はじめに

公を自らの問題と考える

 トランプ米大統領の誕生やイギリスのEU脱退にみられるように、市場経済を正当化してきた個人主義が、市場経済の中で膨張し、行き詰まりを生んでいます。本来、自己は、他者との関係で成り立ち、社会に関わらないと何ら意味を持たない存在です。自らの中に公を位置付け直し、日本が直面する課題を自分の問題と考えることが必要となっています。
 本書は、現代社会を取り巻く課題に、五人ずつの識者を選んでインタビューを行ない、一人当たり一頁、八〇〇字程度の短い文章にまとめたものです。識者の意見には、独自の見解、経験、そして価値観の違いが映し出され、一つひとつが深い洞察に満ちています。読者の皆さんには、多様な意見の存在を知ると同時に、自分なりに考えを膨らませ、思いを巡らしていただきたいと思っています。
 それぞれの章の終わりに、キーワードや年表をみながら、あなたの構想を書き込めるようになっています。是非、「六人目の識者」になってください。

(公財)NIRA総研会長 牛尾治朗(公財)NIRA総研会長
牛尾治朗

目次

PART1

新ビジネスの波

  • CHAPTER01

    FinTechベンチャー発展の条件とは何か

  • CHAPTER02

    民泊到来。望ましい規制のあり方とは何か

  • CHAPTER03

    ITは企業と消費者の関係をどのように変えるのか

PART2

働き方の変革

  • CHAPTER04

    企業組織や人々の働き方はどのように変わっていくのか

  • CHAPTER05

    シニア世代の能力はどうすれば発揮できるのか

PART3

政治への参加

  • CHAPTER6

    21世紀のガバナンスをどのように構想すべきか

  • CHAPTER7

    若者の政治参加を促すために何をすべきか

  • CHAPTER8

    いま、なぜ軽減税率なのか?

  • CHAPTER9

    国民にとって歳出改革の意義は何か

PART4

世界と日本

  • CHAPTER10

    社会に開かれた学術研究を開花させるために何をすべきか

  • CHAPTER11

    EUが安定した地域経済圏となるために何をすべきか

  • CHAPTER12

    中国経済をどうみるのか

書籍抜粋

CHAPTER2

Question

民泊到来。望ましい規制のあり方とは何か

一般住宅を旅行者に貸し出す「民泊」。訪日外国人の増加で需給がひっ迫するホテルを代替するサービスとして、またシェアリングエコノミーの先駆事例として注目が集まるが、現状では民泊をめぐる課題も目立つ。

論点は何か急務となるルール作り

民泊は、情報技術を活用したシェアリングエコノミーの典型例であり、これを推進していくことが必要である。ただ、従来のようなサービス提供者全体に事前に業規制をかける手法では、対応できなくなっている。

翁 百合翁 百合NIRA総研 理事/
日本総合研究所 副理事長

Answer

  • Answer 1

    田邉 泰之

    明確で分かりやすいルールの下で、やりたい人が簡単に始められることが重要だ

    田邉 泰之Airbnb Japan株式会社 代表取締役

  • Answer 2

    上山 康博

    民泊事業者には実効性あるルールを遵守させ、合法的な民泊を推進していくべきだ

    上山 康博株式会社百戦錬磨 代表取締役社長

  • Answer 3

    矢ケ崎 紀子

    民泊・ホテル・旅館の戦略的な住み分けにより、宿泊産業の発展をはかれ

    矢ケ崎 紀子東洋大学国際地域学部 准教授

  • Answer 4

    松村 敏弘

    シェアリングエコノミー促進に
    資する規制改革を

    松村 敏弘東京大学社会科学研究所 教授

  • Answer 5

    安念 潤司

    安全を行政に依存する姿勢から、
    自己責任による取引へと意識改革を

    安念 潤司中央大学法科大学院 教授

CHAPTER4

Question

企業組織や人々の働き方はどのように変わっていくのか

人口減少・高齢化や、グローバリゼーションへの対応。人工知能(AI)の急速な発展・・・事業環境の急速な変化の下、企業組織や人々の働き方はどのように変わっていくのか。

論点は何か働き方改革で競争力強化を
━━ライフステージやライフスタイルは千差万別

働き方改革では、労働時間の量の話に終始せず、生産性向上や稼ぎ方改革についても議論すべきではないか。これからの日本は、アメリカ、中国やアジアの企業とさらに熾烈な競争をしなければならない。多様性の中からこそ新しいアイデアが生まれ、小さな成功やイノベーションが湧き起こる。一人ひとりの個性と変化のあるライフステージに応じた多様な働き方が共存し、選択できる社会を実現することが大切である。

金丸 恭文金丸 恭文NIRA総研 理事長/フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長 グループCEO

Answer

  • Answer 1

    松尾 豊

    AIに強い、二十歳代のプログラマーを「年俸一億円」でプロジェクトの中核に据える

    松尾 豊東京大学大学院工学系研究科 特任准教授

  • Answer 2

    峰岸 真澄

    ミドルマネジメントの仕事改革を突破口に、働く人の「プロ化」が進む

    峰岸 真澄株式会社リクルートホールディングス
    代表取締役社長 兼 CEO

  • Answer 3

    入山 章栄

    イノベーションを起こすため、企業内外でのネットワーク構築が重要に

    入山 章栄早稲田大学ビジネススクール 准教授

  • Answer 4

    出雲 充

    大企業が率先してベンチャーを活用するオープンイノベーションが不可欠

    出雲 充株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

  • Answer 5

    御手洗 瑞子

    仕事と趣味の区分が曖昧になる

    御手洗 瑞子株式会社気仙沼ニッティング 代表取締役社長

CHAPTER 6

Question

21世紀のガバナンスをどのように構想すべきか

グローバルな市場経済化の動きを受けて、社会の分断が生じている。多様な人々が行政に積極的に参加し、行政と市民が協働して政策課題の解決を目指すオープンガバナンスの取り組みは重要になる。

