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5.情報発信の対象

 個別の情報発信を有機的かつ継続的に組み合わせることによって、より大きな政策への影響力を獲得することは、今後のシンクタンクのあり方を考える上でも極めて重要な取り組みである。しかし、これだけでは不十分だろう。というのもシンクタンクは情報発信における有機的結合を模索すると同時に、情報を客観的に発信する必要もあると考えられるのだ。すなわち情報の受け手のニーズをどこまで把握しているかという問題であり、翻って情報発信の際、どの程度対象を絞り込んでいるかといった点である。

 そこで想定している情報の受け手として、「国会議員」「地方議員」「公務員」「企業」「学者・研究者」「マスコミ」「特定せず」「その他」という8つの項目を設定し「最も重要と思われる」対象を回答してもらったところ、次のような結果が得られた(表5-1)。いわゆる政府・自治体系や金融系の機関が多いせいか、「公務員」が29.8%、「企業」が26.8%で、合計すると過半数を占める結果となった。他方、国や地方の政策決定に強い影響を与えるはずである「国会議員」(2.4%)や「地方議員」(0.0%)、さらに複合的な情報発信という観点からは外せないであろう「マスコミ」(5.9%)においては、いずれもおしなべて低い数値にとどまっている。また、対象を絞らないという意味で「特定せず」が16.6%に及んでおり、「その他」(11.7%)については具体的な対象が誰であるかを聞いたところ、「一般市民」や「国民」といった回答が数多く寄せられた。これらは公益性という観点からは評価され得るだろうが、より効果的でインパクトのある情報発信を今後講じていかなければならないという場合、焦点が絞り込めてないということは、むしろマイナスに作用するという懸念も否定できない。なお、「その他」として、「会員(個人・企業)」、地域との関係に重点を置いた「地域住民・企業・組織」、個人よりむしろ組織そのものを対象としているとみられる「地方自治体」や「自治体の首長」、「NPO」などが挙げられた。

表5-1 情報発信の対象(最も重要と思われるもの)
機関数
パーセント
有効パーセント
有効  








無回答
合計
国会議員
地方議員
公務員
企業
学者・研究者
マスコミ
特定せず
その他
合計
5
0
61
55
14
12
34
24
205
39
244
2.0
0.0
25.0
22.5
5.7
4.9
13.9
9.8
84.0
16.0
100.0
2.4
0.0
29.8
26.8
6.8
5.9
16.6
11.7
100.0

 さらに、「次に重要と思われる」対象を2つまで回答可能としたところ、図5-1のような結果が得られた(有効回答機関数207)。やはり「公務員」と「企業」重視という傾向が見られるが、「学者・研究者」や「マスコミ」を対象とした機関も多いことが分かる。しかし、多くの機関がマスコミや大学などの役割を理解しつつも、実際には公務員や企業を念頭に置いた情報発信を優先しているという傾向がうかがえる。また全体的に見ても、「国会議員」、「地方議員」ともに回答数が少ないのは、ある種の驚きであるかもしれない。日本のシンクタンクにおいて、立法府の役割は相対的に軽視されているのだろうか。

図5-1 重要と思われる情報発信の対象

 既述のように、まず情報発信の対象を明確化した上でその範囲を拡大していけば、経済効率が高まるだけでなく、政策への影響力も向上させることができるものと考えられる。だが同時にシンクタンクにとっては、受託研究などに見られるような幅広い情報発信を制約する要素も多分にあるのが、日本の政策産業における特徴であり現況である。しかし情報を広く一般に発信することは、特に政府や自治体が立案する政策に対する代替案を提示するという観点からも、シンクタンクにおける社会責任の一環として捉えることはできないだろうか。そこで次のような仮説を提示し、これに「同意する」かどうかを選択した上で、その判断の理由について回答を求めた。

 「シンクタンクにとって、研究成果を広く一般に公開し活用してもらうことは社会に対する責任の一部である一方、受託研究や会員制に象徴されるように、特に財政面においてある程度の依存をしている政府・企業・個人などに対しては、特定の情報サービスを提供せざるを得ないという一種のジレンマがある。」

