鈴木壮介
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員
前田裕之
NIRA総合研究開発機構「政策共創の場」プロジェクトプロジェクト・パートナー

リード文

少子化が急速に進む日本で、政府は様々な少子化対策を講じている。専門家へ聞きたい内容について、一般の方からアンケートを取ると、以下のような質問が寄せられた。
・少子化対策の財源には何を使うべきか
・なぜ少子化対策の効果が出ないのか
・効果的な少子化対策は何か
そこで本稿では、少子化の現状、これまでの少子化対策と岸田文雄政権が打ち出した少子化対策を概観し、財源の問題や残された課題についても整理した。

キーワード:財源確保の方法、政府の対応、少子化対策の拡充

INDEX

はじめに

 日本の総人口は、2021年で12,550万人。そのうち年少人口(014歳)は1,478万人と11.8%を占める。世界全域の年少人口割合(国連推計)は25.4%であり、日本は、年少人口の割合がかなり低い国であるといえる。

 少子化が急速に進む日本で、政府は様々な少子化対策を講じてきた。例えば、2022年度の少子化対策関係予算は約6兆円。少子化対策に多額の予算を使っているにも関わらず、あまり出生率が上昇していないことから、少子化対策は無駄ではないかとの声もある。しかし、このまま少子化が進めば、国内市場の縮小や社会保障制度の危機など、さまざまな弊害が発生することが考えられる。

 そこで本稿では、少子化の現状、これまでの少子化対策と岸田文雄政権が打ち出した少子化対策を概観し、財源の問題や残された課題についても整理した。

 ただし、2023102日時点での情報であることに留意いただきたい。

1.少子化の現状をみる

 

 少子化とは一般的に、合計特殊出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をいう。本項では日本の少子化による出生率の変化と人口規模の推移、また少子化の原因について説明する。

1-1.少子化の現状

 「合計特殊出生率」は少子化の判断基準として用いられる。これは、「1549歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で、1人の女性が一生の間に産む子どもの数に相当する。

 2022年、日本の合計特殊出生率は7年連続で低下して1.26となった(図1)。人口を維持するためには合計特殊出生率が2.062.07必要とされており、日本の少子化は進行している。

図1 出生数、合計特殊出生率の推移

(出所)厚生労働省(2023)『人口動態統計(確定数)の概況』よりNIRA作成。

 出生数は1970年代前半をピークに減少傾向にあり、2022年は過去最低の約77万人となった。これは、合計特殊出生率の低下に加えて、母親である出産適齢期の人口の減少が影響している。

1-2.少子化の原因

<少子化の原因>

 少子化の少子化の原因は、大きく分けて2つ挙げられる。1つ目は未婚化の進行、2つ目は既婚者の出生数の減少。

 まず、日本では未婚化(注1)が進行している。未婚化の進行については、50歳時の未婚割合(注2)は、1975年は男性2.1%、女性4.3%であったのに対し、2020年は男性28.3%、女性17.8%と上昇している。実数である婚姻件数は、1972年のピークのころは年間100万組を超えていたが、その後、低下し、2018年には60万組を割り込んでいる(図2)。日本では、結婚を経ずに子どもを産む婚外子の割合が約2%と少ないため、婚姻件数の減少は少子化に直結すると言える。

図2 婚姻件数及び婚姻率の年次推移

(出所)厚生労働省(2022)『人口動態統計(確定数)の概況』よりNIRA作成。

 また、既婚者の出生数(結婚持続期間1519年の夫婦の平均出生子ども数で、夫婦1組あたりの平均出生子ども数に相当)は、1977年には2.19人だったが、2021年には1.90人にまで減った。この背景には、晩婚化(注3)があると指摘されている。結婚が遅い夫婦ほど、子どもの数が減少する傾向にある。

<未婚化の上昇や既婚者の出生数の減少の要因>

 これらの未婚化の進行や、既婚者の出生数の減少を引き起こしている要因として、さまざまな点が指摘されている。大きくは、経済的負担の増加と社会的価値観の変化に分けられる。主要なものを挙げると以下のとおり。

