2006年1月26日実施

〔ケーススタディB〕NPOが切り拓く新たな公共

第10B回 NPOによる政策提言活動 <要約>

森嶋伸夫 特定非営利活動法人一新塾代表理事・事務局長

 
森嶋伸夫氏 組織概要
 NPO法人一新塾は、1992年に大前研一氏が立ち上げた平成維新の会が母体である。現実の選挙では生活者の利益を代弁する立場はなかなか通らなかったとの思いから、「しがらみのない市民」による変革を標榜し、ネクストリーダー養成学校として94年に設立した。

 活動としては、主体的市民教育と、塾生が政策提言した社会起業プロジェクトのインキュベーションと支援を行っている。現在、塾生は約180名おり、学生・シニアなどさまざまである。多くの人が本業の仕事の合間を縫って地域活動や市民活動をしている。これまでに2600名が卒塾し、国会議員4名、地方議員56名を輩出した。社会起業家として活動している人も大勢いる。月に1回は塾生や卒業生の誰かが新聞や雑誌などに取り上げられている。

プログラム概要
 塾生は、1年間、毎週1回の講義を受け、プロジェクトにも参加する。

 講義は、さまざまなジャンルの実践者が最先端のトピックを話す。参加型でインタラクティブな時間を十分取っており、塾生は講義企画や司会などの役割も担うことができる。

 プロジェクトは、1チームにつき塾生3〜8名程度で編成され、毎年20を超えるチームが立ち上がっている。政策提言活動や自治体との協働、社会起業などといった現場に飛び込みさまざまな活動を行い、専門性を深めていく。価値観が異なる人たちでも、現場視察など同じ体験をすることで言葉の定義がかみ合ったり議論ができるようになったりする。そのため現場の体験を重視している。

 講義以外の日にも、一新塾には仕事帰りの塾生が集まり、チーム活動の打ち合わせなど「インキュベーション施設」として活用されている。卒塾しても活動は継続し、OBと現役塾生との交流の機会も多く、お互いに学び合う機会も少なくない。

なぜ市民からの政策提言なのか
 一部の人しか政治にかかわれなかった時代とは異なり、いまは市民の側から政策を政治家・専門家に提言することができる。

 例えば、2005年に開始した「日韓草の根交流」活動をみてみる。これは肩書きや立場を取り払って草の根のネクストリーダーが日韓から20名ずつ相互訪問して交流するというものである。先日、韓国のメンバーが来日し、各地の首長や国会議員らと意見交換をした。靖国問題、歴史問題についても意見交換をした。ローカルマニフェストの話にはとても刺激を受けていたようである。現在、政府間ではギクシャクした日韓関係ではあるが、草の根レベルであれば忌憚なく本心をぶつけ合え、またそうすることが本当の知恵に結びつくものだと確信している。だからこそ、市民の草の根的交流の意義はますます大きくなっている。

 また、ある塾生は、高知県須崎市の年金保養施設「グリーンピア土佐横浪」が毎年7000万円の赤字を垂れ流していることに問題意識を持ったことから、会社を辞め、全く縁の無かった土地で再建に取り組んだ。県知事と市長に民間企業への委託を提言し、指定管理者制度導入の先駆けになった。宿泊客を増やして施設を再生し、地域おこしにも取り組み、黒字化を達成した。だが、国の方針により施設は、他の赤字施設と同様に安値で須崎市に売却される方向となり、存続を求める地元の声に反し、市は施設の閉鎖を決定した。この事態に一新塾メンバーが駆けつけ、市民運動団体と交流し問題の本質にアプローチした。そして、この問題への提言を雑誌に投稿したり、この問題の取材をメディアに働きかけたりした。結果として、決定を覆すことはできなかったが、国民年金法の問題を明らかにし、福祉増進施設を建てることができるという条文を改正すべきと提言した。また、ここでの成功モデルを他のハコモノ再生に活用できないかとの思いで、ノウハウを広める活動も開始した。

組織構造
 世界的に、国や組織の構造が「逆三角形」になってきていると考えている。従来型の組織では、組織に忠誠心を持ちトップの指示に従ってきたが、現在は、現場に権限があり、個性や強みを存分に発揮していて、メンバー全員が成長する組織へと変わってきている。ここでは、リーダーは後方支援の役割を果たしている。そのような構造の組織は元気があり、一新塾でも実践し、チームによる学習効果を上げている。また、このような考え方から、国家ありきの中央集権構造に対して、一新塾では10年前から道州制をテーマにしている。

行動原理
 ミッションを機軸とした協働を大事にしている。つまりミッションや理念(タテ)とつながり(ヨコ)のバランスを取らなければならないということである。

 社会の全体像を見ながら、その中に、いかに自分の問題を見出すかが重要である。従って、ビジョンを描き目標設定をする力を塾生には付けてもらう。大前氏でもミッションが見えない時期があったが、がむしゃらに行動しながら、自分の人生を変える機会をとらえた。

 またプロジェクトでは、あらゆるジャンルの人が知恵を出し存分にビジョンを語り合うことで絆を深め、互いに支え合う協働を実現している。

NPO法と政治活動
 一新塾は塾生の政策立案や提言の支援をしているが、政治に染まらないように、自主的に完全中立を守ってきた。政治家志望の塾生は2割いるが、NPO法は選挙での特定政党や特定個人の支援を禁じているため、選挙活動に対しては一線を引いている。事務局は政策に関する相談以外に個人や政党の支援はしない。

運営
 資金面での柱は受講料。自力運営に注力し、不安定な寄付や補助金に頼っていない。専従スタッフは2名で、カリキュラムの開発などはOBなどのボランティアが支えている。

 受講生の2割(ほとんどがリーダー経験者)は、卒業しても再度受講している。塾というシステムがうまく働いており、毎年、活動に共感する同志を増やしている。

(文責・庄司昌彦/受講者)


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