関島梢恵
NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

概要

 コロナ禍でテレワークが推奨され、急速に普及した。コロナ対策の側面から振り返ると、テレワークはどのような変化をもたらしたのか。本稿は、独自調査で集計した東京圏に居住する就業者のテレワーク利用率のデータと、人流のオープンデータを用いて、テレワークと人流との関係性を市区レベルで分析した。その結果、第1回緊急事態宣言時にテレワーク利用率が高かったオフィスエリアで、平日昼間の顕著な人流の減少が確認された。人流抑制策による感染抑制の効果や経済社会へのさまざまな影響が世界的に注目される中、日本における検証の一助となることが期待される*

INDEX


問題意識
感染対策として推奨されたテレワークによって、人の動きはどう変わったか。

分析
東京圏の市区レベルのテレワーク利用率と滞在人口変化率のデータを用いた。市区ごとの就業者の流出入に関する指標を定義し、実際の人流変化と比較した。

見解
新型コロナの感染拡大以降、テレワーク利用が増えた東京圏のオフィスエリアで人の流入が顕著に減少し、郊外では増加した。実際の人流変化と類似した傾向が確認された。

コロナ禍で至上命題となった「人流抑制」

コロナ禍で強力に推進されたテレワーク

 新型コロナの感染拡大を防ぐため、人との接触を減らすさまざまな取り組みが行われた。中でもテレワークは、人流の抑制に有効な手段として政府が推奨し、新規に導入する中小企業主には助成金を出すなど支援してきた。慶應義塾大学大久保敏弘研究室とNIRA総研が20204月から継続して実施している「テレワークに関する就業者実態調査」でも、コロナ禍でのテレワーク率の増加を確認している。特に東京圏では、感染拡大前の20201月に平均で10%だったテレワーク率が、第1回目の緊急事態宣言時は38%と、30%ポイント近くも増加した。

 実際、テレワークの普及によって人流を抑制できたのだろうか。本稿では、コロナ禍初期における東京圏でのテレワーク率と人流との関係を確認する。テレワーク率は、東京圏(東京、千葉、埼玉、神奈川)で働く3,069人の就業者について、居住市区と通常の勤務先市区、20201月、3月、4ー5月、6月の各時点でテレワークを利用していたかどうかの回答を用いて、市区ごとに居住地ベースのテレワーク利用率と勤務地ベースのテレワーク利用率を算出した(注1)。人流は、国土交通省「全国の人流オープンデータ」において、平日/休日別および昼間/夜間別に公開されている2019年と2020年の1kmメッシュ別の滞在人口データを用いて、市区ごとの滞在人口の変化率(対前年同月比)を算出した。

ドーナツ化した都内の人流

 新型コロナの感染拡大以降、東京の中心部において平日の昼の人流が大きく減少した。図1左を見ると、感染拡大前の20201月時点は、都内全域で前年とほぼ同水準だった平日昼の滞在人口が、20203月以降、変化したことがわかる。特に初めて緊急事態宣言が発出された20204月は、港区、千代田区、中央区を中心に滞在人口が大きく減少した。この3区では、2019年の同時期・時間帯と比べた人口滞在変化率が55%近く減少している。23区でも江東区や台東区などは20%程度の減少で、中野区や世田谷区、杉並区、江戸川区などは1635%ほど増加していた。さらに周辺の市は、微減したエリアもあるものの、調布市や三鷹市をはじめ大半の地域で滞在人口が増加している。こうしたことから、都内中心部のエリアのみで極端に人流が減少するドーナツ状の変化が起きたことがわかる。1回目の緊急事態宣言が解除された6月も、程度は軽減したものの、同様の傾向がみられる。ただし、こうした変化は、平日の夜においてはほとんど観察されない(図1右)。緊急事態宣言下の千代田区、港区、中央区における人流減少を除き、夜間はコロナ禍前とほぼ変わらない滞在人口となっている。

図1 東京都における平日の滞在人口の増減(左:昼 右:夜)

(注)2019年の同月の滞在人口からの変化率。昼は11ー15時、夜は1ー5時の平均。
(出所)「全国の人流オープンデータ」(国土交通省)1kmメッシュのデータを基に筆者作成。

