水島治郎
千葉大学大学院社会科学研究院教授/NIRA総合研究開発機構上席研究員

概要

 20世紀のオランダ政治では、キリスト教民主主義政党、社会民主主義政党、自由主義政党の3大勢力が、「柱(zuil)」と呼ばれる宗教・イデオロギー別の社会組織に支えられ、安定的な政治構造が保たれていた。しかし、「柱」は弱体化していき、21世紀に入るとポピュリスト政党が次々と登場した。完全比例代表制ゆえに少ない票でも議席獲得が可能であることに後押しされて、これら新政党は議会への進出を果たし、現在では多数の政党が並立する断片化した政党システムが出現している。
 オランダの政治的対立構造を特徴づけるのは、伝統的には連動していた経済的左右対立と社会文化的対立が、移民や環境規制等というより新しいグローバル化争点が重要性を増したゆえに、もはや連動しなくなったことである。グローバリズムか反グローバリズムかという対立で、学歴が分断線として浮上しており、高学歴・都市住民は親EU・環境重視の左派政党を支持する一方、低学歴・地方在住層は生活不安を背景に、反移民・反EUを掲げる右派ポピュリストを支持する傾向にある。
 ルッテ政権崩壊後の2023年選挙では、移民・難民問題への強硬姿勢を押し出した自由党が第1党となった。住宅不足や燃料価格高騰等の生活不安の中で、難民支援よりも国民生活を優先すべきだとする主張が奏功し、自由党は比較的低学歴の有権者から支持されるだけでなく、年齢層でも性別でも幅広く支持を伸ばした。また、新社会契約党という中道改革新党も躍進を遂げ、右派4党連立政権が発足した。
 2025年、自由党の連立離脱を受けて行われた選挙では、自由党は第1党から転落したものの、右派全体の議席はほぼ同じで、反グローバリズム勢力の基盤の強さが示された。僅差で第1党となったのは中道改革政党の民主66であり、2023年に続いて、現実的改革を掲げる中道が支持を集めた。左派は議席をむしろ減らした。
 中道改革政党の躍進は日本に対する示唆を与える。2026年衆議院選挙を前に中道系政党が新たに結成されたように、日本でも中道改革勢力が勢いづく情勢があると考えられる。

経済・社会文化・グローバリゼーションII―2026年の各国政党政治―
第5章 オランダ 水島 治郎 著

※第5章以外の章は追って公開予定

INDEX

1.主要政党の政策位置

断片化し続ける政党システム

 1920年代以来のオランダでは、明確な支持基盤と組織を持つ中道右派のキリスト教民主主義政党および中道左派の社会民主主義政党が優位に立ち、中道右派よりも右に位置する自由主義政党が命脈を保つという構図が安定的に存在してきた。この構図の下で、連立の組み合わせは、キリスト教民主主義政党+社会民主主義政党か、キリスト教民主主義政党+自由主義政党の2つしかありえなかった。これらかつての有力勢力を今日代表する政党が、キリスト教民主アピール(CDA)であり、労働党(PvdA)であり、自由民主人民党(VVD)である。

 こうした安定的な政党間の関係は、いわゆる「柱(zuil)」を通じた社会の組織化によって可能となった。宗教やイデオロギーを基盤とした集合体である「柱」は、それぞれ独自のネットワークを形成し、病院、教育機関、労働組合、福祉団体、そして政党など様々な組織が「柱」ごとに作り出された。人々の生活は自分が属する「柱」の中で完結するという柱状化がオランダ社会の特徴となり、「柱」同士は平和裏に共存しえた。政治的には、とりわけキリスト教政党と社会民主主義政党にとって「柱」の存在は得票を確実なものとする点で重要であった。こうしたオランダの政治は、多極共存型デモクラシーと特徴づけられた。

 しかしながら、従来の「柱」に依拠しない政党が20世紀後半に生まれてくる。背景は当時発生した新たな社会運動である。1966年には自由主義左派に位置する民主66が結成され、また1990年に環境政党である緑の党が誕生した。

