NIRA Case Study Series No.2007-06-AA-7

金沢市民芸術村、そして金沢市の文化戦略とその意味
−文化の重層的未来を志向する元気な街づくり−

大場吉美

【要 約】

 金沢市は、加賀藩前田家の文化経済政策による発展という歴史を持ち、現在、日本有数の文化経済都市として名高い。伝統に固守するのみでは新しいものが創造される活力が失われていくが、現在の金沢では、伝統文化を継承するのみでなく、現代文化を積極的に取り入れることによって、新しい文化創造が可能となり、それが地域活性化につながっている。伝統文化と現代文化の融合のこころみが地域の活性化につながってきた事例としては、金沢ルネッサンス冬祭り、世界工芸都市会議等が挙げられる。

 また、文化政策のひとつの事例として、「市民が主役」の公立文化施設の運営がある。具体的には「金沢市民芸術村」が挙げられる。この試みは、大和紡績株式会社旧金沢工場の活用の検討を契機として、1995年の金沢市民芸術村開設準備室発足から始まった。旧工場の美しい構築物を生かした利用が検討され、若者文化の拠点としての文化施設が作られることとなった。

 本来文化分野に関する政策には、行政は不得意と言われてきた。文化は市民の生活に深く根ざしており、個人の趣味嗜好によるところが大きく、多様性があるものと認識されているためでもある。こうした問題点に対して、管理中心主義をやめ、利用する市民の要望や欲求を把握し、満足度を高くすることを最重要課題と捉えた。具体的には、演劇、音楽、美術、環境の各分野のリーダーや愛好家、専門家、学識者の意見収集を幅広く行い、市行政担当者とともにシステムを構築することとなった。

 そして、「市民が主役」の365日24時間使用の文化施設が誕生した。民間人の運営協力と自主事業を展開する文化施設である。ディレクター制度を採用し、ディレクターの元で自主運営を行うこととなった。この金沢市民芸術村は、オープン1年目の1997年10月に通商産業省よりグッドデザイン大賞や種々の表彰を受けている。また、こうした伝統文化と現代文化の融合によって、自然体で多様な美術を許容できる文化土壌を創成しつつあり、また、若い創作者や学生たちが元気になるなど重要な成果がではじめている。

 今後の課題としては、ディレクター制度がいかに理想に近い形で機能し運営し続けることができるかがポイントとなっている。また、ディレクターとボランティア・市民との間の相互信頼の醸成が芸術村及び市民全体に拡がることが求められるところである。


 金沢学院大学美術文化学部教授

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