企画に当たって

18歳選挙権の次なるステップに向けた提言

谷口将紀

NIRA総合研究開発機構理事/東京大学大学院法学政治学研究科教授

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選挙権年齢、18歳以上、若者の投票率、若者の政治参加、世界共通の課題

低投票率に留まった若年層

 2016年6月に公職選挙法が一部改正され、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた。国政選挙では、同年7月10日の参議院議員通常選挙から適用された。

 これに合わせて、高校生用副教材「私たちが拓く日本の未来」を政府が作成するなど、若者に政治参加を促す官民挙げてのキャンペーンが繰り広げられた。

 ところが、はたして今回の参議院選挙における18歳から19歳までの投票率は、有権者全体の投票率を大きく下回った。2013年の参議院議員選挙から解禁され、当時は大いに注目を集めながら、いまでは後景に退(しりぞ)いた感があるインターネット選挙運動と同様、若者の政治参加も、人々の関心から遠のいてしまうのだろうか。

 答えは否である。より厳密にいえば、否でなければならない。6月にイギリスで行なわれた欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票では、若者のあいだでは残留派が圧倒的であったにもかかわらず、結果はEU離脱派が多数を占めた。もし、若年層の投票率がもう少し高ければ、あるいは高年齢層が若者の声にもう少し聴く耳をもっていたら、同国の進路は違うものになっていたはずだ。そして、欧州連合離脱に伴う政治的・経済的損失というツケを今後支払うのは、ほかならぬイギリスの若者である。

 まして日本では、巨額の財政赤字や急速な人口減少などの諸課題を前に、これからは「負担の分かち合い」が政治のテーマとならざるをえない。そして、こうした負担をもっとも引き受けなければならないのが、現在の若年層である。日本の将来を担う彼らの意見をないがしろにして良いはずがない。国立国会図書館の調査によれば、世界199カ国の国と地域のうち約9割が18歳選挙権を採用しており、このたびの選挙権年齢の引き下げは、遅ればせながらの世界標準へのキャッチアップにすぎない。若年層の政治参加をさらに促し、彼らの意見をより反映しうる政治の実現に向けて、次なるステップを考えるのが本企画の趣旨である。

投票のために「通りを渡らせる」工夫

 ようやく18歳選挙権を実現した日本に対して、オーストリアの選挙権はすでに16歳以上に引き下げられている。また、ドイツでも、一部の地方で16歳選挙権が導入された。網谷龍介氏(津田塾大学)は、早くから投票に参加した若者のあいだでは政治意識が培われ、彼らは20歳以降になっても他の年齢層よりも投票率が高くなるという見方を紹介した上で、学校教育と並んで、個別政策を超えた社会像・将来像をもたせるために政党が果たすべき役割の重要性を説いている。

 世代別に選挙区を分けて、若年層の代表を選ぶというアイデアもしばしば論壇で見られる。しかし、河野武司氏(慶應義塾大学)によれば、世代別投票制度を理事選挙に導入した日本選挙学会では、「年長区」と「年少区」で投票率に差があるために代表としての正当性に歪みが生じる、会員(有権者)全体の高齢化に伴い五十歳近くまでが「年少区」に分類されるなど、制度の逆機能が明らかになっている。

 こうした問題点を補うものとして、河野氏が提案した義務投票制を実施しているのが、オーストラリアである。それと表裏をなすのが若者の政治的教育だが、見世千賀子氏(東京学芸大学)によると、同国のシチズンシップ教育は、いまのところ若者の投票率向上に十分な効果をもたらしていない。そのため同氏がもう1つ注目するのが、ビクトリア州で行なわれている「学校州議会」である。

 そこで、日本において実際の政治・行政に即した学習機会を中学生や高校生に与えているケースとして取り上げたのが、山形県遊佐(ゆざ)町の「少年議会」と福井県鯖江(さばえ)市の「鯖江市役所JK課」(JK=女子高生)である。時田博機町長が紹介しているとおり、少年議会は年間45万円の独自予算をもっている。たかが45万円と思われるかもしれないが、人口1万4,000人の同町にとっての45万円は、人口373万人の横浜市では1億円以上に相当する。

若年層の政治参加のあり方について、各国、各地域ではどのような取り組みがあるのか
(※文字の大きさは、インタビューで識者が使用した頻度を示している。)

 そして「自分たちの働きかけでまちが変化するのを目の当たりにするうちに(中略)他人事だったまちづくりを『自分事』として捉えるようになった」という牧野百男市長の感想こそ、まさしく各国のシチズンシップ教育がめざすべき到達点ではないだろうか。