 さらに、より顕著な変化が訪れたのが冷戦終焉後の1990年代である。20世紀後半に起きていた都市化や世俗化によりキリスト教が忠実な支持者を減らし、東欧・旧ソ連諸国での体制転換も影響して社会民主主義も従来の力を失い、「柱」は弱体化していった。

 カトリック系とプロテスタント系に分かれていたキリスト教政党はすでに1980年に合同し、キリスト教民主アピールとなっていたが、得票率の長期低落傾向を免れなかった。弱体化した労働党は、2020年代以降、緑の党と協力関係を深め、緑の党に吸収されそうな情勢である。逆説的に、自由主義勢力は固定的な基盤を有していなかったゆえに「柱」の解体の影響をほぼ受けず、おかげで一定の支持を確保して2010年についに下院第1党となり、党首マルク・ルッテが自由主義政党からは90年以上ぶりの首相に選出され、2024年7月までその座にあり続けた。

 21世紀に入ると、「柱」に依拠しないポピュリスト政党が次々と誕生する。まずは右派ポピュリスト政党が出現した。現在議席を持つ政党としては、ヘールト・ウィルデルスの自由党(PVV)をはじめ、民主フォーラム(FvD)、JA21、農民市民運動党(BBB)がある。右派ポピュリストはグローバル化、移民という新しい論点を梃子に勢力を伸ばしてきた。また、左派にもポピュリスト政党が存在する。1970年代に結成されたマオイストの社会党(SP)のほかは、「動物を大切に」と訴える動物党(PvdD)、イスラム移民系政党であるデンク(DENK)、親EUのヴォルト(Volt)は、いずれも21世紀に入ってできた政党である。2023年には中道改革ポピュリスト政党である新社会契約党(NSC)が登場し、同年の選挙で躍進した。

 以上のほか、プロテスタント系の小政党としてカルヴァン派党(SGP)とキリスト教民主同盟(CU)が存在している。

 2025年10月の選挙を経た現在、オランダ下院では15の政党が議席を持つ。オランダ政治は、20世紀までの3大勢力による安定的な構図を完全に失った状態にある。前回2020年の先行プロジェクトで指摘した政党システムの断片化は続いていると言ってよい(水島2021)。こうした事態を引き起こした一因は、上記に述べた社会の側の変化であるが、選挙制度が多党化を促進した側面もある。選挙制度については3で述べることとし、先に主要政党の位置を確認しておこう。

主要政党の位置づけ

 経済的争点、社会文化的争点、グローバリゼーションに対する態度から、現在の各政党の位置を分類した(図5-1)。現在の政党位置は、冒頭で述べた、かつての安定的な構図とは全く異なることが見て取れる。

図5-1 オランダの政党の経済的争点、社会文化的争点、グローバル化争点における位置

図5-1 オランダの政党の経済的争点、社会文化的争点、グローバル化争点における位置

(注)経済的争点と社会文化的争点に関する位置づけはCHES調査に基づく。グローバル化争点については著者の評価による。
(出所)著者作成。

 安定していた20世紀型の諸政党を図5-1に当てはめると、経済的争点の左右にそれぞれ労働党と自由民主人民党が位置する。キリスト教民主アピールは、経済的争点で自由民主党よりも中央近くの中道右派に位置づけられ、社会文化的争点で中央よりやや上すなわち保守・伝統よりの位置を占める。これら主要3党に加え、民主66が経済的争点で中道右派に、社会文化的争点では個人主義よりの位置にくる。

 現在も、経済的争点における旧3大政党の位置は変わらず、左から労働党、キリスト教民主アピール、自由民主人民党と並んでいる。社会文化争点でキリスト教民主アピールが伝統よりで、民主66はやはり個人の自由をより重視する。労働と統一会派を組む緑の党は、経済的争点では労働と同様に左に位置するが、社会文化的争点では労働党よりもずっと個人の自由よりの位置にある。グローバル化争点に対する態度は、親EUか反EUかを映し出しており、上記の政党は、多少の程度の差はあれ、いずれも親EUである。また、中道ポピュリスト政党である新社会契約党は、どの争点をとっても、キリスト教民主アピールとほぼ重なる位置にいる。

