谷口将紀
NIRA総合研究開発機構理事長/東京大学大学院法学政治学研究科教授
大森翔子
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

概要

 社会調査の手法は、人々の生活様式、社会情勢の変化に合わせて多様化してきた。特にインターネット上で回答を行うインターネット調査の登場は、その利便さによって社会調査のスタンダードな方法を変えつつある。本稿では、社会調査における投票率(投票したかどうか)を取り上げ、インターネット調査において投票率を測定するときにどのようなバイアスが考えられるのかを考察した後に、2021年衆院選時に実施したインターネット調査データを用いて、サンプリングバイアス、省力回答者バイアス、社会的望ましさバイアスの補正を試みた。分析の結果、インターネット調査で計測した投票率は、社会的属性によるバイアスよりも社会的望ましさバイアスによって大きく歪められていることが分かった。3種類のバイアスを補正した場合でも測定誤差の4割が埋めきれておらず、非回答バイアスを含む未計測のバイアスの存在が示唆される。

INDEX

図表

1 傾向スコアを算出するロジスティック回帰分析
2 リスト実験の結果(調査完了者全員)
3 分析結果のまとめ

1.はじめに

 社会調査は、人々の意識を数字として可視化する重要なツールである。その手法は人々の生活様式、社会情勢の変化に合わせて、「従来型調査」とも称される訪問面接調査や郵送記入式調査から、インターネット上で回答を行うインターネット調査の登場と多様化してきた。

 社会調査の手法としては比較的新しいものとして捉えられるインターネット調査であるが、従来型調査と比較してその利点は多く存在する。中でも迅速性は大きな利点である。インターネット調査であれば、調査票の作成から回収まで、数時間で完結することも可能だ。例えば選挙期間中の世論調査(そして当選予測)など、結果を知るまでのスピードを優先する調査では、インターネット調査が強みを発揮する。

 ほかにも、インターネット調査の強みは存在する。それはセンシティブな項目への回答のしやすさである。調査員に対して口頭で回答を伝えるタイプの訪問面接調査では回答をためらい、ときとして虚偽の回答をしてしまうような質問──例えば、宗教、性的志向、病歴、社会的に広く受け入れられているとは言えない価値観──についても、(モニター型)インターネット調査では回答者は調査者と会うことも、氏名を知られることもなく、好きな時間に、好きな場所で回答できることから、正直な回答を促しやすい、とされる。日本学術会議社会学委員会Web調査の課題に関する検討分科会(2020)は、この点をインターネット調査(Web調査)の強みとして挙げ、活用するべきだとしている。

 しかし、実際のところ、インターネット調査はセンシティブ項目における正直な回答を促しているだろうか(注1)。社会調査において、上記の例に加えてセンシティブな項目とされることが多いのは、政治的な態度や行動である。学校教育に限らず、選挙で棄権することは好ましくないという社会的規範が存在する中で、調査で選挙に行ったか(行かなかったか)を問うのは「センシティブ」である。面接調査と比べれば回答しやすいとは言え、村上(2017)によれば、2017年衆議院選挙時のインターネット調査会社モニターを対象とした調査において、「投票に行った」との回答が72.3%であった(注2)。実際の投票率は総務省の発表で53.7%であったから、20パーセントポイント近く高い数値が示されていることになる。

 NIRA総研では、インターネット調査における代表性──調査データが想定する母集団を正確に反映しているのか──のバイアスについて検討を行ってきた。本稿では、インターネット調査における「投票率(注3)」に着目して、そこに含まれるバイアスの原因を検討する。

2.バイアスの可能性

 社会調査にバイアスは不可避としても(大隅、2002など)、投票参加、特にインターネット調査における投票率には、どのようなバイアスがあるだろうか。以下4種類のバイアスを取り上げよう。

(1)サンプリングバイアス

 サンプリングバイアスは、調査における目標母集団と回収された標本の体系的な誤差を指す(萩原、2009)。調査手法によって、目標とする母集団における分布と回収したデータにおける分布が乖離する。性別や年齢などの基本的属性において、その誤差がしばしば確認される。

