないが、内部で対応している」「アウトソーシングしている」「行っていない」「その他」という6つの選択肢を設け複数回答を求めた(有効回答機関数213)。「ネットワーク管理」については専任、兼任の担当者を含め、何らかのかたちで部内対応している機関が多いのに対し、「ウェッブ開発」は内部で行うとともに、外注しているケースも目立つ。「編集」は兼任の担当者がいる場合と、担当者はいないが内部で対応している場合が多く、むしろ研究員やほかの職員の業務の一部として捉えられていると考えられる。また「翻訳」と「ネイティブチェック」の項に着目すると、内部で対応するよりむしろ外注することが多く、それ以上に「行っていない」という回答数が格段に多かった。先に述べたように国際性という観点からも、研究に携わる役職員自身が一定の水準を保ちつつ、外国語(特にこの場合、英語)で情報発信できるだけの能力を身に付けることが、今後やはり必要なのではなかろうか。「図書サービス(司書)」に関しては「専任の担当者がいる」ケースも目立つが、やはり「行っていない」という回答が圧倒的多数を占めている。最後に「会議運営」については、「編集」と同様に周辺的な業務と位置付けられていることがほとんどのようで、兼任の担当者を充てたり、内部での対応が多いことがうかがえる。

図3-1 情報発信を支えるインフラの整備状況(複数回答可)

 このような情報発信のインフラを整備する上で憂慮すべき点は、専任、兼任いずれの担当者もいないが部内で何らかの対応を迫られたときに、例えば研究者にその負担がのしかかる事態である。また、特に予算の面で締め付けが厳しくなってくると真っ先に縮小・削減の憂き目に遭うのが、その効果が検証しにくい情報のインフラ整備ではないだろうか。そのため、研究サイドにも負担が分配され、研究の質・量ともに低下してしまい、さらなる情報発信力の後退を招く恐れがある。こういった悪循環を断ち切るために、そしてバランスの取れたシンクタンク事業を展開する上でも、情報発信インフラの強化に拍車をかける必要があるだろう。

 そこで、シンクタンクにおける研究事業と情報発信との兼ね合いをより深く考察するために、次のような仮説を提示し、この考えに同意するかどうか意識調査を加えてみた。

 「研究員が研究成果の発信を一体的に管理・実施すると、常に受け手(対象)の立場に立った研究がしやすい反面、研究そのものに費やす時間が削られてしまう。一方、ほかの役職員と分業した場合、研究員は時間的な制約を受けにくくなるが、情報発信の方向性などを調整する必要性が生じるという一種のジレンマがある。」

 これに対する回答として、「同意する」(19.9%)、「同意しない」(12.8%)、「どちらともいえない」(67.3%)という結果が得られた(有効回答数226)。さらに、それぞれの回答につきその理由を聞いてみたところ、「同意する」においては、[1]研究員個人の資質(例:「研究員は編集技術などの面で、必ずしも情報発信のプロではない」〈財団法人〉)、[2]組織としての体制のあり方(例:「プロジェクトチームをその都度編成しているが、担当者の調査研究のための時間が制約されたり、調査研究時間を確保するためプロジェクトチーム内の議論が消極的になってしまったりと問題がある」〈財団法人〉)、[3]発信される情報の性格の違い(例:「目的と手段が限定されている研究(委託)調査を、一般の読者向けに編集することは難しい」〈財団法人〉)などが挙げられた。

 一方、「同意しない」については大別すると、[1]研究活動と情報発信との一体性(例:「研究サイクルにおいて成果の発信は重要な研究業務の一環と考えている」〈認可法人〉)、[2]研究者の個人的能力の問題(例:「研究者のスタンス次第で受け手の立場に立った研究が可能」〈財団法人〉)、[3]研究体制の改善による問題解決の可能性(例:「組織全体のシステムを再構築することで何の問題もないと思われる」〈営利法人〉)などがその理由として指摘されている。

