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わたしの構想

海外での日本研究の停滞

わたしの構想No.48 2020/06発行
識者:クリスティーナ・デイビス ハーバード大学政治学部 教授・日米関係プログラム 所長、クリストファー・ヒューズ ウォーリック大学 副学長・教授、パク・チョルヒ ソウル大学国際大学院 教授、ブルース・バートン アメリカ・カナダ大学連合 日本研究センター 所長(桜美林大学 名誉教授)、フランツ・ヴァルデンベルガー ドイツ日本研究所 所長
*原稿掲載順
企画:谷口将紀 NIRA 総研 理事/東京大学大学院法学政治学研究科 教授

海外での日本研究の停滞
 世界における日本の経済的な存在感が低下するにつれ、海外での日本研究も停滞している。
 各国の現状、また、その背景にあるものは何か。
 海外での日本研究を維持・発展させるために、何が必要なのか。
 各国で日本を対象に研究している第一線の研究者に聞いた。

 わたしの構想No.48「海外での日本研究の停滞」PDF    ■ 英文版PDF

 企画に当たって
谷口将紀 NIRA 総研 理事/東京大学大学院法学政治学研究科 教授
「日本研究の灯を絶やさないために―日本専門家の減少は国益を損なう」
Keywords……………海外の日本研究者の減少、中国に押される日本研究、海外の日本研究者への長期的な支援、アカデミックポストの提供、優れた研究成果の海外向け発信、英語論文・著書の作成支援、日本ベースの国際学術誌編集支援



 識者に問う
「海外での日本研究の停滞」

各国における日本研究は、どのような状況か。
海外の日本研究を維持するために、何が必要か。

1 クリスティーナ・デイビス ハーバード大学政治学部 教授・日米関係プログラム 所長
日米関係の基盤となる日本研究
Keywords……日本経済の低迷、日本研究の衰退、日本を理解する政治エリートの減少、日本人留学生を増やす

2 クリストファー・ヒューズ ウォーリック大学 副学長・教授
次世代に対して、日本研究のパイプラインをアップデートする
Keywords……研究センターの減少、修士学生の減少、日本の海外戦略の偏り、パイプラインへの投資

3 パク・チョルヒ ソウル大学国際大学院 教授
民間も含めて研究に戦略的投資を
Keywords……中国研究の隆盛、日本研究への関心低下、日本がやれること、アジアの重要性、若者にチャンスを与える

4 ブルース・バートン アメリカ・カナダ大学連合 日本研究センター 所長(桜美林大学 名誉教授)
日本から外に向けた発信を
Keywords……人文学研究の世界的縮小、日本研究者のポスト減少、日本語学習の高い関心、学際的・分野横断的な研究テーマ、資金支援、寄付講座、発信力不足、海外のニーズ

5 フランツ・ヴァルデンベルガー ドイツ日本研究所 所長
データをオープンにし、研究者を呼び込む
Keywords……<課題先進国>日本への高い関心、トランスナショナルな視点、ケーススタディーとしての日本、グローバルな共同研究、デジタル基盤の整備、学生の長期インターンシップ

インタビュー実施:2020 年3月~4月
インタビュー:澁谷壮紀(NIRA 総研研究コーディネーター・研究員)

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 識者が読者に推薦する1冊(推薦図書リストはこちらから)

クリスティーナ・デイビス氏
エズラ・F・ヴォーゲル〔2019〕『日中関係史―1500年の交流から読むアジアの未来』益尾知佐子訳、日本経済新聞出版社
Ezra F. Vogel 〔2019〕China and Japan: Facing History, Harvard University Press

クリストファー・ヒューズ氏
The Japan Foundation, London〔2016〕Japan Foundation Japanese Studies Survey 2015: A Survey of Japanese Studies at University Level in the UK, The Japan Foundation. https://www.jpf.org.uk/download/Japan-Foundation-Japanese-Studies-Survey-2015-Report.pdf

パク・チョルヒ氏
Cheol Hee Park〔2010〕"Who’s Who and Whereabouts of Japanese Political Studies in South Korea: With a Focus on the Third Generation Japan Specialist," Japanese Journal of Political Science. Vol.11. (October 2010), pp. 307-331

