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NIRA政策レビュー

復興財源を考える

【リニューアル】NIRA政策レビューNo.52 2011/05発行
伊藤元重(NIRA理事長)、森信茂樹(中央大学法科大学院教授)、土居丈朗(慶応大学経済学部教授)、加藤裕己(本誌編集主幹)

問題提起 「復興財源を考える」 伊藤 元重(NIRA理事長)
視点1  「復興財源は、所得税を中心に」 森信 茂樹(中央大学法科大学院教授)
視点2  「使途に応じた復興財源の選択」 土居 丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)
解説解題 加藤 裕己(本誌編集主幹)

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 東日本大震災からの復興には、膨大な財政資金が必要とされ、どのような手段で財源を調達するかが問題となっている。歳出の組替や削減に努めることを前提 としたうえで、急を要する財源調達であり公債発行で行わざるを得ないが、その償還を増税により行うか、行わないか、で意見が分かれている。
 本政策レビューでは、復興財源は後世代に負担を残すべきではなく、現在の厳しい財政状況などからも基幹税を活用した増税での償還が必要であること、税目 としては消費税、所得税、法人税にはそれぞれ一長一短あるため特性を見極め適切な税目を用いるべきこと、また、増税による財源調達が景気へ悪影響を及ぼす 懸念はないことなどが議論されている。

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問題提起 「復興財源を考える」
伊藤 元重(NIRA理事長)

復興財源として消費税の引き上げを
 論点を明確にするため、まず私が考える復興財源のあるべき姿について記述する。以下で何人かの専門家の方に意見を求めるためにも、 そして読者の方々に論点をはっきりとした形で伝えるためにも、あえて踏み込んだ形で消費税率の引き上げを考えてみたい。 消費税の引き上げのイメージを図に示してみた。なお、この案は私のオリジナルな考えというよりは、 すでにいろいろな所で取り上げられている案でもある。図でこの案を示したが、これはあくまでも基本的な考え方であって、 細かい調整はありうる。
 2013年の4月から消費税率を8%に引き上げ、その状態を3年間続ける。これで1年7.5兆円、 3年22.5兆円程度の税収増が見込まれる。この増税分はすべて復興財源として活用する。そして2016年からは消費税率を10% に引き上げる。この年からは3%プラス2%の5%の増税分はすべて社会保障に活用する。つまり、 復興財源は最初の3年の増税分だけに限定する。ただ、復興にどれだけの財源が必要であるか、今の時点では確定できない面もあるので、 場合によっては2016年以降の増税分の一部を復興財源に利用する可能性は残しておく。
 復興債は、2016年までの調整のために活用することはありうる。復興の初期の段階で膨大な支出が予想されるが、それを復興債で賄い、 2013年からの消費税収でそれを償還するという形での活用である。ただ、償還が遠い将来になるような復興債の発行は極力さける。 子ども手当や高速道路無料化など、民主党がマニフェストで掲げた歳出を徹底的に見直し財源を捻出することは当然だ。ただ、 これはすでにそうした方向に進みつつあるので、ここでは取り上げない。



消費税を引き上げれば景気が悪くなる?
 大震災と原発事故という大災害で経済が傷んでいるときに、消費税を引き上げたりしたら経済がさらに傷んでしまう。 この時期に増税などとんでもない、と増税反対論者は主張する。本当に増税は景気を悪化させるのだろうか。こうした主張をする人たちは、 私には、パブロフの犬のごとく「増税→景気悪化」という条件反射的な考え方に縛られているように思われる。 増税という行為そのものは人々の消費を抑制する効果を持っているが、それによって得た財源はすべて復興のために使われるのだ。 20兆円増税して20兆円使ってしまえば、景気は20兆円分刺激されるというのが、ケインズの均衡財政乗数の考え方である。
 震災と原発事故からの復興は、膨大な公共事業と民間投資を必要とする。そうした復興需要を最大限活用することは、 復興という本来の目的に加えて、日本経済への景気刺激という効果も期待できる。その財源をきちっと確保するためには、 消費税の引き上げは有力な手段である。そして、震災という危機への対応を短期的なパッチワークに終わらせず、 日本経済を長期的に好ましい方向に持って行く機会と捉えることが必要である。「震災復興のどさくさで増税するのはけしからん」 という議論があるが、そうではなく国難の時期だからこそ中期的な日本の姿を思い描いた改革が必要であるのだ。


