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わたしの構想

米中対立をどうみるか

わたしの構想No.41 2019/4発行
識者:待鳥聡史(京都大学大学院法学研究科 教授)、中西 寛(京都大学大学院法学研究科 教授)、川島 真(東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻 教授、細川昌彦(中部大学 特任教授)、マーティン・ウルフ(英フィナンシャル・タイムズ チーフ・エコノミクス・コメンテーター)
*原稿掲載順
企画:翁 百合(NIRA総研 理事、日本総合研究所 理事長)

米中対立をどうみるか
トランプ政権の米国第一主義をきっかけに始まった米中の貿易戦争。二〇一九年春に首脳会談が予定され交渉の進展が期待されるものの、米中の覇権争いは当面続くとされる。
米中の対立は、戦後の世界の秩序を大きく変える可能性をはらむ。米中の対立の本質をどうみるべきか。戦後の平和と自由貿易を前提に繁栄を享受してきた日本は、今後どのように対応すべきか。経済面のみならず、安全保障上のスタンスを含めて議論を深めることが求められている。

 わたしの構想No.41「米中対立をどうみるか」PDF    ■ 英文版PDF

 企画に当たって
翁 百合(NIRA総研 理事、日本総合研究所 理事長)
「米中対立の本質は何か ―日本は新しい国際秩序に対応する覚悟を」

Keywords……………構造問題の交渉前進、長く根深く続く対立、新しい国際秩序、複眼的視点

 識者に問う
「米中対立をどうみるか」

米中対立の本質をどうみるべきか。
日本はどう対応すべきか。

1 待鳥聡史 京都大学大学院法学研究科 教授
  「「米中対立は国内事情の帰結」
  Keywords……国際協調に後ろ向きな米国、共産党統治異議を恐れる中国、日本の中長期的リスク・望ましい国際秩序

2 中西 寛 京都大学大学院法学研究科 教授
  「「西側諸国はリベラル・デモクラシーの魅力を高めよ」
  Keywords……西欧のリベラル・デモクラシーと中国の皇帝独裁制、途上国支配者に魅力のテクノロジー独裁、自由や寛容精神を埋め込む

3 川島 真 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻 教授
  「「新しい国際秩序を目指す中国・米中対立、日本は「アジアの国」として認識を深めよう」
  Keywords……民主主義に基づかない国際秩序空間、先進国の幻想、時代の転換点、日本の切迫した状況

4 細川昌彦 中部大学 特任教授
  「「これからは安全保障の視点からの経営判断の時代」
  Keywords……ファーウェイ問題、対中国警戒心が通奏低音に、中国への注文外交、鍵となるヨーロッパ

5 マーティン・ウルフ 英フィナンシャル・タイムズ チーフ・エコノミクス・コメンテーター
  「「二つの体制が存在する世界」
  Keywords……中国は敵であり友、中国との競争と協調、守るべきは西側の自由

インタビュー実施:2019 年1 月~2月
インタビュー:神田玲子(NIRA 総研理事・研究調査部長)
川本茉莉(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

待鳥聡史氏
西山隆行〔2018〕『アメリカ政治入門』東京大学出版会

中西 寛氏
宮崎市定〔1996〕『雍正帝―中国の独裁君主』中公文庫

川島 真氏
川島真〔2017〕『中国のフロンティア―揺れ動く境界から考える』岩波新書

細川昌彦氏
『細川昌彦の「深層・世界のパワーゲーム」』
日経ビジネス電子版で連載中

マーティン・ウルフ氏
Martin Wolf〔2014〕The Shifts and the Shocks : What We've Learned?and Have Still to Learn?from the Financial Crisis, Penguin Press