 NIRA総研では、国勢調査の質問項目を中心に、面接調査やインターネット調査に含まれるサンプリングバイアスを検証してきた(大森、2021a、谷口・大森、2022)。このうちインターネット調査については、国勢調査と比べて大都市居住者が多く、学歴も高いという特徴が示されている。モニター型インターネット調査では、回答者の性別や年齢に関しては国勢調査の分布を反映するように割り当てることが多いが、日本においては都市部よりも地方、学歴が高い人よりも低い人のほうが投票しやすいことが明らかにされていることを踏まえれば(境家、2013)、インターネット調査のサンプリングバイアスが補正された場合、調査結果に示される投票率は高くなる(実際の投票率との乖離が更に大きくなる)と予想される。

(2)非回答バイアス

 非回答バイアスは、調査対象者にはなったものの「回答しなかった人」に起因するバイアスである。性別や年齢など事前割り付けの条件には適合していても、政治や選挙をテーマとした調査には「政治や選挙に関心のある人」が回答しやすく、調査における投票率を過大にする原因になると推測される。

(3)省力回答者バイアス

 インターネット調査においては、特にサティスファイサー(satisficer、省力回答者)の存在が問題となっている。サティスファイサーとは、アンケート調査において質問文を注意深く読まずに、例えばでたらめに回答したり、全ての質問に対して同じ答えをしたりと労力を最小限化(satisfice)するような行動(回答)をする者を指す(三浦・小林、2018)。この問題については、日本では三浦麻子と小林哲郎による一連の研究(三浦・小林、2015a;2015b;2016a;2016b;2018)が詳しく検討している。サティスファイサーの存在が、投票率をどちらの方向に歪ませるかは、調査画面・選択肢の設計によるだろう。例えば、どの設問にも1番目の選択肢を考えることなく選択する回答者が多くいるとすれば、投票と棄権、どちらの選択肢が1つ目の選択肢となるかで歪む方向は異なる。

(4)社会的望ましさバイアス

 前節で触れたこのバイアスは、調査回答者が回答時に社会的な望ましさ(social desirability)を意識して回答することによって生じるバイアスのことである。Blair et al.(2020)の整理によれば、社会的望ましさバイアスの発生メカニズムは、Social Referent(SR)理論に基づくsensitivity biasの一部として説明される。すなわち、①調査回答者がSR(個人・複数人・組織または自分自身)を想定する、②調査回答者はSRならばどのように回答するのかを推測できると思っている、③調査回答者はSRが当該質問に対してどのような答えを好むかを推測する、④調査回答者は自身がSRの好む回答をしなければ、SRによりコスト(例えば、恥ずかしさ、金銭的・物理的制裁)が課されると考える、という条件が全て満たされる場合に社会的望ましさバイアスが発生する。

 選挙に引きつけて言えば、「社会常識」を備えた人ならば選挙に行ったと答えるはずであり、その中で自分は棄権したと答えるのは恥ずかしいと考えることにより、本当は棄権したにもかかわらず投票したと虚偽の回答を行う、という形で投票率を過大推計させる原因になる。

 本稿では、以上のバイアスのうち、サンプリングバイアス、省力回答者バイアス、社会的望ましさバイアスに対して補正またはサーベイ実験による推定を行うことで、インターネット調査に含まれる投票率のバイアスの「要素分解」を試みる。次節では、各バイアスの検討方法について説明する。

3.検討方法

 まず、本稿で用いるデータの概要を説明しておこう。本調査(第49回衆議院総選挙に関する調査(注4))は、2021年10月31日午後8時~2021年11月8日に全国の18歳以上の日本人男女を対象に実施され、全回答者(回答完了者)は2,490名であった。実施に際しては、国勢調査(平成29年度)の分布に合わせ、回答者の性別・年代・居住ブロックにより回収目標数を事前に割り付けた。