 この仮説に対し、「同意する」と回答したのは31.4%、「同意しない」は22.7%、「どちらともいえない」は45.9%であった(有効回答数229)。次にその理由を尋ねたところ、「同意する」理由で圧倒的多数だったのは、「受託調査や研究、会員制度により一般への公開が制限されてしまう」といった回答であった(例:「会員制なので会員限定の情報サービスと一般へのサービスの切り分けが必要である。受託研究では研究成果は委託先に帰属するので、公表は困難である」〈社団法人〉)。「同意しない」理由についても同様に、受託研究や会員制にその根拠を求める機関がほとんどであり(例:「シンクタンクが企業体である以上は、営利活動である受託事業や会員向けの情報サービスと、ある種のメセナとも言える研究成果の公表は当然区別されるべきものである。消費者たる委託先や会員が優先されるのは当たり前のことではないか」〈財団法人〉)、また一般への情報発信とクライアントへのサービスを別次元で捉えている回答(例:「前者の立場と後者の立場は必ずしも対立するものでもなければ、ジレンマを生むものとは限らないと考える」〈財団法人〉)も複数見られた。なお、「どちらともいえない」という回答の理由としては、「ケース・バイ・ケースである」、「当然である」といった趣旨のもの(例:「受託テーマの内容によってそのような事態が発生するのは当然である。それをジレンマとするかどうかは企業によると思われるので」〈営利法人〉)が多かった。

 ここで問題なのは、情報発信におけるシンクタンクの社会的な使命についてだろう。つまり、情報を広く一般公開する(すべき)ことを社会的な責務と考えている機関と、そうでない機関とに区別されるのである。

 中には、「国や自治体などの委託研究は、最終的に公益に寄与している」という前向きに捉えている機関があることも事実である(例:「基本財産を県内自治体からの出捐金に拠り、主な収入が自治体からの受託研究である以上、一義的には自治体向けサービスを優先せざるを得ないが、最終的な負担者である県民に対して研究成果を直接伝え、活用してもらいたいと考えている」〈財団法人〉)。しかし、仮にシンクタンクが報告書といったかたちで委託者に「納品」したとしても、その成果がその後どのように使用されたのか、または使用されなかったのかについては完全に委託側の裁量に委ねる結果となり、シンクタンクの影響力、ひいては独立性を損なう危険もある。たとえ受託研究であっても、委託者に対してできる限り一般公開への道筋を模索する必要性を説くことも、シンクタンクの果たすべき役割ではないだろうか。

 ここでひとつ考えてみたい。例えば、自主研究の最終成果物として一冊の書籍を発刊した場合、その全文をホームページ上で公開すべきかどうか。ホームページ上で公開することによって消費者の購買力が低下してしまうとの理由から、シンクタンク側は一般公開を差し控えるのが通常の考え方だろう。しかし仮に全文公開したとしても、その内容が優れており今後とも資料価値が高いと判断されれば、ホームページ上での公開はむしろ有効な広報だったとは考えられないだろうか。事実、アメリカのシンクタンクの中には、発売とほぼ同時に書籍やレポートの全文を無償で公開することによって、新たな購買層を獲得しようとしているところさえある。これは情報発信といった議論よりもむしろ収益との関連性の問題だが、既存の価値観に捕らわれず、もう一度情報発信の方法を吟味する姿勢が大切だろう。とりわけ情報発信の対象と媒体を「適性化」する試みは、その経済性と影響力の両面において、今後政策指向性を強めようとする国内シンクタンクにとって、少なからず有効と思われるのである。

 では、一般公開と受託研究などによる制約との間に介在するある種のジレンマに対し、どういった解決策が有効と考えられるだろうか。この問いに対する回答として、やはり参考になると思われるものいくつか紹介したい。

 情報発信とは本来、決して「直線的」なものではなく、むしろ「クモの巣状」の取り組みであるべきだろう。そして一つ一つの情報発信事業を有機的に結び付けるためには、想像力豊かな洞察、中長期的な先見性、受け手の立場に立った客観性、そしてバランスの取れたコスト感覚すべてが必要不可欠な要素である。今後、国内シンクタンクを取り巻く閉塞感を打破する契機として情報発信のあり方を再考する上で、本稿がその嚆矢となれば幸甚である。


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