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 企画に当たって

翁 百合(NIRA総研 理事、日本総合研究所 理事長)
「米中対立の本質は何か ―日本は新しい国際秩序に対応する覚悟を」

市場は貿易交渉の進展を期待
 米国トランプ大統領は二月下旬、中国との閣僚級の貿易交渉で、重要な構造問題をめぐり進展があったとして、三月二日に予定されていた中国製品の関税引き上げ(一〇%→二五%)を延期すると表明した。米国と中国は昨夏以来相次いで相互に対象品目を設定し、関税の引き上げを実施してきており、対象品目が電気機器など二五〇〇億ドルとGDPの二%を占める中国経済はもとより、グローバルなサプライチェーンも次第に影響を受けつつある。さらに、交渉項目は、単なる貿易関税の引き上げのみならず、非関税障壁、知的財産権保護、技術移転などさまざまな分野にわたっている。関税引き上げ延期の報を受け、この交渉の行方を固唾をのんで見守ってきた金融市場関係者などからは、今後の両国の構造問題交渉の前進が見込まれると安堵が広がり、世界的に株価も安定的に推移している。
 それでは二〇一九年春に予定されているという米中首脳会談で、米中関係の悪化は解決できるのだろうか。この答えを探るためには、トランプ大統領が着任して以降次第に明らかになってきた米国と中国の対立の背景をひもとき、両国関係の今後を考えねばならない。今回の『わたしの構想』では米中関係の悪化の背景と今後の展望、また日本のとるべき進路などについて識者の方々に伺った。

二つの体制の対立にIT競争が加わる
 米中対立の背景について、両国の長年の国内事情の帰結であると指摘しているのが、京都大学の待鳥聡史教授である。すなわち、米国では、第二次大戦後長い間、国際協調や安定のためのコスト負担を受け入れてきたことに対して国民の批判的な空気が強まっている。一方で、中国では国内に大きな格差が存在し、国民の不満が共産党統治に対する異議に引火することを恐れており、双方とも国際協調のためのコストを負担できない譲れない国内事情を抱えていると指摘する。戦後の国際秩序全体の性格が大きく変化しつつあることを認識すれば、こうした摩擦がトランプ政権固有の短期的なものという見方は間違っているという主張は説得力がある。
 両国の根本的な体制の対立があることに加えて、京都大学の中西寛教授は、IT技術の分野での新しい競争が加わったという重要な視点を提供している。すなわち、IT技術を共産党支配の政治の安定のために使うことに自信をもち始めた中国政府がこれを手放すことは困難としており、現在起こっていることは、西欧のリベラル・デモクラシーの政治体制と中国が千年かけてつくってきた皇帝独裁制という、二つの体制が、二一世紀型のテクノロジーを用いて競争している構図にある、としている。米国にとって、「中国製造2025」で掲げられた5G、人工知能といった中国のテクノロジーが国防レベルの脅威となっていることはこの問題の根深さを考えさせるものである。

「非民主主義国家」中国に、どう向き合うべきなのか
 こうした米中の対立が長く続く根深いものであるという見方は識者に共通するものである。それでは、日本政府、日本企業は今後どのように対応すべきだろうか。この点、東京大学川島真教授は、日本は、中国が民主主義に基づかない中国経済圏を一帯一路などの政策で形成している現実を直視すべきと警告する。すなわち、西側先進国は、途上国の経済は発展すれば自由や民主主義を選ぶといった幻想のもと対外援助をしてきたが、結局日本は援助する対象国の実情に沿う魅力的なオファーをしてきていないと指摘する。アジアの中の日本として、中国との関係性をどう築くのか、危機感をもって考える必要があるとの指摘は、米国の今回の対応の本気度との比較の上でも、われわれに多くの気づきを与えてくれる。
 元経済産業省で貿易交渉などに携わっていた中部大学の細川昌彦教授は、米国政府がファーウェイなどのサプライチェーンの途絶を進めてくる以上、多くの日本企業が影響を受けるはずであり、安全保障の視点での保険の掛け方が企業経営者に問われているという重要な視点を提供している。さらに、日本政府としては国際的な秩序を最重視する基本スタンスを貫き、むしろ戦略的に欧州を巻き込んで連携しながら、米国とは異なるアプローチで中国の軌道修正を図ることを考えるべきと指摘する。
 今回唯一の海外、しかも欧州の有識者であるフィナンシャルタイムズ・チーフ・エコノミクス・コメンテーターのマーティン・ウルフ氏の見方は、新たな冷戦ともいえる米中対立であるが、西側諸国がイデオロギー上の脅威と考える点では中国は敵であるが、中国が世界経済に組み込まれているという点では、友である、としている。さらに、西側先進国は、中国の西側先進国の市場に対する依存が中国に対する米国の依存よりはるかに大きく、さらに、自由、民主主義、法の支配というイデオロギーは魅力的であることを認識する必要があり、米国が同盟のネットワークを維持し共通の価値を見いだしながら、中国に改革を促していくことを提案している。強大になる中国と競争と協調を組み合わせて対立に持ち込まないことの重大性を強調している点が参考になるといえるだろう。
 識者の指摘する今後の日本がとるべき道についての提言は、力点は少しずつ異なるように思われる。しかし、日本が複眼的な視点でこの米中対立の背景を見極めながら、緊張感をもって新しい国際秩序に対応していく覚悟が必要という点は共通している。

