水島治郎
NIRA総合研究開発機構上席研究員/千葉大学大学院社会科学研究院教授

経済・社会文化・グローバリゼーション
総論 2020年の各国政党政治
第1部 フランス 
第2部 イギリス 
第3部 ドイツ  
第4部 イタリア 
・第5部 オランダ 
第6部 スペイン 
第7部 北欧諸国 
第8部 アメリカ 
第9部 韓国

INDEX

第5部 オランダ

ヨーロッパの典型的な3大勢力

 オランダ政治に関してみれば、CHES調査における各党の位置づけは妥当といえる。伝統的な3大勢力(キリスト教民主主義、社会民主主義、自由主義)をみてみよう。オランダでは、経済的争点についてみれば、右派に右派自由主義の自由民主人民党、中道右寄りにキリスト教民主主義政党のキリスト教民主アピール、中道左派に労働党が位置する。他方、社会文化的争点についてみれば、キリスト教民主アピールが保守的、自由民主人民党が中道、労働党が進歩的となる。この3党からなる三角形が、多様な有権者をつなぎとめてきた。20世紀のオランダは、ドイツやベルギー、オーストリア、スイスなどと同様、ヨーロッパにおける典型的な3大勢力であるキリ民、社民、自由主義の政党が圧倒的な位置を占めてきたといえる。

 このような状況に変化が生じる。1960〜80年代の社会運動の勃興を背景に、都市部の新しい中間層を中心に、自由主義左派に位置する民主66、さらに緑の党が出現し、既成政治の3大勢力に挑戦する。21世紀になると、2006年にウィルダースの自由党や2018〜19年に民主フォーラムといった右派ポピュリスト政党が出現した。その右派側に対応するように、左派側もドイツの左派党と似て、原則主義的で極左的な社会党が一定の支持を得ている。また、反既成政党の左派系政党として、「動物を大切に」と主張する動物党が存在している。

 このように、左右イデオロギー軸に加えて、既成の3大勢力に対抗する諸勢力が出現している。既成政治志向か否か、ポピュリスト志向か否かという2つの軸で分類すると、概ね4象限の全てに何らかの政党が位置していることが理解できる。

 グローバリズムに関する争点でいえば、オランダにおける一国主義的な政党は、自由党と民主フォーラムが当てはまる。特にウィルダースが率いる自由党は、EU脱退を掲げ、反移民を最も強力に訴えてきた政党であり、最も一国主義的な傾向を有している。民主フォーラムは、自由党より穏健な主張する傾向がある。一方で、オランダが輸出立国であることから、ヨーロッパ諸国と経済的に関係を断ち切ろうという動きはない。

図5-1 オランダの政党の政策位置

イシュー・オーナーシップ政党に引きずられる既存政党

 近年のオランダ政治は、移民・難民に関するイシューが重要な対立軸となっている。移民・難民の受け入れに対しては、緑の党が最も寛容、多文化主義の立場であり、最右派、受け入れに否定的な立場が、自由党と民主フォーラムである。特に、移民・難民問題に関しては、自由党と民主フォーラムが先鋭的な主張を展開し、有権者からも当該政策分野の議論を牽引し、対処できる政党、イシュー・オーナーシップを持つ政党として認識されている。

 既成政党に関しては、労働党、キリ民、自由民主人民党が中道近辺に位置しているものの、近年は、イシュー・オーナーシップを有する右派の政党に影響を受けている。例えば2015年のヨーロッパにおける難民危機が起きた際、ドイツでは100万人規模の難民を受け入れたが、オランダは、既成政党内に積極的な受け入れを志向する議員もいたものの、政党としては、右派の政党に引っ張られ、抑制的に移民・難民の受け入れに対応し、西欧内で最低レベルの人数を受け入れた。

 近年、比重が高まっている対立軸としては、環境問題がある。ヨーロッパ全体で注目を浴びており、特にオランダでは、社会運動が盛んであり、緑の党が強く環境保全を主張し、イシュー・オーナーシップを握っている。特に、化石燃料への規制と課税に関しては、緑の党が議論をリードしており、逆に自由党などは、化石燃料が温暖化の原因であることをフェイクと主張し、環境問題に無関心な面がある。近年の状況は、コロナで動きが鈍っているが、主要政党は脱化石燃料の方向に舵を切っており、様々な政策を行おうとしている。

