2005年10月27日実施

第5B回 ケーススタディ概論
       「NPOが切り拓く新たな公共」
<要約>

田中 敬文 東京学芸大学教育学部助教授

 
田中 敬文 東京学芸大学教育学部助教授  今日、NPO(非営利組織)という言葉はごく当たり前のように使われている。ところが、NPOの実態、その言葉の正確な意味はまだ十分に知られていないのではなかろうか。NPOとはNon-Profit OrganizationあるいはNot-for-Profit Organizationの略で(最近ではCivil Society Organizationともいう)、「継続的、自発的に社会貢献を行う、営利を目的としない団体の総称」と定義するとわかりやすい。ただし、「非営利」だからといって利益を得てはならないわけではない。むしろ重要なのは、NPOの場合、利益を分配してはならず、また、利益は次年度の活動に使う点である。従って、株式に応じて出資者に配当が支払われる営利企業とは大きく異なる。

 この原則に基づくNPOの範囲は意外と広く、特に海外と比較する場合、注意が必要である。日本でNPOというと、NPO法人、認定NPO法人、市民団体等に限られるのではなかろうか。だが米英をはじめ、他の国々のNPO活動を考える際には、社会福祉法人、学校法人、財団法人・社団法人等も広義のNPOとして含めないと、こういった団体の社会的役割を知り尽くすことは難しい。日本のNPO法人とはNPO法(正式には特定非営利活動促進法)により認証を受けた法人のことである。しかし、この法律にはNPOという言葉は1箇所も登場せず、わたしたちが便宜上NPOないしNPO法と呼んでいるに過ぎない。このあたりがNPOというと日本では、NPO法によって認証を受けた団体だけを指すものと誤解される一因かもしれない。法律改正後、NPO法人の活動分野は17にまで増えたが、この編成は合併前の省庁があまり着手してこなかった、民間に大いに期待する分野が中心となっている感がある。

 NPOとボランティアの相違点・類似点を簡単にまとめると、次の通りである。相違点として、ボランティアは原則として無償であり(ただし「有償ボランティア」もある)、また、個人が中心となって行う活動である。一方、NPOは非営利で(先述のように、決して無償ではないが利益を分配しない)、組織として活動し、社会的責任も負わなくてはならない。類似点としては、両者とも評価が必要な点が挙げられる。両者とも特に、サービスを受けた相手に与える影響や満足度について評価する必要がある。

 NPOには「政府の欠陥」や「市場の欠陥」を是正することが求められている。政府は「公平、平等、一律」を原則に行動するが、NPOはこの原則を破ることができる。例えば、特定の区域や人々だけを対象とすることがNPOには許される。政府だけでは市民の多様な要求に応えることが難しくなりつつある現在、新たな担い手としてNPOが登場する余地があるといえよう。最近では、(1)コミュニティ・ビジネス型NPO (2)社会的企業(起業)の出現 (3)NPOによるソーシャル・キャピトル(社会関係資本)の構築・充実−などが新しい潮流としてみられる。また、NPOには営利企業では経営できない、しかし画一的な「官」とは違う、つまり民間だが営利を追及しない組織としての存在意義もある。

 日本では、「公」「私」あるいは「官」「民」を明確に区別してきたのではなかろうか。すなわち、「公」の担い手はあくまで「官」(=官庁)であり、「民」は一切かかわるべきではないという二元論的な考えが今まで流布してきた。しかし、今後こうした考えはうまく機能せず、その綻びもすでに随所にみられる。これからは「公(おおやけ)」にかかわるのは「官」だけでなく、「民」も積極的にかかわってよい。いや、NPOを含む「民」こそが主役であり、「官」こそが「民」の欠陥や失敗を補うべきという「官」「民」の役割を逆転する発想が大切である。

 概して、NPOは特定の専門的能力や意欲はあるが、資金やマネージメント能力などが不足している。これに対して、行政(=自治体)は市民からの多様な要望に応えられない。ここに、NPOと行政がパートナーシップを組む意義がある。このパートナーシップにはさまざまな形がある。(1)市民参加条例・協働条例はNPO−行政のパートナーシップを結ぶ根拠の一つとなるものであり、すでに都道府県の約8割、市町村の約5割で制定されている(例:大阪府箕面市NPO条例)。また、(2)NPOへの財政支援により、個人・企業からの寄付金が自治体を迂回することによって、財政規模が小さく資金繰りに悩むNPO法人に集まると同時に、個人・企業は寄付を通じて税制上の優遇措置を受けることができる(例:東京都杉並区NPO支援条例)。納税者が住民税の1%を市民団体に投票する仕組みも現れた(例:千葉県市川市「市民活動支援制度」)。(3)NPOへの事業委託は、自治体の業務の一部をNPO法人に委託することによって、より的確に市民のニーズを実現するための仕組みづくりである(例:NPO法人ふらの演劇工房〈北海道〉)。

 ただし、NPO法人を事業体としてみた場合、その経営は相当厳しい。資料によると、収入規模については、NPO法人全体の実に66.3%が年間収入1千万円未満である。常勤スタッフ1人当たりの年収は平均118万円程度に過ぎない。これらは分野、規模、自治体との結び付きなどによっても左右されるが、もしNPOが新たな公共の担い手として大きく期待されるならば、NPO法人に資金が流れる仕組みを考案する必要がある。さらに、これまでGDP(国内総生産)統計の枠外にあった、ボランティア・寄付といった積極的な社会貢献の経済価値をGDP統計とは違った形で推計することが望ましい。

 確かに、NPOには自治体にとってパートナーシップを組むもの、また、企業にとって社会貢献する上での重要な専門家集団の一つとしての役割が当然あるだろう。同時に、日本の市民がさまざまな活動をする上でいかに障害が多いかを知るための切り口としても、NPOは興味深い。

(文責・齋藤智之 NIRA研究員)


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