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NIRA政策提言ハイライト

「時間」と「空間」から考える制度設計 

NIRA政策提言ハイライト 2013/6発行

2つの事象が意味するもの
 昨年10月時点の推計人口(総務省)によれば、我が国の老年人口(65歳以上)は、初めて3,000万人の大台を超え、総人口の約4人に1人を占めると同時に、全都道府県で年少人口(15歳未満)を上回った。一方、近年の国政選挙を巡っては、選挙区毎の「一票の格差」問題が顕在化し、一部では、選挙無効の判決まで下されている。
 この2つの事象を換言すれば、前者は、少子高齢化の一層の進行を、後者は、人口の地理的偏在の政治的顕在化を示している。これらの問題は、我が国の社会システム全体の制度設計に対し、「時間」と「空間」を巡る複合的な課題を投げかける。すなわち、時間の経過に従って生ずる人口構造の変化が、地域=空間ごとに様々なバリエーションを伴うことである。時間の問題は、世代間格差をもたらしかねず、空間の問題は、地域間格差に繋がるおそれを孕む。
 本稿では、これまでNIRAが公表してきた複数の研究成果をレビューしながら、「時間」と「空間」の2軸を通じ、社会システムの制度設計を巡る現状と課題を考えてみたい。

「時間」と「空間」から見た制度設計
 まず、「時間」軸から見た問題では、モノグラフ「社会保障制度を通じた世代間利害対立の克服」および報告書「国債に依存した社会保障からの脱却」が、いわゆる「シルバー民主主義」の存在可能性を実証的に示すとともに、社会保障改革の必要性を訴え、国債に過度に依存する危険性を指摘する。社会保障制度の中でも、歴史的経緯や過去の遺産に左右される程度の高い代表格が年金制度である。当然ながら、年金は、決して一時点の制度ではなく、時間的広がりを抱える。また、過去の制度的決定の事後的変更が容易でないという特徴を持つ。政策レビュー「公的年金の世代間公平性を考える」では、年金のそうした属性を踏まえつつも、世代間公平性の視点を組み入れた年金改革の重要性が、複数の識者によって唱えられている。
 他方、高齢化は、「空間」ごとのバリエーションを伴い、空間の属性も変化する(表参照)。ここに、人口構造の時間的変容と、その空間的偏在を複合的に考える必要が生まれる。さらに、一票の格差問題に、事実上、高齢者の多い空間の過剰代表という政治的問題が内在するなら、シルバー民主主義は一層助長され、関連制度改革はますます困難となろう。
 この点、現行制度の改善よりも踏み込んで、世代間格差を政治的に根本から是正する改革手法として注目されているのが、世代を基準とした新たな選挙制度方式である。モノグラフ「ドメイン投票方式はいかに支持されるか」では、親による代理投票を通じ、子供にも間接的に投票権を付与する選挙制度の実現可能性が考察されている。
 空間を巡る別の視点からの研究としては、オピニオンペーパー「復旧・復興に『地力』を生かせ」 や、政策提言ハイライト「行政区分と人々の活動実態とのミスマッチを解消せよ」にて、人々の実際の生活空間と現行の行政区域との齟齬が指摘され、生活空間に沿った行政区分の見直しや、行政の広域連携の必要性が示される。ここに、高齢化する地方都市における医療を核とした都市機能の集積を提言し、その実現策を検討した「まちなか集積医療」の研究成果(報告書「『まちなか集積医療』の提言」や「老いる都市と医療を再生する」等)も加味すれば、自治体の垣根を越え広域的に都市機能や人口の集積を図ることが一層求められることになろう。

再考されるべき、制度設計の「前提」
 制度や政策は、より一般化された形で捉えると、ある目的と、それを達成するための手段の体系として認識することができる。その際、忘れてはならないのは、目的=手段関係の背景には、何らかの「前提」があるということである。
 ここまで概観したように、今日、人口構造や地域のあり方に見られるような「時間」・「空間」を巡る諸前提が揺らぎ、制度や政策に支障が生じている。これまでの制度設計は、無意識にせよ、意図的にせよ、ある一時点にてスナップショットとして切り取った前提を所与として扱い、あるいは、その変化の方向性を楽観的に考えてきた。だが、いまや、そうした前提の捉え方を基礎に制度を設計するのでは心許ない状況にある。そして、既存の諸制度に置かれた諸前提の行く末は、もはや楽観視できない。さらに、空間軸のダイナミズムを多分に考慮する必要に迫られている。社会システムを構成する諸制度を、一種の3Dムービーの如く、時間や空間を背後に抱えるものとして捉えることが一層重要になっていると言えよう。


飯塚 俊太郎 NIRA研究員


<リンク>
社会保障制度を通じた世代間利害対立の克服-シルバー民主主義を超えて-
(NIRAモノグラフシリーズNo.34/2012年7月)

国債に依存した社会保障からの脱却-シルバー民主主義を超えて-
(NIRA研究報告書/2013年2月)

公的年金の世代間公平性を考える
(NIRA政策レビューNo.59/2013年1月)

ドメイン投票方式はいかに支持されるか-政策と政党に関するアンケートから-
(NIRAモノグラフシリーズNo.36/2012年10月)

復旧・復興に『地力』を生かせ
(NIRAオピニオンペーパーNo.2/2011年6月)

行政区分と人々の活動実態とのミスマッチを解消せよ
(NIRA政策提言ハイライト/2012年6月)

『まちなか集積医療』の提言-医療は地域が解決する-
(NIRA研究報告書/2010年3月)

老いる都市と医療を再生する-まちなか集積医療の実現策の提示-
(NIRA研究報告書/2012年1月)

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