2005年9月7日実施

第1回 公共政策概論 <要約>

縣 公一郎・早稲田大学政治経済学術院教授

 
縣 公一郎・早稲田大学政治経済学術院教授  個々の国民が政策能力を高めれば直接民主制的な意味を持つことになろう。国民が、政策策定者(policy-maker)としての目を養い、政策当事者としての立場を固める、つまり一方的に要求し受益するのではなく、受益するがそれが生まれてくるプロセスを当事者として考えるようになるという ことである。国民個々の能力が高まれば国会の能力も高まり、政策形成の問題は解決する。

 政策には内容形成と手続形成がある。内容は経済的合理性を、手続きは政治的合理性を追求する。できるだけ合理的な政策を決定しようとしても関係者利害がからむので合意が必要である。経済と政治の合理性が整合しない場合もあり、せめぎ合って、ある点で合意に達する。

 政策研究を現在で考えれば、分野を横軸に、地域を縦軸にとった二次元マトリックスで分析される。一人の研究者は特定分野の専門性を追求しなくてはならないが、社会は全体で成り立っており、自国だけ見ていれば絶対化してしまうが他国を見れば相対化できる。したがって共同研究である。これにさらに時間を水平軸に加えるとテンソー構造になって歴史分析が可能になる。共同研究や比較研究を充実させるには、共通の枠組みを持つことである。政策領域を超えた枠組みには、アクター相互関係分析や政策情報の収集と構築があり、政策研究の統合には実務家との協力も欠かせない。社会が向くべき方向を考えるのが政策研究で、その結果が政策提言である。国民がおかしいと感じていることを当事者的に述べることができれば提言になり、成熟社会に向かう。

 インプットとアウトプットという簡単な政治システムで説明すると、選挙というインプットで政権選択がされると、要求を実現するための政策がアウトプットとして創出される。政治システムの流れの中では、行政機構が統制する部分が大きく、公式には会計検査院や裁判所があって制度的統制をする。マスコミなどを介して国民が政策を判断する目を持ってくれば、非制度的統制に結びつく。

 政策は、論理的には5ないし6のフェーズ―問題設定、選択肢選考、政策決定、政策実施、政策評価、政策終結―に分けられる。現実にはこのようになるわけではないが、研究者や当事者としてこの見方を持っておくことだ。問題を設定し、それを解決するために選択肢から選び出して政策を決定し実施する。評価によって当初の問題が解決されていないといった問題が発見される。問題が解決していれば、その政策は不要になり政策終結に至るが、現実には、制度、組織、人などが関係するので政策終結は難しい。すべてのフェーズにかかわる行政機構は情報を持っており、この行政組織に対抗する機構が必要であるが、これができるのは政党であろう。行政機構は、すべてのフェーズにかかわる情報を持っており、情報を開示しなくてはならないことを自覚しなくてはならない。

 問題設定では、事実前提、制度、アクター利害、問題設定の理由、問題の定義がある。問題の定義なしに問題設定されることが多いが、定義は評価に必要であり、問題設定の段階で評価基準を意識しておかなければならない。合理的な政策にするには将来の行動の方向付けも必要である。逆説的に言えば、これを明確にしていないために政策循環の逆転現象が起きてしまうのである。選択肢選考では、まず先行事例の研究やアクター利害の分析がある。それらに基づいて選択肢の内容を検討し、判定や根拠付けデータが明確にされる。郵政民営化では、対立図式は分かっているが、実はデータがほとんど分かっていないため政策判断ができない。経済的合理性を持った政策だけが決定されるわけではなく、アクターは自分の利害に反すれば経済的合理性があっても反対する。関係者が協力して決定できるようにデータや根拠をはっきりさせる必要がある。

 政策実施ではアウトプットとアウトカムがある。アウトプットは配布した補助金、決算や予算といった金銭的データなど見掛け上の実施内容である。ほとんどの政策は決定通りには実施されない。それを判断するのが政策評価である。直接的なアウトプットによって社会が受けた影響がアウトカムである。たとえば人口減少では、アウトプットは育児休暇や育児手当で、アウトカムは人口減少を食い止めることである。アウトプットはとらえやすいが、人口減少対策が功を奏したかといったアウトカムを判断するのは容易ではない。

 ここまでの説明に対する理解を深めるために、注目を集めている郵政民営化を事例に考える。郵政民営化の問題設定では、規制緩和・民営化への潮流といった経済改革の大きな社会の流れがあり、その中で宅配便市場の民間企業参入や230兆円を超える郵便貯金残高の問題がある。制度としては、郵政公社や財政投融資制度があり、改革が検討されている。郵便事業では価格が下がらず、金融市場全体の停滞があり、さらに政府税収が不調であるといったアクター利害の問題がある。政府活動の見直しと経済回復志向を同時に進めるというのが問題設定の理由で、問題の定義は郵政事業を活性化して経済回復を図るというものである。選択肢選考では、英国、ドイツ、米国、スウェーデン、ニュージーランドなどの先行事例がある。政策決定では、アジェンダ・セッティングの問題意識が共有されることが必要で、問題意識が共有されなければ政策循環は成立しない。

(文責・中村円 NIRA主任研究員)


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