 「どちらともいえない」という回答の理由としては、組織規模が小さく、また情報発信の機会が限られているためジレンマには至らないという立場(例:「受託研究を主体とするため、研究成果の発信を管理・実施すべき社内体制を持つ必然性があまりない」〈営利法人〉)が数多く挙げられた。また一部では、「物理的には時間はかかるが決して無駄なことではなく、むしろ成果の再吟味となるという効果もある。逆にほかの役職員が分業した場合も、情報発信の内容・方向・手法などについて他者の眼を通じて情報発信という段階を経るので、内容の吟味や発見があるとも考えられ、有意義な面がある」〈営利法人〉といった前向きな捉え方も見られた。

 ここでのポイントは、研究員としての職務をどう捉えているかということである。つまり先に指摘された通り、情報発信業務を研究員の仕事量として捉えるかどうかという問題である。特に小規模な組織であればあるほど、役職員一人ひとりに課される業務分担の種類は増えるだろう。また予算や人員の削減は、研究員の研究活動自体にも好ましからざる影響を与えかねない。もちろん情報発信のプロセスの途中で、新たな視点が得られることもないとは限らない。しかし、そのためには少なからずコストが伴うことも忘れてはならないだろう。従って、まず組織内での研究活動と情報発信の分業を可能な限り進める一方で、特に研究サイドにいるスタッフは研究成果がどのような媒体を通じて、そしていったい誰を対象として発信されるのか、その「かたち」をあらかじめ勘案した上で研究に取り組むことが、情報発信にかかるコストを軽減するという面からも大切だろう。

 では、いったいどのような解決策が考えられるだろうか。各機関より寄せられた回答のうち、示唆に富むと思われるものをここでいくつか紹介したい。

 ところで、ネットワーク管理や翻訳などと同様、いささか周辺的な業務ではあるが、特にシンクタンクを「知の発信源」として捉えた場合、利便性が高いと思われるのが図書館機能とシンポジウムなどが開催できるような会議施設だろう。このような認識から調査対象機関におけるこれらの施設の有無を尋ねたところ、それぞれ図書館(室)・資料室を「常設している」と回答した機関は有効回答のうち34.2%、また会議施設については36.0%であった(表3-1、表3-2)。(今回の調査では情報発信という観点から、外部の利用者に開放されていない施設は除外することとした。)図書館などを「常設している」と回答した機関が所蔵する図書数の平均は32,039冊であった(有効回答数82)。また、会議施設を「常設している」と回答した機関が保有する施設数の平均は2.5、最大収容人数の平均は49.3名であった(有効回答数それぞれ84、91)。

表3-1 図書館(室)・資料室の設置状況
機関数
パーセント
有効パーセント
有効  



無回答
合計
常設している
常設していない
その他
合計
82
149
9
240
4
244
33.6
61.1
3.7
98.4
1.6
100.0
34.2
62.1
3.8
100.0

表3-2 会議施設の設置状況
 
機関数
パーセント
有効パーセント
有効  



無回答
合計
常設している
常設していない
その他
合計
86
147
6
239
5
244
35.2
60.2
2.5
98.0
2.0
100.0
36.0
61.5
2.5
100.0

 シンクタンクにとって収容人数の多い会議施設を複数所有することは、情報発信の面では確かに有効だろうが、それ相応のコストが生じることもまた事実である。特に小規模な機関や予算が切迫している機関にとっては、より深刻な問題といえよう。一方で、施設を常設していない機関は、必要に応じて外部の施設を利用しているケースが目立つ。その際、どのように会議施設を確保しているのか、その選定基準を聞いてみたところ、ほとんどの機関がやはり、費用や収容能力、所在地、設備、交通の利便性、催し物の趣旨などを勘案した上で、近隣のホテルや会議センター、公共の施設の一部を借用しているという回答であった。また、「会議場の会員になっており、会員割引料金が利用できる」〈財団法人〉といった回答もいくつか寄せられた。なるほど、会員制ならば管理費といったコストを最小限に抑えつつ一定水準のサービスを享受し、また常に同じ施設を繰り返し利用できることから、ある種の使い勝手の良さを得ることもできるのだろう。


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