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シンクタンクの動向2006 【動向編】

シンクタンク経営における課題
 −定量および定性分析

NIRA政策研究情報センター研究員
齋藤 智之

 近年、組織形態や所在地を問わず、シンクタンクの合併・統合・解散等が相次いでいる。戦後から高度成長期にかけて、国内経済の指南役、社会全体の潤滑油として登場した日本のシンクタンクは、国際的には、冷戦終結やグローバル化の進展、国内では、バブル経済の崩壊とそれに続く平成不況、地方分権化といった大きな社会変動の渦中にあって、「シンクタンク元年」(1970年)前後当時の勢いを徐々に失いつつある様相を呈している。中でも、特に財政を中心とした経営難に直面するシンクタンクが目立つように感じられる。

 では、こうした事態をシンクタンク自身はどのように評価しているのだろうか。彼らが抱えている問題の根幹とは一体何なのか。果たして、日本のシンクタンクは1つの時代の区切りを迎えつつあるのだろうか。

1.これまでのシンクタンク経営とその現状

 このような問題提起から、シンクタンク経営における現状認識、経営状況の変化、経営改善の実例、経営悪化の原因などについて、『シンクタンク年報2006』に掲載の296機関を対象に特定課題調査を実施し、220機関(回答率:74.3%)から回答を得た。その結果を以下に取りまとめた。さらに、定量的のみならず定性的な分析を試みるという趣旨から、従来のように自由記述による回答を紹介するとともに、実際にシンクタンク経営に現在携わる、あるいは携わった経験を持つ方々3氏に対してヒアリング調査を実施し、その内容を本稿に交えた。

 220機関についての組織形態別の内訳は、財団法人90機関、社団法人23機関、営利法人98機関、NPO法人6機関、その他3機関である。地域別では、50.9%(112機関)が東京都内に、49.1%(108機関)が東京都以外にそれぞれ所在している。また、220機関における研究員数の平均は、『シンクタンク年報2006』によると17.1人である。

 なお、文中、図中にある比率の合計は端数処理の関係で100.0%にならない場合もある。

(1)現状認識
 シンクタンクにおける経営は現在どのような状況にあるのだろうか。そこでまず、こうしたシンクタンク経営の全体像を把握するため、シンクタンクの(1)経営全般と(2)調査研究事業(部門)についてそれぞれ意識調査を行ったところ、図1-1のとおりであった。いずれの項目でも「厳しい」「やや厳しい」が合計すると過半数となり、全体的にシンクタンク経営が困難な状況にあることが理解される。また、(1)と(2)の相関係数を検出すると0.83という高い数値が得られた(有効回答:217機関)。これはシンクタンクにおける経営と調査研究とが密接な関係にあることを示しており、例えば、経営全般が良好なシンクタンクでは調査研究事業もやはり良好であり、逆もまた真であることが多いことを表す。

 この結果をさらに東京都内/都外および非営利/営利を区別し集計したのが、それぞれ図1-2、1-3である。地域別では、(1)、(2)のいずれにおいても東京以外の機関の方がより経営難に直面している現状が明らかとなった。非営利/営利別では、(1)において「良好」「やや良好」と回答した機関を合計すると、その割合は営利法人の方が高い(非営利23.1%、営利34.7%)。そして、このことは(2)についても同様である(非営利26.1%、営利29.6%)。しかし、(2)で「厳しい」「やや厳しい」と回答した営利法人に着目すると、合計した割合(53.1%)が非営利のそれ(49.6%)を若干上回っている。

図1-1 シンクタンク経営における現状認識
(有効回答:経営全般219機関、調査研究217機関)
図1-1 シンクタンク経営における現状認識

図1-2 シンクタンク経営における現状認識(地域別)
(有効回答:経営全般219機関、調査研究217機関)
図1-2 シンクタンク経営における現状認識(地域別)

図1-3 シンクタンク経営における現状認識(非営利/営利別)
(有効回答:経営全般219機関、調査研究217機関)
図1-3 シンクタンク経営における現状認識(非営利/営利別)

(2)経営状況の変化
 次に、シンクタンクの現在の経営状況を4年前と比較した場合、どのように変化したかについて調査したところ、「悪化した」「やや悪化した」と回答した機関がそれぞれ15.5%(34機関)、30.0%(66機関)と合計すると半数近くに及んだ(図1-4)。一方、約3分の1に当たる74機関が「変化なし」と回答しており、また、「改善した」「やや改善した」と回答した機関はそれぞれ4.1%(9機関)、16.8%(37機関)に過ぎず、合計しても4分の1に満たなかった。