テレワークは人流を抑制したのか

テレワーク下での人流指標の導入

 都内の人流の変化は、コロナ禍で人びとが通勤や通学、その他の昼間の外出を自粛していた様子が表れたものと思われる。通勤行動の変化によるものであれば、テレワークの普及とも整合的な動きであると考えられる。すなわち、コロナ禍でテレワークの利用者が増えたことで、従来は通勤者が密集していたエリアの昼の滞在人口が減り、居住者が多いエリアの昼の滞在人口が増えた。同時期の同じエリアであっても、変化の様子が昼夜で異なるのは、夜間の在宅人口が通勤・テレワークの違いによる影響を受けないためだと説明がつく。

 こうしたテレワーク利用率と人流との関係を、簡単な式にして考える。まず、市区iにおけるt時点の昼間の滞在人口は以下のように表せる。

 昼間流入人口には通勤による流入とそれ以外の流入が考えられるが、前者について、他市区に住んでいて市区iに勤務先がある就業者のうち、実際に市区iへ通勤で流入するのはテレワークで働く人を除いた就業者である。一方、昼間流出人口も、通勤による流出とそれ以外の流出に分けた前者について、市区iに住んでいて他市区に勤務先がある就業者のうち、実際に市区iから通勤で流出するのはテレワークで働く人を除いた就業者だと考えられる。

 ここで、居住人口と勤務先市区でみた就業者の数が、コロナ前後の2019年と2020年で変わらないと仮定すると、昼間滞在人口の変化率は次のように表せる。

 この式が意味することは以下のように説明できる。(1)市区iを居住地とみた場合に、そこから他市区へ通勤していく就業者のうちテレワークに切り替える人が多いほど人口の流出が減る(居住地ベーステレワーク率の増加)。なお、その変化はもともと他市区へ多くの就業者が通勤していた市区で顕著に表れる。一方、(2)市区iを勤務地とみた場合、他市区からそこへ通勤してくる就業者のうちテレワークに切り替える人が多いほど人口の流入が減る(勤務地ベーステレワーク率の増加)。その変化は、他地域から多くの就業者が通勤していた地域で顕著に表れる。(1)と(2)の大きさだけを比べる場合、(2)の通勤流入の減少分が(1)の通勤流出の減少分より大きければ、昼間の滞在人口は減少する。

 例えば、オフィスが密集する都心エリアは、コロナ以前は昼間に他地域から多くの就業者が通勤していたが、コロナ禍で通勤からテレワークに切り替えた人が多く、人口流入が減った。もともと居住人口は多くないため、仮に他の市区へ通勤していた居住者がテレワークでそこに留まるようになったとしても(流出人口の減少)、流入人口の減少効果の方が大きく、滞在人口は減少する。一方で、郊外には、都心に通勤する人が多く住んでおり、テレワークに切り替えられるオフィスはあまり立地していないといった特性があると考えられる。コロナ以前は多くの居住者が他市区へ勤務していたが、コロナ禍でテレワークに切り替えて自宅に留まるようになったことで流出人口が減る。その減少分が流入人口の減少分を上回ると、滞在人口の増加となって表れる。

 滞在人口の変化に影響する要因は他にもあるものの、通勤の流入が減ったオフィス街に通学者や買い物客がより多くやって来るといった現象が起きていない限り、(1)と(2)の比較による符号が逆転することは考えにくい。したがって、厳密性には欠けるものの、テレワークの普及と人流の変化には関係がある可能性が高いと思われる。

テレワークの普及と人流との関係

 このことを、実際のデータから確認したい。「テレワークに関する就業者実態調査」では、就業者に対し、コロナ感染拡大前(20201月)とコロナ感染拡大後の複数時点(同年3月、4ー5月、6月)におけるテレワーク利用の有無と、居住地および通常の勤務地を市区町村レベルでたずねている。居住地ベーステレワーク率は各市区に住む就業者のうちテレワークを利用している人の割合、勤務地ベーステレワーク率は各市区にある職場に勤務する人のうちテレワークを利用している人の割合として、市区ごとに各時点で値が算出できる。例えば、20204ー5月の勤務地ベーステレワーク率は、港区や千代田区は69%、中央区は65%と、都内でも突出して高い。一方、郊外のエリアでは、昭島市が8%、小平市は0%など、東京圏の平均よりも低い。なお、通常時に各市区に他の居住地域から通勤してくる就業者の数と、各市区に居住して他の勤務地域へ通勤していく就業者の数は、2015年の国勢調査を利用する。