翁 百合(おきな・ゆり)
NIRA総合研究開発機構理事。日本総合研究所理事長。京都大学博士(経済学)。経済産業省産業構造審議会委員他、公職も多数。

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 識者に問う
米中対立の本質をどうみるべきか。
日本はどう対応すべきか。

1 待鳥聡史 京都大学大学院法学研究科 教授
「米中対立は国内事情の帰結」


 米中の対立は、両国の国内事情の帰結と考えるべきだ。第二次大戦後、米国は長い間、世界経済や安全保障の安定のためのコストを負担してきた。当初は米国が単独で、一九七〇年代からは先進国が協調して負担を分け合い、国際秩序の形成にコミットしてきた。しかし、近年は米国内で、国際協調や安定のための負担を引き受けることに批判的な空気が強まり、積極的な関与に後ろ向きになった。その流れの中で誕生したのがトランプ政権だ。一方の中国では、国内に無視できない格差が存在し、国民は不満を抱えている。それが膨れ上がり、共産党の統治に対する異議に引火することを、政権は恐れている。中国に貿易収支を改善して国際協調のコストを吸収する余地は乏しいだろう。
 両国とも、国際協調のためのコストを負担できない国内事情があり、それが対立を激化させる要因となっている。知的財産権(知財)や安全保障の領域でも存在感を高める中国を、米国は封じ込めたいと考えているが、中国の側も譲れない。中国社会は少子高齢化が急速に進んでおり、先進国型の産業構造に転換しないと成長を維持することは難しい。知財や技術覇権はその手段だが、米国にとっても重要だ。安全保障面での緊張緩和はあっても、対立そのものは日常化して長く続く可能性が高いと考えるべきだろう。
 日本は、トランプや習近平といった指導者の動向や、彼らとの関係に目を向けすぎている。個々の政権固有の短期的な要因に偏りすぎず、構造的な問題や国際秩序全体の性質変化といった長期的な要因も考慮しながら、複眼的に考える必要がある。一方で日本の社会は、二〇二〇年代には厳しい時期に入る。そのとき、どのような国際秩序や社会経済構造が日本にとって望ましいのか、明確な考えをもっていなければ、周囲の国々に翻弄され衰退する恐れがある。今の日本には、政策をめぐる議論が乏しいのは気になる。長期政権が続き、それに対するオルタナティブが十分に提示されず、政策的な緊張感が乏しくなっている。国際的にも国内的にも楽観できない状況は続くため、もっと中長期的なリスクに対する意識を国民が共有することが必要だ。

待鳥聡史(まちどり・さとし)
政治学者。専門は比較政治。研究テーマは、制度比較、また時系列比較を通じた、政党間関係や執政部・議会関係の分析。現代の日本政治と米国政治を主な研究対象としており、著書・寄稿も多数。博士(法学)(京都大学)。近著に、『民主主義にとって政党とは何か―対立軸なき時代を考える』(ミネルヴァ書房、二〇一八年)、『アメリカ大統領制の現在―権限の弱さをどう乗り越えるか』(NHKブックス、二〇一六年)他。

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米中対立の本質をどうみるべきか。
日本はどう対応すべきか。