 アメリカのコラムニスト、ビル・ヴォーンは「アメリカ市民は民主主義のためなら大洋を渡って戦うが、投票のために通りを渡ることはしない」と嘆いた。政治参加、とくに若年層の投票率の低下は各国共通の課題である。しかし同時に、通りを渡るよう促す工夫―横断歩道であったり、歩道橋であったり、はたまた歩行者天国にしてしまったり―も多様であり、諦めるのはまだ早いというのが、筆者の実感である。

識者に問う

若年層の政治参加を促すため、各国・各地域ではどのような取り組みがあるのか。わが国の今後に向けて得られる示唆とは何か。

若者の政治参加に政党の役割が欠かせない

網谷龍介

津田塾大学学芸学部教授

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オーストリア、選挙権年齢引き下げ、政治意識の醸成、政治教育、中立性、政治的ビジョン

 「若者の政治離れ」を食い止めようとして、選挙権年齢の引き下げが行なわれている。オーストリアはそれまで18歳だった選挙権年齢を2007年に16歳とし、隣国ドイツも一部の地方選挙で16歳に引き下げている。

 当初、引き下げには懸念もあった。たとえば、若い人は新しい政党に投票しやすく、ポピュリスト政党、左右の過激政党に偏るのではないかという警戒の念である。しかし、選挙結果を検討すると、16、17歳の有権者が、その直上の世代に比べて特定政党に偏ったり、投票率が低いなどの傾向はみられない。「成熟していない」という懸念はそれほど当たらないということだ。

 それどころか、2013年のオーストリア国民議会選挙では、16歳選挙権を経験してきた20歳代前半の投票率が、直上の世代より少し高いという結果がみられた。年齢引き下げが政治意識の醸成に有効だと結論づけるには、もう少し観察が必要だが、早くから投票に参加して政治意識が高まった成果だという指摘もある。

 日本は、さらなる年齢引き下げをめざすより、まずは18歳選挙権に実を入れるのが先だろう。その点、日本の主権者教育をめぐる議論は、学校で教員が教えることのみを想定し、中立性を重んじるあまり、政治的な知識を抽象的に与えることに偏っていないか。

 もちろんドイツでも教員による主権者教育については、政治的な中立性の原則―教師が考えを押し付けない、論争のあるものはそれとして扱う、生徒に自分の利害に基づいた参加の能力を形成させる―は定着している。だがその一方、生徒は政党の青年部に加入でき、中高生のメンバーも教育などの身近な問題で政治経験を積んでいる。個別政策を超えた社会像・将来像をもつことが、政治参加を促進するのであり、それは「党派的なコミットメント」と密接に関係する。

 政治教育は、多様な立場を理解し異なる意見を尊重しつつ、自分の立場をもつことを促すべきである。生徒の党派性の忌避は逆効果となりうる。ただし日本の学校への強い中立期待を考えれば、学校現場にすべてを委ねるのは酷である。若者が政治的ヴィジョンをもち政治参加するには、政党の主体的な取り組みが不可欠である。

識者が読者に推薦する1冊

近藤孝弘〔2005〕『ドイツの政治教育―成熟した民主社会への課題』岩波書店

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若年層の政治参加を促すため、各国・各地域ではどのような取り組みがあるのか。わが国の今後に向けて得られる示唆とは何か。

義務投票制で主権者意識を高める

河野武司

慶應義塾大学法学部教授

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世代別投票、代表としての正当性、義務投票制、世代区分年齢

 若い世代を政治に参加させるために、「世代別投票」を導入すべきだとの議論がある。現在、私が理事長を務める日本選挙学会でも、ここ10年、若手研究者の声を生かそうと、理事選挙に世代別投票を実施してきた。20人を選挙で選出するが、半分の10人は年齢に関係なく選ぶ。残りの10人に関しては、会員を年齢によって「年長区」と「年少区」に2等分し、それぞれの選挙区から5人ずつを選挙での得票順に選出している。

 しかし、「年少区」は投票率が低い。そのため、「年長区」に比べて少ない得票数で当選してしまい、代表としての正当性に歪みが生じることがわかってきた。そのため現在、この制度は見直す必要があると感じている。

 この経験からいえるのは、仮に国政選挙に世代別投票を導入するならば、同時に「義務投票制」の導入を検討する必要があるということだ。わが国の国政選挙における世代別投票率をみると、近年では高齢層と比較して、若年層の投票率は半分程度しかない。この状況で世代別に議席を配分すると、投票率の低い年少区の当選者の得票が年長区の落選者の得票よりも少ないという、世代間で代表選出にあたっての正当性に疑義が生じてくる可能性がある。