 図2では2020年1月と4ー5月を比較して、縦軸で(1)を、横軸で(2)の値をとって東京圏の市区をプロットした。45度線を引いて(1)と(2)のどちらの変化が大きいかを示している。各プロットの色は実際の滞在人口変化率(前年同時期比)を表す。前述の予想からは、勤務地ベーステレワーク率が増加して人口流入が減り、それが人口流出の減少分を上回る((1)<(2))エリアは45度線より下に位置し、滞在人口変化率は減少を示す(青色のプロット)はずである。実際に図245度線より下に位置するのは、港区、千代田区、中央区といった都心の区が多い。オフィス街のためか、勤務地ベースでみたテレワーク率が特に高くなっている。居住地ベースでみたテレワーク率も増加したものの、もともと他市区へ通勤していく居住者が少なかったと考えられ、図1で示したような滞在人口の減少が顕著に表れた。反対に、45度線より上に位置するのは居住エリアと思われる市区である。こうした地域にはテレワークに切り替えられるオフィスなどがそれほど多くないためか、勤務地ベーステレワーク率はあまり増加していない一方、居住地ベーステレワーク率は増加している。したがって、人口流入の減少分が人口流出の減少分より小さく((1)>(2))、昼間滞在人口は増加となった。

図2 テレワーク利用と平日昼の滞在人口の変化率との関係(東京圏、2020年4ー5月)

(注)居住地テレワーク利用率は、各市区に居住する人のうちテレワークを利用している人の割合を算出。勤務地テレワーク利用率は、通常の勤務地(市区)を基に、その地で勤務する人のうちテレワークを利用している人の割合を算出。それぞれ2020年1月と4ー5月の値の差分をとっている。プロットの色は4ー5月の平日昼の滞在人口の平均から算出した変化率(前年同時期比)を反映。サンプルは東京都圏で大久保・NIRA調査での回答者が10人以上いる109市区。
(出所)「全国の人流オープンデータ」(国土交通省)、「テレワークに関する就業者実態調査」(大久保・NIRA総研)

コロナ対策としてのテレワーク

 コロナ禍での緊急事態宣言に伴い、政府は「オフィスでの仕事は原則自宅で行う」、「どうしても出勤が必要な場合も、出勤者の数を最低7割は減らす」といった要請を行った。東京圏は全国平均と比べてテレワーク利用率が大きく高まったことがわかっている。本稿の分析から、特にオフィスエリアのテレワーク利用率が高まり、その分、通勤による人口の密集が緩和されたと考えられる。もちろん、人流の変化には通学や買い物などの外出も含まれ、人びとが感染を恐れて公共交通機関の利用を控えたなどさまざまな変化も影響する。しかし、オフィスエリアで生じた顕著な人流減少は、政府のテレワーク要請に企業が応えた結果とみてよいだろう。このようにコロナ対策としてのテレワーク推進が実際にもたらした人流変化を検証しておくことは、今後再び強力な感染症対策が必要になった際の参考資料としても重要だと思われる。

 そもそもテレワークがコロナ対策に活用されたのは、医薬品による対策以外の緊急措置として、公衆衛生上の対策(nonpharmaceutical interventions, NPIs)に期待が持たれたためだ。新型コロナという未知の感染症に直面した各国政府はさまざまな対策―感染患者の隔離や学校閉鎖、集会制限、海外渡航制限など―を打ち出し、最も厳格な措置としては必要な移動以外のすべてを禁止するロックダウン政策を実施した。中国や欧米では人々の移動を禁ずる強力な施策によって人流が減少したことがわかっており(中国はFang et al., 2020、アメリカはAlexander and Karger, 2021、イタリアはCaselli et al., 2022などを参照)、それによる感染減少の効果も議論されている(注2)

 日本の緊急事態宣言やその下でのテレワークの推進は、ロックダウン政策と比べると緩やかな人流抑制策だったといえよう。しかしながら、ドイツのデータを分析したAlipour et al.(2021)は、コロナ禍以前に行われた就業者調査から在宅勤務可能指数(注3)の地理的分布を推計し、地域における在宅勤務可能指数の1%ポイントの上昇が4.5%の感染率の減少に相当することを明らかにしている。さらに、ドイツの封じ込め政策と在宅勤務可能指数にある程度の代替関係があることを示し、経済活動を維持しながら感染リスクを低減できる点でテレワークは有効なNPIであると主張している。ただし、Schmidt-Petri et al.2022)は、日本とドイツがともに厳しい規範と逸脱に対する罰則がある文化でありながら感染率は大きく異なることについて、社会経済的な属性などをコントロールした上で、観察される個人の行動の差では感染率の差を説明できないことを示している。実際の感染状況には社会規範や意識といった観察しにくい要因なども影響すると考えられ、他国の研究結果が必ずしも日本に当てはまるわけではない点には留意しなければならない。

