2005年9月27日実施

第3回 「政府」とは何か
      −大きさ・機能・評価の機軸
<要約>

江崎 芳雄 総合研究開発機構理事

 
江崎 芳雄・総合研究開発機構理事  公共政策を考えるための前提として、「政府」の規模と基本的な役割の鳥瞰図を認識しておくことが重要である。

 政府の規模を表す基本的な指標として、まず政府の公的固定資本形成(Ig)を見る。地方政府まで含めたIgの規模は、1980年ごろまでは国内総生産(GDP)の約1割を占めていた。これがバブル期にかけて徐々に減った。バブル崩壊直後には重ねて経済対策を発動したために一時増大したが、その後は5〜6%程度に急減している。一方、公共サービスの規模にあたる政府の集合消費(Cg)のGDP比は、90年代前半より特に地方政府において増加が顕著である。人件費や物件費などコスト増大要因によるものであるが、これが昨今の行政改革の必要性に関する議論へとつながっていく。

 政府の収入と支出の関係では、総収入118兆円のうち、年金や医療保険に対する掛け金である社会保障負担が52兆円と一番大きな割合を占めている。支出では社会保障給付と保険からの医療費支払の割合が大きい。こういった数字からも、社会保障関連の負担・給付という所得の再分配機能が現在の政府の活動において重要な位置を占めているということがわかる。

 現在、わが国における租税や社会保障負担の国民所得に占める比率(国民負担率)は、潜在的な負担としての財政赤字分も含めるとおよそ45%である。これは大きな数字であるが、アメリカを除く欧米諸国と比較するとまだ低い。今後の少子高齢化社会の進展や、社会保障基金の収支バランス、それに家計貯蓄率のドラスティックな低下などを鑑みるに、年金や医療保険など社会保障をどのように描き実現するか、極めて難しい。

 政府は、90年代に立て続けに経済対策を発動した。バブルの崩壊、円高不況、金融不安などへの経済対策の結果として、大きな政府部門の赤字が残った。現在は国・地方を合わせ、GDPの1.5倍、800兆円近い赤字が残っている。しかも近年の評価では、当時の大規模な経済対策が期待された景気刺激効果を発揮できなかったとされている。一時的な政府支出増が民間経済に与える効果は、各経済主体の「先読み」効果により、その範囲が限られてしまう。またバーローの中立命題という考え方もある。こうしたことがデータによっても証明されつつある。このように大幅な赤字や効果への疑義により、最近では政府による大規模な景気対策を求める声は聞かれなくなっている。政府による再分配の機能がより重要になっている。

 ではその「再分配」をどのような考え方で行うか。単に「所得の高いところから低いところへ」とすると、高所得層における重圧感、労働供給量への悪影響、企業では海外流出など市場のゆがみや空洞化を生じる結果となる。また賦課方式の年金のような世代間の再分配政策については、将来世代による意思表明方法が存在しない以上、問題の先送りがされがちで、これを防がなければならない。年金では、その規模をめぐる意見の収束は難しいが、制度の持続性を考えればあるべき姿が見えてくる。

 こういった社会状況を鑑み、現在政府に求められている経済政策の方向性を整理する。まず先に述べたような再分配機能の増大と合わせ、民間経済がその活力を十分に発揮できるよう、市場メカニズムをうまく活用しなければならない。規制の撤廃や独占禁止法などがこれにあたる。さらに市場メカニズムがうまく機能するような「勢いづけ」とも言える政策が重要である。産業再生機構の設立がその例で、政府が組織や仕組みを作り、経済の中で実際に活動し、「うまくいく」ということを明示することができれば、民間経済に対しても刺激になるということがわかった。情報の非対称性に起因するさまざまな非効率を解消する政策も必要とされている。

 民間市場に働きかける前に、政府自身の構造的な改革が必要なことは言うまでもない。「官製市場改革」とも言えるこの流れは、政府の外延部にあたる公社・公団の改革や政府業務そのものに対する市場化テストの導入、さらにはNPOや市民団体とのコラボレーションといった形で具体的に取り組みが進められつつある。

 公共財の供給や外部性を伴うものに関しては、政府がどうしても介入しなければならない部分は依然残る。公害問題が典型であるが、外部性がある財に関しては、資源の乱用や効率的な活動がなされない。こういった部分には政府が介入し、所有権を設定することで市場を成立させるなど、制度整備をする必要がある。情報の非対称性に関しては、国民皆保険制度がその典型だが、訪問販売法におけるクーリングオフ制度、PL法(製造物責任法)、それに産業再生機構の活動など、いくつかの政策が実現されている。

 以上、基本スタンスとして「市場メカニズムを生かすための環境整備を行う」ことが重要だと言える。社会保障政策をとっても、年金を考える場合には制度の持続性が重要だが、医療ではまだまだ市場メカニズムの導入が期待される。

(文責:石橋裕基 (財)関西情報・産業活性化センター/受講者)


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