消費税でなくてはいけないのか?
 消費税以外にも、所得税、資産税、電力税など、いろいろな財源が考えられる。なぜ消費税でなくてはいけないのか? こうした意見はもっともである。
 ただ、所得税の税率をいじって大きな税収を確保するのは困難である。また、すべての国民から薄く広く税を集めるという意味では、 消費税の方が優れている。消費税以外の税の増税も検討するということは否定しないが、 消費税の引き上げをしないで他の財源だけで対応するというのは現実的ではない。
 消費税は被災者にも負担となるので、好ましくないという意見もある。たしかにそういう面はあるが、 それを税の論議に持ち込むのは適切ではない。被災者には様々な形で支援が及ぶべきであるし、その財源が消費税となるのだ。 重要なことは全体で見て、被災者への支援が届くということであり、消費税だけの負担の議論にすべきではない。
 消費税の導入の仕方にも、いろいろな意見がある。たとえば、毎年1%ずつあげていくことで、駆け込み消費を誘発すべきだという意見がある。 もっともな意見である。ただ、ここで示した案でも、8%に上げられる前の時期、あるいは10%に上げられる前の時期には、 駆け込み需要が見込める。その意味では、二段階の引き上げにしたのは、当初の税率引き上げのショックを緩和すると同時に、 需要の前倒しを狙った面もある。

財政の地震に備えよ
 シカゴ大学のラグラム・ラジャン教授は、近著の『フォールト・ラインズ』という著書で、断層(フォールト・ライン) というメタファーを使って経済危機を説明している。活断層に歪みが蓄積されると、いつかはそれがはじけて大地震となる。ただ、 地震が起きるまでは、歪みが蓄積されても地面はびくとも動かない。だから、震災への警戒を怠りがちだ。日本の財政にも、債務累積、 赤字垂れ流しなどの歪みが蓄積されている。これがはじけて財政危機となれば、経済は大変なことになる。しかし、震災前の状況と同じく、 激震が来る前の財政状況は驚くほど静かである。危機前の静かさは、いま財政危機に苦しむ欧州でも経験済みである。
 地震を起こす歪みを活断層から取り除くことはできない。私たちはひたすら地震が来ることを想定した準備をしなくてはいけない。しかし、 財政における活断層の歪みは、政策的な決断で取り除くことができる。今回がその最後のチャンスかもしれない。

 

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視点1「復興財源は、所得税を中心に」
森信 茂樹(中央大学法科大学院教授)