2 中西 寛 京都大学大学院法学研究科 教授
「西側諸国はリベラル・デモクラシーの魅力を高めよ」

 二〇一八年一〇月四日のペンス米副大統領の演説が示すように、今回の米中対立は、貿易や技術にとどまらない問題だ。ファーウェイが狙っている5G、あるいは人工知能のような基幹テクノロジーの分野で、中国は支配的な立場を築きつつあり、米国にとって中国は、経済・技術上の競争相手にとどまらず、国防レベルでの脅威になりつつある。
 一方で、中国の現体制にとって、IT技術は、対外競争力の問題だけでなく、むしろ国内統治手段としての意味が大きい。中国は宋の時代から、全ての権力を皇帝に集中する皇帝独裁制を発展させ、国家を安定させてきた。改革開放下で経済発展を統治の正当性としてきた共産党も、成長率の低下に伴って皇帝独裁制の伝統に戻りつつあるようだ。習近平体制は、最新の情報管理技術によって国民に安全を提供すると同時に、かつての皇帝独裁制をも越えた国内統制の実現を図っているようだ。だとするとIT技術の支配を中国が手放すことは困難だ。
 言い換えれば、今回の米中対立の根底には、西欧のリベラル・デモクラシーの政治体制と、中国が千年かけてつくってきた皇帝独裁制という二つの体制が、二一世紀型のテクノロジーを用いて競争している図式がある。中国は技術力で自信をもっているため、両者の対立が相当長期間に及ぶ可能性は高い。
 中国型のテクノロジー独裁は一部の途上国の支配者にとって魅力的であり、こうした国は中国の影響力を受け入れやすい。日本を含めた西側諸国が冷戦後に途上国や体制移行国に形式的な自由民主主義の導入を急いだことに無理があったし、リーマンショック以降、西側先進国でも民主主義への懐疑や幻滅が広がっていることも中国の魅力を後押ししている。西側は中国の国内体制の独裁化や国際的な影響力の浸透に対抗し、西側の価値観を受け入れるよう圧力をかける必要がある。同時に、世界に対して形式的な自由民主主義制度を押しつけるのではなく、自由や寛容精神を多様な文明に基づく社会へ埋め込む(embed)ことを優先し、また情報テクノロジーがもたらす課題に率先して取り組むことで自らの体制の魅力を示すことに注力すべきだ。

中西 寛(なかにし・ひろし)
国際政治学者。主要研究テーマは、二〇世紀国際政治および国際政治学の歴史的研究、戦後アジア・太平洋地域の国際関係史、日本外交および安全保障政策。第二次安倍内閣「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」委員、「新日中友好二一世紀委員会」委員等の公職も歴任。京都大学法学修士。近著に、『提言日米同盟を組み直す―東アジアリスクと安全保障改革』(共著、日本経済新聞出版社、二〇一七年)他。

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米中対立の本質をどうみるべきか。
日本はどう対応すべきか。

3 川島 真 東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻 教授
「新しい国際秩序を目指す中国・米中対立、日本は「アジアの国」として認識を深めよう」

 テクノロジーを制し、圧倒的に優位にある経済力や軍事力を使って、世界の富を集めてきた西側先進国。今やそれが、中国に技術覇権が移り、次の産業革命を興すのは中国などの非民主主義国家ではないか、米国から中国への覇権交代が生じるのではないか、との危機感が高まっている。米国のペンス副大統領の軍事・安全保障や人権問題を含めた幅広い中国批判はまさにそれを示す。
 今、世界では、経済発展しても民主化しない国が増え、そのグループの中心に中国が座ろうとしている。また、中国は、一帯一路で西方に進み、先進国が存在しないユーラシアからアフリカに至る地域で道路、鉄道などのインフラ投資や、衛星・通信技術など国際公共財の提供を進め、一つの経済圏を形成しつつある。そこで中国は、民主主義に基づかない国際秩序の空間をつくろうとしている。
 日本を含めた西側先進国が自分たちの価値観を守りたいなら、まず、経済が発展すれば自由や民主主義が育まれていくはずだ、という先進国の考えを、途上国が当然理解しているはずだ、という幻想を捨てることだ。先進国がこれまで途上国の民主化を促すことを前提に実施してきた対外援助にしても、中国は民主化を求めない。現在、アフリカやアジアの国は、支援を受ける際に西側諸国ではなく、中国を選ぶ局面が目立つ。中国は、援助する対象国の実情に沿う魅力的なオファーをし、かつ即決で、民主化などの条件もつけない。
 今の日本に、現在が時代の転換点にあるかもしれない、という危機感があるだろうか。米国は中国に対して本気で対峙しようとしている。ただ、日本が欧米と同じであるべき、というのではない。G7中唯一、東アジアに位置する日本は、中国の影響を強く受け、関係も深い。それだけに、欧米の対中政策と完全に一致すると、アジアで孤立しかねない。そもそも、ファーウェイなどで中国企業に敏感な米国が中国との技術面での取引を断つよう日本に迫った場合、以前のココムのような事態になる。サプライチェーンで中国と結びつく日本はどう対応するのか。また、地政学上の安全保障にしても、中国が重要な役割を果たす台湾や朝鮮半島情勢がどうなるのか。日本は、自国が切迫した状況に置かれていることを認識すべきだ。