 本稿の目的変数となるのは、回答者の2021年衆議院選挙における投票参加──投票に行ったか、行かなかったか──である。具体的には2種類の質問を行い、1つ目は「日本では、投票は義務ではありません。忙しかったり、関心がなかったりして投票に行かれない方も大勢いらっしゃいます。10月31日に行われた衆議院議員総選挙で、あなたは投票に行きましたか、それとも投票に行きませんでしたか。」と投票参加の有無を直接的に尋ねる質問である。2つ目は、リスト実験方式の質問である。こちらの質問については、後ほど詳述する。

 前節で検討した4種類のバイアスのうち、非回答バイアスは計測不可能である。投票参加の有無に強く影響するであろう、政治関心や政治的有効性感覚に関する全数調査(有権者全員の分布が分かるもの)は存在しないからである。よって、他の3種類のバイアスを除去してもなお残る調査上の投票率と実際の得票率の差(の一定部分)が、非回答バイアスに基づくものと推測されることになる。

 サンプリングバイアスに対しては、谷口・大森(2022)で採用された、国勢調査のミクロデータ(調査票情報)を用いた傾向スコア法による補正を、投票有無の質問の変数に対して行い、分布の変化を見る。具体的には、国勢調査の個票データから無作為抽出を行い、「国勢調査サンプルデータ」を作成する。このデータとインターネット調査データをマージし、国勢調査と共通の変数(基本的属性関連)を用いて、傾向スコアを算出する。算出した傾向スコアを用いて、投票有無の変数に重み付けを行い、補正による投票率の変化を見る。方法の詳細は谷口・大森(2022)を参照されたい。

 次に、省力回答者バイアスに対しては、本稿では、省力回答者を検出するトラップ質問を用いて、サティスファイサーを分析データから除外する。本調査では、政治的態度に関する「以下に示すそれぞれの文章に対して、あなたはどの程度、同意または反対しますか。」というマトリクス形式の質問群の中に「『同意』を選択してください。」という質問(DQS形式)を紛れ込ませた。この質問に対して「同意」以外の回答を行ったものを、省力回答者とみなすことにする。

 最後に、社会的望ましさバイアスに対しては、リスト実験によって除去を試みる。リスト実験とは、簡便に説明すると、調査回答者にいくつかの文章が提示された2種類のリストを提示し、そのリストにある文章のうちいくつ当てはまるかを回答してもらう形式の質問を利用した実験法である。一方のリストはセンシティブな項目を1つ含むもの、もう一方は前者からセンシティブな項目だけを取り除いたものである。回答者を無作為にどちらかのリストに割り当て、各群における該当数の平均の差分をとることで、センシティブ項目の選択率を推定する(注5)。推定の有効性については諸説あるところだが(例えば、Tourangeau and Yan, 2007)、比較的容易にセンシティブ項目を測定できる方法として知られている。

 本調査での実験設計においては、センシティブ項目以外に起因する分散を抑えるため、回答者に2回のリスト実験を課すダブルリスト実験(Glynn, 2013)を採用した。各質問の冒頭には「あなたは、次に示したもののうち、いくつに当てはまりますか。当てはまるものの『個数』をお答えください。どれに当てはまるかをお答えになる必要はありません。」というリード文が示され、回答者は当てはまる項目数を回答した。

 2回の実験をそれぞれA、Bとすると、回答者に示されたリストは以下のとおりであった。

 実験A
・過去1か月間に1回でもYahoo!を使った。
・自宅でダイヤル式電話機を使ったことがある。
・Instagramのアカウントを持っている。
・過去1年間に外国へ観光旅行に行ったことがある。
・今回の衆議院議員総選挙で投票した。

 実験B
・過去1か月間に1回でもLINEを使った。
・自宅で白黒テレビを見たことがある。
・Twitterで2個以上のアカウントを持っている。
・過去1年間に外国人観光客と食事をしたことがある。
・今回の衆議院議員総選挙で投票した。