 他方、義務投票制については、政治的リテラシーがない人までもが義務で参加すると選挙結果を歪めるという危惧から、反対する声もある。しかし、最初は義務感だけで投票していても、何回か経験するうちに当事者意識が芽生えてくるはずだ。参加がもたらす教育効果だ。

 もう1つ、世代別投票は、そもそも世代をどのように分けるかという問題がある。日本選挙学会では、人数が同数になる年齢で会員を2分にしているのだが、学会の若手の数が減少しているため、その区切りの年齢が上昇している。

 最近では「年少区」に50歳近い会員が含まれている状況だ。これは、国政選挙においても同様のことがいえるだろう。今後いっそう少子高齢化が進めば、有権者を区分する「世代区分」年齢が年々高齢方向にシフトし、結局、選出される代表の高齢化がますます進むという問題点が依然として残ることになる。

識者が読者に推薦する1冊

Colin Hay〔2007〕"Why We Hate Politics" Polity Press (コリン・ヘイ〔2012〕『政治はなぜ嫌われるのか―民主主義の取り戻し方』吉田徹(翻訳)、岩波書店)

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若年層の政治参加を促すため、各国・各地域ではどのような取り組みがあるのか。わが国の今後に向けて得られる示唆とは何か。

政治的な学習の学び方の工夫を

見世千賀子

東京学芸大学国際教育センター准教授

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オーストラリア、義務投票制、義務化の効果、シチズンシップ教育、学校州議

 南半球のオーストラリアでは、1924年に「義務投票制」が導入された。18歳以上の国民は連邦、州政府の選挙で事前に選挙人名簿に登録し、投票する義務を負う。先進国で投票率の低下が一様にみられるなか、投票義務化の議論は行なわれているが、実際に導入しているオーストラリアの事例は参考となる。

 先の7月2日に行なわれたオーストラリアの総選挙をみると、初めて投票義務をもった18歳の若者で登録をした人の割合は全体の7割にとどまる。25歳以上では9割を超しているのに対して低い水準だといえる。つまり、義務化するだけではあまり効果がないということだ。若者への政治的教育を同時に行なう必要があるとつねづね考えられてきた。

 オーストラリアで若者の政治的知識の低さが政治への無関心につながっていると指摘され、「シチズンシップ教育」の検討が始められたのは1980年代の末。1990~2000年代には、政治や法に関する基本知識と社会に参加するという行動面も視野に入れた教材開発や教育が進められた。今回、そうした教育を受けてきた若者が投票する年齢になったわけだが、低い投票率は十分な効果がなかったことを示している。連邦政府は教材キットを全校に配備して努力したが、授業内容は学校現場の自由度が高く、取り組み方は州や学校間で差がある。

 もう1つ、立候補(被選挙権も18歳)の意識付けも欠かせない。オーストラリアではリーダーシップを育てるため、議会や政府機関も政治教育プログラムを実施している。ビクトリア州の「学校州議会」では、州内の各高校から2、3人が選ばれ、議事堂で議員のように社会的課題を討論したり、意見表明・演説を行ない、最後に優先すべき施策を投票する。生徒も参加した意義を強く認識するという。日本でも、今年1月に『信濃毎日新聞』が長野県の高校生1400人に行なった調査によれば、生徒会や部活動、地域活動などを行なっている生徒は政治への関心が高いという。政治への興味や参加を促すためには、生徒会活動や地域活動と政治的関心を高める学習をリンクさせるなど、生徒参加の民主的な学校環境づくりと社会的課題の学び方の工夫が不可欠と考える。

識者が読者に推薦する1冊

宮下与兵衛〔2016〕『高校生の参加と共同による主権者教育―生徒会活動・部活動・地域活動でシティズンシップを』かもがわ出版

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若年層の政治参加を促すため、各国・各地域ではどのような取り組みがあるのか。わが国の今後に向けて得られる示唆とは何か。

45万円の予算で政策を実施する「少年議会」

時田博機

山形県遊佐町長

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山形県遊佐町、少年議会、民主主義の実体験、独自の政策予算

 山形県遊佐町では、町に在住・通学する中学生・高校生が有権者となり、「少年議会」を開催している。マニフェスト(声明文)を掲げて立候補した「少年町長」と、10人の「少年議員」を直接選挙で選出して、議会を構成する。中高校生が自らの代表を直接選び、政策を実現していくことで、学校外で民主主義を実体験するのが狙いだ。