ブルース・バートン氏
The Japan Foundation, ed.〔2016〕Japanese Studies in the United States: The View from 2012, Japanese Studies Series XXXX. Tokyo, The Japan Foundation.
http://japandirectory.socialsciences.hawaii.edu/Assets/Volumes/Volume%201.pdf

フランツ・ヴァルデンベルガー氏
Barbara Holthus, Isaac Gagné, Wolfram Manzenreiter, Franz Waldenberger〔2020〕Japan Through the Lens of the Tokyo Olympics Open Access, Routledge

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 企画に当たって

谷口将紀 NIRA 総研 理事/東京大学大学院法学政治学研究科 教授
「日本研究の灯を絶やさないために―日本専門家の減少は国益を損なう」
 
 二〇一九年の訪日外国人旅行者数は三一八八万人と七年連続で過去最高を更新した。二〇〇三年と比べて六倍を超える成長ぶりである。同年には、出国日本人数も初めて二〇〇〇万人を突破した。その後、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う入国制限措置や入国後の行動制限措置のため、現在の出入国者数は急激に落ち込んだが、ビジネスにせよ、観光にせよ、日本が持つ魅力自体が損なわれたわけではない。感染症の流行が収まり、旅行者数が回復するまでには時間を要するかもしれないが、やがてトンネルを抜ければ海外との往来は旧に復するだろうし、東京五輪・パラリンピックはそのためのスプリングボードになるはずだ。

海外における日本研究者の減少
 しかし、このような一般の外国人の日本に対する関心の長期的な高まりとはうらはらに、停滞が深刻化していることがある。海外における日本研究、特に政治学・国際関係や経済学など社会科学における日本研究者の減少である。
 例えば、新聞やテレビに登場し、日本の政治・外交・経済などについてコメントする欧米の識者を思い浮かべていただきたい。長年同じような顔ぶれであることに気付くはずだ。それだけ当該人物の洞察力が秀でていることの証左でもあろうが、同時に後進が十分育っていないことの表れでもある。
 アメリカにおける日本研究の一大拠点であるハーバード大学で、今年から日米関係プログラム所長に就いたクリスティーナ・デイビス教授は、一九九〇年代初頭には一流大学ならば日本研究を専門とした教授や大学院生が少なくとも一人はいたところが、今や日本だけを専門に研究している大学院生はほとんどいないと嘆く。このことは、日本への広い見識をもつアメリカの政治エリートが減ることにつながる。
 今秋の米大統領選候補に内定したバイデン前副大統領は、Foreign Affairs 誌で外交政策を発表したが、その論文中に中国は一三回(批判的な文脈ではあったが)も登場したのに対し、日本への言及は、オーストラリア・韓国とともに列挙された一回にとどまった。これに象徴される日本への関心の薄さは、日中間の政治体制や経済力の違いだけには帰せられまい。
 アメリカやヨーロッパ大陸と比べて日本研究の基盤が強いとされるイギリスにおいても、ウォーリック大学のクリストファー・ヒューズ副学長によれば、日本研究を専門にする研究センターが少なくなったり、博士課程・研究者への橋渡しの役割を持つ修士学生の減少が顕著になったりしている。日本政府の海外戦略がカルチャーの宣伝に偏っているという同氏の警告は重い。
 中国に押される日本研究という構図は、韓国でも同様だ。日本研究を専門とする学生は、ソウル大学などの一流大学には一定数いるものの、地方大学ではほとんど関心がなく、またアジア諸国の日本研究に対する日本からの資金提供も、欧米諸国に対するものから劣後しているというのが、ソウル大学元日本研究所長の朴喆煕教授の見立てだ。