 右派ポピュリスト政党はすべて、経済的争点で右より、社会文化的争点で伝統よりである。JA21は、図5-1作成で依拠したCHES調査の対象となっていないが、民主フォーラム離党者により設立されており、他の右派ポピュリスト政党と似た位置を占めることが予想される。これらの政党はそろって反EUであり、グローバル化争点でそれが示されている。上記のほか、カルヴァン派党も同様の特徴を持つ。これに対して同じプロテスタント系小政党のキリスト教民主同盟は、社会経済的争点で保守的であるものの、経済的にやや左で、グローバル化争点については中間的である。

 左派ポピュリスト政党は、経済的争点では左側にいるという共通点がある。しかし、社会文化的争点ではバリエーションがあり、デンクがもっとも伝統よりで、社会党が中央に近く、残るヴォルト党と動物党は個人の自由よりになっている。グローバル化争点についても割れており、社会党が反EUよりなのに対し、デンクは中間、動物党とヴォルトが親EUである。

2.オランダ独自の政治対立軸

環境規制をめぐる対立――亀裂としての学歴

 近年、環境規制をめぐる対立が顕在化している。端的には2022年から続くロシアによるウクライナ侵攻の下で燃料価格が上昇を続けている中で、ガソリン車禁止、ガスボイラー禁止といった脱炭素政策が、EUレベルで上から進められていることへの反発がヨーロッパ各国で共有されている。2023年にヨーロッパ7か国で行われたYouGovの調査によると、ガソリン車およびディーゼル車の製造・販売を禁止する政策に関して、すべての国で反対が賛成を上回った(YouGov 2023: 5)。

 こうした生活不安の高まりは高コストな環境政策への反発を生み、「気候懐疑主義(climate skepticism)」を拡大させている。反EUを掲げる右派ポピュリズムは、この環境政策に対する反発を支持拡大に利用している。ここに、環境に良いとされる電気自動車を所持できるのは高所得者に限られるという階層的な問題が絡んでくる。右派ポピュリストに言わせれば、エリートは環境を重視して、庶民が買えない電気自動車を押し付け、普通の人々の生活を苦しめているというわけである。これに対し、環境政策に熱心なのは、緑の党と労働党の左派政党連合である。支持層は、大都市部の高学歴層が多い。

 ここから見て取れる1つの社会的亀裂は、学歴である。環境問題を重視する高学歴者は右派ポピュリストに投票しない傾向にある。より低学歴の庶民は、次節で見るように2023年選挙で右派ポピュリストの代表格である自由党に投票した。

 図5-2は、環境規制にもっとも積極的な立場を0、もっとも否定的な立場を10とし、社会文化的争点およびグローバル化争点と合わせてプロットしたものである。右派ポピュリスト政党とカルヴァン派党という反EUスタンスの政党がこぞって環境規制に対して否定的な立場をとっている。他方で、親EU的あるいは中間的な立場の政党は環境規制に前向きと位置づけられる。

図5-2 オランダの政党の、環境規制、社会文化的争点、グローバル化争点における位置

図5-2 オランダの政党の、環境規制、社会文化的争点、グローバル化争点における位置

(注)社会文化的争点に関する位置づけはCHES調査に基づく。環境規制およびグローバル化争点については著者の評価による。
(出所)著者作成。

オランダ政党政治における争点軸の不一致

 図5-1と図5-2を見比べると、オランダ政党政治の特徴が見えてくる。図5-1が示すように、経済的対立軸と社会文化的対立軸が大きくずれているのが、オランダ政治の特徴である。経済的対立軸と社会文化的対立軸が合致していれば、第1象限と第3象限に政党は集中するはずだが、オランダではすべての象限に政党がある。政党は分散的に存在しつつ、社会文化的争点軸で上下に大きくは分かれるように見える。

