NIRA総合研究開発機構

概要

 コロナ禍によって強制的に行われたテレワークが何をもたらしたのか、そして現場の課題は何か。4名の実務家に集まってもらい、テレワークをテーマに座談会を実施した。ワーク・ライフ・バランスを見直している人もいれば、オフィスの再定義を迫られている企業もある。時間的にも空間的にも、テレワークは仕事のあり方を変えていく可能性がある。企業と就業者が共有できる新たな価値を生み出すために、今起こっている変化をポジティブな方向へとつなげるヒントを探していく。

INDEX

図表

図表1 産業別でみたテレワーク利用率

図表2 テレワークでの業務効率の上昇要因・低下要因

図表3 新型コロナウイルス感染拡大後の組織の変化 

図表4 産業別、テレワークによる海外へのアウトソーシングの可否

座談会実施概要

実施日:20211124日(水)

参加者:相原大介   東レ・カーボンマジック株式会社 取締役副社長
    座間美都子  公益財団法人21世紀職業財団 事業推進部長
    田宮一夫   一般社団法人日本テレワーク協会 専務理事
    塚本恵    IT系企業を経て、現在は大手外資企業(メーカー)に所属

    (敬称略、五十音順)

はじめに

 企業の現場では、さまざまなテレワークモデルを試し、出社とテレワークのバランスや役割分担、管理や運用のベストプラクティスを見つけようとしている。その過程で浮かび上がってきた悩みや課題は何か、また、政府や自治体に対して何を期待しているのか。

 本稿では、企業の最前線で活躍する方々に集まってもらい、コロナ禍によって強制的に行われたテレワークがいったい何をもたらしたのか、そして現場の課題は何かについて語ってもらった。

 テレワークをきっかけにワーク・ライフ・バランスを見直している人もいれば、オフィスの再定義を迫られている企業もあるだろう。時間的にも空間的にも、テレワークは私たちの仕事のあり方を変えていく可能性がある。企業と就業者が共有できる新たな価値を生み出すために、今起こっている変化をポジティブな方向へとつなげるヒントを見つけたい。

現場で混乱はなかったか


 2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、多くの企業で突如テレワークの導入が決まった。当時テレワークが可能と考えられていたのは管理職、事務職、専門職といったホワイトカラーワーカーに限られていた。従業員の健康上の安全を確保しつつ、業務を継続するためにテレワークの対象者はどう選り分けられたのか。当時の状況を実務家に振り返ってもらった。

塚本 世界中に10万人の社員を抱えるグローバル企業に勤めております。グローバルで仕事をする関係から、コロナ以前よりテレワークの制度もインフラも整っていましたから、在宅で勤務したい人は活用するという状況でした。

 日本にも2,000人を超える社員がいますが、そのうちの多くは工場の現場で働いています。当然ながら、工場のラインにいる人たちにテレワークは難しく、エッセンシャルワーカーとして、会社として万全の対策をとりつつ現場で働いています。他方、事務員はできるだけ在宅で勤務をするようにということで、テレワークが推奨されています。

 コロナ前のテレワークは、職種によって利用状況がまちまちでした。しかし、今回の経験を通じて、テレワークをやればできるのにやっていなかった人たちも取り組むようになりました。例えば、開発センターや、工場の事務担当の社員等です。今回、「全員がオフィスにいなければいけない」という固定観念を少し減らせたことで、テレワークを使う人たちの幅も広がったと思います。

座間 当時はメーカーのコーポレート部門に所属していました。元々、会社には特定の事情のある人にテレワークを認める制度がありましたが、全社員を対象にしていなかったため、一部の部門で対象者を限定せずにテレワークを試行し評価をまとめましたが、制度化していませんでした。しかし、急遽、出勤人数を制限することになり、半ば強制的に多くの社員が在宅勤務をすることになりました。実際在宅勤務をしてみると、意外と問題なくできるという感想を持ちました。研究、分析、調査といった仕事はテレワークにとても向いていますね。

 通勤時間等も気にせずに働けましたが、その一方で、どうしても時間外労働が増えてしまう。労働時間の管理に気を使う必要性は出てきました。

ものづくりの現場では


 製造業でのテレワークは困難だといわれる。しかし、NIRAの調査結果からは、テレワークが難しいにもかかわらず、可能な限りテレワークを進めようとしている状況が見て取れる(注1)(図表1)。

