2005年10月19日実施

第5A回 ケーススタディ概論
       「構造改革・民と公の挑戦」
<要約>

稲葉 陽二 日本大学法学部教授

 
稲葉 陽二 日本大学 法学部 教授 構造改革の具体的なケースとして道路公団改革について議論したい。どういう意味があるのか。組織を変えることが構造改革か。国民のコンセンサスを作る議論をしなければいけない。政府と民の役割は明確に分かれるように見えるかもしれないが、私は違うと思う。道路公団民営化を中心に、最も身近な公共財である道路を例に公共財のあり方について考えてみたい。

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宮川公男麗澤大学教授は、今回の道路公団民営化はおかしいと、ずっと言っていた。私も宮川教授の言う通りだと思う。皆さんにも判断をいただきたい。国民全員が知っていなければいけないことだと思う。(配布した)参考資料にも一部掲載している宮川教授の本『高速道路 何が問題か』(岩波書店、2004)をぜひ読んで欲しい。

 政府の役割には、公共財の供給、所得の再分配、景気の調整の三つがある。そのうち、公共財の供給について考えてみたい。「純粋公共財」の要件は、消費における排除ができない「排除不可能性」と、ある人がそのサービスを消費しても他の人に影響を与えない「非競合性」である。例えば、僕だけは国防サービスは必要ないとか、私が国防サービスを消費してしまったので、他の人の国防サービスはできないということはない。「純粋公共財」の他に、排除可能だが競合性が少ない「クラブ財」、排除不可能だが競合性がある「コモンズ(共有地)」の準公共財がある。純粋な公共財はそれほど多くなく、国防・防災・検疫・司法・外交等に限られ、我々がイメージする公共財でも、実際には準公共財や私的財が多い。「コモンズ」とは漁場や入会地のことであるが、海は排除不可能で、魚は有限で競合性がある。問題は「クラブ財」である。

 道路について考えてみれば、個人の家の前の道は有料にされると困る。「すいている一般道」は「純粋公共財」である。一方、「混雑している高速道路」は料金所があって排除可能であり、車1台入れば進まなくなって競合性があるので「私的財」である。「混雑している一般道」は、料金所はないので排除できない「コモンズ」である。競合性はないが、料金所があって排除できる北海道の「すいている高速道路」は「クラブ財」である。

 このように、道路のように公共財と思われるものも、時間帯で私的財や公共財に変わる。「民間でできるものは全て民間に」といわれれば、ほとんどのものは民間でできる。博物館・美術館・公園も民間でできる。「クラブ財」が非常に多いので、「民でできるものは民で」といえば、「純粋公共財」のみを供給することになる。  本来、高速道路も無料であるべきというのが、政府の方針だった。しかし、高速道路を急いで整備する必要がある一方、国の財源不足のため、特別措置として有料とした。日本道路公団を作って、借金で高速道路の建設を行わせ、投資額を料金で回収した後に、無料開放する予定だった。料金制度は、高速道路全体をネットワークとして捉えてプール制を採用し、旧国鉄と同じく全国画一で、初乗り料に距離比例の金額を加えたものであった。

 問題点は、料金が高いこと、不採算な道路をも建設しようとしていたこと、ファミリー企業が多いことである。これらを解決しようとするのが、民営化だった。

 なぜ料金が高いのか。土地代までも含めて全費用を料金収入で償還しようとしていたこと、25年後の償還後に無料開放しようとしていたこと、高い用地費、急峻な地形、耐震設計、災害・環境対策により建設費が高いことが原因である。

 道路公団の道路には2種類ある。「高速道路」は、ネットワーク全体で料金プール制であるため、ネットワークに新路線が加わると、償還期限と無料開放日が延期されてきた。「一般有料道路」は個別採算で、一定期間後は、実際の償還が完了しているか否かを問わず無料開放するため、料金収入の一定割合を損失補填引当金として控除してきた。また、政治家の圧力がかかりやすく、不採算の場合は、用地取得および工事の一部を国が実施してきた。

 平成14(2002)年6月に、道路関係四公団民営化推進委員会設置法に基づく「道路関係四公団民営化推進委員会」が発足し、50回以上開催された。8月6・7日の第1回集中審議では、「国民負担の最少化が基本原則」、「将来的には上場を目指し」となっており、「道路保有機構」と新会社に分離し、10〜15年後に新会社が機構の道路資産を買い取ることになっていた。

 また、「『無料開放原則』から有料方式へ転換」となっていた。しかし、従来、道路関係四公団等の料金徴収期間が経過すれば無料開放される有料道路は、「公共の用に供する道路」として固定資産税非課税とされてきたが、無料開放を予定しない有料道路は課税対象となるため、その後の中間整理では、「永久有料化」の用語が使用されないことになり、有料方式は撤回された。

 12月6日の「意見書」取りまとめに当たっては、今井敬委員長・中村英夫委員と、他の5委員が対立、今井委員長は委員長を辞任した。異例なことである。争点は、新規建設資金に他路線収入の活用、つまりプール方式を認めるか否かであった。