 動物党は基本的に動物愛護を主張しており、自然保護的の点では緑の党と近いこともあるが、少々事情が異なる面がある。近年のヨーロッパにおいて盛んな「反肉食」の動きと動物党への支持は、共通の地盤がある。近年、ヨーロッパ全体に肉食を積極的にやめるべきだという雰囲気は広がっている。オランダでは、例えば動物党が議席を取ったことで、市役所のレストランで肉食を出すことを抑制する地方自治体が出るなど、具体的に影響を与えているとみられている。こうした対立軸も、今後、大きなイシューとして表出しつつあるといえる。

 別の対立軸としては、グローバリゼーションと関係するが、対EUに関するイシューであり、自由党と民主フォーラムがEUに否定的、他の政党は基本的にEUに肯定的となっている。対EUに関して、イシュー・オーナーシップを有する政党は自由党や民主フォーラムといった右派ポピュリスト政党であり、既成政党をはじめとして、オランダ政治に大きな影響を及ぼした。

 2020年6月初旬頃、ヨーロッパにおけるコロナ債問題、つまり南ヨーロッパ諸国を、どのようにサポートするかが議論されていた。「倹約4か国(Frugal four)」と呼ばれるオランダ、スウェーデン、デンマーク、オーストリアの中でも筆頭としてオランダが、「コロナ債を贈与ではなくて借款にすべきである」、「南欧諸国に無制限にお金を与えるべきでない」といった主張をし、かなり否定的な態度を取った。オランダの状況を見る限り、EU、特に南ヨーロッパ諸国に対する厳しい態度を、ほとんど全ての主要政党が共有している。南欧に対して積極的に対応すべきだと主張することができない雰囲気がある。こうした対EUの問題は、今かなり重要な争点となっている。

 3つの対立軸に関して述べてきたが、いずれにおいても、急進的な政策志向を有する政党に、主要政党が引きずられているというのが、現在のオランダの状況と言える。

経済・社会文化から具体的なイシューへ

 独自の対立軸の状況を含め、オランダ政治を俯瞰すると、各政党の位置は、CHES調査における経済的・社会文化的争点で概ね理解できる。つまり、経済的には、例えば福祉国家をめぐる立場、社会文化的には安楽死や、妊娠中絶、離婚といったモラルイシューをめぐる立場を、それぞれに関する左右に位置付けることで理解できた。それが近年では、先に挙げた具体的な新しいイシューをめぐる対立が重要となってきた。よって、CHES調査の経済的争点や社会文化的争点は、重要な面もあるが、その比重がより新しいイシューに移ってきたという印象だ。

 ただ政党の位置関係を表す際には、いまだ経済や社会文化が有効であり、例えば、自由民主人民党は、社会文化的問題に関して中道的だが、反福祉国家という傾向が強い。またキリ民は、経済に関してはそれほど右ではないが、社会的な問題に関してはやや保守的であると評価できる。ただ、大まかにいえば、自由民主人民党とキリ民がやや右寄りの政党とみなすことができる。

 このように、新しいイシューの対立に基づく対立軸は、近年の傾向を掴む際には非常に明瞭であるものの、中長期的に政党の対立を表現する軸となるかは不明瞭な点が多い。

政党政治の断片化

 オランダの国政選挙で直近の2017年総選挙では、2012年から2017年にかけて成立した連立政権を支えた自由主義右派の自由民主人民党と労働党において、支持の減少がみられた。2017年総選挙で第1党の自由民主人民党は、首相を擁する政党でありながら得票率は21.3%とかなり低く、辛うじて第1党に留まる状況であった。他方、連立政党の労働党は、得票率が5.7%、150議席分の9議席と、歴史的な大敗北を喫した。ヨーロッパの主要国の社会民主主義を掲げる主要政党で、得票率が5.7%に沈んだ政党は、歴史的にみても珍しい。

 なぜ政権与党が大敗したのか。特に労働党についてみれば、緊縮政策への賛成や、中道路線への変更などが、従来の支持基盤から支持されなかったこと、連立政権として歩調を合わせるために、移民・難民制限へ賛成に転じたことでマイノリティからの支持を失ったことなどが挙げられる。結局、従来の労働党を支えてきた主要な支持勢力が、労働党のもとから去っていったのだ。