経済的負担の増加
・社会保険料率の引き上げと長期間にわたる賃金の停滞
・習い事や通塾など育児・教育コストの増加

社会的価値観の変化
・女性のキャリア志向の高まり
・晩婚化に伴う不妊のリスクの上昇

 その他、出産・育児と仕事との両立が可能かどうかという不安や、共働きによる肉体的疲労なども挙げられる。

2.少子化のメリット・デメリットは何か

 

 少子化には人口規模の減少と人口構造の高齢化という2つの面があり、本項ではその両面から少子化がもたらすメリット、デメリットをそれぞれ整理する。

<メリット>

 ①エネルギー消費に伴う温室効果ガスや廃棄物処理による排出量も人口規模に比例するため、環境への負荷が減少する。

 ②住環境に余裕が生まれる。都市への人口流入に歯止めがかかれば、従来の都市集中型から地方分散型の発展への移行が可能となる

<デメリット>

 ①労働力人口が減少するため労働不足となり、既存の事業は縮小し、事業の競争力は減退していく。また、個人消費も減少し国内市場が縮小する

 ②現在の年金制度は現役世代が保険料を負担し、高齢者が給付を受ける仕組みとなっているため、社会保障制度を維持できなくなる可能性が高まる

 ③地域コミュニシティなど人と人との支え合い(社会関係資本)が劣化する

 ④有権者の中で若年層が減り、相対的に高齢層が増えれば、高齢者向けの施策が優先されるようになる(シルバー民主主義)

3.政府はこれまで十分に対応してきたのか

 

 これまで日本政府は、少子化問題に対し、どのような施策を行ってきたのか。

3-1.これまでの国の取り組み

<90年代の取り組み>

 日本の少子化対策は、199412月の「エンゼルプラン」から始まった。女性の職場進出による子育てと仕事の両立の難しさが、少子化の要因として認識されていた。そのため、このプランでは、保育の量的拡大や低年齢児(02歳児保育)、延長保育などの多様な保育の充実、地域子育てセンターの整備等、保育サービスの充実を図った

 1999年には「新エンゼルプラン」を策定。これは、2000年度から2004年度までの5か年計画となっている。最終年度に達成すべき目標値の項目に、これまでの保育関係に加えて雇用、母子保健、相談、教育等の事業を加えた。

<2000年代~2010年代前半の取り組み>

 この時期に、保育サービスに加えて、仕事と子育ての両立支援が、少子化対策の2本柱になった。さらに、男性の育児参加の促進が政策に加わった。

 2003年7月に少子化社会対策基本法が成立し、内閣総理大臣を会長とし、全閣僚によって構成される少子化社会対策会議を設置。また、同法に基づき、少子化に対処するための施策の指針として、「少子化社会対策大綱」を閣議決定した。この大綱では、子育てにふさわしい社会への転換を喫緊の課題とし、少子化の流れを変えるための施策に集中的に取り組むこととした。具体的な取り組みとしては、就学前児童の教育・保育や小児医療の充実、育休制度の推進などが挙げられる。

 同じく2003年に制定された次世代育成支援対策推進法では、地方公共団体及び事業主が、次世代育成支援のための取り組みを促進するために、それぞれ行動計画を策定することとした。これは10年間の集中的・計画的な取り組みであったが、2014年の法改正により有効期限を10年間延長した。

<2010年代後半以降の取り組み>

 2010年代後半以降は、保育、仕事と子育ての両立支援に加えて、結婚・妊娠・出産支援を新たな柱として加えた。具体的には地方自治体による結婚支援や出産育児一時金の増額等である。

 2020年に閣議決定された少子化社会対策大綱の基本的な考え方には、雇用環境等の整備、結婚を希望する者への支援、仕事と子育ての両立、再就職支援、男性の家事・育児参画、働き方改革等が記述されている。1994年から始まった少子化対策は、時代を経るごとに拡充していることがわかる。