日本研究を支えるために、積極的な支援を
 海外における日本研究を支えるため、日本国内における日本研究にもやるべきことがある。北米の大学生・大学院生などを対象に、横浜で中・上級日本語の集中教育を行っているアメリカ・カナダ大学連合日本研究センターのブルース・バートン所長は、世界の学者に取り上げられる価値のある優れた日本研究は多く存在するのに、英語で発信しないために影響力を持てないと問題点を指摘する。
 同じく、マックス・ウェーバー財団ドイツ海外人文科学研究所の一機関として、東京を拠点に活動するドイツ日本研究所のフランツ・ヴァルデンベルガー所長は、各種統計や経済データなど、日本に関連するデータはたくさんあるが、公開されている情報は日本語だけのものが多いとデジタル基盤の整備を説く。
 多岐にわたる五氏の提言の中でも、海外における日本研究の灯を絶やさないために、筆者がとりわけ重要だと感じたのは以下の二点である。第一に、海外における日本研究者に対する長期的な支援。端的に言えばアカデミックポストの提供である。日本留学や短期渡航助成にとどまらず、寄付講座や寄付研究部門を充実させて、大学院生や若手研究者が将来の心配なく良質の日本研究に打ち込める環境を整備することが必要である。
 第二は、日本国内での優れた研究成果の海外向け発信の支援である。英語論文・著書の作成支援はもちろんのこと、研究関心の存在被拘束性が強い人文・社会科学―例えば、筆者が専門とする現代日本政治論では、海外向けに論文を作成するときには、米国中心の研究関心に合わせたり、統計・数理的な研究方法論を前面に出したりと、日本語で物を書くときとは異なるギアチェンジが必要になる―では、日本語で書かれた本そのものを翻訳―日本で英語版を売れないから、市場任せでは出版社は消極的―したり、日本ベースの国際学術誌編集を支援することもあって良い。
 各国で日本研究の孤塁を守る、五人のリーダーの切実な声に耳を傾けたい。

谷口将紀(たにぐち・まさき)
NIRA総合研究開発機構理事。東京大学大学院法学政治学研究科教授。博士(法学)(東京大学)。専門は政治学、現代日本政治論。

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 識者に問う
各国における日本研究は、どのような状況か。
海外の日本研究を維持するために、何が必要か。

クリスティーナ・デイビス ハーバード大学政治学部 教授・日米関係プログラム 所長
「日米関係の基盤となる日本研究」


 アメリカでは、日本経済の低迷に連動するように、日本研究が衰退している。日本語を学ぶ学生の数をみても、私が働くハーバード大学では、日本経済が好調だった一九九二年頃の約五八〇名をピークに減り続け、近年では二〇〇名程度となった。一方で、中国語は、二〇一三年のピーク時には約七〇〇名、現在も約五八〇名の学生が学んでいる。さらに、研究のレベルでも、一流大学には政治学等の社会科学の分野で日本研究を専門とした大学院生や教授が、一九九〇年代初頭には少なくとも一人以上いたが、今では日本だけを専門に研究している大学院生はほとんどいない。
 日本研究の衰退がもたらす最大の懸念は、日本への広い見識をもつアメリカの政治エリートが減っていくことだ。今はまだ、アメリカの政治家に日本の立場や利益は伝わっているが、日米同盟に危機が生じた場合、政治家が歴史的背景などを理解していなければ、政治家は間違った判断をするかもしれない。また、一般市民はジャーナリストからの情報に依存しており、もし、正しい情報がメディアから提供されなければ、世論は印象に飲まれてしまう可能性がある。日韓関係などは複雑な問題が絡んでいるし、沖縄の米軍基地の戦略的な重要性や県民意識を理解する上でも専門家の存在が不可欠だ。
 日本を専門に学び、日本の立場を理解する人材を増やすためには、まず、日本人の留学生を増やすことが必要だ。留学生は、日本の立場や視点を代弁する親善大使といえる。多くの日本人学生が留学することで、アメリカの学生にさまざまな場面で日本の視点を伝え、日本への関心を生み出す機会を作ることができる。研究者やシンクタンクなどにおいても同様だ。ハーバード日米関係プログラムでは、日本の研究者や外交官を、毎年一五名ほど大学に受け入れ、毎週のように日本の政治や経済、外交政策などのセミナーを開催し、日本についてより知ってもらう機会を提供している。
 日本研究と日米関係を支えるには、経験を共有し、学び合いの機会を積み重ねていくことである。日米間の相互理解を支援するプログラムにこそ、資金と労力を投じるべきである。広く奨学金を支給し、減少する日本人留学生に歯止めをかけることも有効だ。また、日本の企業も、学生の留学経験が重要であることを、もっと認識していくべきだろう。自社のグローバル化を進め、国際競争力を高めるためにも、人材の活用を進めるべきだ。留学が学生のキャリアにプラスになるように、社会も意識を変えなければならない。

