北島あゆみ
NIRA総合研究開発機構 研究コーディネーター・研究員

 「改正高年齢者雇用安定法」により、70歳まで就業を確保することが努力義務として追加された。高齢者が能力を発揮し活躍できる環境整備がより重要となるが、高齢者に適性があると評価される職業分野に、高齢者がうまく配置されていないミスマッチが指摘されている。ミスマッチ解消には、雇用者が自社仕事の職務特性と、高齢者の能力や特性を適切に見極めることと、職業の見える化が鍵となる。ミスマッチを解消することは、高齢者を含め多様な人々が活躍できる環境づくりにつながるだろう。

INDEX

個々の特性・ニーズを踏まえた就業機会の確保

 「改正高年齢者雇用安定法」が2021年4月1日に施行され、70歳まで就業を確保することが、雇用者の努力義務として追加された。改正の趣旨は、少子高齢化と人口減少が進む中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある高齢者が能力を十分に発揮できる環境を整備する必要があり、雇用者に対し、高齢者個々の多様な特性やニーズを踏まえ、70歳まで就業機会を確保することを努力義務とするというものだ(注1)。65歳以上の就業率は、60歳未満の定年廃止と65歳までの雇用確保措置が義務付けられた2013年の20.1%から、2020年には25.1%に上昇している(注2)。今後もさらに就業数が伸びるものと思われ、高齢者が能力を発揮しながら、生き生きと働き続けられる環境づくりがますます重要になっていく。

高齢者の就業に存在するミスマッチ

 高齢者が能力を発揮できる環境づくりには、上述の趣旨のとおり、個々の労働者の多様な特性やニーズを踏まえて就業機会を確保することが必要だ。しかし、モノグラフNo.40「職業特性と高齢者特性ー現役世代への意識調査から見えてくるものー」は、高齢者に雇用環境があっても、様々なミスマッチが存在し、高齢者の能力や特性がうまく生かされていない状況を示している。アンケート調査と分析の結果、図が示しているように、例えば「組織内外の人と協力や交渉をすること」(協力・交渉)など高齢者への期待が高い「職務活動」は、その重要性が高い職業ほど高齢就業者の比率が低い(管理的職業従事者を除く)。

図 高齢者評価の高い職務活動「協力・交渉」の重要度と高齢就業者の構成比(職業別)

出所)伊藤由希子・西山裕也(2016)「職業特性と高齢者特性―現役世代への意識調査から見えてくるもの―」NIRAモノグラフシリーズNo.40

 一方で「肉体的負荷のかかる運動」など、高齢者への期待が低い職務活動をみると、その職務の重要度が高い職業ほど、高齢就業者の比率が高くなる傾向があり、高齢者の就業は「得意」な職務よりも「不得意」に偏るというミスマッチが確認されている。人柄や個性のほか、高齢者の優位性が示されそうな経験や知識の項目においても、同様のミスマッチが示されている。

職務特性と能力の適切な判断と職業スキルの「見える化」が鍵

 前掲の「職業特性と高齢者特性」で示された経験や知識におけるミスマッチについては、そもそも現役の就業者の間で、経験や知識が全般的に軽視されていたことが分かっている。それは、専門知識や経験の重要性が組織内で明確に評価されていないことを示唆し、雇用者側が高齢者の有する潜在的価値を認識できないということにつながっていると言える。雇用者側は、経験や知識の重要性を含め、職務特性を正確に認識することが必要である。また、高齢者の能力を判断する際、前掲の「シニア世代の能力を生かせ」で長田久雄氏が述べているように、体や心の老化への正しい理解は欠かせない。能力が高くても、誰しも体力の低下や視力の衰えからは逃れられないため、特性や能力の評価時だけでなく、職場の環境づくりなどにおいても配慮する必要がある。

 雇用者側が適切に自社仕事の職務特性および高齢者の能力を判断することと併せ、伊藤由希子氏はわたしの構想No.20「シニア世代の能力を生かせ」の中で、職業スキルの「見える化」が重要だと指摘し、米労働省が構築している職業データベースO*NETの取り組みを紹介している。O*NETでは各職業の職務特性が詳細に示され、さらに複数の職業で類似して求められるスキルを知ることができるなど、求職者の可能性を広げることに貢献している。日本版O*NETも2020年に立ち上がっており、うまく活用されることが期待される。

 高齢者自身も、市場のニーズを把握し、自分の能力を雇用者に対して見える化することが必要だが、時代によって仕事で求められる能力は異なり、特に近年は産業構造、業務も働き方も急速に多様化しているため、キャリアサポートや学び直しの場を積極的に活用することも重要である。国としても、そうしたサポートをより充実させることが必須だ。

 職務特性と個人の能力や特性が適切に評価され、それに対し雇用される側がクリアな指標を以て応じられる状況は、世代だけでなく、性差、国籍の違いを乗り越え、多様な人々が活躍できる環境をつくることにつながり、だれにとってもプラスであるはずだ。

参考文献

伊藤由希子・西山裕也(2016)「職業特性と高齢者特性―現役世代への意識調査から見えてくるもの―」NIRAモノグラフシリーズNo.40
NIRA総合研究開発機構(2016)「シニア世代の能力を生かせ」わたしの構想No.20

脚注
1 厚生労働省(2021)「70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)(令和3年4月1日施行)」
2 総務省統計局(2021)「労働力調査長期時系列データ,(3)年齢階級(5歳階級)別就業者数及び就業率-全国」(2021/11/24取得)

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