図表1 産業別でみたテレワーク利用率

相原 製造業のものづくりの現場ではテレワークの導入は容易ではありません。工場のある会社に勤務する人には分かると思いますが、生産現場では必ずみんなが集まって朝礼を行います。朝礼でその日の作業の段取りやみんなの調子や顔色を見て確認し、安全に業務を進めるのです。基本中の基本である安全確認をテレワークで行うことは困難であり、製造現場のテレワーク移行は結構ハードルが高いと思います。

座間 思ったよりもテレワークは可能でしたが、他方で、テレワークには向かない職種がある、ということも分かりました。現在所属する法人は全部で3040人程度の小さい組織なので、その中で総務の社員はさまざまな業務を担当しています。郵便、荷物の受け取り、施設管理やオフィスにしかない特殊ソフトの利用支援といった業務です。そのため、出勤する人が常にどうしても必要です。

 また、テレワークに向いた仕事、向いていない仕事があるのは当然のことなのですが、そうした違いを不公平だと思うメンタリティの方もいらっしゃいますね。

業務効率性はどのように変化したか


 仕事の場所を変えることは、業務効率性に対してプラスにもマイナスにも働く可能性がある。テレワークを導入した現場では、どのような変化を感じているのだろうか。

塚本 私どもの業界は、全体として2020年よりも2021年度のほうが景気はよい印象で、テレワークで効率が悪くなったという話はあまり聞きません。先ほど述べましたように、製造現場の社員や、お客さまのところにうかがってメンテナンスをするスタッフなどは、そもそもテレワークの対象になっていなかったので、それほど大きな混乱はなかったと思います。

座間 
「テレワークをしなかったら、我々の事業活動は維持できなかった。」職員からはそのように聞いています。当法人では研修・出講等の業務がかなりの割合を占めていて、対面で人が集まれない、講師が現地に赴けないという状況では、オンライン化でなくては対応できませんでした。

 効率性の観点からは、通勤時間がなくなったことが大きかったですね。介護が必要な家族がいる、あるいは何かほかのことに時間を使いたいという人にも、テレワークは非常に好評でした。邪魔が入らず自分のペースで業務をこなせるようになる可能性が高い、そういう意味で、テレワークには一定のメリットがあると思います。

相原 
弊社におけるテレワークでは、朝の始業時にどんな業務を行うのか部下と上司で連絡を取ります。終業時には、業務が終わった旨の報告をします。こうすることで、上司も部下もその日に行う予定だった業務ができたかどうかを確認できます。たいてい予定通りに業務は進まないわけですね。しかし、見える化することで、なぜ予定通りに業務が進まないのか、気づきが得られることがあります。気づきがあったら、上司から部下へメールやチャットで指示を出して、アクションを起こさせることが可能です。そうやって効率を上昇できるというメリットはあったと思います。

 その一方、我々は製造業ですから、ものづくりの現場のテレワーク導入は困難です。テレワークには、「知的」、「社員が自律的に判断する」、「業務の進行を管理しやすい」、「ITリテラシーが高い」といったイメージがあり、そのイメージに基づいて「テレワークを普及させるべき」、「テレワークができる仕事は、そうでない仕事に比べて知的で重要」と聞こえるような主張をする人もいますが、私はそれに対して違和感を覚えます。

 営業活動に関して言うと、コロナ禍で甚大な影響を受けました。弊社の営業活動は、いわゆるルートセールスではありません。同じ製品を毎年売るわけではないので、開拓的な活動ができないと大きな痛手になります。タイにある子会社工場を指導するために、私の会社の社員がタイに行ったり、タイ人が日本に来てものづくりを学ぶということも業務に含まれますが、この部分は非常に大きな影響を受けました。

業務効率性が変化する要因とは


 効率性に関する調査結果では、テレワークで業務効率が上昇する要因として、疲労の軽減、仕事の特性上テレワークが向いていることなどが挙がっている。一方、業務効率が低下する要因として挙がっているのが、テレワークに不適な業務であること、コミュニケーションの悪化など(図表2)。実務家はテレワークによる業務効率性をどのように捉えたのだろうか。

図表2 テレワークでの業務効率の上昇要因・低下要因

座間 私も、出勤することでしか得られないメリットがあると感じています。雑談は顕著な例です。これまで、特に管理職以上だと、自分から積極的に情報収集に動かなくても、肌感で他の部門、周囲の組織の状況がある程度分かりました。それがテレワークになるとできない。