クリスティーナ・デイビス(Christina Davis)
専門は国際関係、比較政治。日本と東アジアの外交政策や貿易政策における国際機関の役割を研究。二〇二〇年より同大日米関係プログラムの三代目所長を務め、大学から日米協調を支える。同プログラム初代所長はエズラ・ヴォーゲル教授。米ハーバード大学博士課程修了。米プリンストン大学政治・国際関係学部教授を経て、二〇一八年に現職教授に就任。著書に『Why Adjudicate? Enforcing Trade Rules in the WTO.』(Princeton University Press、二〇一二年、大平正芳記念賞受賞)他。

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各国における日本研究は、どのような状況か。
海外の日本研究を維持するために、何が必要か。

クリストファー・ヒューズ ウォーリック大学 副学長・教授
「次世代に対して、日本研究のパイプラインをアップデートする」


 イギリスの日本研究は、ヨーロッパ諸国やアメリカと比べても、強固な地位を築いている。イギリス政府は日本の経済成長に早くから着目し、一九六〇年代以降、伝統的な日本研究だけでなく、社会科学など多くの分野に投資を行い、日本研究を発展させてきた。その後の日本経済が不調な時代にも、日本への関心が失われることはなかった。現在は、日本の漫画やアニメといったポップカルチャーへの関心が高い。本学でも、毎年、学部生五〇〇名程度がさまざまな分野で日本を勉強しており、その数は堅持されている。興味深いことに、中国の台頭にもかかわらず、中国研究はいまだイギリスでそれほど強固ではない。
 しかし、日本研究をめぐる環境は変化している。一つは、日本研究を専門にする研究センターの減少だ。これは、研究センターに競争力がなかったこともあるが、昨今は日本研究が地域研究ではなく、ケーススタディーの対象や多国間比較の一つの対象として扱われるようになり、それに伴って、さまざまな学部や分野で行われるようになったことが理由である。
 もう一つ、より注目すべき変化は、博士課程・研究者への橋渡しの役割を持つ修士学生が、 四、五年前から確実に減り始めていることだ。修士学生の減少は、パイプラインにかかわる本質的な問題である。日本研究のあり方が変わっても、パイプラインさえあれば研究は盤石に続く。パイプラインを維持し、次世代にも学問的基盤の強さを与え続けられるよう、今まで恩恵を得てきた現世代の日本研究者は、教育・研究プログラムをより魅力的にアップデートしなければならない。日本という専門エリアを持つことの強み、非西欧圏である日本の民主主義を分析することを通して得られる研究のスキル、後々の就職におけるメリットなどをしっかりと強調することも重要だ。
 他方で、日本政府の偏った海外戦略も考え直す時期なのかもしれない。日本のカルチャーを宣伝するため、ロンドンに作られたJapan House は、日本への関心を高めたかもしれないが、日本研究に貢献できておらず、コストに見合っていない。パイプラインへの投資こそが、重要だ。より戦略的に、修士や博士課程の学生に奨学金を支援するなど、日本研究を支える次世代育成の方法を考え直さなければならない。

クリストファー・ヒューズ(Christopher Hughes)
専門は国際政治、日本政治。特に日本の外交安全保障政策に精通。長年の研究から得た日本の政策議論への深い知見を踏まえた上で、日本政治に対して直言してきた。英シェフィールド大学博士課程修了。博士(国際関係学)。広島大学平和科学研究センター(現 広島大学平和センター)研究員、東京大学法学部客員准教授、英国際戦略研究所研究員を経て、現職。現在、米ハーバード大学ライシャワー日本研究所研究員も務める。著書に『The EU–Japan Partnership in the Shadow of China: The Crisis of Liberalism』(共編著、Routledg、二〇一八年)他。

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各国における日本研究は、どのような状況か。
海外の日本研究を維持するために、何が必要か。