 他方で、図5-2を見ると、社会文化的対立軸とグローバル化対立軸と環境規制をめぐる対立軸は、ある程度は重なっていることが分かる。「柱」が力を失い、グローバル化争点の重要度が増す中で、従来、左派が経済的弱者の保護を唱えていたところ、環境規制で経済的不利益を被る弱者の保護を右派が訴えるようになった。他方で、左派は環境保護を主張するため、経済的な対立軸がねじれることとなった。何がオランダの争点軸として機能しているかについては、次節の2025年選挙の項目でもう1度触れる。

3.下院選挙

選挙制度――完全比例代表制

 下院選挙は4年ごとに拘束名簿式の比例代表制で行われ、定数150人を選出する。投票にあたり、有権者は政党名にではなく、リストに記載された候補者から選んで1票を投ずる。名簿の筆頭候補者に投票する慣習があるため、筆頭候補者から順に当選していくのが通常である。ただし、名簿の順位上は当選枠に入っていなくとも、一定以上の票を集めれば当選できる。

 各党の得票率と議席率を限りなく一致させようとするオランダの選挙制度は、完全比例代表制と呼ばれる。したがって、わずか0.67%程度の得票率で1議席を獲得することが可能である。たとえば、2025年の選挙の有効投票総数が1,057万1,990票であったところ、1議席を獲得するために必要な票数は、7万479票でしかなかった。すなわち、オランダでは小政党の国政進出が非常に容易であり、この点は、比較政治的に見て、オランダ政治の重要な特徴となっている。

 歴史を振り返れば、こうした選挙制度が成立したのは1917年である。20世紀初頭のオランダでは、制限選挙制かつ単純小選挙区制の下で、プロテスタント系、カトリック系の2つの宗教勢力と、自由主義、社会民主主義という2つの非宗教的な勢力が拮抗し、膠着状態が続いていた。時のコルト・ファン・デル・リンデン首相は分断状況を克服するべく、比例代表制と普通選挙制度の採用を訴え、両制度ともに実現されるに至った。

 この比例代表制では、上に述べた通り議席の獲得が容易であり、1918年の選挙では17もの政党が議会に登場した。ところが、4大勢力以外の小政党は有力政党に合同したり、内紛から消滅したり、そもそも議席を獲得できなかったりと長続きしなかった。また、比例代表制と同時に導入された普通選挙制は、宗教系勢力と社会民主主義勢力を支持する有権者を大幅に増やし、名望家層や企業家層に支持されてきた保守的な自由主義勢力に壊滅的な打撃を与えた。かくして、1920年代以降、強固な「柱」を持つ宗教政党と社会民主主義政党が政治の中核を占めるようになった。これらに加えて自由主義政党が、首相は出せないが連立に加わるという形で存在し続けることになる。冒頭で述べた20世紀型の安定的な構図はこうして生みだされた。

 「柱」の解体後、先に述べたように、キリスト教民主アピールと労働党は弱体化し、組織的に強い「柱」を持っていなかった自由民主人民党が相対的に浮かび上がった。さらに「柱」の解体に加えて、環境、グローバル化、移民といった新しい問題群が、新しい政党の登場を後押しした。これらの政党が議会に進出することができたのは、完全比例代表制という従来から変わらない議席の獲得のしやすさである。

 20世紀の安定的な構図が失われた後の変化がある種の極致を迎えたのが、2023年の総選挙である。直近の2025年の総選挙と共に振り返ってみよう。

2023年11月選挙で自由党が第1党に

 選挙を行う契機となったのは、ルッテ政権の退陣である。自由民主人民党のルッテが率いる内閣は、13年にわたって政権を維持してきたが、難民政策をめぐって連立政権の枠組みが瓦解したため、2023年7月に総辞職した。この後に続いた11月の総選挙の結果、右派ポピュリスト政党である自由党が大躍進を遂げて、37議席を獲得し、初めて第1党となった。

