NIRA Case Study Series 2007-11-AB-10

消費者金融の上限金利等の見直し
−貸金業規制法等の改正の背景・決定過程・影響・評価−

川本 敏

【要 約】

 消費者金融会社は、バブル後の経済停滞のなかでも、高い貸出金利(グレーゾーン金利)と利用者の拡大、多額な貸付により空前の高収益を上げてきた。その一方で、借り手の多重債務による自己破産、経済生活問題による自殺者の急増など、大きな社会問題を生起し、上限金利の見直しをはじめ消費者金融業の改革が焦眉の急となった。

 2006年12月に「改正貸金業規制法」が成立した。改正法の主なポイントは、イ、上限金利の引下げ、ロ、過剰貸付の抑制・返済能力審査の強化、ハ、貸金業の参入条件等の厳格化、ニ、公布から概ね3年以内の完全施行、などである。

 改正に先立ち、金融庁は有識者を集めてこの問題の検討をかさね、2006年4月には中間報告がまとめられた。その骨子は、イ、貸出金利水準は消費者・事業者にとって高すぎるとの意見が多い、ロ、みなし弁済制度は廃止が必要、ハ、出資法上限金利は引下げる方向での検討が望ましい、ニ、参入規制の強化や過剰貸付の防止が必要、などである。

 2006年9月には金融庁の考え方が自民党に示された。上限金利の利息制限法水準(15〜20%)への引下げ、返済能力審査の強化、参入規制の強化、時限措置として個人向けの少額短期に特例金利を認めるとの考えであった。自民党内では意見の相違がみられたが、世論の動向もあって「改正案」が固まり、同年10月、閣議決定、国会に提出された。「改正法」は全会一致で成立した。

 経済学者の間では、経済自由主義の立場から上限金利引下げに対する反対論、多重債務を防止する観点からの賛成論があり、両者の間でいくつかの論争があった。反対論は、金利引下げによる貸入れ困難になるおそれや経済成長への負の影響、消費者行動の合理性を見極める必要性などを主張し、金利規制を市場介入として疑問視した。一方で、賛成論は貸し手側の「略奪的貸し付け」などを問題とし、上限金利の引下げ、返済能力を充分に考慮した貸付による経済厚生の顕著な改善を指摘した。  改正法が公布された結果、消費者金融業界では対応が進んでいる。イ、貸出金利の引下げと審査の強化、ロ、貸出残高の減少、ハ、過払い返還請求の増大と収益額の縮小、ニ、業界の再編への動き、などである。

 法改正によって多重債務問題は大きく改善されるだろう。今回の制度設計は、質(上限金利)と量(貸出額)の両面にわたる意欲的なものであり、また、これまでの司法府の判断(グレーゾーン金利を事実上否認した最高裁判決)と整合的であって、高い評価が与えられる。

 この法改正は問題解決への大きな前進であるが今後に課題と教訓を残している。イ、実態を示す公表データが極めて限られていたこともあり問題の認知・把握に遅れ、法改正の成立までに多くの日時を要したことである。ロ、政策決定に利用できる明確で決定的な実証分析結果を欠いたことである。理論の発展や実証分析には時間を要しそれを待つのでは問題の解決を遅らせる場合には、まず、その時点でもっとも妥当な政策を選択し、異なる決定的な結論がでた時には修正していくような迅速、柔軟な対応が求められる。ハ、改正法の実効性確保である。経済金融教育の強化、必要な取締りの強化、割賦販売法の改正等を効果的に進める必要がある。


 帝京大学経済学部 教授

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