シンポジウム・レクチャーのロゴ

レクチャー

米国財政再建における議会の役割と制度


中林美恵子 氏

独立行政法人 経済産業研究所 研究員
中林美恵子 氏

 NIRAでは、5月7日、経済産業研究所研究員の中林美恵子氏を迎えて、レクチャーを開催した。同氏は、2002年3月まで米国上院予算委員会のスタッフの職にあり、1990年代後半に実現した米国連邦財政の赤字解消に至る実像を、予算策定過程の内側から見てこられた方である。

 中林氏は、米国議会の機能の仕方を、当事者ならではの具体性をもって説明するとともに、米国の予算編成過程について多くの指摘を行った。日本との違いが目立つのは、以下の諸点である。

米国の予算策定は議会主導
 第1に、米国では、予算は議会の主導により作成されることである。日本の財務省主計局に相当する機関もなければ、包括的な「予算案」といい得るものもない。大統領の予算教書も勧告であって、多くのスタッフを抱えるそれぞれの委員会と個々の議員が、議会としての判断で予算を構築していく。大統領の政党が議会の多数党であっても、この構図は基本的には変わらない。

財政再建のための予算編成過程の構築
 第2は、米国では、1980年代以来の財政再建への継続的な努力が、近年になって実を結んだことである。ここ数年こそ、米国経済の強さが目立っているが、80年代、90年代の米国経済の歩んだ道は決して平坦ではなかった。80年代は、インフレと米国産業の競争力の停滞が米国を覆った。財政赤字と経常収支の赤字(=マクロベースの貯蓄不足)は、「双子の赤字」と呼ばれ、世界経済のかく乱要因とも言われた。80年代後半には、不動産などのバブルが生じ、累積した不良債権は90年代にかけて金融不安をもたらした。中小金融機関の破綻が相次ぎ、大手金融機関も多くの困難に直面し、その後も数年間の経済停滞があった。

 こうした環境下で、米国は、財政健全化のための予算編成過程上の工夫を凝らした。早くも1980年代前半にレーガン大統領時代の減税を修正し、80年代半ばには財政赤字を直接コントロールする法律もできた。この法律は機能不全に陥ったが、90年の予算執行法に至って、議会の予算策定のやり方自体を、財政バランスが悪化しないようなものに変えてしまうことに成功した。そして、こうした予算策定のプロセスにおける規律が、財政赤字が課題であった97年までは、ともかくも保たれたのである。

二大政党が財政再建支持
 第3は、財政再建が、民主党、共和党のいずれにおいても、政治目標であり続けたことである。このことは、有権者のトータルとしての意向が財政再建に傾斜していたことを示すものといえよう。もとより米国にも利益誘導は存在するが、その一方で、共和党のブッシュ大統領(父)は増税に踏み切り、民主党のクリントン大統領も米国景気が好況を謳歌(おうか)する前の1993年に、財政再建に向け大きな役割を果たした。また、80年代、90年代を通じて、米国は、失業や企業倒産に悩む時期を経験しているにもかかわらず、財政支出を拡大してその対策とするというアプローチを取らなかった。この間、米国のシンクタンクなどは、財政の先行きを国民にいかに伝達するかを競い合っていた。

黒字化と財政規律の後退
 では、米国民は骨の髄まで健全財政を信奉しているかといえば、1998年に財政黒字に転じて以降、米国の財政規律はやはり弛緩(しかん)しているようである。90年代に構築された予算編成過程上の工夫としての諸制度も、形骸化しつつあるといわれている。

 日本では、マクロ的な貯蓄超過と資金需要の乏しいデフレの環境下、低利での国債消化も順調であるなど、目に見える財政破綻という段階には至っていない。しかし、長期的に見て財政がわが国の抱える大問題であることは事実である。

 この問題をいかに日本国民が広く認識し、解決していくか、米国の経験に学ぶところは少なくないであろう。


NIRAのロゴ総合研究開発機構(NIRA)
のトップページへ
[戻る]

Copyright (c) National Institute for Research Advancement (NIRA)
Copyright (c) 総合研究開発機構(NIRA)