 テレワークでは、本来の目的外のものと偶然に出会う、その中で何かが見つかる、そういうセレンディピティが得にくくなると強く感じています。現在の職場では今のところ業務に支障のない限りテレワーク可としているのですが、今後はある程度出勤を求めていくべきではないかと、議論しているところです。

 また、新しいやり方を教わらなくてはいけない状況では、往々にして何が分からないのかも分からなかったりします。そういうケースにおけるテレワークは、効率が非常によくないと感じています。

 あと、テレワーク環境の問題があります。若い人、単身の方で、自宅がテレワークに適した状態になっていないというのですね。自宅では仕事に集中しにくいということで、どうしても出勤したいと申し出て会社で仕事をする人も一部いました。机や椅子のほか、参考資料がたくさん必要な業務もあります。資料によってはデジタル化できなかったり、ネットで探索できないものもありますから、やはり会社で仕事をしたいということになります。

 ただ、そういった声が全てではなく、むしろ一人で仕事する方が効率がよいという意見もありました。一人ひとりの働き方の傾向が、テレワークがうまくいくかどうかに大きく影響した気がします。

従業員のテレワーク意向は


 2020年45月に発令された1回目の緊急事態宣言が解除されると、テレワークをしていた人が出社するようになった。しかし、テレワークを今後も利用したいと思っている人は相応にいるようだ。

塚本 事務系の社員や本社勤務の人たちの場合、日本国内で働いてはいても上司の4割は海外におり、テレワークが常態化しています。人によっては、出社しない方が通勤時間をとられることがないため、快適に感じているものもいるかと思います。

 2022
年からは週に12回ほど出社してもらいたいと考えていますが、出社するインセンティブをどうつくるかが今の悩みです。

田宮 
テレワークが定着し始めてきていますので、在宅勤務に慣れた人にとっては、明日から毎日出社しろと言われると抵抗感が強いでしょうね(注2)

オフィスの意味を問い直す


 突発的なテレワーク対応を進める中、労使ともテレワークにはさまざまな長所、短所のあることがわかってきた。短所があるにせよ、企業は働き方改革の一つの手段として今後もテレワークを利用する可能性がある。であれば、オフィスの意味や働き方そのものを問い直す必要が出てくるだろう。

 コロナ禍になってから約1年経過後のアンケート結果では、約2割から3割の企業が経営の全面的な見直しや時差出勤の実施などを予定していると回答した(図表3)。いかにテレワークを活用するか、自社にとってのベストプラクティスを実務家は見極めている。

図表3 新型コロナウイルス感染拡大後の組織の変化

塚本 テレワークにメリットを感じている従業員は多いです。オフィスを常時開けてはいますが、実際に使っている人は今1割くらいです。2018年に、環境のよいフリーアドレスのオフィスをつくったのですが、今はがらんとしています。コロナ後みなが出社するようになった時、これまでよりも生産性が上がるオフィスとはどういうものかを考えているところです。必要があるように思っています。

田宮 
職種や業務によって、テレワークができるところとできないところがどうしても出てきます。問題なのは、テレワークが三密回避という目的のために進められてしまったこと。本来テレワークとは、少子高齢化による労働人口の不足といった問題に対処するための手段だったはずです。

 今我々が普及促進しているのは、ハイブリッド型のテレワークです。全体の仕事の中で、在宅でできる領域もあれば、出社が必要な領域もあります。

 テレワークが在宅勤務主体となってくると、コミュニケーションという面でもいろいろな課題がありますね。先ほど相原さんがおっしゃっていた、始業時・終業時に報告を行って仕事の中身を見える化する方法は、コミュニケーションにおいては効果的でしょう。ただ、在宅勤務が長く続くと、チームの動きや、部門、あるいは組織全体の動きが見えなくなってしまうといった課題も報告されています。

 今後は、週○日在宅勤務、出社○日というハイブリッド型テレワークを行う人が少しずつ増えてくるのでしょう。そうなるとマネジメントする側には、全体ミーティングを行い、全員で情報共有する場をつくるといった施策が求められます。そういう動きをされている企業も、最近はかなり多くなってきました(注3)

 今、各企業がいろんなことにチャレンジしています。塚本さんがいわれたように、オフィスのあり方、出社する事の意味や目的、そういうものを改めて定義している企業が最近の事例では多いです(注4)