 各実験のリストのうち、太字で示された「今回の衆議院議員総選挙で投票した。」がセンシティブ項目である。回答者はランダムに、AとBいずれかの実験でセンシティブ項目を含むリストに当たるように設計した。つまり、実験A[実験B]で「今回の衆議院議員総選挙で投票した。」を含む全5項目のリストを見せられ、そのうち当てはまるものの数を答えた回答者は、もう一方の実験B[実験A]では「今回の衆議院議員総選挙で投票した。」を含まない全4項目のリストを見せられて該当数を答える。実験A・Bそれぞれについて、投票参加をリストに含む群と含まない群の平均該当数の差が、各実験から得られた推定投票率ということになる。

4.分析結果

 3種類の補正単体の効果を示した上で、それぞれの方法を組み合わせた分析結果を見ていく。2021年衆院選の実際の投票率55.9%に対して、分析出発点となる調査完了者全体の投票率は、76.6%(以下「ベースライン」と呼ぶ。)であった。

4-1.サンプリングバイアスの補正

 まずは、国勢調査のミクロデータ(調査票情報)を用いた傾向スコア法による補正の結果を示す。傾向スコアを算出するために行ったロジスティック回帰分析(表1)における従属変数は、インターネット調査回答者=1、国勢調査サンプルデータ回答者=0をとるダミー変数である。

 補正に投入した変数は、国勢調査との共通の調査項目から、女性ダミー、年齢、既婚/死別ダミー、無職/家事/パート/自営ダミー、1次/2次産業従事ダミー、持ち家ダミー、5年前と常住地に変更なしダミー、各居住ブロックダミー(参照カテゴリは「北海道」)、21大都市在住ダミーである。係数が有意水準5%を満たした変数は、既婚ダミー、死別ダミー、無職ダミー、家事ダミー、1次/2次産業従事ダミー、21大都市ダミーであった(注6)

 ロジスティック回帰分析の結果(表1右側)は、非死別者、有職者、家事専業者、非一次・非二次産業従事者、21大都市居住者ほどインターネット調査回答者である確率が高いことを意味する。また、谷口・大森(2022)と同様に、性別・年齢・居住地域により回収目標数を割り付けたにもかかわらず、インターネット調査の回答者は、家事専業や産業、都市圏在住などの属性において国勢調査サンプリングデータの分布と異なっていることが分かる。

 この回帰式により算出された傾向スコアを用いて各サンプルを重み付けし、再集計した得票率は、75.3%(ベースライン比マイナス1.3パーセントポイント)であった。

4-2.省力回答者バイアスの補正

 次に、省力回答者バイアスの除去効果を見てみよう。本調査において「(この項目は)『同意』を選択してください。」という指示に反して「同意」と回答しなかった者は416名、回答完了者のうち16.7%であった。谷口・大森(2022)で利用したデータよりも、省力回答者の割合は多い。この省力回答者を除いたデータの自己申告投票率は74.1%(ベースライン比マイナス2.5パーセントポイント)となった。

4-3.社会的望ましさバイアスの補正

 続いて、社会的望ましさバイアスの補正を行うためのリスト実験結果を示す。実験A・Bにおける、処置群(「今回の衆議院議員総選挙で投票した。」を含む全5項目のリストを示された群)と、統制群(投票参加を除いた全4項目のリストを示された群)の、該当数の平均値は表2のとおりである。

 実験Aでは、処置群が2.26個、統制群が1.56個であり、平均値の差分は0.698であった。同様に、実験Bでは、処置群が1.88個、統制群が1.27個であり、平均値の差分は0.607であった。ダブルリスト実験のデザインであるので、ベースラインAとベースラインBにおけるそれぞれの差分の平均値は0.652、すなわち社会的望ましさバイアスを除いた投票率は65.2%(ベースライン比マイナス11.4パーセントポイント)と推定される。真の投票率である55.9%からはなお約10パーセントポイント離れているものの、自己申告投票率は74.1%であったことを考慮すれば、先の社会属性による補正値よりも、真の投票率に近い値が推定されている。