 2017年選挙のもう1つの特徴としては、ウィルダースが率いる自由党の得票率が13.1%となり、単独第2党になったことである。この影響は非常に大きく、野党であっても、移民・難民政策に関しては、主要政党に圧力がかかることとなった。

 連立政権の形成も、困難を極めた。そもそも第1党の自由民主人民党と第3党のキリスト教民主アピール、第4党の自由主義右派の民主66を合わせても、総議席150議席の過半数にもならず、連立交渉は難航した。上記の3党は、第2党の右派ポピュリスト政党の自由党と連立を組むつもりはなく、第5党の左派ポピュリスト政党である社会党とも同様に連立を組めない。第6党は緑の党であり、自由民主人民党と環境政策で真逆の主張をしているため、組むわけにはいかない。では、労働党はどうかというと、大敗した上に、さらに連立に入ることで政策的な妥協はできないと、労働党側から断られた。結局、その下のキリスト教民主同盟という、穏健なプロテスタント系小政党の5議席を加え、何とか総議席の過半数を占める与党を4党連立で作り、ルッテ政権の継続を果たすこととなった。このようにオランダでは、政党政治が断片化しており、連立政権を組むだけで、半年ぐらいかかってしまう状況だった。

拘束名簿式の比例代表制

 また2017年総選挙は、オランダの選挙史上でも極めて例外的だったことに、投票率が81.9%と、1986年選挙以来のかなり高い投票率となっている。この間、徐々に投票率が減少し、近年は70%台になっていたが、今回の選挙においては、急激に上昇したということになる。

 加えて、 2017年に関しては、議席を獲得した政党が13党という記録的な多さとなった。かつては、主要3大勢力が議席のほとんどを占めていたが、近年、小政党の議席獲得がかなり目立ってきている。

 オランダの下院選挙の仕組みは、拘束名簿式の比例代表制で150議席を4年ごとに改選する方式である。拘束名簿式のため、有権者は政党が用意したリストに対して投票する。ただし政党名に投票するのではなく、候補者に投票する。ただ、ほとんどの投票者は、政党のリストの筆頭候補者に投票している。そのため、各政党の内部で筆頭候補者を選出することが選挙前の一大イベントで、筆頭候補者を選出したら、その筆頭候補者を中心に選挙キャンペーンを行う。ほとんどの有権者が筆頭候補者に投票したうえで、順番通りに、上から決まっていくという方式となっている。

 また議席配分形式はドント式だが、近年の特徴として、筆頭候補者に投票せず、自分の望む候補者に投票する、優先投票が増えたことがあげられる。政党が決める候補者リストの順番に対して、不満が表面化することが多くなった。2017年総選挙では、4名の優先投票による当選者がいる。特に筆頭候補者が女性ではない、あるいは女性の候補者があまり当選できないと認識された場合に、女性の有権者が、女性候補者に優先投票し、議会に送り出そうという動きが複数出てくることもある。

 ヨーロッパには、小政党の乱立を防止する阻止条項を有する国が多いが、オランダには、阻止条項は存在しておらず、全150議席を得票率に応じて最後まで配分するため、制度として1議席政党が可能となっている。ただ、ミニ政党が1議席取ったとしても、次の選挙で議席を獲得できず、消えるパターンも多い。

閣外協力するも、政権批判にまわった自由党

 オランダの反グローバリズム政党である自由党(PVV)は、結成から十数年間、党首ウィルダースのもとで勢力を拡大させていった。ウィルダースは自由民主人民党に所属していたが、反イスラムの立場からトルコのEU加盟議論に反発し、自由民主人民党を離党し、2006年、1人で自由党を立ち上げた。そこに人が集まり、選挙のたびに十数議席を取る政党となった。

 その自由党は、2010年から2012年に自由民主人民党のルッテ政権において、閣外協力という形で政権に事実上協力した。ルッテ政権が移民・難民に比較的厳しい立場をとったことにも一役買っている。しかし自由党は、リーマンショック以後の緊縮政策の強化に反対したため、最終的には閣外協力をとりやめる形をとった。その後、自由党は野党として政権批判などを行っていった。