論点は何か現代民主主義にとって大きなチャレンジ

「オープンガバナンス」という言葉が広く知られるきっかけになったのは、バラク・オバマが大統領就任の日に示した三つの原則である。オバマによれば、政府に求められているのは、「透明性」、「参加」、そして「協働」である。この原則の下、単に政府の情報が公開されるだけでなく、利用可能なデータとして提供されることで、市民自らが現状の分析や政策課題の提案をしていくことがポイントである。

宇野 重規宇野 重規NIRA総研 理事/
東京大学社会科学研究所 教授

Answer

  • Answer 1

    奥村 裕一

    行政と市民の「協働」で
    「新しいデモクラシー」を実現せよ

    奥村 裕一東京大学公共政策大学院 客員教授

  • Answer 2

    犬童 周作

    官民がデータを共用し、
    科学的な政策立案を進めよ

    犬童 周作内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室
    内閣参事官(総括)

  • Answer 3

    関 治之

    自治体は民間人材ITと協働し、
    行政のIT活用を推進せよ

    関 治之一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事

  • Answer 4

    熊谷 俊人

    市民を「経営者」にする
    ━━政策の選択肢をオープンに

    熊谷 俊人千葉県千葉市長

  • Answer 5

    久保田 后子

    新しい「宇部方式」で、データとICTを活用したオープンガバナンスへ

    久保田 后子山口県宇部市長

CHAPTER11

Question

EUが安定した地域経済圏となるために何をすべきか

2015 年、ユーロ経済圏を脅かしたギリシャの債務危機問題は、チプラス政権がEUの財政緊縮案を受け入れたことで、当面の道筋は立った。しかし、ユーロの制度的欠陥が解決されたわけではない。

論点は何かEUは強靱たりうるか

ギリシャの経済危機やブレクジット等を通じて、EUの今後にさまざまな不安要素が語られている。本質的には、通貨の統合が進んだにもかかわらず、財政面では不十分な統合である点や、国の枠を超えて行なえる所得再分配機能に限りがある点は、かなり構造的な問題である。しかし、政治的に可能な範囲で改革は進められていくだろう。その結果生じるEUの変化は、注視しておく必要がある。

柳川 範之NIRA総研 理事/
東京大学大学院経済学研究科 教授

Answer

  • Answer 1

    片上 慶一

    EUは具体的成果を
    加盟国とEU市民に示せ

    片上 慶一外務審議官(経済)/前 欧州連合日本政府代表部 特命全権大使

  • Answer 2

    嘉治 佐保子

    政策リテラシーを磨き、
    民主主義の機能強化を

    嘉治 佐保子慶應義塾大学経済学部 教授

  • Answer 3

    遠藤 乾

    ヨーロッパ大の財政民主主義の難しさ。EUのアイデンティティを醸成できるかがカギに。

    遠藤 乾北海道大学公共政策大学院 副院長

  • Answer 4

    植田 健一

    市場メカニズムを通じた債務の抑制で、財政規律の枠組みを作れ

    植田 健一東京大学大学院経済学研究科 准教授

  • Answer 5

    ユーロ改革には、財政のガバナンス強化と各国の競争力強化が必要だ

    グントラム・B・ヴォルフブリューゲル研究所 所長

中核層へのメッセージ

高野 真/増島 雅和/瀧 俊雄/神田 潤一/ 齋藤 ウィリアム 浩幸/田邉 泰之/上山 康博/矢ケ崎 紀子/松村 敏弘/安念 潤司/井上 哲浩/石黒 不二代/若林 恵/大島 誠/北川 拓也/松尾 豊/峰岸 真澄/入山 章栄/出雲 充/御手洗 瑞子/長田 久雄/原田 悦子/権藤 恭之/藤原 佳典/伊藤 由希子/奥村 裕一/犬童 周作/関 治之/熊谷 俊人/久保田 后子/網谷 龍介/河野 武司/見世 千賀子/ 時田 博機/牧野 百男/マルコ・ファンティーニ/マリー・パロット /ボー・ロススタイン/大竹 文雄/星 岳雄/岩本 康志/宮尾 龍蔵/神野 直彦/浜田 宏一/平島 健司/國領 二郎/倉田 敬子/林 和弘/生貝 直人/小松 正/片上 慶一/嘉治 佐保子/遠藤 乾/植田 健一/グントラム・B・ヴォルフ/大橋 洋治/瀬口 清之/梶谷 懐/ 関 志雄/柯 隆/田中 修

書籍紹介

日本の課題を読み解く わたしの構想Ⅱ

日本の課題を読み解くわたしの構想Ⅱ

NIRA総合研究開発機構 (編)

定価:900円+税 B5判 135ページ
発行年月:2017年3月
ISBN:978-4-7887-1515-8

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