 なお、自宅待機命令による人流の減少が消費行動に負の影響をもたらすこと(Alexander ans Karger, 2021等)や、措置解除後の人流の回復スピードに対し在宅勤務可能性の高い職業の多さなど地域の労働市場の構造が関係すること(Caselli et al., 2022)も指摘されている。こうした先行研究も踏まえると、日本におけるテレワークの普及と人流との関係は、感染抑制への効果とともに社会経済的な影響も含めて振り返っておく必要があるだろう。データに基づく多角的な検証を進め、今後のパンデミック発生時にはより良い対策を講じられるよう、議論すべきだ。

参考文献


Alexander, D., and Ezra, K. (2021). Do Stay-at-Home Orders Cause People to Stay at Home? Effects of Stay-at-Home Orders on Consumer Behavior. The Review of Economics and Statistics 1-25.
Alipour, J-V., Fadinger, H., and Schymik, J. (2021). My Home Is My Castle ‒ The Benefits of Working from Home during a Pandemic Crisis. Journal of Public Economics 196: 104373.
Caselli, M., Fracasso, A., and Scicchitano, S. (2022). From the Lockdown to the New Normal:Individual Mobility and Local Labor Market Characteristics Following the COVID-19 Pandemic in Italy. Journal of Population Economics 35: 1517-1550.
Cronin, C. J., and Evans, W. N. (2021). Total Shutdowns, Targeted Restrictions, or Individual Responsibility: How to Promote Social Distancing in the COVID-19 Era? Journal of Health Economics 79: 102497.
Dingel, J. I., and Neiman, B. (2020). How many jobs can be done at home? Journal of Public Economics 189: 104235.
Fang, H., Wang, L., and Yang, Y. (2020). Human Mobility Restrictions and the Spread of the Novel Coronavirus (2019-NCoV) in China. Journal of Public Economics 191: 104272.
Fowler, J. H., Hill, S. J., Levin, R., and Obradovich, N. (2021). Stay-at-Home Orders Associate with Subsequent Decreases in COVID-19 Cases and Fatalities in the United States. PLOS ONE 16(6): 1-15.
Goolsbee, A., and Syverson, C. (2021). Fear, Lockdown, and Diversion: Comparing Drivers of Pandemic Economic Decline 2020. Journal of Public Economics 193: 104311.
Krishnamachari, B., Morris, A., Zastrow, D., Dsida, A., Harper, B., and Santella, A. J.(2021). The Role of Mask Mandates, Stay at Home Orders and School Closure in Curbing the COVID-19 Pandemic Prior to Vaccination. American Journal of Infection Control 49(8): 1036-42.
Schmidt-Petri, C., Schröder, C., Okubo, T., Graeber, D., and Rieger, T.(2022). Social Norms and Preventive Behaviors in Japan and Germany During the COVID-19 Pandemic. Frontiers in Public Health 10.

関島梢恵(せきじま こずえ)

NIRA総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了、博士(国際公共政策)。2018年度より現職。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)関島梢恵(2022)「コロナ禍におけるテレワークと人流の変化
」NIRA政策研究ノートvol.4

脚注
* 本稿の執筆にあたり、大久保敏弘氏(NIRA総合研究開発機構 上席研究員/慶應義塾大学経済学部 教授)から多くのご指導を賜った。また、井上敦氏(NIRA総合研究開発機構 研究コーディネーター・研究員)とは本稿に関連する有益な議論をさせていただいた。ここに記して感謝申し上げる。
1 調査の詳細については、大久保敏弘・NIRA総合研究開発機構(2020「第2回テレワークに関する就業者実態調査報告書」を参照のこと。
2 アメリカでは、自宅待機命令が州ごとに実施されたことを外生的ショックとして利用し、感染抑制への効果を示す研究がある一方(Fowler et al., 2021など)、自宅待機命令の発令と同時期、あるいは発令以前から感染への恐怖などによる人々の行動変化が生じていたことも指摘されており(Cronin and Evans, 2021Goolsbee and Syverson, 2021など)、自宅待機命令の影響は明らかでないとする研究もある(Krishnamachari et al., 2021)。
3 彼らはコロナ発生前の在宅勤務の実施や在宅勤務の機会について就業者自身が答える行政調査を用いて、在宅勤務可能指数を構築する手法を使っている。在宅勤務可能指数についてはDingel and Neiman(2020)を参照のこと。

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