1.「復興は現役世代の負担で」が原則
 4月から5月にかけて、被災地を見て回った。「ガレキの山」というより、ソファー、壁紙、 戸棚や机などつい先日まで使っていた日常生活用品が無残に散乱し、津波が日常を一瞬にして破壊したことを目にして、 「今生きているわれわれが連帯して、震災地域の復興を図らなければならない」という思いを強くした。
 感覚的な話はともかく、まず主張したいことは、今働いているわれわれが、復旧・復興の費用を負担すべきだということである。 国家が被災者の救済活動を行い、瓦礫の撤去、堤防や道路の修復、仮設住宅の建設などすべて資金がなければ実行に移せない。国家は、 企業や事業主と違い、みずから利益を生み出す主体ではなく、基本的に国民の税金によって運営されている共同体だ。そうである以上、 国家が全力を挙げて救済すべきだという主張は、財源論をセットにしてこそ現実のものになる。 憲法25条の健康的で文化的な最低限の生活の保障も、財源があってこそということである。
 財源は、歳出削減か増税か(あるいはその組み合わせ)2つしか存在しない。国債発行は、将来の世代の増税を意味しており、 財源とはいえない。よくいわれる埋蔵金も、その本質は国債発行と何ら変わらない。
 歳出削減に関しては、一層の努力が必要だ。国家公務員給与の引き下げが決まったが、地方公務員給与の方は、手つかずの状況にある。 国会議員の定数の削減など、これまで約束されながら放置されてきたものをこの際一気に実行する必要がある。それでも足らざる復興財源は、 税負担の引き上げで賄う必要がある。
これに対して、百年に一度の災害だから、百年かけて負担すればよい、という反論がある。私には、この、 ごろ合わせのような論理はよくわからない。まだ理解できるのは、道路や港湾の復旧のメリット・受益は、30年40年続くのだから、 通常の建設国債(60年償還)で調達すればいいのではないか、という反論である。
 しかし、今回の震災は、ストックの毀損をもたらした。毀損されたストックを復旧することは、過去の損害・損失を元に戻すのだから、 何ら国富として新たなものを生み出すわけではなく、後世代のメリットが増加するわけではない。一方で、フローベースでは、 復旧需要という形で需要の増加となりGDP統計上は付加価値が増加する。このこととは分けて考える必要がある。
 また、阪神・淡路大震災の時は国債発行で復興費用を調達したではないかという反論がある。しかし、 当時と国の台所をめぐる状況は天と地ほど異なる。国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は、 当時の▲3.2%に対し現在は▲6.5%(平成22年度末見込み)、国・地方の長期債務残高は、当時の368兆円、対GDP比75% (平成6年度末)に対して、現在は869兆円、対GDP比181%(平成22年度末)、日本国債の格付けも、当時ムーディーズが Aaaを付けていたのに対して、現在は Aa2(-)と様変わりである。
 もう一つ、増税は景気を冷やすという反対論がある。しかし、復興対策により生産ネットワークが回復し、民間の経済活動は再び活発化する。 また、これまで乗数効果が弱いと批判されてきた公共事業と異なり、震災復旧公共事業は、即効性のある波及効果が期待できる。つまり、 震災復旧・復興需要が出てくれば、増税を打ち消すだけの需要効果(フローの効果)が予想される。そのためにも、実際の増税時期については、 復興需要を見極める必要があろう。
 怖いのは、利益追求の国際的な投機マネーの動向である。市場関係者や格付機関は、社会保障と税の一体改革の行方を、わが国財政への信認 (格付け)を判断する重要な判断材料としてきたところである。先進国最悪の財政状況、GDPの2倍にも上る公債等発行残高、 これまで国債発行を消化してきた国内個人金融資産の頭打ち、これらが今後、日本国債を売り浴びせる絶好の「材料」となる。 今後のわが国の経済政策の遂行にあたっては、国際投機筋の人質になるような経済政策は行ってはならない。その意味で、「復興資金は、 現役世代の負担増で賄う、後世代へのつけ回しはしない」という原則は、国際投機マネーに対する防波堤の役割を果たす。