 これらについて地域別にみると、東京にある機関の方が「改善した」と「やや改善した」を合計した割合(24.2%)、「悪化した」と「やや悪化した」を合計した割合(46.5%)ともに東京以外の機関よりも高く、東京においてシンクタンク経営の成否がより明確化していることがわかる(図1-5)。

 非営利/営利別では、非営利の機関の方が営利法人に比べて経営改善には至らず、また、むしろ経営が悪化した割合が高い(図1-6)。

 さらに、こうした経営状況の変化を研究員数別にみると、図1-7のとおりであった。研究員が10人以上19人以下の機関において「改善した」「やや改善した」を合計した割合が最も高く(28.8%)、また、「悪化した」「やや悪化した」を合計した割合は最も低かった(36.5%)。

図1-4 シンクタンクにおける経営状況の変化
(過去4年間)(有効回答:220機関)
図1-4 シンクタンクにおける経営状況の変化(過去4年間)

図1-5 シンクタンクにおける経営状況の変化
(過去4年間)(地域別)(有効回答:220機関)
図1-5 シンクタンクにおける経営状況の変化(過去4年間)(地域別)

図1-6 シンクタンクにおける経営状況の変化
(過去4年間)(非営利/営利別)(有効回答:220機関)
図1-6 シンクタンクにおける経営状況の変化(過去4年間)(非営利/営利別)

図1-7 シンクタンクにおける経営状況の変化
(過去4年間)(研究員数別)(有効回答:220機関)
図1-7 シンクタンクにおける経営状況の変化(過去4年間)(研究員数別)

(3)経営改善の実績
 シンクタンク経営の成否を決定付ける要因は何か。まず、図1-4で「改善した」「やや改善した」と回答した機関(合計46機関)に対して、こうした改善に当たり有効だったと思われる経営戦略について、その内容・効果などを自由記述形式で求めたところ、受託研究事業の増強をはじめ、経費節減、研究分野の新規開拓・専門性向上、営業活動の重視、組織・人員改革、会員制度の拡充、コンサルティング事業への傾斜、ネットワーク・情報発信の強化といった回答が複数寄せられた。中でも、次に紹介する回答はシンクタンク経営の連続性という観点から示唆に富むものと思われる。

(4)経営悪化の原因
 続いて、これとは反対に図1-4において「悪化した」「やや悪化した」と回答した機関(合計100機関)に対して、経営悪化の原因を次の項目の中から選択してもらったところ、「受託(助成)研究の単価/件数の落ち込み」を挙げる機関が圧倒的多数(86機関)に上った(図1-8)。その他、「認可官庁・資本系列機関の事情による財政圧迫」(40機関)「企業・個人会員数の減少」(39機関)といった項目がシンクタンク経営悪化の原因として多く指摘されたが、これらについて「企業・個人会員数の減少」を挙げた非営利機関が多い(37機関)点を除き、地域別、非営利/営利別のいずれにおいても目立った格差はみられなかった。

 同様に、これらの機関に経営悪化の原因として考えられる政治・経済・社会環境の変化を自由に記述してもらったところ、次のような回答が寄せられた。ここでは総じて、バブル崩壊以後の景気低迷を端緒とした国や地方公共団体における財政悪化とそのレスポンスとしての行財政改革(市町村合併、低金利等)が、受託単価/件数の大幅な引き下げに加えて、競争激化(随意契約から一般競争入札への移行、プロポーザル・コンペ方式など新しい評価システムの導入、コンサルタント企業といった競合相手の新規参入等)や資産運用益の逓減を招き、ひいてはシンクタンク一般に対する理解不足へと導かれるという構図が浮き彫りとなっている。

 本稿の末尾に掲載したヒアリング調査の中で、飯田氏はこうした現状を省みてか、シンクタンクの独立性を維持するため、受託研究を極力回避していると述べている。同時に、「本来、創出すべきナレッジを自分たちの考え方、スケジュールで進めることが大事であり、それを社会に提示していくことにこそ意義があると思うからです。受託研究から脱却するというよりも、本当に必要なナレッジを継続的に生み出しさえしていけば、新たな資金調達モデルは自動的に組み立てられる」との視点に立ち、調査研究においてシンクタンク側がより主体性を持つことの意義を説いている。