川島 真(かわしま・しん)
政治学者・歴史学者。専門は東アジア政治、政治外交史。世界平和研究所上席研究員等も兼務。内閣府国家安全保障局顧問など、国際政治や外交に関わる公職を歴任。日本現代中国学会理事。北京日本学研究センター他、中国での在外研究も多い。博士(文学)(東京大学)。著書『中国近代外交の形成』(名古屋大学出版会、二〇〇四年)でサントリー学芸賞を受賞。『21世紀の「中華」―習近平中国と東アジア』(中央公論新社、二〇一六年)他、著書多数。

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米中対立の本質をどうみるべきか。
日本はどう対応すべきか。

4 細川昌彦 中部大学 特任教授
「これからは安全保障の視点からの経営判断の時代」

 安全保障と経済が別問題であった時代から、安全保障が経済に入り込んでいく時代に変わった。日本の経営者は、この大きな変化を見極めなければいけない。例えば、ファーウェイ問題。米国は、ファーウェイを輸出管理で禁輸の対象にする可能性が出てきた。「買わない」「使わない」という製品の締め出しだけでなく、「売らない」「作らせない」というサプライチェーンの途絶だ。そうなったときに、ファーウェイに部品を供給している数多くの日本企業は、苦渋の選択を迫られることになる。中国から撤退しろ、ということではない。分野ごとに判断して、安全保障上センシティブな分野では、いわば「保険」をかけていく。これが経営者に今問われているポイントだ。
 中国への警戒心は、かなり前からワシントン全体で共有されており、「通奏低音」として響き続けている。一方でトランプ大統領の動きは別の動きで、いわば表面的な「主旋律」にすぎない。関税での合意があったとしてもそれは小休止であり、「通奏低音」には影響がない。
 日本政府は、こうした本質的な動きを見極めながら、日中関係が良好なこの機会を生かし、「注文外交」を進めていくべきだ。米国がとる制裁という圧力が唯一の方法ではない。中国は共産党統治を揺るがすことは拒否するだろうが、そうでない範囲で注文をつけ、徐々に軌道修正させていくべきだろう。例えば、一帯一路のインフラ整備で中国は、自国の規格の採用を義務付け、中国製品を使わざるを得ないように仕向けており、最終的にはその国のデータまで中国が入手する恐れもある。そうした歪みを修正させていくために中国に「注文」していくべきだろう。
 皆、米中ばかりに注目しているが、日本にとって鍵となるのはヨーロッパだ。トランプ大統領が関税制裁をかざして暴走する中で、米国を国際秩序につなぎとめる意味でも、ヨーロッパとの連携は欠かせない。日米の二国間関係では、日本は圧倒的に弱いため、米国をけん制する上でも日欧連携は重要だ。日米欧が連携して、機能不全であるWTOのルールを作り直し、中国をこの土俵に引っ張り込む仕掛けを作っていく必要がある。日本が国際的な秩序を最重視するという基本スタンスを貫くことだ。秩序が大事といいながら、米国・中国のWTO違反を提訴していないような国は信頼されない。