相原 
テレワークではできない業務こそ、その産業における強みが存在するということもあるのではないでしょうか。テレワークすべきところはきちんとテレワークできるようにしておくべきですが、特に高度な熟練度を要するものづくりの現場では、テレワークでできる仕事だけやっていたら、当面は困らなくても、いずれその会社は潰れてしまうかもしれません。

 すべての会社がテレワーク至上主義に流れているとは思いませんが、日本的なハイブリッドで、柔軟な働き方はどういうものか、今回の研究でもその点に触れていただきたいですね。特に地方の製造業にいるとそう感じます。

塚本 
私どもも、これからの働き方の1つとしてテレワークを活用していきます。IT企業の中には100%テレワークを打ち出しているところもありますが、弊社では対面とテレワークのグッドバランスをどのように構築して、一人ひとりのパフォーマンスを最大化していくかを考えていきたいと思います。

 コロナ禍の中、様々な人が多様な経験をして、一人ひとりが働きやすさについて考えるようになってきました。テレワークの活用や、オフィスのあり方を見直すことは、その一環でしょう。また最近は、副業の是非についてもよく聞かれるようになりました。テレワークだと副業もしやすくなりますから、そういったことを総合的にどう考えて施策に落とし込むかも考える必要があると考えています。

 一部の社員が求めるものが全員の求めるものと一致するとは限りません。みんな違う中で、会社としてはどうすればよいのか。今後は、社員ごとにある程度テーラーメイドの施策を行わないといけないのかもしれません。

相原 
コロナ禍に対する緊急対応とは離れますが、テレワークやフレックスワークなどいろんな方策を使って柔軟な働き方を実現することは、地方の企業での人材確保のような点では、今後間違いなくポジティブに働いていくと思いますね。

労働力不足に対するテレワークの効果


 日本では、労働力不足が深刻化している。テレワークを利用すれば、遠方に住む人材を雇用したり、遠方の企業に業務を外注したりすることもでき得る。しかし、アンケート調査の結果を見ると、テレワークによって仕事をアウトソースできると答えている割合はまだ少ない。海外へのアウトソーシングとなると、その割合はさらに減少する(図表4)。テレワークは、人手不足解消の有効な手段になり得るだろうか。テレワークによる雇用とアウトソーシング、2つの項目について実務家にうかがった。

図表4 産業別、テレワークによる海外へのアウトソーシングの可否

田宮 パーソルキャリアが中途や新卒の求職者を対象にした調査結果を発表していますが、それを拝見するとテレワーク制度のある企業の方が上位に選ばれる選ばれる傾向があります(注5)。今後、少子高齢化で労働人口が減っていく中、企業が労働者に選ばれるためにはテレワーク制度が重要になってくるでしょう。テレワークに関する課題としては、地方の中小企業での導入率や進捗率が低いことが挙げられます。

 また、テレワーク制度が整っている、あるいはテレワークを活用した就業の例などをPRしている企業では、採用枠の10倍、20倍の応募が来ているなどの事例もあります(注6)。働き方の自由度が高いことをアピールしている企業ほど、応募は増えていますね。

座間 
最近、首都圏外のいくつかの企業の方と勉強会をする機会がありました。そこでは「テレワークとは何ですか」、「オンラインミーティングには慣れていません」といった発言が頻繁に出てきました。テレワークは元々三密回避で始まりましたが、地方ではそれほど人が密になっていないし、自動車通勤も多い。IT投資が進んでいないこともある。そうした地方の中小企業にとっては、なぜ今テレワークをしなければならないのか、今ひとつ理解しがたいようです。一時的にテレワークを始めた企業も、必然性を感じていないため結局元に戻ってしまったのでしょう。失礼ですが、そういう印象を受けました。

 重要なのは、コロナ禍でのテレワークを目的ではなく、変化のきっかけとして捉えられるかどうかなのではないかという気がしています。テレワークをするために、業務を整理して、オフィスの意味を考えるようになる。テレワークは、そうした気づきができているかどうかの踏み絵になっているのではないでしょうか。