 少年議会は2016年度で14期目。その最大の特徴は、独自の政策予算45万円を有していることだ。少年議会の取り組み以前にも、若者の町政参加を促すことを目的に、若者の意見を聴く委員会を開いていたが、いつの間にかやらなくなってしまった。

 若者の町政参加に実効性をもたせるにはどうすればよいのか。過去の反省を踏まえ、言いっ放しにさせるのではなく、若者がやりたいと考えたことを若者自身が実際に具現化できる予算が必要なのではないかと考え、町議時代に提案したのが、政策予算だ。中高生有権者にアンケートを行ない、その意向を基に少年議会が政策を立案、彼ら自身が45万円の予算で政策を執行する。政策予算までもたせる取り組みは、ほかに例をみないのではないか。

 少年議会のこれまでの活動では、町のイメージアップのため「米(べえ)~ちゃん」というキャラクターを誕生させたり、町の特産品パプリカの「レシピ集」を制作したりしてきた。また、「若者の娯楽や遊ぶところがない」というアンケートの声から、ミュージックフェスティバルも開催した。列車ダイヤが通学に不便だという少年議会の提案を受け、JR東日本がダイヤを変えてくれたこともあった。不便を不便のままにせず、どうすれば良くなるかを議論し、やればできるという手応えを得たのは少年議員にとって得がたい経験だったはずだ。

 少年議会を通して町が若者の提言を積極的に取り上げることで、政治はよそ事でなく、自らのアクションで少しずつでも改善できるという経験を、中学生、高校生が積み重ねている。「変えられるのだ」という意識が若いうちから育まれることが重要だ。1期生は30歳代、いずれ町を引っ張る主役になっていくことだろう。

識者が読者に推薦する1冊

中村彰彦〔2015〕『戦国はるかなれど―堀尾吉晴の生涯』上・下巻 光文社

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若年層の政治参加を促すため、各国・各地域ではどのような取り組みがあるのか。わが国の今後に向けて得られる示唆とは何か。

女子高校生プロジェクトがまちと大人と若者を変えた

牧野百男

福井県鯖江市長

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鯖江市役所JK課、市民協働推進プロジェクト、まちづくり、当事者意識

 「鯖江市役所JK課」は、地元のJK=女子高生たちが中心となって、自由にアイデアを出し合いながら自分たちのまちを楽しむ市民協働推進プロジェクトだ。さまざまな市民・団体や地元企業、大学、地域メディアなどと連携・協力しながら、企画や活動を行なっている。

 プロジェクト誕生のそもそもの目的は、地域の活性化である。3年前、大人版地域活性化プランコンテストで、慶應義塾大学の若新(わかしん)雄純(ゆうじゅん)・特任助教(当時)等から「地域や社会に文化的な影響を与え、鋭く観察している女子高校生を主役に、まちづくり活動をしたらどうか」と提案されたのが始まりだ。

 まちづくりの一環で、「JK課の発想を生かして大人の意識を変えられたらいい」という思いで始めたが、3年が経過したいま感じるのは、若者の声を受けてまちや大人が変わったことで、若者自身の意識に変化が見られたということだ。

 これまで、女子高校生の発想から、図書館の空き机がわかるアプリ「Sabota」の開発、スイーツ商品の企画、ハロウィンに仮装してごみ拾いを行なう「ピカピカプラン」などを実施。これらの事業化に際し、アプリ開発ではSAPジャパンなどIT企業、スイーツ企画では市内のパティシエグループなど、地元企業や団体、ボランティアグループが次々と協力してくれた。


 こうして、自分たちの働きかけでまちが変化するのを目の当たりにするうちに、次第に女子高校生自身の意識に変化が生まれた。

 最大の変化は、他人事だったまちづくりを「自分事」として捉えるようになったことだ。自分たちが動けば、まちや大人が変わると実感したことで、当事者意識が生まれてきた。

 若者の意識の変化を促した秘訣をあらためて考えると、成果を早急に求めず、まず変化を求める「ゆるさ」を大事にしたこと。また女子高校生たちの「楽しさ」を尊重、アイデアをしっかり受け入れて、行政は一貫してサポートに徹したことといえるだろう。地域の若者と自治体が協働して地域を支えることが、新しい行政の姿になるのではないかと考えている。

識者が読者に推薦する1冊

若新雄純〔2015〕『創造的脱力―かたい社会に変化をつくる、ゆるいコミュニケーション論』光文社新書

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2016)「若者の政治参加を促す」わたしの構想No.25

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、北島あゆみ、山路達也
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