 そして、202341日には内閣府の外局として「こども家庭庁」が発足した。子ども政策を巡っては、これまで厚労省や内閣府など、省庁の縦割りの弊害が指摘されてきたが、これを一元的に集約。少子化の流れの反転を目指して司令塔機能を果たす。

4.少子化対策の財源

 

 少子化対策の予算は、経済協力開発機構(OECD)基準の家族関係社会支出でみれば約10兆円(2019年度)、少子化対策関係予算でみれば約6兆円(2022年度)となっている。その財源としてはどのようなものが考えらえるか。

4-1.少子化対策予算の現状

 家族関係社会支出には、児童手当などの現金給付や保育所運営などの現物給付、扶養控除などの税額控除が含まれる。2019年時点で日本の家族関係社会支出対GDP比は1.9%で、OECD平均の2.3%よりも低い(図3)。出生率が比較的高いフランスやスウェーデンは3%台半ば、一方、出生促進策を行っていない米国は1.0%であった。

図3 家族関係社会支出対GDP比の国際比較(2019年)

(出所)OECD, Family Database よりNIRA作成。

 支出の内訳をみると、フランスは現金給付と現物給付が同程度、スウェーデンとアメリカは現金給付よりも現物給付を重視するなど、国によって給付や控除の比率は異なる。

 現在、政府は、異次元の少子化対策として2024年度からの3年間で新たに年間3兆円台半ばの経費を投じるとしている。

 日本の家族関係社会支出対GDP比はOECD平均よりも低いとはいえ約2%あり、少子化対策に使われる財源は多岐にわたる。例えば、児童手当や保育施設等の設置の財源には税金や事業主の拠出金が使われ、育児休業給付金の主な財源は社会保険(雇用保険)であるが、育児休業給付金には税金などの国庫負担も使われている。

4-2.少子化対策の財源

 政府は少子化対策の拡充を目指している。しかし、202310月時点で、財源の確保には目途が立っていない。少子化対策の財源としては、

①消費税や所得税などの税金や企業と従業員が折半する社会保険料の料率引き上げ
②国債の発行

といった手段が考えられる。

 では、識者はどのような手段での財源確保が適当だと考えているのか。ここでは、3人の専門家の意見を紹介する。

 まず、受益と負担の関係の観点から論じるのは、中京大学の松田茂樹教授だ。消費税の引き上げによって財源を確保するべきだと指摘する。負担と受益は対等の関係であるべきにもかかわらず、日本は現在、低負担中福祉とバランスが取れていない。日本の65歳以上人口が約30%、1564歳人口が約60%、15歳未満人口が約10%という年齢構造を考えると、若年世代、現役世代だけでは財源を安定的に負担することは難しい。そのため、幅広く、薄く全員が負担し、子育て支援が必要な人に分配していく構造が必要だという。消費税は所得の低い人ほど負担が大きくなる「逆進性」が問題になるが、その負担を上回るメリットを低所得者が享受できるような政策にすればよい、という考えだ。

 将来世代の負担の観点から論じるのは、東京大学の白波瀬佐和子教授だ。いま、増え続ける社会的支出を賄うための追加的財源として、譲渡税や贈与税、所得税等の引き上げは制度改正も含め、もう少し真剣に検討してもよいのではないか。国債での財源確保は将来世代へのコストの先送りになり、我々世代の責任のなすりつけともなってしまうで、避けなければならない。また、消費税の引き上げの可能性も選択肢としてはある。ただ、その逆進性の問題も含め単に1%2%をあげるということでは単純にならないであろう。上記のような税の累進性の引き上げの選択はもう少し積極的に検討して良いのではないかという。

 両教授共に税金での財源確保を推奨する。一方、制度の持続可能性の観点から、慶應義塾大学の権丈善一教授は、年金や医療などの社会保険から拠出して子育てを支える「子育て支援連帯基金」を創設するべきだと主張する。ベースにあるのは、「年金、医療、介護保険は、自らの制度の持続可能性、将来の給付水準を高めるために、子育て費用を支援する」という考えだ。少子化が進行するほど年金財政や介護の担い手不足などの問題は悪化していく。従業員や企業は負担が増加することへの抵抗はあるが、結局少子化が止まらなければ将来の負担増は避けられない。社会保険制度が連帯して子育て基金に拠出する制度にチャレンジする価値は十分あるのではないかと指摘する。