 「意見書」では、新会社の採算を超える部分について、国・地方公共団体の費用負担を前提にした新たな制度を政府において早急に検討するとされ、12月12日の政府・与党申し合わせ「道路関係四公団の民営化について」において、新直轄方式(国:地方=3:1による新たな直轄事業)の導入が合意された。さらに、これに伴う国から地方への税源移譲で、地方の実質負担なしに建設できてしまうのである。平成15(03)年5月には高速自動車国道法等が改正され、12月25日には国土開発幹線自動車道建設会議で、新直轄方式への切り替え対象路線を決めてしまった。

 12月22日の政府・与党の民営化枠組みに対しては、これを不服として、3委員が辞任・欠席を表明、残りは2委員になってしまった。1年前の意見書との違いは、45年後無料開放を明記したこと、機構が45年存続することになったこと、料金の設定に当たって利潤を含めなくなったこと、会社の自主的な経営判断に基づく申請・自己資金調達で新たな高速道等を建設できることになったこと、ファミリー企業に触れなかったことである。平成16(04)年6月2日には、道路関係四公団民営化に関する4法が成立した。

 私は、宮川教授の主張に全面的に賛成する。高速道路は無期限有料で良い。償還主義は、通常の企業ではあり得ない高収益を要求するものである。道路公団を非営利企業として利益を生まなくても良いとすれば、高速料金は少なくとも40%引き下げられる。負債を全部返済しなければならないという考えはナンセンス。高速道路の資産価値は約40兆円であり、株式会社化した場合、負債なしは不可能、無意味である。償還原則でなく、高速道路という社会的資産の最適利用が料金決定の原則になるべきである。プール制が問題ではなく、意味のない不採算事業を継続していることが問題である。また、画一料金制は不合理である。

 日本道路公団の貸借対照表によれば、資本4兆3424億円に対して、負債は28兆6216億円、負債比率は約6.6倍であるが、この負債比率は東京電力などと同程度である。道路という確かな固定資産が32兆円あることを考えれば、健全である。損益計算書によれば、売上高が1兆9738億円、営業利益が8799億円、経常利益が3044億円、税引前利益が2963億円ある。また、キャッシュ・フロー計算書によれば、営業活動によるキャッシュ・フローが1兆780億円ある。つまり、1兆円/年のキャッシュ・フローを生む会社である。対売上高経常利益率は15.4%で、新路線の建設をしなければ、料金を15.4%下げても収支のバランスは取れる。維持管理費3340億円は、売上高の16.9%で、全借入金を国が肩代わりすれば、83.1%の料金値下げが可能となる。無借金化・無料開放にこだわらなければ資金繰りに基本的に問題はない。民営化にこだわらなければ、15.4〜83.1%の範囲内での料金値下げが可能である。

 日本道路公団の事業価値について、キャッシュ・フロー1兆円/年を割引率4.5%で割ると、事業のキャッシュ・フローの現在価値は約22兆円である。従って、民間企業並みの評価をすれば、有利子負債残高27兆円に対して約5兆円の債務超過状態であり、新たに投資家を募集する上場が出来る状態にはない。上場するなら、10〜15年、新路線の建設を凍結する必要がある。

 しかし、社会的価値は大きい。料金収入から維持補修費用を引いた、社会的便益は1兆6000億円。割引率1.5%とすると、社会的価値は約107兆円。有利子負債残高27兆円をはるかに上回る。加えて、高速道路利用者の料金支払意思の総額と実際の支払いの総額の差である消費者余剰を含めれば、高速道路の社会的価値はさらに大きい。

 郵政民営化について、巨大民間金融機関をつくることの妥当性・正当性はあるのか。民業圧倒の民営化は無意味ではないか。郵貯会社の資産規模は、三菱UFJをしのぎ、保険会社の資産規模は、日本生命の倍以上である。既存の民間金融機関との対等な競争条件を考えれば、規模縮小・地域分割してから民営化するほうが妥当ではないか。しかし、その一方で、既存の組織を壊すことには意味があったと思う。

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 ケーススタディの今後の進め方について、ヒアリングは皆さんの意見を反映して進めたい。日本の民営化、海外の民営化、民営化手法について、ヒアリングしたいと思う。テーマは、10年後に評価できるように、民営化の賛否両論の整理、海外の民営化事例の評価、日本における過去の民営化例(JR・NTT・JT)の評価、現在の民営化例(道路公団・郵政・政策金融)の評価、地方における民営化の考え方と具体的手法を考えてみたい。

 JRの場合は成功したようでいて、実際の最終的な国民負担は23兆5000億円に達した。国鉄清算事業団による清算が遅れたためである。旧国鉄は、もともと無理であり、経営悪化→サービス低下→料金値上げ→客離れ→経営悪化の悪循環が目にみえていた。郵便局は頑張っていると思うが、旧国鉄は国民の怒りを買うほど駄目だった。

(文責・小林 肇 NIRA主任研究員)


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