パク・チョルヒ ソウル大学国際大学院 教授
「民間も含めて研究に戦略的投資を」


 韓国における日本研究と中国研究を比べると、明らかに中国研究の方が盛んになっている。韓国にとって中国は、両国間での歴史認識の違いが小さく、さらに世界的な競争力を増していることから、経済的な「機会」と「利益」をもたらす国だ。日本研究は、ソウル大学などの一流大学にはまだ一定数の学生がいるが、地方大学では学生確保に苦労している。日本研究への関心が低下した背景には、まず、日本経済の低迷によって日本研究のための日本の予算が削減されていること、また、情報化とグローバル化の影響で英語の重要性が高まり相対的に日本語の必要性が減っていること、そして、経済発展をとげた韓国にとって日本が発展のモデルではなくなったことが考えられる。世界的な研究の傾向として、単一国を対象とした地域研究は、研究に必要なコストにみあうベネフィットが得られず、人気が低下している。
 このような現状に対して、日本はもっと、自分たちがやれることは何かを真剣に考えるべきだ。日本はアメリカに対しては、日本研究を衰退させないように資金支援を講じているが、アジアへの資金提供の優先順位が低い。中でも韓国や中国とは政治的な摩擦もあり、日本研究を推進するための十分な資金を出すという発想になっていない。アジア地域で日本を理解し、日本のことを説明できる人材を育成することは、日本のために必要なはずだ。国だけではなく民間の資金も含めて、戦略的に投資するべきではないか。
 私は東アジア日本研究者協議会というコンソーシアムをつくり、日韓台中のネットワークをつくっている。目的は「日本研究における人文学と社会科学の融合」と「若手の育成」だ。韓国の日本研究者は、歴史的に日本語や日本文学などの人文学が多く、九割を占める。社会科学分野が少なく、研究分野のバランスと多様性が重要だ。特に効果的でかつ必要な取り組みは、既に研究業績があるシニアよりも、これから研究を始めようとする若者にチャンスを与えることだ。私が若手だった頃は、高名な日本人の政治学者とグローバルな共同研究をする機会に多く恵まれたが、今の若手にはそうした機会が少なく心配だ。いかに若手の日本研究者を育て、日本研究の国際的なネットワークに取り込んでいくかが、今後もっとも重要な施策になると考えている。

パク・チョルヒ(朴喆煕)
専門は日本政治、日韓関係、比較政治。特に日韓の外交・安全保障政策に詳しく、韓国を代表する日本通として日韓両国で名高い。米コロンビア大学博士課程修了。博士(政治学)。ジェラルド・カーティス教授の門下生。日本の政策研究大学院大学助教授、ソウル大学国際大学院助教授等を経て、二〇一一年より現職。二〇一二年から二〇一六年まで同大日本研究所長を務めた。二〇一九年より同大国際学研究所所長。二〇〇五年、日本研究の功績と日韓関係への貢献が認められ、第一回中曽根康弘賞を受賞。著書に『代議士の作られ方』(文春新書、二〇〇〇年)他。

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各国における日本研究は、どのような状況か。
海外の日本研究を維持するために、何が必要か。

ブルース・バートン アメリカ・カナダ大学連合 日本研究センター 所長(桜美林大学 名誉教授)
「日本から外に向けた発信を」


 日本研究だけが衰退しているわけではない。世界的に人文学の研究が縮小傾向にあるため、文学や歴史が中心だった伝統的な日本研究も同じ傾向にある。中国などの他地域を対象とした研究でも同様だ。将来のポストが減っていることもあり、日本に来る日本研究を行う博士課程の学生は減っている。一方、学生の日本語への関心は高い。当センターは、北米の大学院などから日本にやって来る学生に、中・上級の日本語教育を提供しており、受け入れる学生数は、修士レベルでは増え続けている。学生の国籍、ニーズ、目的は多様化し、翻訳者や金融系、弁護士、起業家など、日本で働くために来る人も多くなった。研究対象も、伝統的な人文学からより学際的になっており、ジェンダーなどの分野横断的な研究テーマを持つ人が増えている。対象地域も、東アジア、日中関係、あるいは国際比較における日本といったグローバルな研究が増え、日本にとどまらず、国境を越えた研究を目指す人が増えた。
 このように変化している研究ニーズを支えるために必要なのは、やはり資金だ。日本への留学をサポートする奨学金のほかに、日本と海外を結ぶ国際交流全体の仕組みを引き続き維持するためにも資金が必要だし、また、日本研究者のポスト減少を食い止めるには、大学や研究者に対する資金的な支援も必要だ。米英の大学では、寄付講座という仕組みで、企業などの寄付金をファンド運用して、人件費に充当している。日本も、海外の大学であれ日本の大学であれ、日本研究に関する寄付講座を設けて研究者をサポートしていく方法を、もっと積極的に検討すべきである。この点で、文部科学省が進めるスーパーグローバル大学創成支援事業は評価できる。採用された大学は、外国人研究者の採用や英語の授業が必要になるため、日本に関心をもつ外国人研究者のポストを増やすことにつながるからだ。
 日本研究の一番の課題は、日本からの発信力の不足だ。世界の学者に取り上げられる価値のある優れた日本研究は多く存在するのに、英語で発信しないために影響力を持てない。また海外に発信する際には、日本側の都合だけで発信するのではなく、日本のどんな情報が求められているのか、海外のニーズを調査して発信していく必要がある。その意味でも、発信するメンバーに外国人研究者を入れる柔軟さがあってよい。日本が世界に正しく理解されるための工夫が必要だ。そのためにも日本、日本人は外に目を向けないと、国の将来が危ない。