4-4.複数の方法を組み合わせた補正

 最後に、複数の方法を組み合わせた補正効果を観察する。

 省力回答者の回答は「でたらめ」であるから、いずれの場合でも分析対象から除外するのが適当であろう。省力回答者除去後のデータに対して、表1の左側にあるとおりの傾向スコアを用いた重み付けを施したところ、投票率は77.2%と、ベースラインを0.6パーセントポイント上回る結果になった。第2節で検討したサンプリングバイアスのうち、1次/2次産業従事者や都市圏以外の居住者など、国勢調査と比較してインターネット調査では過小であるカテゴリの回答者に大きなウェイトが与えられたためと考えられ、省力回答者を除去しなかったときのサンプリングバイアスの補正結果(投票率微減)は見掛け上のものに過ぎなかったことが示唆される。

 次に、省力回答者除去後のデータを対象としたリスト実験による推定投票率は、68.2%(ベースライン比マイナス8.4パーセントポイント)となった。省力回答者も含めたリスト実験の推定投票率よりも若干高く、省力回答者の中により多くの棄権者がいたことを物語っているが、この点は調査票のデザイン等によっても変わりうるため、本調査を超えた知見としてどこまで一般化できるかは注意を要する。

 終わりに、3種類の補正方法全部、つまり、省力回答者除去後のデータに、表1左側の回帰式で求めた傾向スコアに基づく重み付けを行った上で、リスト実験で投票率を推定したところ、64.1%(ベースライン比マイナス12.5パーセントポイント)と真の投票率に最も近い値になった。ここからは、まじめに調査に回答し、一般に投票率が高いとされる1次/2次産業従事者や地方在住者——本稿のサンプリングバイアス補正で大きなウェイトを与えられた人——ほど、本当は棄権したにもかかわらず調査に「投票した」と回答しやすかった、というストーリーが浮かんでくるが、これの実証は本調査の射程を超える。

5.結論と含意

 本稿では、投票参加、特にインターネット調査で質問し、集計する投票率には、どのようなバイアスが存在するのかについて、サンプリングバイアス、省力回答者バイアス、社会的望ましさバイアスを取り上げ、それぞれのバイアスを除去することによって、どの程度真の投票率に近づくのかについて検討を行った。前節までの分析結果をまとめたのが、図3である。

 すでに述べたように、インターネット調査はセンシティブ項目に回答する際の心理的負担の低さが、面接調査や電話調査などと比べた利点とされている。投票参加の有無もセンシティブ項目の1つと考えられる。しかし、2021年衆議院選挙直後に行ったインターネット調査で計測された投票率は、真値よりも20パーセントポイントも高かった。分析の結果、①国勢調査で質問されている社会的属性に基づくインターネット調査データにおける投票率の補正効果は小さい、②社会的望ましさバイアスに関するリスト実験による投票率補正効果は大きい、③いずれの場合も省力回答者の除去は必須である、ことが明らかになった。

 サンプリングバイアス、省力回答者バイアス、社会的望ましさバイアスの補正を全て行った場合の投票率は64.1%で、調査完了者の投票率と実際の投票率の乖離の6割を説明できた。残りの4割、8パーセントポイントのギャップには、非回答バイアスのほか、今回の調査では補足しきれなかった未知の要因によるバイアスがなお存在することを意味している。

 今後のインターネットを用いた社会調査に対する教訓としては、やはり調査目的に合わせた補正を行うべき点を挙げられる。選挙情勢調査のように投票率そのものを計測または予測したい場合には、長期的党派性(政党支持)や前回選挙での投票の有無、政治関心など、目的変数(今回投票するかどうか)との関連が強く、かつ過去の調査と比較可能な変数による補正が必要であろう。まして投票参加を説明したいとき――上記の補正変数は有力な説明変数となる――には、より慎重な調査デザインが求められる。少なくとも、インターネット調査で得られたデータが面接調査や郵送調査よりも実際の投票率に近かったとしても、それは見掛け上の現象に過ぎず、補正を行わないままで分析に用いるべきでないことは確かである。

