江川暁夫
総合研究開発機構主任研究員

概要

 本稿は、NIRAの2012~2013年度研究調査事業「アジアの経済・社会の発展を後押しする日本の新たな役割に関する研究」に関し、当該研究テーマを設定した理由や目的を、「アジアの連結性の高まりと中間所得層の拡大を伴う高成長」と「アジアの中所得国の罠」の2点に着目しながら説明することを主眼とする。
  アジアでは、人口規模の大きい複数の国が高成長を遂げ、これが日本経済への「追い風」にもなっている。また、アジア域内の「連結性」の高まりと「中間所得層」の拡大という経済構造の質的な変化は、今後の長期にわたる高い成長を期待させる。
  一方、「中所得国の罠」に陥るリスクも懸念される。労働・資本投入による経済成長の限界、経済基盤インフラ整備の遅れ、所得格差の悪化が、リスク要因となり、この「罠」に陥ってしまうおそれが生じる。
  いまアジアの中所得国は、保護主義的環境の中で企業が努力することにより高成長を遂げるという選択肢は取り得ない。一方、「中所得国の罠」の回避・克服の際に日本の経験を応用しようとしたとき、リスク要因のすべてに同時に対処できるだけの大きな財政か、民意で優先順位を決めるシステムの存在が不可欠となる。歳入確保を通じた財政の強化に対しては、日本が協力しやすいと考えられる。
  日本に期待される役割は、アジア地域内・地域間の政策協調を通じて連結性を更に高める先陣を切るとともに、最終消費地としてのアジアの魅力を更に高めるための規制緩和等を促進することなどにより、日本とアジアとの民間ベースでのwin-win関係の構築を側面支援することであろう。あわせて、「中所得国の罠」にかかわる課題の克服に向けたアジア諸国の努力に対し、協働をベースとした協力を行っていくことも考えられる。

INDEX

目次

1. はじめに:NIRAの2012~2013年度の研究事業の目的及び本稿のねらい
2. これまでのアジアの高成長と、日本経済への追い風
 (1) アジアの高成長が日本経済への「追い風」に
 (2) アジア経済の質的変化:「連結性」の高まりと「中間所得層」の拡大
3. 今後もアジアは高成長か:「中所得国の罠」
 (1) 経済構造転換の遅れ:労働力・資本の大量投入型の経済が維持困難になるリスク
 (2) 経済基盤インフラ整備の遅れ:国際的な物流や、国内での成長の果実の伝播を制約するリスク
 (3) 所得格差の悪化:人間開発の遅れをもたらし、経済の底上げが図れなくなるリスク
4. 「中所得国の罠」の回避・克服:日本の経験の応用可能性
 (1) 日本が中所得国から高所得国になった経験
 (2) 日本の経験を活用すれば、アジアの中所得国は高所得国化できるか
5. 日本の「新たな立ち位置」を見つける糸口
 (1) 連結性の更なる強化の「音頭取り」と、最終消費地としての魅力の取り込み
 (2) 経済の質的変化を踏まえつつ、課題克服に向けた協調・協力を
6. 今後の研究の方向性:まとめに代えて
補論1 アジアの連結性の強まりについて
補論2 最終消費地としてのアジアの魅力と、世界各地からの投資の活発化
参考資料 アジア各国の長期的な成長率の推移


図表

図表1 アジア諸国は急速に成長し、相次いで中所得国化
図表2 日本と貿易量の大きいアジア諸国の高成長が日本経済に追い風(グラビティ・モデル)
図表3 対ASEAN直接投資の供給源としてもASEANが注目されるようになる
図表4 2020年には中間所得層が急拡大、2030年には高所得層が急拡大
図表5 将来は「アジアの世紀」か「中所得国の罠」か
図表6 アジアでの最低賃金の急激な上昇
図表7 物流インフラ整備は下位中所得国でも中間得点以下
図表8 所得が不平等な国で成長率が低下する可能性(1990年代、2000年代の2期間をプール)
図表9 所得格差が改善しなければ、高い成長があっても人間開発度が高まらない
図表10 日本は1960年代末に高所得国入り
図表11 アジアの高位中所得国は政治の民主度・市民の自由度が低い
図表12 アジア諸国のインフラは使い勝手に欠ける
図表S1-1 ASEAN域内、アジア内の貿易依存度の高まり
図表S2-1 EUのアジアへの注目は加速
図表S2-2 EUから中国・インドへの投資は、サービス産業で急増

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)江川暁夫(2013)「アジアにおける日本の「新たな立ち位置」を整理する」NIRAモノグラフシリーズNo.37

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

※本誌に関するご感想・ご意見をお寄せください。E-mail:info@nira.or.jp

研究の成果一覧へ