 そもそも自由党が2017年総選挙で第2党まで支持拡大できた背景には、政権を批判する側に回っていたことがあった。自由党の閣外協力を解消した自由民主人民党主体のルッテ政権は、2010年に連立を解消していた労働党と再び連立を組み、緊縮政策を進めた。本来、社会民主主義を標榜する労働党が、連立政権として緊縮政策に賛成したことで、自由党は労働党を弱者を切り捨てるものだと批判し、労働党は痛手を受けた。もともと反イスラムを前面に出していた自由党は、2010年代以降、「弱者のための党」と主張することで、特に年金生活者である高齢者層や、中小都市の雇用リスクが高い層に支持を拡大していった。

 自由党の政党構造は極めて独特である。公式には党員は党首ウィルダースのみで、自由党所属の国会議員は、会派に属しているにすぎないため、党の決定も全て1人で行っている。ウィルダース自身のカリスマ性や、Twitterなどのソーシャルメディアを積極的に活用したメディア・アピールによって勢力を拡大した。自由党の支持者は、やや恵まれない層の人々が多く、中都市や地方に居住し、教育水準がやや低く、特に政治的疎外感が強い有権者が多い。他方で、アムステルダムのような大都市やグローバル都市においては、非常に支持が低い。

自由党の右派不満層を取り込んだ民主フォーラム

 近年のオランダ政治で、自由党とは別の反グローバリズム政党として、2016年に結成した民主フォーラムが勢力を伸ばしている。2019年の上院選では、第1党の座を占めた。反イスラムではあるが、インテリ受けする路線を取っており、ある種の文明論を振りかざし、ヨーロッパ文明の擁護を主張し、一定の支持を得ている。

 民主フォーラムは、自由党の急進的な反イスラム言説と距離を置く。自由党が政権獲得の見込みが薄い状況下で、自由党よりも過激ではなく、既成政党と協力の余地があり、政権参加が期待できることで、右派層の支持を集めた。最右派のポピュリスト政党から、やや穏健な右派ポピュリスト政党へと人々の支持が移動していくというプロセスは、ベルギーでも生じている。

 こういった右派ポピュリスト政党の支持層としては、自由党結成以前に自由民主人民党やキリスト教民主アピールなど、中道右派政党を支持していた人々がいる。加えて、これまで政治に無関心で選挙で投票していなかった層が、自由党に投票した。2017年総選挙の投票率が過去最高を記録したのは、右派ポピュリスト政党の存在によって、前回選挙までの非投票者を掘り起こすことができたことが1つの要因だったと考えられる。

2019年上院選で、民主フォーラムが上院選で第1党を獲得できたのは、自由党支持層の取り込みが成功したためである。もともと右派系の人々が、自由党の結成とともに、中道右派政党から支持を動かした、その後、自由党の強硬な政策や政権獲得戦略に違和感を覚え、民主フォーラムに支持を変えた。右派的な傾向を持つ人は、全有権者の2、3割と思われるが、上院選では、この層の人々にアピールすることに成功したと思われる。

移民・難民に関して厳しい立場をとるオランダ

 オランダの各政党は、経済・貿易の自由化やグローバル化に異議を挟むということはない。だが、近年の傾向として、主要な既存政党が国内向けの姿勢を優先させていることがある。ルッテ首相は、「オランダの文化に同化できない者は出ていけ」と語る新聞広告を選挙で掲載したが、その文言だけ見れば、右派ポピュリスト政党の指導者と見まがうばかりだ。EUの難民危機では、オランダ国内に難民の受け入れに否定的な空気が広がった。この傾向は、ドイツとは全く逆の状況である。かつては、ドイツは単一民族的な志向が強く、オランダは多文化主義で寛容だ、というイメージが強かったが、現在の2国の移民・難民問題に対するスタンスは逆転しているといえる。

 新型コロナ問題が危機的な状況になった2020年以降、EU各国は国境を閉じ、感染拡大への対策を講じた。そのような状況下で、EUを通じた財政支援が議論されたのだが、オランダの主要政党は否定的な姿勢をとった。

 そもそもEU成立の歴史を考えてみると、オランダは、EEC設立時から参加する加盟6カ国「オリジナル・シックス」として、最も強くヨーロッパ統合を支持してきた国であった。しかし、21世紀初頭に中東欧諸国のEU加盟が実現し、労働者の流入が進んだことを背景に、国内で移民を巡る議論が表面化した。そして主要政党も含めて、かなり内向きな姿勢を強めることとなった。特にオランダは倹約国と知られており、南ヨーロッパ諸国の「放漫」財政に対する批判的な視点を共有している。新型コロナ問題でも難民問題にしても、南ヨーロッパ諸国に問題が大きいという意識があり、国全体として批判的な意識が非常に強い。