2.所得税か消費税か
 当面は復興債で調達するが償還財源を増税に求める場合、具体的に消費税に求めるのか、それとも所得税なのか。復興に要する期間を5年程度、 復興に要する国費を10兆円程度(残りは、 PFIの活用などによる民間資金)としたうえで、考えてみたい。
 消費税でという論者の主張の根拠は、第1に、1%引き上げで2.5兆円という税収効果である。第2に、近い将来社会保障・ 税一体改革の中で予定されている消費税率の引き上げに続けることが可能だという点である。そのほかに、そもそも税制を考える場合には、 経済に与える負荷の少ない消費税が望ましい、という税制議論がある。
 他方で、消費税率の引き上げは、震災地域の方々にも負担増となること、低所得者により多くの負担となる逆進性があるという点である。 これに対して、給付付き税額控除・還付で対応すればよいという意見があるが、番号制度の導入されていない中で、 そのような制度の執行は技術上難しい。被災地には復興需要で十分なお金が回るので、逆進性対策は不要、という見解もあるが、 それとこれとは区別して考えるべきではないか。
 もう一つ問題だと考える点は、復興のために時限的に税率引き上げを行い、それが終了したら直ちに社会保障・ 税一体改革との関連での消費税率引き上げに充当するという考え方は、国民から見て、哲学のない増税という印象を与えるのではないか、 という政策論からの反対である。
 6月末に決定された社会保障・税一体改革では、2010年代半ばまでに5%の消費税率の引き上げを、社会保障目的消費税で、 段階的に行うことを内容としている。国民にとって消費税増税は極めて大掛かりな出来事で、社会保障制度改革への納得や、 歳出削減へのコミットが必要で、震災とは異なる要素がある。さらに、消費税率引き上げには、益税解消、インボイス、 逆進性対策等山積する問題を乗り越える必要がある。はたして、短期間でそのような課題をこなし復興財源とすることが可能だろうか、 という現実論としての危惧がある。
 そこで、所得税を財源にしようという考え方が出てくる。
所得税は、そもそも能力に応じて累進的に負担を求めているので、その機能を活用すれば、 日本国民から能力に応じて追加負担を求めることが可能である。被災者にも負担増になるという反対論があるが、 消費税に比べてはるかにその度合いは小さい。
所得税に追加負担を求める例として、ドイツ統合の際の「連帯税」がある。ドイツでは、所得税・法人税の体系は変えず、税率に7.5% (現在は5.5%)の上乗せを行う定率増税・付加税が行われた。仕組みが簡素なので、納税者や税務当局のコストが最小で済む。わが国でも、 平成3年度に、湾岸戦争の拠出金負担のための「法人臨時特別税」として体験済みである。
 問題は、所得税収は14兆円程度(平成23年度予算)なので、10%の付加税なら財源は毎年1.4兆円程度となり、 消費税より税収効果が劣ることである。そこで、法人税やそのほかの税目も総動員する必要が出てくる。法人税については、 平成23年度税制改正で決まっていたネット減税が先延ばしになっているので、それを実行したうえでの付加税ということになる。 先延ばしにした上でのさらなる負担増は、日本企業の空洞化を加速しかねず、慎重であるべきだろう。
 所得税・法人税付加税10%の増収は2兆円程度なので、10兆円の国費を調達する場合5年かかることになり、 消費税率2%引き上げの場合の2年と比べて期間が長引くが、やむを得ないであろう。

3.社会保障・税の一体改革との整合性を徹底的に議論
 税は、国民全員が当事者である。国民がある程度納得しなければ引き上げは難しい。そのためには、 賛否両派が相互に敬意を払いつつ徹底的に討議することが必要である。
 私自身の考え方は、「復興財源は現役世代の負担増で賄う、後世代へのつけ回しはしない」という原則を示すことが、 国内的には被災者への連帯感を強めるとともに、国際的には、投機を寄せ付けない日本復興にむけての強いメッセージになると考えている。 負担増のあり方は、社会保障・税一体改革と考え方を区別するためにも、所得税の定率増税・ 付加税を中心として行うことが望ましいのではないか。ただし、政治家が強いリーダーシップを下に消費税増税を国民に説得するのであれば、 それに異論を強く唱えるつもりはない。

森信 茂樹(もりのぶ・しげき) 中央大学法科大学院教授
京都大学法学部卒。法学博士(租税法)。1973 年大蔵省入省。現在、東京財団上席研究員、ジャパン・タックス・ インスティチュート所長等を兼任。
近著に、『日本の税制 何が問題か』(2010)岩波書店、ほか。