付録 回帰分析における変数の定義

・女性ダミー
男性=0、女性=1をとるダミー変数。
・年齢
年齢(各歳)を示す変数。
・既婚
配偶者の有無について、既婚者=1、それ以外=0を示す変数。
・死別
配偶者の有無について、死別=1、それ以外=0を示す変数。
・無職
労働力状態について、就業者=0、それ以外を=1とする変数。
・家事
労働力状態について、家事=1、それ以外を=0とする変数。
・パート
従業上の地位について、雇用者(パート・アルバイト・その他)=1、それ以外=0とする変数。
・自営
従業上の地位について、自営業主(雇人のある業主)・自営業主(雇人のない業主)・家庭内職者=1、それ以外=0とする変数。
・1次産業
産業大分類について、農業・林業・漁業であれば=1、それ以外=0とする変数。
・2次産業
産業大分類について、鉱業、採石業、砂利採取業・建設業・製造業・電気・ガス・熱供給・水道業であれば=1、それ以外=0とする変数。
・持ち家
住居の種類・住宅の所有について、持ち家であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・常住
5年前の常住地について、現住所であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・北海道
居住都道府県について、北海道であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・東北
居住都道府県について、青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・関東
居住都道府県について、茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・甲信越
居住都道府県について、新潟県・山梨県・長野県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・北陸
居住都道府県について、富山県・石川県・福井県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・東海
居住都道府県について、岐阜県・静岡県・愛知県・三重県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・関西
居住都道府県について、滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・中国
居住都道府県について、鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・四国
居住都道府県について、徳島県・香川県・愛媛県・高知県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・九州
居住都道府県について、福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県であれば=1、それ以外を=0とする変数。
・21大都市
21大都市居住者であれば=1、それ以外を=0とする変数。

参考文献


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大森翔子(2021a)「インターネット調査のサンプル特性:国勢調査・面接調査との比較」NIRAワーキングペーパーNo.1.
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谷口将紀・大森翔子(2022)「インターネット調査におけるバイアス―国勢調査・面接調査を利用した比較検討―」NIRA総合研究開発機構.
日本学術会議社会学委員会Web調査の課題に関する検討分科会(2020)「提言Web調査の有効な学術的活用を目指して」日本学術会議,(2022年3月11日)
萩原牧子(2009)「インターネットモニター調査はどのように偏っているのか―従来型調査手法に代替する調査手法の模索―」『Works Review』Vol.4 , pp.8-19.
三浦麻子・小林哲郎(2015a)「オンライン調査モニタのSatisficeに関する実験的研究」『社会心理学研究』31(1), pp.1-12.
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村上智章(2017)「ネットリサーチモニタの投票行動は世の中の縮図となり得るか:衆議院選2017を振り返って」『マクロミル リサーチャーコラム』(2022年6月2日)
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引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)谷口将紀・大森翔子(2022)「社会調査における投票率のバイアス」NIRAワーキングペーパーNo.5

脚注
1 千年(2020)は、郵送式調査とWeb調査の比較において、センシティブ項目(性的指向・性自認のあり方)の無回答率は、同等であったことを示している。
2 ただし、調査対象者は18~69歳である。
3 正確には投票有無の回答。
4 本調査の実施に際しては、東京大学倫理審査専門委員会による承認を受けた(審査番号20-105)。また、調査費用はJSPS科研費(18H000813)の助成を受けた。
5 例えば、「昨日うそをついた」というセンシティブ項目を含むリストを割り当てられたグループの平均該当数が3.5、同項目を含まないリストを割り当てられたグループの平均該当数が3.2であったとすると、30%(3.5-3.2)の人が昨日うそをついたと推定される。センシティブ項目を含むリストを提示された回答者も、他のとりとめもない——「朝食にパンを食べた」「過去1か月に映画を見た」のように、Yes/Noのどちらでも回答者に心理的負担を生じない――項目と合わせた該当数だけを答える形式のため、センシティブ項目に該当するか否かを直接質問されたときよりも正直に申告しやすい。
6 各変数の定義については、付録を参照されたい。

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