細川昌彦(ほそかわ・まさひこ)
元経済産業省(旧通商産業省)。現在は大学で経済学の教鞭をとるかたわら、テレビ出演、講演活動や自治体・グローバル企業の顧問、役員も務める。経済産業省では、通商政策局米州課長、貿易経済協力局貿易管理部長等、日米通商交渉の最前線を担当。東京大学法学部卒。経済産業省在職中に、スタンフォード大学客員研究員、ハーバード・ビジネス・スクールAMP修了。著書に、『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(光文社新書、二〇一八年)他。

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米中対立の本質をどうみるべきか。
日本はどう対応すべきか。

5 マーティン・ウルフ 英フィナンシャル・タイムズ チーフ・エコノミクス・コメンテーター
「二つの体制が存在する世界」

 最近起きた三つの出来事は、西側諸国が中国の台頭を警戒し始めたことを示している。中国のテクノロジーの先頭を走るファーウェイを敵視するキャンペーン、ドイツ産業連盟(BDI)が「パートナーであり、体制の競争相手」との、またジョージ・ソロスが「開かれた社会を信頼する人々にとって最も危険な敵」というラベルを中国に付けたことである。明らかに西側は、中国をせいぜい不快なパートナー、最悪で敵対勢力とみなしている。
 新たな「冷戦」が始まったと結論づけるべきか? 西側で中国を、国防、経済、イデオロギー上の脅威と考えている人が多いという意味ではYes。一方、中国はソ連のようにイデオロギーの輸出を行わず、世界経済に組み込まれているという意味ではNoだ。
 正しい道は、中国は「敵であり、友である」と考え、中国との関係を競争的かつ協調的にしていくことだ。その過程の複雑さを受け入れねばならない。米国とその同盟国は、自らが大きな強みをもっていることを認識する必要がある。西側の防衛支出、経済規模や世界輸入に占める割合は、いずれも中国より大きい。すなわち、中国の西側先進国に対する経済的依存は、米国の中国に対する依存よりはるかに大きいのだ。さらに、民主主義国家である西側先進国がもち続ける自由、民主主義、法の支配というイデオロギーは、中国の共産主義より魅力的だ。
 このように、米国が同盟諸国との関係を維持するなら、現在の状況を中国より冷静にみることができるはずだ。中国との相互依存は安定をもたらし、米国が同盟国と共通の目的を見いだせば、ルールに基づく国際貿易システムの中で、中国に改革を促せるだろう。国際協調は、相互依存と同じく不可欠だ。中国との協調なしに、国際環境の管理も、確かな繁栄と平和もありえない。しかし、それは西側が中国の要求を全てのむことではない。真に重要なのは、ソロス氏が示唆したように、中国の新しい「社会信用」システムから、われわれの自由と西側に住む中国人の自由を守ることである。
 新しいグレートパワーが出現し、それに対して、多くの人が世界を抑制のきかない軍事競争の時代に突入させようとしている。必要なのは軍拡ではなく、強大になる中国との競争と協調の組み合わせだ。さもなければ、敵意が深まり、混乱が起こる。分別がある者は誰もそうした事態は望まない。手遅れになる前に、止めねばならない。

マーティン・ウルフ(Martin Wolf)
ジャーナリスト。FT紙のコラムは、幅広い見識と、洞察力に富む鋭い分析力で、金融の専門家のみならず、多くの読者を惹きつけている。二〇〇〇年、金融のジャーナリズムに対する業績で、大英帝国勲章(CBE)叙勲。著書多数。オックスフォード大学経済学MPhil取得後、世界銀行シニアエコノミスト等を経て、一九八七年にフィナンシャル・タイムズ紙へ、一九九六年より現職。

(c) The Financial Times Limited 2019. All Rights Reserved.
The Nippon Institute for Research Advancement (NIRA) is solely responsible for the creation of this edited version of a text that originally appeared in the Financial Times:
Martin Wolf, “The challenge of one world, two systems: Unbridled strategic competition between China and the west would be a disaster,” Financial Times, January 30, 2019.
The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of this edited version of the text.

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?公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、森直子、新井公夫

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