 自由党を率いてきたのはヘールト・ウィルデルスである。彼の主張は、反移民、反イスラム、反EU、反既成政党と極めて明快である。自由党は、党首ウィルデルスただ1人を党員とし、彼が党の意思決定を支配する、個人色の強い政党である。2006年以来継続的に下院に議席を保持してきた。このような極右政党が2023年選挙で第1党になったことは、オランダにおける妥協と共存の文化を伴う政治秩序が破壊されたと受け止められ、内外に大きな衝撃を与えた。

 自由党勝利の背景は、ルッテ内閣を崩壊させた原因と同じ、移民・難民問題である。自由党は、ルッテ内閣に対し閣外協力を2010年から2012年にかけて行っていた際、政権が移民に厳しい態度をとる要因となっていた。同党は移民・難民問題に関するイシューオーナーシップを握っていると目されており、これを梃子に2017年選挙では第2党に躍り出た(水島2021)。ルッテ内閣崩壊時には、コロナ禍後に増大した難民を、専用の施設が収容しきれなくなっていた。あふれた難民は屋外で寝泊まりし、様々なトラブルが住民との間で発生した。こうした状況は自由党への支持を促進し、有権者が自由党に投票した理由の実に80%が移民・難民問題であった。

 さらに、従来からある住宅不足に拍車がかかっていたことも自由党を利した。自由党は、2010年代以降「弱者の党」として緊縮財政に反対するなどし、年金生活者や雇用リスクの高い層に支持を伸ばしていた(水島2021)。2023年の選挙キャンペーンにおいては、住宅不足にもかかわらず、政府は住宅を難民に優先的に提供している、難民支援よりも国民の生活を支援すべきだ、と主張した。当時、ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって燃料価格は上昇し、ガス電気料金はより生活を圧迫していた。家賃も高騰し、若年層が親元から自立することを阻んでいた。こうした状況において、難民支援よりは国民の生活を守れという自由党の主張は、一定の有権者に肯定的に受け止められ、今まで自由党に投票していなかった人々にまで支持が広がった。

 また、2006年以来議席を保ち続けている自由党はもはや新参者ではなく、人々がその存在に慣れたという側面も考慮に入れる必要がある。当初は新規で奇異な眉を顰めるような存在だったが、20年近くが過ぎ、すでにノーマライゼーションの過程が終了している。特に若い世代は、物心つく頃から当たり前にいる政治家だとウィルデルスのことを捉えるようになっている。

 かくして2023年選挙の時点で、自由党への支持は従来よりも幅広いものとなった。支持層の特徴としては、学歴では高学歴層が少なく、低学歴層が多めで、地域としては白人が多く、経済的な不安が強い衰退地域に多いものの、年齢的には全年齢層でまんべんなく支持があり、特に18~34歳の若年層で第1党であり、男女比もバランスがほぼとれていた。かつて自由党は、極右的な高齢男性の党であるとのイメージを持たれていたが、そのイメージは過去のものとなった。

 大勝した自由党に対し、ルッテ政権退陣のチャンスを生かせなかったのが、緑の党と労働党の左派連合である。大都市部で健闘し議席数を伸ばしたものの、連立相手として念頭にあった民主66が大敗したため、左派主導で過半数を押さえて連立政権をつくることが困難となった。左派の主な支持層は大都市部の高学歴層であり、気候変動問題への関心が強いことはすでに述べた通りである。また、ルッテ後任のイエシルフース率いる自由民主人民党は、移民に厳しい姿勢で選挙戦に臨み、かつ自由党を連立相手として排除しない態度をとったが、自由党から10議席以上引き離されて24議席と第2党に沈んだ。

 選挙後の連立交渉には、第1党となった自由党のほか、第2党の自由民主人民党、改革中道ポピュリストの新政党として躍進した新社会契約党、農民市民運動の4党が参加した。下院の過半数を占める3党に、上院で第1党の農民市民運動を加え、4党からなる右派連立政権が目指された。難しい交渉の末、2024年7月に4党右派連立政権が成立した。ただし、第1党自由党は初めて政権入りを果たしたが、党首ウィルデルスは「憲政の常道」に従えば首相になるのが筋であったにもかかわらず、閣僚にもなれなかった。というのも、他の3党の拒否感が強く、ウィルデルスとの協力関係を最小限に止めようとしたからである。結局、連立を組む4党は、治安機関の元トップつまり政治家ではない元官僚であるスホーフに首相の座をいわば押し付けた。前職からして難民問題に厳格に対応するだろうと期待されての首相就任である。