 そこに気づいた企業はこれからどんどん変わっていくでしょうし、気づかない企業はずっと今のままでしょう。今後、企業の二極化は進んでいくだろうという実感があります。

相原 
私が勤務するのは滋賀県の会社ですが、テレワークができるようになると採用活動も変わってきます。採用しようしても滋賀まで行くのは大変だからと断られたり、採用しても京都に仕事が見つかったからと転職されたりした方がいらっしゃいました。会社所在地のハンディキャップを補えるという意味で、テレワークというか、柔軟な働き方はプラスになると思います。

 日本全国にはよい中小企業もけっこうあります。EV化が進むと日本の自動車産業は縮小し地方の雇用は壊滅的なダメージを受けるという話がありますが、テレワークなどで地方の活性化ができるとよいですね。

塚本 
私が以前働いていたIT企業では、アウトソーシングを実施していました。2000年代からHR業務はフィリピンに、経理処理は中国にアウトソースしていたのです。

 最近では、DFFTData Free Flow with Trust:信頼ある自由なデータ流通)や経済安全保障が注目されるようになり、海外、特にフリーランスへのアウトソーシングは以前より難しくなってきています。データ漏えいは企業にとって非常に大きなリスクですから、慎重にならざるをえません。

 "like minded countries"という言い方がありますが、同じ志を持つ国とデータ経済網をきちんとつくっていかないと、今後の経済活動が制限されてしまう可能性があるでしょう。

 最近は中国に対する警戒感が言われておりますが、実は他にも国家資本主義的な国は多々あります。そういった国々を日米等の自由主義陣営に引き込んでいく必要があるように思います。

 また、今後DXが進展するのにともなって、リモートで可能な業務はもっと増えていくでしょう。建機業界でも、国を超えて、マシンをオペレーションすることもできるようになっています。そういうことが世界中で日常的に行われるようになれば、人手不足問題も解消できてしまうかもしれません。

座間 
私も同じ考えです。アウトソースをするにしても、信頼の置ける相手でないと重要なデータを渡せません。問題は、アウトソースするかしないかではなく、信頼置けるアウトソース先とどうやってつながるかです。

 小規模企業にとって、信頼できるアウトソース先を海外まで広げて探すのは大変な手間がかかります。その手間を考えると、アウトソースするより、従来通り社内で処理する方がよいという判断になってしまうでしょう。

田宮 BCPの観点からも、自社の重要なデータをどこにアウトソースするかはとても大きな問題です。

 データをどこに持つかと言うことも含め、日本はITに対する取組が欧米に比べて遅れていると言われています。大企業ならばIT人材も比較的潤沢ですが、全企業の99.7%を占める中小企業は、IT人材を育成したり、採用したりすることが難しい。

 そう考えると、遠隔地にいる人材を雇用するためにテレワークの制度を整えようという動きも今後進んでいきそうです。

 日本におけるここ1年のテレワークの普及は、三密回避を主要な目的としていました。しかし、これからは労働力確保の手段としてテレワークを考えていく必要があります。減った労働人口をどこで補うか。その方法論の一つが、IT化、あるいはAI化です。業務の効率化・デジタル化はもとより、業務プロセスそのものを見直し、ここは自動化しよう、RPA化しようということになる。DX化の推進は、正に場所に捉われない柔軟な働き方の拡大であり、そのような動きがこれから出てくることになると考えています。

実務家から政府への要望


 都市と地方では格差があることや労働力確保の手段としてはまだ機能しきれていないことなど、テレワークの現状が明らかになった。これらの課題を解決するためには、企業の尽力はさることながら、国としての支援も必要になってくるだろう。実務家はどのようなことを政府に期待しているのか。

相原 地方では、ハード、ソフトの両面でデジタルリテラシーが遅れています。その遅れがさらなる格差につながり、採用面で不利になることは回避すべきと思います。地方は自動車通勤だからテレワークは不要と割り切るのではなく、BCP対応も含めてある程度のところまで国や自治体がテレワークをサポートしていただきたいと感じます。

座間 テレワークで働く場所の自由度が高まるのはとてもよいことですが、その一方で情報漏えいのリスクも高まります。情報漏えいを防ぐためのリテラシーや技術はまだ専門性や個別性が高く、みながそうしたノウハウを共有できるところまでには至っていません。国に要望したいのは、リテラシーを高める制度や非専門家でも使えるツールの整備ですね。

 また、障害者に対するフォローも必要です。テレワークだと四肢や体幹に障害のある方でも働きやすくなる面はありますが、視覚や聴覚、発話の障害はオンラインミーティングなどでデメリットになります。テレワークのメリットばかりを強調するのではなく、そうした障害のある方へのフォローについても議論を深めていただきたいと思います(注7)