 今回、紹介した3人の専門家は、いずれも、①の税金・社会保険料の引き上げで確保すべきという考え方である。一方で、国債発行で確保すべきという意見もある。図4は、両者の意見について、考え方の違いをまとめたものである。

図4 識者が掲げる以外の論点と立場ごとの回答

 国債発行を支持する根拠は、第1に、少子化対策の恩恵は将来世代が受ける、第2に、税・社会保険料の引き上げは景気にマイナスの影響を及ぼし少子化を促進してしまう、第3に、政策が奏功し人口増加と経済成長が実現すれば、国債の返済負担が実質的に軽くなるため、人々の政策効果への意識は高まるというものである。

5.日本の個別政策とその効果

 

 3-1で述べたように、日本はこれまで少子化対策として様々な施策を行ってきた。本項では個別に政策を見ていく。

5-1.結婚支援

 国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査によると、2534歳の男女が独身でいる理由は、「適当な相手にまだめぐり合わないから」が最も多く、「独身の自由さや気楽さを失いたくないから」、「結婚する必要性をまだ感じないから」と続く。結婚を希望している人自体が少ない訳ではない。

 結婚を希望する人たちへの支援として政府は、地方公共団体による総合的な結婚支援の取り組みへの援助を行っている。具体的には、マッチングシステムの高度化や結婚支援相談員等の育成、結婚支援センターの設置等への補助率のかさ上げなどがある。

 このような結婚支援が始まったのは、2010年代半ば以降である。前述の松田教授は、少子化対策が実施されてから、結婚や出生に影響が出るまでには5年程度のタイムラグあると指摘しており、効果が表れるのはこれからと見る。

5-2.経済的な支援

 独身でいる理由に、結婚資金が足りていないことを挙げる人は多い(注4)。実際、経済的に厳しい若い世代の男性非正規雇用労働者が、正規雇用労働者に比べて未婚率が顕著に高くなっている。政府は少子化対策の一環として、雇用の安定を図り経済的基盤を確保しようとしている。

 また、金銭面の不安から、結婚しても子どもを産まない、希望する人数を産まないという選択をする人もいる。子ども1人を大学卒業までの22年間育て上げるのには多額の費用がかかる。全て公立に通ったとしても食費や習い事の月謝、小遣いなどを含めると総額で3,000万円程度はかかると言われており、経済的負担は大きい。

 このため、政府や地方自治体は、出産・育児のための援助や手当の制度を設けている。属性によって受けられる支援、金額が変わるため、ここでは代表的なものを記載する。

    表5 主な経済支援制度の概要(クリックすると拡大します。)

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 その他、20224月からは不妊治療に保険が適用されるようになった。

5-3.仕事と子育ての両立支援

<保育の充実>

 女性の就業促進に伴い待機児童の問題が社会的な課題となったことから、政府は待機児童の解消に取り組んできた(注5)。しかし、保育士不足という供給面での課題を抱えている。202210月時点で保育士の有効求人倍率は2.49倍に達している。責任が重い業務にもかかわらず、給与面での待遇の悪さなどがその原因として挙げられる。

<企業への働きかけ>

 20224月以降、妊娠・出産の申し出をした労働者に対し、育休制度の概要などを個別に周知・意向確認をすることを事業主の義務とした。

 また、従前より妊娠・出産や育児休業の取得等を理由に解雇や雇い止め、降格などの不利益な取扱い(いわゆるマタハラ)を行うことは違法としている。事業主が社員の育児休業取得を拒否するのは違法とした判例もある。

5-4.岸田内閣の対応

 20236月、岸田政権は「「こども未来戦略方針」案」を公表した。これからの67年が、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスと強調し、2024年度からの3年間で集中的に対策に取り組む。具体的な施策は、これまでの少子化対策を強化するような内容が多い。