2025年10月選挙へ

 右派4党連立政権は、難民制限、気候変動対策の緩和、ヨーロッパ統合への慎重な姿勢、開発援助削減で一致をみた。ウィルデルスは、従来反対の立場をとってきたウクライナ支援に柔軟に対応した。こうして、新政権は全般的に安全運転を続けるかに見えた。しかしながら、ウィルデルスは政権の移民・難民政策が甘いと不満を抱き、2025年6月、連立離脱を通告するに至った。ウィルデルスとしては、次の選挙で移民・難民問題を梃子に圧倒的な議席数を獲得する目算であった。

 しかし、同年10月に行われた選挙で、ウィルデルスの目論見は実現しなかった。僅差ではあれ、自由党は第2党となった。代わって第1党の座を獲得したのは前回選挙で大敗した民主66である。

 自由党が第1党になれなかったことは、反グローバリズムを掲げる右派新興政党の凋落を意味しない。というのも、この右派ポピュリズムに属する自由党、JA21、民主フォーラム、農民市民運動党の4党の合計議席は46議席であり、前回2023年選挙時の47議席とほぼ変わらないからである。

 このことは、とりわけ左派連合を支持する知識人層に衝撃を与えた。政権を崩壊させた右派が負けて左派連合が勝利を収めるのではなく、かえって議席を減らしてしまったからである。右派の自滅で内閣が辞職したのであれば、左派にチャンスが巡ってくるのが20世紀の常識であったが、その常識が覆された。左派連合のリーダーで前欧州委員のティメルマンスは敗北を受けて辞任を余儀なくされた。

 僅差で勝利したのは民主66という中道政党である。前回の選挙でも中道改革政党である新社会契約党が躍進したことを考え合わせると、中道であることが一定の有権者を引き付ける力になっていると考えられる。ただし、新社会契約党は党首オムトツィヒトの個人的人気で持った政党であり、彼が政治の第一線から引き、さらに政界から引退さえする中で同党は支持を失っていき、2025年選挙では1議席も取れなかった。前回2023年に新社会契約党に投票した有権者の一部は民主66に流れたという。

 民主66は、1966年、都市部の新中間層を支持層として結党し、経済的には自由主義志向、社会文化的には自己決定を重視する進歩的な傾向を持つ。自己決定の強調は安楽死の論点で際立ち、民主66は、安楽死へのアクセスを容易にできるよう主張してきた。固定的な支持団体は持っておらず、現実的な政治改革を求めるという点ではドイツの自由民主党にやや似ている。

 民主66の党首イェテンは同性愛者であると公言しており、この点は同党の自己決定重視と親和的である。彼は気さくに有権者と交流し、頼れるイメージを培った。また、2025年選挙では、集会に巨大な国旗を掲げるという右派のようなパフォーマンスで話題を呼んだ。従来型の経済的な意味での左右対立とは距離を置くリベラルに、ナショナルな意味づけを加えたようだ。

 民主66は、僅差で第2党となった自由党とは、政策面で見ても支持層で見ても対照的な存在である。図5-1および図5-2が示すように、民主66は社会文化的にもっとも進歩的であり、自由党はもっとも保守的な部類に入る。グローバリズムの観点から見ても、両党はくっきりと対照的である。社会文化的に開明的でグローバル志向の民主66と、社会文化的に保守的で反グローバリズム(反EU)の自由党と対比できる。これに対して経済的争点での差異は、ありはするけれども他の軸ほどの違いを生じさせていない。民主66は、経済的争点ではやや左に分類されることもあるが、福祉国家に安住するよりは自ら稼ぐべきだという明確な方向性を持っている。自由党は経済的に右であるものの、先に見たように、移民との対比ではあれ、国民の生活に対する国家の支援を呼びかけていた。