ブルース・バートン(Bruce Batten)
専門は日本前近代史。日本史における「国境」・「境界」とナショナルアイデンティティーの研究と、人間社会と自然環境との歴史的関わり方の研究を行う。米スタンフォード大学博士課程修了。博士(日本前近代史)。約三〇年間、日本の桜美林大学で教鞭をとり、二〇一六年より現職。アメリカ・カナダ大学連合日本研究センターは横浜にあり、主に北米の大学院から来る留学生を対象に中・上級日本語の集中教育を行う研究機関。卒業生の多くが官民で活躍。著書に『国境の誕生―大宰府から見た日本の原形』(日本放送協会出版、二〇〇一年)他。

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各国における日本研究は、どのような状況か。
海外の日本研究を維持するために、何が必要か。

フランツ・ヴァルデンベルガー ドイツ日本研究所 所長
「データをオープンにし、研究者を呼び込む」


 ドイツと日本は、価値観や直面している課題が共通しており、政治や経済面でのパートナーとしての関係はより強くなっている。研究対象としても、私の専門である経済学の分野では特に、日本への関心は非常に高い。課題先進国である日本が今まさに行っている実験的な取り組み―人口変動やデフレ、国債赤字といった経済社会的な課題―に対して、どのように日本が対応するかが、政治的にも、大きな関心をもって注目されている。
 現在もドイツでは地域研究に予算をつけ、活発に研究が行われているが、日本研究は、これまでの地域研究とは異なる形になってきた。日本だけを対象とするよりも、アジアというトランスナショナルな視点から、ケーススタディーとしての日本が研究されるようになっている。また、組織の形も、日本センターがアジア部門に統合されるなどの変化が生じている。日本だけを専門にすることはキャリアの面でも有利ではなくなってきており、むしろ、政治学や経済学などを専門とするドイツと日本の研究者が組んで、共同研究を行うケースが増えてきた。
 グローバルな共同研究を行う上で重要性を増しているのが、デジタル基盤の整備だ。各種統計や経済データなど、日本に関連するデータはたくさんあるが、公開されている情報は日本語だけのものが多い。これらを英語に翻訳することでも研究は拡大していくだろう。日本のデータをもっとオープンにして、世界中からアクセスできるようにすべきだ。
 また、共同研究が主流となる中で、交流は以前に増して重視されている。若手の育成のために、国をまたいだ学生の長期インターンシップを活用してはどうか。外資系企業では、学生が三〜六カ月程度、インターンで入るのは一般的で、ヨーロッパの大学ではインターンシップが単位になる仕組みも増えている。インターンシップは、企業がグローバル人材を確保するためにも有効だ。日本では大学が就職のためのステップにしかなっておらず、一括採用という特殊な制度のために、学生が留学や大学院への進学を避ける傾向がある。研究者がいつでも就職できるようになれば、両国間の若手研究者の人材交流も活発になるのではないか。

フランツ・ヴァルデンベルガー(Franz Waldenberger)
専門は日本経済、コーポレートガバナンス。日本とドイツの経済・金融システムの比較やコーポレートガバナンスを研究する。地域活性化にも関心をもち、地方自治体とのプロジェクトにも積極的に取り組む。独ケルン大学博士課程修了。博士(経済学)。ドイツ独占委員会、ドイツ日本研究所研究員を経て、一九九七年にミュンヘン大学日本センター・経営学部教授に就任。二〇一四年より同大学を休職して来日し、現職。著書に『Governance, Risk andFinancial Impact of Mega Disasters−Lessons from Japan』(共編著、Springer、二〇一九年)他。


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©公益財団法人NIRA総合研究開発機構
編集:神田玲子、榊麻衣子、北島あゆみ、山路達也

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。
E-mail:info@nira.or.jp

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