図1-8 シンクタンクにおける経営悪化の原因
(複数回答)(有効回答:100機関)
図1-8 シンクタンクにおける経営悪化の原因


2.シンクタンク経営の将来像をめぐって

 「1. これまでのシンクタンク経営とその現状」と同様、今回動向調査に協力いただいた220機関を対象に、シンクタンク経営の今後の見通し、収入予測、経営の方向性・戦略、専門分野などについて調査・集計を行った。

(1)経営見通し
 シンクタンク経営の過去と現在を見据えた上で、経営者はその将来をどのように展望しているのだろうか。そこで、シンクタンク経営における今後の見通しについて調査を行ったところ、図2-1のとおりであった。「明るい」「やや明るい」と回答した機関がそれぞれ3.2%(7機関)、14.1%(31機関)であったのに対して、「暗い」「やや暗い」と回答した機関はそれぞれ6.4%(14機関)、22.3%(49機関)と合計すると4分の1を上回った。その他、「どちらともいえない」が54.1%(119機関)と過半数を占め、シンクタンク業界全体に先行き不透明感が広がっていることが判明した。

 非営利/営利の別では、図2-2のとおり、非営利の機関の方がより閉塞感を強く感じていることがわかる。また、研究員数別にみると、比較的小規模な機関の方が経営の行方について悲観的な割合が高い(図2-3)。

図2-1 今後のシンクタンク経営の見通し
(有効回答:220機関)
図2-1 今後のシンクタンク経営の見通し

図2-2 今後のシンクタンク経営の見通し
(非営利/営利別)(有効回答:220機関)
図2-2 今後のシンクタンク経営の見通し

図2-3 今後のシンクタンク経営の見通し
(研究員数別)(有効回答:220機関)
図2-3 今後のシンクタンク経営の見通し

(2)収入予測
 こうした経営見通しが今年度(2005年度)の収入面にどのように反映されるかを考察する上で、(1)総収入、(2)調査研究収入、(3)その他事業収入、(4)その他の収入(基金・財産、会費等収入、寄付収入、運営費補助等を含む)の各項目についてシンクタンクによる増減予測を調べたところ、図2-4の結果となった。ここでは、全般的に大幅な収入増は見込めず、特に(4)はほぼ頭打ちになると予想されている。

図2-4 シンクタンクによる2005年度収入予測(04年度比較)
(有効回答:総収入209機関、調査研究収入215機関、事業収入190機関、その他収入166機関)
図2-4 シンクタンクによる2005年度収入予測(04年度比較)

(3)経営の方向性
 大幅な収入増が難しい環境下において、シンクタンクは今後の経営のあり方をどのように描いているのだろうか。この点について調査を実施したところ、図2-5のとおり、(1)職員数や(2)研究員数など人員の増員には消極的であり、一方では、(4)受託(助成)研究事業にさらに依存する傾向が高まりつつあることがみてとれる。つまり、人件費といった固定支出を維持しながら受託などを通じた収入増を模索することで、シンクタンクは増収難の時代を乗り切ろうとしているといえるだろう。なお、(5)その他事業として具体的な記述を求めたところ、「コンサルティング」「人材育成・研究」「会議運営」「情報発信(ホームページ・出版)」などが多く挙げられた。

 (1)、(2)を所属する研究員数別に区分すると、それぞれ図2-6、2-7の結果となった。図2-6では、研究員50人以上の比較的規模の大きい機関において、職員全体の人数削減を検討している割合が高い(42.1%)ことがわかる。また、図2-7では、研究員が20人以上49人以下の中規模な機関が研究員数をさらに増加させることに最も前向き(35.5%)なことがみてとれる。

 ヒアリング調査において、田中氏は、受託研究収入を主軸に安定財源を確保するとともに、コンサルティング業務の拡充、指定管理者制度等の活用、政策提言、組織体制の整備・有能な人材の確保といった多方面的な経営のあり方を示している。その結果、地方自治体内部における政策志向性が高まりつつあるという機運も手伝い、「地域の知恵袋」として「県下全域で、役に立つシンクタンクとしてのイメ−ジが徐々に浸透して」きていると評価している。シンクタンクが抱える問題として受託研究による弊害がしばしば指摘されるが、その経営については受託研究のみを断片的に取り上げるのではなく、より包括的な判断がシンクタンク経営者には求められているといえるだろう。

図2-5 シンクタンクにおける今後の経営方針
(有効回答:職員数219機関、研究員数218機関、自主研究事業204機関、受託(助成)研究事業216機関、その他事業73機関)
図2-5 シンクタンクにおける今後の経営方針