4.反グローバリズム政党

反グローバリズム政党とその特徴

 グローバリズムか反グローバリズムかという対立軸は、従来の経済的対立軸よりも現在のオランダ政治においてより重要な軸として顕在化している。これは言い換えれば、「開かれた社会」と「閉じた社会」の対立である。

 社会文化的に保守的な政党は、反グローバリズムの傾向を持つ。たとえば、自由党、JA21、民主フォーラムは、典型的な右派ポピュリストの反グローバリズム政党である。自由党以外の2政党について説明すると、まずJA21は、自由党と政策的傾向をほぼ同じくするものの、自由党の急進ぶりを嫌い、より現実的な反移民政策を求める有権者を2025年選挙では引き付け、前回の1議席から9議席に躍進した。民主フォーラムの担い手は相対的に知識人が多く、自由党と比較すると高学歴層が多い。2023年選挙の3から2025年には7と議席を増やした。これらの3党だけで150議席のうち42議席を占める。

 4党右派連立政権に参加した農民市民運動も反グローバリズム政党であるが、他の3党とやや毛色が異なり、既存政治への不満、都市中心のエリートへの反感をベースとして支持を集めてきた。その農本主義的思想はポピュリストとはやや異なった印象を与える。彼らのコアな支持層は農民だが、都市部にもある程度は支持が広がっている。他方で、左派には反グローバリズム政党が少なく、元マオイストの社会党のみである。

分断をもたらす学歴

 グローバリズムか反グローバリズムかを分ける1つのメルクマールは、学歴である。大卒かそうでないかで明確に異なる。オランダの高等教育修了者はおよそ40%である。また、居住地が大都市圏なのか地方なのかも重要である。

 たとえば、かつて左派は労働者層を支持層として擁しており、支持者の学歴は低く、社会的に弱い層であった。しかし、今や、左派を支持するのは高学歴の都市在住者、すなわち中高所得者層であるか、あるいは大学生である。彼らは社会文化的に進歩的で環境問題にも熱心で、社会的弱者とは呼べない。いわゆるwokeもこの流れに属する。

 これに対して、非大卒者かつ地方在住者は、社会文化的な進歩派への共感をさして持たない。気候変動問題についても、左派勢力が主張するような厳しい規制に賛成できない。彼らは、説教がましい左派政党に対してむしろ忌避感を抱く。

 こうした対立を象徴する興味深い発言を、ベルギーの右派勢力のある指導者がしている。すなわち、庶民は左派が語る世界の終わりよりも、今月の終わりの方をよほど恐れている、と述べた。世界の終わりとは、気候変動に伴う温暖化の果てにある地球の破滅を意味する。対する今月の終わりとは、月末にくる様々な支払期限のことである。月末までに電気料金、ガス料金、家賃を払わなければ、翌月の暮らしがただちに立ちいかなくなる。環境規制のゆえに支払う電気料金が上がって苦しむのは庶民であって、支払いに困っておらず今月の終わりを気にしなくてもよい高学歴層、高所得者層ではない、という点を右派ポピュリストは鋭く突いて左派を攻撃し、支持を稼ぐ。こうした対立のあり方は、かつての右左とは相当に異なっていると言わざるを得ない。

5.反グローバリズム動向

イスラエル・サッカーファンと移民系住民の乱闘事件

 反移民・難民の動きを背景とした事件は間歇的に発生している。最近では、2024年11月にイスラエルのサッカーチームが試合のためオランダを訪問した際に、市内各地で起きた乱闘事件が注目に値する。

 イスラエルのマッカビ・テル・アビブの応援のために多数のイスラエル人サポーターがオランダを訪れた。試合前からサポーターと地元の中東系の、つまり移民を出自とする人々の間で緊張が高まり、試合後にはアムステルダム市内各地で乱闘事件が起きることとなった。