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視点2 「使途に応じた復興財源の選択」
土居 丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)

 復興構想会議を中心に、東日本大震災の復興に向けた財政面からの支援が検討されている。 現時点では、復興のための財政支出が総額でいくらになるか予断を許さないが、被災地の復興に向けた取組みは進めなければならない。 2011年度第1次補正予算では、初期段階の復旧のための支出の財源を、予算の組替えを中心として捻出したが、 今後震災復興が本格化するにつれて震災復興のための財政支出も増えてこよう。そのときに、どのような形で財源を捻出すればよいだろうか。

復興債は2010年代に完済を
 被災地復興には財政の役割は重要である。 しかし、震災復興支援を口実にしたバラマキ財政支出が横行することは容認できない。 これを避けるには、復興財源は、その使途に分けて考えるのがよいと考える。
 復興のための財政支出の使途としては、大別して、公共インフラの復旧・整備、被災者の生活支援、原発事故関連の損害補償に分けられよう。 以下では、使途に応じてどのように財源を確保すればよいか検討しよう。
 まず、道路などの公共インフラの復旧・整備のための支出は、将来世代も恩恵を受けるので、建設国債で賄うことが正当化できよう。 地震がなくとも将来的には維持補修費が必要となりその際には建設国債で賄われると予想されるものが、 被災したために前倒しで支出が必要となったと解せばよいだろう。
 被災者の生活支援として、今生きる被災者のみが受益する給付や補助金は、国債で賄って負担をつけ回すべきではない。 将来世代には便益が及ばない復興関連支出は、原則として今生きる国民で税負担を分かち合うべきである。
 ただ、目下の景況に配慮すれば、直ちに増税して良いかとの批判もあろう。そこで、 将来世代には便益が及ばないが被災者が受益する復興関連支出の財源は、予算の組替えなどにより不要不急の支出を削減して財源を賄うとともに、 当面は一般の赤字国債と区別して「復興債」を発行して賄い、その後近い将来に「復興目的税」 として徴収してその償還財源を確保することが望ましい。通常の赤字国債は、60年償還ルールに従って借換・償還される。しかし、 それでは将来世代に償還負担をつけ回すことになるので、復興債は償還期限を5~10年として借り換えしないで完済する形で発行すべきである (図参照)。 復興債は、できる限り2010年代には完済すべきである。団塊の世代が75歳以上となる2020年代には、 医療や介護の給付がさらに増大する。復興債の償還を先送りすれば、 ただでさえ今より高齢化が進んで社会保障給付の負担増が予想される2020年代に、復興債の償還負担までもがのしかかって、 日本経済に負担増による弊害が大きくなってよくない。

復興債の償還財源は、所得税を中心に
 復興債を償還 (及び償還までの間は当年度の復興のための支出に充当)するための復興目的税は、所得税が最有力である。消費税は、 必要な財源の規模次第では復興財源に用いるのも一策だが、基本的には社会保障給付の財源のために用いることが望まれる。 法人税は、 グローバル化する経済の中で日本企業の優位性を失わせてしまうので、絶対に避けるべきである。 復興目的税を所得税で賄うことの利点は、 寄付税額控除を認めて、 既に民間団体等に寄付している国民はその分だけ負担を減免できる点が挙げられる。消費税だと、それは難しい。また、 現在の所得税は公的年金にはほとんど課税されないので、高齢の被災者には負担が及ばないという点は、 消費税と比した利点といえる。 国民が寄付などを通じて被災者を経済的に支援したいという気持ちを有しており、 また所得の高い人ほど多くの支援額を支払う用意があるとするならば、政府が国民から所得税を徴収することによって、 国民の意志を擬似的に実現することが可能だろう。ただ、所得税だけで十分に財源が賄えないならば、 経済成長を阻害しにくい消費税で復興目的税の一部を賄うということはありえよう。