①育児休業給付金

 産後の一定期間に男女で育休を取得した場合、給付金額の基準を休業開始時賃金日額80%に引き上げる。健康保険・厚生年金保険が免除されるため、手取り賃金と比較すると、休業前と同水準の金額(実質100%)となる。

②児童手当

 対象年齢を高校卒業まで延長、多子世帯(第3子以降)への支給金額を増額する。また、現在の児童手当は、主たる生計者の年収が960万円以上1,200万円未満の場合、支給金額が減額され、1,200万円以上の場合は支給対象外となっている。202410月以降、これらの所得制限を撤廃する。

 所得制限の撤廃については、決定に至るまでに意見の対立があった。

 ■所得制限賛成派の意見

 ・高所得層では定額の児童手当がもたらす効果は相対的に小さくなり、費用をかけても高所得層には効果が出ない可能性がある。
 ・子どもを育てる責任はまず家庭が負うべきである。
 ・限られた財源の中では所得制限が不可欠。

 ■所得制限反対派の意見

 ・高所得世帯は、他の所得層よりも税や社会保険料を多く負担しており、受給する際に、所得制限をかければ高所得世帯からの反発が生じる。
 ・児童手当の受給は生まれてくる子どもの権利であり、親の属性如何によって受給可否を定めるべきではない。
 ・住宅費用や物価が上昇しているため、同じ年収をもらっていたとしても昔ほど余裕のある暮らしができなくなっている。

③出産費用の保険適用

 妊娠については、一般的な費用(検診費など)は現在保険の適用外となっているが、全国で出産費用に差があることから保険適用にする。

④新たな経済支援策の創設

 育児休業給付金は雇用保険を財源としているため、加入していない非正規労働者や自営業者は給付金を受け取れない。そうした人々への育休期間中の経済的な支援策が必要となっている。そこで、自営業者や非正規雇用者など、雇用保険に加入していない人にも育児に伴う収入減少リスクに対応した新たな経済的支援を創設する。

 こうした少子化対策拡充の動きを識者はどのように評価しているのか。

 松田教授は、現金給付を拡充していること、非正規雇用者などにも対象を広げたことを理由に今回の動きを評価している。これまでは保育と両立支援という2軸を大切にしてきたが、それでは片方もしくは双方が非正規雇用の世帯や専業主婦世帯は支援対象から漏れてしまっていた。しかし、今回は支援対象に入っているというのが非常に大きいという。

 白波瀬教授も「異次元の少子化対策」という言葉は言葉尻を取られてその真意が誤解されてしまった嫌いはある。若い世代への優先的支援という点での方向性は間違っていないし、今の状況に短時間でプレッシャーをかけようという姿勢を評価している。ただし、少子化対策の効果が表れるまでには長期間かかるため、どれだけの効果があったのか、データをしっかり取って緻密に分析しなければならないと指摘する。

6.残された課題と議論すべき政策

 

 岸田政権は、少子化対策を重要課題として取り上げ、対策を打つところであるが、まだ、抜本的な改革とは言い難い面もある。残された課題と議論すべき政策はなにか。

<男性の育児参加>

 共働き世帯が増えているにも関わらず、育児の負担は女性に偏っていることが多い。育休の取得率を見ても、取得率は女性が男性よりも圧倒的に高くなっている(注6)

 育休取得の男女差を解消するため、岸田首相は男性の育休取得率を「2030年度に85%」まで引き上げることを目標に掲げた。ただし、短期間での取得などで育休取得率を高めても女性の負担は軽くならない。例えば、男性が1週間や1ヶ月だけ育休を取得したとしても、その後の長い期間、女性が主に育児を担当する状況は変わらない可能性が高い。男性が家庭内での育児を分担するよう、育休取得期間長期化への取り組みも求められる。

<教育への投資への支援>

 通塾費や習い事の月謝など、学校外の教育には費用がかかるため、親の所得によって子どもが受けられる教育は変わってしまう。子どもが親の資産や文化的な水準によって自分のキャリアを制限されないよう、教育への投資への支援が必要である。