塚本 地方の状況に応じて多様な働き方ができるよう、自治体が補助金を出せるようになるといいですね。国はこうしたことに関しては地方に権限を委譲し、国にしかできない経済安全保障などに注力するのがよいでしょう。そうした方が日本全体の発展につながります。また、セキュリティの拡充は必要です。

田宮 ITに通じた人材を育成することも大事です。スマホを使う感覚で、ITに慣れ親しんでいただけるよう、ITリテラシー教育、リカレント教育などの後押しを期待していきたいと思っております。


 新型コロナウイルスの感染拡大以降、企業は従業員の安全確保と業務継続の両立について苦慮を重ねてきた。もっとも検討された施策であろうテレワークについて、向いている職種はなんなのか、業務効率性は落ちないのか。本稿ではこれらの問いに対し、実務家がどのような見解を持っているのか窺うことができた。

 実務家の中でも、テレワークに有用性があるかどうかは業種や職種によって意見が分かれるところではあった。しかし、テレワークの効用を完全に否定する意見は出ておらず、出社と組み合わせた「ハイブリッド」な働き方を今後は検討していくことになるだろう。テレワークは、ポストコロナ時代でも、企業が取り得る選択肢のうちの1つになりそうだ。

編集:鈴木壮介 NIRA 総合研究開発機構研究コーディネーター・研究員

参考文献

一般社団法人日本テレワーク協会(2022『第22回テレワーク推進賞』
伊藤隆太郎(2021『テレワークするか出勤するか そのバランスを考える』日経リサーチ
遠藤和宏(2021『「テレワーク百選」に選ばれた向洋電機土木の建設業に効く、テレワーク活用法』BUILT
喜田恭子(2021『転職サービス「doda」、20~30代のdoda会員約1,500人に「第2回リモートワーク・テレワーク企業への転職に関する意識調査」を実施』パーソルキャリア
山陽新聞digital2021『希望就職先2年連続で中国銀1位 大学生ら本紙調査 職場環境を重視』
総務省(2021『令和3年版 情報通信白書』
西村崇(2022『増えるテレワークからの強制出社、離職や採用難に拍車の恐れ』日経クロステック

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)NIRA総合研究開発機構(2022)「テレワークの可能性を問う ー実務家たちによる座談会ー」

脚注
1 本の労働者のうち、どの程度の割合が理論上在宅勤務可能であるかの試算(在宅勤務可能スコア)では、製造業が23%と低位な値となった。202045月、20219月時点では、製造業のテレワーク利用率が在宅勤務可能な23%を超えている。
2 テレワークから強制出社へと変更すると離職のリスクが高まる、との指摘もある。原因として、「出社することで組織への愛着が湧き、パフォーマンスが高まる」と考える経営層と、「テレワークを続けたい」とする働き手とのギャップが挙げられる。
3 アフラック生命保険では、都心の一部ビルにおいてハイブリッドワークを前提としたオフィスレイアウトへと変更しており、部署の特性に応じた什器の配置やフリーアドレスの導入を行った。
4 日経リサーチの調査では、出勤とテレワークを組み合わせた場合に、「自分は自社の経営ビジョンや理念に共感をもてる」「自分は仕事の中で役割を十分発揮して、重要な職位に就きたいと思う」「職場では、組織長から自社の経営方針や組織の目標・使命がわかりやすく説明されている」という設問に対して、出勤かテレワークのどちらか一方の従業員よりも「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した割合が多いという結果が出ている。
5 パーソルキャリアによる調査では、転職先を検討する際の条件として、「リモートワーク・テレワーク」が重要と回答した人は54.4%となった。
6 横浜市の向洋電機土木株式会社は2008年度にテレワークを導入。2018年度の採用は、新卒の応募者数は2008年度比で299人増の300人となり、中途の応募者数は同比596人増の600人に及んだ。岡山県の株式会社WORK SMILE LABOは、テレワーク導入により、岡山県内での希望就職先ランキングで上位の成績を収めている。
7 厚生労働省によると、障碍者の求人・求職は、都市部では求人が多い中でその充足率が低く、地方では求人が比較的少ない中で充足率が高い傾向にある。この乖離を埋めるべく、地方の就業希望者と都市部の企業をテレワークでマッチングする期待が高まっている。

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