原発損害補償の財源には、電力料金の値上げも
 最後に、 電力供給の復旧と原発事故関連の損害補償の財源についても言及しよう(これは図には含めていない)。 当然ながら現時点でその規模は予断を許さないが、電力供給の復旧のための投資資金や事故の損害賠償の財源の確保は不可避だから、 現段階から思考停止にならないように真摯に検討すべきである。
 事故の責任の所在と財源負担能力次第で、どの手段でいくらの財源を賄うかが決まるものの、財源確保の手段としては、電気料金引上げ、 電力会社での経費節減・リストラ、電源開発促進税、復興目的税の税収の一部が挙げられよう。
 電力会社側が主体的に損害賠償を行わなければならない部分の財源には、電力会社の収益から捻出しなければならない。 電力料金を引き上げて利用者に負担を求める前に、経営者の責任や株主責任を問うべきとの主張は当然出てくるから、 電力会社のリストラから始めなければならないだろう。通常の会社でも経営改善のためにまず先にリストラを行うのと同様、 賠償財源の捻出のために給与抑制、内部留保の活用、福利厚生施設等の不要不急の資産売却などは、財源捻出のために行われなければならない。
 ただ、それでも財源が不足する場合どうするか。次に誰が負担を負うべきかについて、これまでの国の電力政策をめぐる評価とも関わり、 様々な意見が出されている。ここで焦点となるのが、債権放棄と減資である。
 しかし、賠償総額が未確定の段階で、債権放棄や減資を決定することは早計であると考える。 賠償財源が他の妥当な手段で十分に賄いきれるならば、債権放棄や減資は不要であるだけでなく、金融市場に無用な混乱を引き起こす。 金融市場での混乱を避けるためには、債権放棄や減資の前に、電力料金の引上げを行うことが求められる。確かに、 電力利用者が負担を負わされる前に、債権者や株主が負うべきだという意見もあろう。しかし、債権放棄や減資に伴う金融秩序の混乱を通じて、 わが国の金融市場というインフラを部分的に破壊してでも電力利用者を守る価値があるか、と考えれば、 電力利用者に多少なりとも負担を求めて金融市場や秩序を守る方が重要だと考える。
 したがって、債権放棄や減資は、最初から想定するのではなく、 賠償総額が電力会社のリストラや電力料金引上げだけでは財源が十分に賄えない場合に行うという、 条件付きのスキームとして構えておくべきである。そうすることで、株主や債権者は、 原発事故の早期収束による恩恵を享受できるインセンティブができ、早期収束に向けて経営者に対し真摯に規律付けようとするだろう。それは、 原発事故被害者、放射能汚染にさいなまれる日本国民や国際社会とも共通した利益となる。
 とはいえ、政府にも損害賠償の財源を負担することが求められるかもしれない。その場合でも、 電力に関係する支出に充てられる財源でありながら、その負担を電力と無関係なものに求めることは、政治的に理解が得られないかもしれない。 こうした負担をまずは電力関連のものに求めるとなると、電源開発促進税で賄うという方策が考えられる。 しかも東日本での電力供給復旧や原発事故の損害賠償のための財源を、西日本に住む国民にまでいきなり負担を課すべきではないから、 電力会社を限定した電源開発促進税の増税が考えられる。
 復興財源のための増税は言語道断という意見が出ているが、 いずれかの時点での誰かの追加的負担を強いずに復興財源が確保できるはずはありえない。一時的に国債を増発するとしても、 震災復興を財政に依存すればするほど増税は不可避である。むしろ経済学の視点からは、現時点だけでなく異時点間で見ても、 いかに経済活動を歪めないようにその税負担を確保するかという見方が有用であると考える。









土居 丈朗(どい・たけろう) 慶応義塾大学経済学部教授
大阪大学経済学部卒。1999年東京大学博士(経済学)取得。
専攻は公共経済学、財政学。2009年より現職。
近著に、『日本の税をどう見直すか』(2010年)日本経済新聞出版社、ほか多数。