<子どもの人数に応じた優遇制度>

 日本では、第3子以降に児童手当の給付金額が増額するが、海外では違った形で多子世帯を優遇している。

■給付付き税額控除(児童税額控除)

 米国・英国・カナダなどで導入されている制度で、子どもの人数に応じて税額控除が与えられる。所得の課税額が控除額よりも高ければ控除後の税を負担することになる。他方、課税額が控除額より低ければ、通常は、非課税となるため優遇的な措置は講じられないが、その場合であっても、給付が受けられるという仕組み。

 正確な所得捕捉が不可欠であり、日本であればマイナンバーの活用が求められる。

NN乗方式

 「NN乗方式」はフランスが1946年に導入した制度。子どもの数が多いほどより低い所得税率が適用され、税額が少なくなる。子どもを多く持つインセンティブにつながるとされる。

図6 N分N乗のイメージ(共働き世帯を想定)

<世代間対立の解消>

 高齢者は、児童手当や育児休業給付金などの直接的な恩恵を受ける人が少ない。そのため、少子化対策の財源確保のために負担が増えるとなると反発する人も現れる。

 しかし、地域内の高齢者を支える人材や年金制度を支える人材は将来世代からも生まれてくるため、間接的な恩恵はある。対立構造が生まれないよう、世代間の相互理解が必要だ。

参考文献


厚生労働省(2002「少子化社会を考える懇談会(第3回)」2023年52日アクセス.
──2022「保育所等関連状況取りまとめ(令和441日)」2023年52日アクセス.
──2023「令和3年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」2023年102日アクセス.
──2022「令和3年度雇用均等基本調査」2023年52日アクセス.
国立社会保障・人口問題研究所(2022「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」2023年52日アクセス.
最大決平成2494日民集6761320.
総務省統計局(2023「人口推計(2022年(令和4年)101日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口・都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐」2023年52日アクセス.
東京地判平成151031日労働判例86225.
内閣府(2004「平成16年版 少子化社会白書(全体版)」2023年52日アクセス.
──2021「令和2年度「少子化社会に関する国際意識調査」報告書(概要版)」2023年52日アクセス.
──2022「令和2年版 少子化社会白書 全体版(PDF版)」2023年52日アクセス.
──2023「少子化社会対策大綱(たたき台)」2023年52日アクセス.
日本経済新聞「「男女で育休取得なら手取りの10割」岸田首相表明」2023317.
松田茂樹(2021)『[]少子化論-出生率回復と<自由な社会>,学文社.広井良典(2020「「人口減少社会は希望だ」京都大学広井教授が考える、成熟社会に生きる私たちのこれから」2023年52日アクセス.
OECD Family Database 2023年52日アクセス.

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2023)「いかに少子化社会から脱却するか」政策共創の場No.3

脚注
1 50歳時の未婚割合(4549歳の未婚率と5054歳の未婚率の平均)は、1975年は男性2.1%、女性4.3%であったのに対し、2020年は男性28.3%、女性17.8%と上昇している。
2 50歳時の未婚割合(4549歳の未婚率と5054歳の未婚率の平均)は、1975年は男性2.1%、女性4.3%であったのに対し、2020年は男性28.3%、女性17.8%と上昇している。
3 平均初婚年齢は1975年では夫は27.0歳、妻は24.7歳だったのが、2020年には夫が31.0歳、妻が29.4歳となっている。
4 国立社会保障・人口問題研究所(2021)『第16回出生動向基本調査』によると、約25%の人が該当
5 待機児童の直近のピークは2017年で、その数26,081人、当時の保育士施設は32,793か所であった。その後、保育士施設は2022年に39,244か所まで増え、厚生労働省の発表では待機児童数は2,944人と、ピーク時の9割弱減少している。ただし、コロナの感染リスクを懸念した利用控えなどの一時的な要因も考えられるため、潜在的な保育需要の精査が必要だ。
6 厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2021年度の育児休業取得者の割合は女性が85.1%、男性が13.97%であった。

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