 事件を受けて、まずは事件の「反ユダヤ主義的」な側面が注目された。イスラエル支持の自由党党首ウィルデルスは、暴力をふるった「モロッコ人」たちを非難し、有罪となった者が二重国籍者なら国外に追放すべきだと述べた(Coder 2024)。これに対し、民主66のイェテンは、ウィルデルスの発言は社会の分断を解決するどころか火に油を注ぐものだと非難し、左派連合の指導者ティメルマンスもイェテンを支持した。そもそもこの事件を、単なる反ユダヤ主義的な暴動とみるのは単純に過ぎるだろう。

移民・難民に対する世論を意識

 先に述べたように、民主66は、2025年選挙にあたり、国旗を選挙集会で掲げたことが知られている。リベラルを旗印にする党がナショナリスティックな感情に訴えたことになるため話題となった。移民・難民に甘いとみなされることは選挙で致命的であるとの意識がこのような行動を生みだしたと考えられる。

 近年、このように「愛国的」な態度を示すことが、政治的な立場を問わず、オランダ政治でも重視される傾向がある。2023年選挙時には、自由党のウィルデルスは、欧州委員を経験した左派連合のティメルマンスに対して、「あなたは7か国語をしゃべることができるが、庶民の言葉をしゃべることが出来ない」と述べた。これは、グローバルなエリートであるティメルマンスが土着の庶民から遊離した非愛国的な存在であるとウィルデルスがあてこすったことを意味する。

6.今後の見通しと日本への示唆

 オランダのような開放経済を持つ小国の場合、「経済のグローバリゼーション」と「人のグローバリゼーション」を分けて考えることが重要である。EECの原加盟国でもあるオランダは、ヨーロッパ市場統合により多大なメリットを享受してきたことをはじめ、経済のグローバル化には基本的に肯定的だ。20世紀においてもサービス・金融部門が主流で工業部門が弱く、アメリカのラストベルト、イングランド北部の旧工業地帯、フランス北東部の旧工業地帯のような「見捨てられた地域」を想定することは難しく、その点でも経済面の反グローバル化は広がりにくいものがある。他方、移民・難民の流入に対する警戒心は近年とみに強く、都市部の住宅事情の極度の悪化、家賃上昇を背景に、「難民に住宅が割り当てられ、オランダ人が後回しになっている」との主張が支持を得ているなど、人のグローバル化への反発は強まる傾向にあり、政治的に最大のイシューとなっている。

 政府は住宅の新規建設に本腰を入れることを明示しているが、効果が出るのはまだ先と思われる。難民流入をめぐる効果的な対応ができないままだと、再び右派ポピュリスト政党の躍進を招く可能性がある。

 オランダの政治は、日本にとってどのような示唆を与えるだろうか。ヒントになるのは中道勢力の伸長であろう。2023年選挙では、新社会契約党が新政党ながらいきなり20議席を獲得し、政権入りを果たした。2025年選挙では、民主66が初めて第1党となった。いずれも改革を志す中道政党である。右派勢力が政権を失えば20世紀の常識なら左派が勝つはずであったが、そうはならなかった。新社会契約党や民主66という中道が票を伸ばし、左派連合はむしろ失速した。

 こうした現象は、日本でも見られる。2024年衆議院選挙および2025年参議院選挙で自民党・公明党の与党が過半数割れを起こしたものの、特に2025年選挙で最大野党たるリベラルな立憲民主党は思うように議席を伸ばすことができなかった。むしろ躍進したのは、改革を訴える中道の国民民主党であった。オランダ同様、日本でも、中道の改革勢力が勢いづく情勢が生まれていると考えられる。2026年1月の中道改革連合の発足は、まさにその流れに沿ったものと言えるだろう。

参考文献

水島治郎(2021)「第5章 オランダ」谷口将紀・水島治郎編著『経済・社会文化・グローバリゼーション―2020年の各国政党政治―』NIRA研究報告書.

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)水島治郎(2026)「経済・社会文化・グローバリゼーションII―2026年の各国政党政治―第5章 オランダ」研究報告書

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