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解説解題
加藤 裕己(本誌編集主幹)

 本政策レビューにおける各論者の主張は、財政赤字の大きさからこれ以上将来世代に負担を残さないため、消費税と所得税の違いはあるが、復興資金を増税により調達するという点では一致している。
 伊藤氏の問題提起では、復興財源には消費税の税率を3年間で3%引き上げて対処し、その後は税率を更に2%計5%引き上げ社会保障に活用することで、これまでの懸案事項であった社会保障財源問題にも一定の道筋をつけることが提案されている。
 これに対し、森信、土居両氏は、震災復興は一時的な財源需要であることから、臨時の所得税増税によって償還することを主張している。増税での償還対象と する復興資金の範囲については、森信氏はインフラ再建と言っても毀損したストックの再建であり、将来世代のメリットが増加するわけではないため、全ての復 興資金は臨時増税での償還対象とし、現在世代が負担すべきだとの見解を示している。これに対し、土居氏は、インフラ再建は建設公債で、その他の復興資金な どは赤字公債での財源調達と分類した上で、その赤字公債分だけを増税での償還の対象とすることを提案している。
 臨時増税として消費税、所得税のどちらで行うことが適切かについては議論が分かれる。経済効率を損なわず、しかも森信氏の指摘にもあるように十分な資金 調達を行いうる点では消費税が望ましい。しかし、消費税の税率を時限的に変更することで復興財源とすることは、技術的な問題に加え、引き上げ期間中に消費 の低迷を招きかねない。また、将来消費税を社会保障目的税として活用する場合、臨時増税の終了後に再度税率の引き上げを行うことになり混乱が予想され、消 費税の引き上げ自体を難しくする。この点、伊藤氏の提案は明確であり、当初時点から復興財源のみならず社会保障財源までの道筋をつけるものとなっている。 しかし、社会保障制度改革の議論が進まない中で、社会保障目的税として消費税の税率まで織り込むことは、不確定要素も多いため、震災復興に名を借りた増税 であるとして賛成を得られにくい可能性もあろう。
 所得税では、森信氏の指摘にもあるように税源として規模が小さく、税率の引き上げを長期にわたって維持し続けないと必要資金の調達ができない。増税期間 が長期にわたると、本来の復興資金としての名目が忘れられ、増税した所得税が不明瞭な形で財政再建資金に転用されていく危険性も生じる。また、所得税の税 収不足分を法人税の引き上げで補うという考えもあるが、税率の引き上げは企業の国際競争力に影響するばかりでなく、企業の投資意欲を損ね、復興の妨げとな りかねない。 従って、現在の財政事情やいずれ消費税を社会保障目的税として活用せざるを得ないことを考えると、復興財源として発行した公債の償還には、期間を明確にし たうえで臨時の所得税増税で対処することが適切といえる。また、臨時増税による償還の対象は、すべての必要な復興資金とすべきであろう。
 エコノミストの中には、増税による景気への悪影響を懸念する向きもあるが、伊藤氏が指摘しているように増税を行うといっても同額の歳出増を賄うためであ り、均衡財政の乗数として知られるように乗数は1で歳出増分の効果はある。しかも、被災地では支出性向が高いと想定できるため、乗数はそれよりは大きくな ることが考えられる。
 復興財源を調達することは、調達手段に免罪符を与えるものではない。将来的に負担をこれ以上増やしたり、長期的に大きなリスクを負う可能性がある財源調達手段の採用は避けなくてはならない。

加藤裕己(かとう・ひろみ)
1974年東京大学経済学部卒。経済企画庁入庁。経済社会総合研究所総括政策研究官、内閣府官房審議官(経済財政分析担当)、日本エネルギー経済研究所理 事を経て、2006年より東京経済大学経済学部教授、現在に至る。2006年より本誌編集主幹。著作に『日本経済読本』(共編著)[2007]東洋経済新 報社、等。

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