岡崎哲二
客員研究員/東京大学大学院経済学研究科教授  
大久保敏弘
客員研究員/慶應義塾大学経済学部教授
齊藤有希子
客員研究員/独立行政法人経済産業研究所上席研究員
中島賢太郎
客員研究員/東北大学大学院経済学研究科准教授
原田信行
客員研究員/筑波大学システム情報系准教授

概要

 戦後、テクノポリス政策や頭脳立地政策など地域産業政策が実施されてきたが、地域発のイノベーションにけん引される持続的な経済成長は実現できていない。従来の地域産業政策で現状を打開することは困難であり、発想の転換を迫られている。本研究会では地域の独自性を最大限に生かすコンパクトな産業集積を形成することを提案する。コンパクトでも、密度の高いネットワークを都市部との間で形成することで柔軟な構造になり、高質な産業集積が可能となる。

INDEX

エグゼクティブサマリー

● 新たな課題との対峙

 90年代以降の日本経済は、大都市圏の成長を原動力として成長してきた80年代とは様相が異なる。大都市圏での成長率の低迷が続く一方で、低迷の度合いが相対的に抑えられている大都市圏以外の地域を活性化させることにより日本経済の成長を実現するという新しい課題に対峙している。

● 生産性の低下を招いた補助金政策
 これまで実施してきた地域産業政策は成功しているとは言い難い。過去の産業振興政策では製造業を中心に企業や雇用はわずかに増えたが、生産性は低下した。直接的な補助金政策が、生産性の低い企業の集積を招いてしまったためである。

● 既存インフラを高度に利用する
 イノベーションを実現するにはface-to-faceのコミュニケーションが必須である。地理的に距離があると知的な交流が阻害され、共同研究の弊害となる。しかし、こうした弊害は、新幹線網やリニア新幹線などの既存ないし既定の交通インフラを高度に利用すれば縮小し、イノベーションにつながる共同研究なども促進させることができる。

● 高質でコンパクトな産業集積を
 全国画一的な産業集積ではなく、少数でも生産性の高い企業による独自性のある集積形成を、地方政府が主導しなければならない。今後は、サービス分野を含む幅広い産業を取り込み、地域の特性を生かした高質でコンパクトな集積を形成すべきである。

● ネットワークの形成
 そうした少数企業によるクラスターでは、集積間や特定地域を超えたネットワークが欠かせない。共同研究や取引関係を密にし、外部経済効果を高めることが高質な産業集積を導くことになる。特に中小の企業が他企業や海外とつながることは難しいことから、地域金融機関、商工会議所、地方自治体、政府等の人的資源やノウハウを活用したネットワーク形成が肝要である。 
 各地には潜在的に起業しようとする機会も残っており、日本経済の成長源は地域にある。多様性に富んだ地域産業集積の新たな萌芽に期待する。

補助金政策チャートー産業政策の変遷ー

目次

総論  コンパクトな産業集積へ-柔軟なネットワークで支える-
第1章 イノベーションの経済空間-集積の観点からのイノベーション促進政策-
第2章 産業集積の高度化による経済活性化
    2-1 高質でコンパクトな産業集積の形成
    2-2 産業クラスター計画の評価
第3章 地域別の潜在的起業規模
参考 産業立地からみる3つのモデル

研究体制(五十音順)

(研究委員会)
岡崎哲二  客員研究員/東京大学大学院経済学研究科教授
大久保敏弘 客員研究員/慶應義塾大学経済学部教授
齊藤有希子 客員研究員/独立行政法人経済産業研究所上席研究員
中島賢太郎 客員研究員/東北大学大学院経済学研究科准教授
原田信行  客員研究員/筑波大学システム情報系准教授
(NIRA総合研究開発機構)
神田玲子  理事・研究調査部長
豊田奈穂  研究調査部主任研究員
森直子   研究調査部研究コーディネーター

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)岡崎哲二・大久保敏弘・齊藤有希子・中島賢太郎・原田信行(2016)「コンパクトな産業集積へー柔軟なネットワークで支えるー」NIRA総合研究開発機構

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