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NIRA政策提言ハイライト

規制改革の手段としての行政訴訟

NIRA政策提言ハイライト 2013/8発行

 一般用医薬品のうち、第1類・第2類医薬品は店舗において対面で販売・授与しなければならないなどとする改正薬事法施行規則の適法性について、最高裁判所の判決が今年(2013年)1月11日に出された。すなわち、インターネットではこれらの医薬品を販売できないため、事業者が薬事法に違反するのではないかと訴えたのである。これに対して、裁判所は、結論として、新薬事法の趣旨に合わずに違法なもので無効と判示している。

 この判決は、医薬品のネット販売の解禁に道を拓くものとして、折からの国の規制改革の動きとも重なり、大きな反響をよんだ。その後、厚生労働省は、判決の趣旨に従って必要な対応をとることを表明している(厚生労働大臣「医薬品のインターネット販売訴訟(最高裁判決)に対する談話」同日付)。

 NIRAでは、わが国の経済が復活し飛躍するためには、規制改革が重要であることを度々指摘している。近年のものとしては、例えば、星岳雄教授、アニル・K・カシャップ教授による一連の研究がある。研究報告書「何が日本の経済成長を止めたのか?」(2011年1月)では、「『改革があるところ成長あり』という積極的なメッセージのもと、成長につながる改革に全力を注ぐべき」などと、マクロ経済の成長における規制改革の意義について論じている。

 規制改革を進める手法の一つとして、裁判所での訴訟を活用することが想定されるが、海外とは異なり、わが国ではそうしたケースはさほど多くはない。その理由はいくつか考えられるが、まず一つは、わが国では、行政が法律にもとづいて処分を行うとき、法律の要件を充たしているかの判断を第一次的には行政が行っている。そして、仮にこれを違法と考える国民がいれば、後から訴訟を起こす、というシステムがそれに関係する。先の改正薬事法施行規則のケースは、この法律の要件を解釈するにあたり、規制の見直しに慎重であった行政の姿勢が反映された結果とも考えられる。

 もう一つは、「誰が行政訴訟を起こすことができるか」という問題である。すなわち、行政訴訟の目的は、行政活動の適法性一般を維持することではなく、違法な行政活動が行われて国民の権利が侵害されたときに、被害者にその具体的な救済を与えることにある。その結果、国民が行政訴訟を起こすとき、そもそも訴える資格があるのかが争われてきた。議論の詳細は省くが、例えば、公衆浴場を開業していたAが、公衆浴場法などが定める設置基準(公衆浴場間の距離制限)に違反してBに新規開業が許可されて営業上の利益を侵害されたとするときの訴えは認められるが(最高裁昭和37年(1962年)1月19日判決)、私鉄の特急料金の値上げ認可は、旧地方鉄道法が鉄道利用者の具体的な利益を保護するとは定めていないことから、鉄道利用者は利益を侵害されているわけではなく、その訴えは認められない(行政不服審査法に関する最高裁平成元年(1989年)4月13日判決)などとされてきた。

 だが、平成17年(2005年)に改正行政事件訴訟法が施行され、その後のいくつかの裁判例などに照らすと、現在は、「国民の権利利益の実効的確保に資する機能を果たしつつある」とも評されている(塩野宏『行政法Ⅱ』140頁(有斐閣,第5版補訂版,2013年))。規制改革との関連で、現在の行政訴訟制度のもと、今後どのような事例が積み重ねられていくかが注目される。

斉藤徹史 主任研究員

<リンク>
・「何が日本経済の成長を止めたのかー再生への処方箋
 星岳雄、アニル・K・カシャップ著、日本経済新聞出版社刊、2013年1月

・「日本再生のための処方箋」(NIRA研究報告書、2012年6月)

・「何が日本の経済成長を止めたのか?」(NIRA研究報告書/2011年1月)

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