図2-6 シンクタンクにおける今後の経営方針−(1)職員数(研究員数別)(有効回答:219機関)
図2-6 シンクタンクにおける今後の経営方針−(1)職員数

図2-7 シンクタンクにおける今後の経営方針−(2)研究員数(研究員数別)(有効回答:218機関)
図2-7 シンクタンクにおける今後の経営方針−(2)研究員数

(4)専門分野の拡充
 財政面とは別に、今後の調査研究の専門分野についてはどのようなことがいえるだろうか。図2-8では、『シンクタンク年報2006』に収録した各機関における現在の主な専門分野と今後、調査研究の対象として強化・参入を図りたいと思う専門分野を選択してもらった結果を比較した。すると、「文化・芸術」「資源・エネルギー」の2分野において、現在の専門分野の割合よりも今後強化・参入を目指す割合が高く、これとは逆に「国土開発・利用」「経済」の2分野では、今後強化・参入を目指す割合の方が低く、これらの分野において特に大きな乖離が認められた(なお、「総合」「その他」「特になし」に関しては、調査項目の若干の違いにより、ここでは無視することとした)。

 今後の強化・参入を目指す専門分野としては、「環境問題」(13.8%)「産業」(12.3%)「福祉・医療・教育」(11.7%)が上位3分野の回答を得た。また、「その他」としては、「地域政策」「住民参加」「人材育成」などが挙げられた。旧来の土地や金融経済を軸とする調査研究から、環境、医療福祉、地域問題、教育など、現代社会の潮流により即した分野にシフトしつつあるという全体像が想起される結果といえないだろうか。

図2-8 シンクタンクにおける現在の主な専門分野(3分野まで選択回答)と今後強化・参入を目指す専門分野(複数回答)
(有効回答:現在296機関、延べ795、今後213機関、延べ674)
図2-8 シンクタンクにおける現在の主な専門分野(3分野まで選択回答)と今後強化・参入を目指す専門分野

(5)経営戦略
 最後に、総括的な意味合いを含めて、シンクタンクが現在実施している、あるいは将来的に実施を検討している経営戦略について自由記述形式で調査を行ったので、その回答例をいくつか紹介したい。さまざまな面での広範な協働と連携のモデルを提示するシンクタンクや、また、研究分野・事業の選択と集中を掲げるシンクタンクから次のような回答が寄せられた。研究の形態としては、自主研究を志向するシンクタンクと受託研究を志向するシンクタンクの双方から回答を得た。

 最後に、ヒアリング調査において星野氏は、地方シンクタンクの将来について、「地方シンクタンクが育たなければ、日本社会の真の分権化は進まないのではないでしょうか。(中略)地方シンクタンク協議会に属する機関は現在もいろいろと苦労が絶えないと思いますが、あと10年もすれば、その社会的な役割を立派に果たすものと信じています」と激励している。一方で、「地域性を無視した政策の雛形パッケージを繰り返しているだけでは、日本のシンクタンクの地位は『シンク(sink)』してしまうだろう」とも述べ、地方・地域不在の政策論に警鐘を鳴らしている。地方分権が浸透しつつある現在、地域性はシンクタンク経営においてもキーワードの1つとなり得るのだろうか興味深い。


3.まとめ

 図1-1などからわかるように、今日のシンクタンク経営はなかなか厳しい状況にあるといえる。そして、こうした風当たりは特に東京以外の機関にとってより強い傾向にあるようである(図1-2)。その根底にはさまざまな政治・経済・社会上の構造問題を孕んでおり、また、こういった問題を解決するためには、シンクタンクの経営に戦略的な連続性を与えることが大切なのかもしれない。

 社会全体の財政悪化という現況を勘案してか、シンクタンク経営は所在地、組織形態、規模を問わず、前途不透明なものとなっている(図2-1など)。財政面では、全体的な収益の急増は望めず(図2-4)、しばらくは受託研究を拡充することで、一時的あるいは恒常的な増収を図るといった動きがますます強まりそうである(図2-5)。専門分野については、シンクタンクが今後参入を目指す分野と現状とが必ずしも一致していない可能性さえある(図2-8)。こうした中、さまざまな形での協働・連携・ネットワーク構築を企図し、あるいは、事業・研究の選択と集中を進めようとするシンクタンクもある。自主研究、受託研究いずれかにより重点を置くかについては、両論が併存している。

 本調査からも明らかなように、シンクタンクの経営には実に多様な判断要素が含まれ、そのあり方をめぐってはなお今後の議論が大いに期待されるところである。一方、多くのシンクタンクにおいて、より一層の経営強化・改善が望まれていることも確かだろう。本稿がその一助となれば幸いに思う。


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