 オランダでは20世紀末まで、グローバリゼーションが肯定的なイメージで語られてきた。しかし21世紀に入ると、グローバリゼーションのデメリット、特に「人」の流入への警戒心が強くなった。具体的な経済・貿易・金融の自由化などのグローバル化に賛成するスタンスは変わらないが、移民・難民を含めたグローバル化に関しては、市民の間でスタンスが大きく分かれてきている。オランダの場合、流入する移民が、まさにヨーロッパならざるものを持ち込んでくる悪しき存在と描かれることが多い。少なくとも、自分たちの国に何らかの積極的なメリットをもたらす存在として移民が捉えられていない印象がある。

日本と近い大規模な自粛策をとったオランダ

 2020年の新型コロナウイルスに関する政治的な対応に関して、当初オランダは、スウェーデンが行った自然免疫路線を行う方針であった。イギリスやオランダは、厳しいロックダウンを行わず、自然に抑えていく方向で進めていたが、イギリスが途中から方針を転換してロックダウンを行うようになる。オランダも、犠牲者が拡大したため、対策を迫られた。イギリスやフランスのような強制的ロックダウンや厳しい取り締まりは行われなかったが、一定の制限をかけながらも、最低限の外出を許容する大規模な自粛を導入した。強制力を働かせるような市民的自由を阻害する方針を取らなかった。結果として、オランダは、比較的日本と近い方針をとったといえよう。

EUをめぐる対立軸の可能性と、左右のポピュリスト政党

 オランダにおいて、今後も経済・金融のグローバル化への支持は否定されることはないだろう。しかし、移民・難民の流入による人のグローバル化に対しては、反発が強い。イスラムだけでなく、中東欧へのイメージも好ましくない。ブルガリアや旧ユーゴスラビア諸国出身者に対する否定的な言説が多く、移民・難民を積極的に歓迎する雰囲気がなくなってしまった。

 こうした中で、オランダでは、「小規模なEU」イメージが支持を受けている。例えば、EU内で、南欧よりも北部ヨーロッパの統合をより一層進めるといった、いわゆる段階別の統合論などは、オランダでは支持が強い。身の丈に合った小規模な協力関係、グローバル化、経済統合を進めるという、かつてのグローバル礼賛路線とは異なる立場が受け入れられるようになってきている。今後、EUへの対応をめぐり、対立軸が顕在化していく可能性はある。ただ、他国と同様に、経済的な反グローバリズムを掲げる政党が出てくるかというと、今の段階でイメージは湧きにくい。

 国内政治を考える上では、急進的な主張を展開する政党に主要既存政党が影響されている。その背景には、主要政党が系列団体や支持基盤とのつながりを大幅に失っていることがある。キリスト教民主アピールは、中道の労働組合や企業家団体や信徒団体等々が、社民政党は強力な労働組合が支持基盤であったが、今やそのような団体が弱体化し、主要政党といえども、安定的な得票率は期待できない状況である。労働党が5%という非常に低い得票率に落ち込んだのは、その表れといえる。そのため、環境問題(緑)や移民問題などの先鋭的なイシューを提示するイシュー・オーナーシップを持つ政党が支持を集め、主要政党が、その主張に引っ張られているわけである。

 左右のポピュリスト政党は、一種の合わせ鏡のようなものである。右派の自由党や民主フォーラムは、反移民、反グローバリズムを訴える一方、左派には左派ポピュリズムの社会党がある。マイナーな極左政党だった社会党は、労働党が中道化したことで労働者層の支持を得ていった。この傾向は、ドイツの左翼党やフランスの「不服従のフランス」などが、社民系政党が中道化した結果として支持を拡大したことを想起させる。

政党政治の流動化・断片化による影響

 オランダにおける政党政治が流動化、断片化したことで、様々な影響が出てきている。中間団体が弱体化し、政党自体の党員数も激減し、政党の持つ社会に対する把握能力は明らかに下がった。一方で、社会も価値観が多元化し、様々なライフスタイルが出てきたことで、個別具体的なテーマの政策実現を目指す政党が出てきた。完全比例代表制度の下での小党分立は、前述の動物党や高齢者の社会支援を主張する50プラス党などの多様な意見を汲み取り、政治に反映させるということでは、有権者にとって良い面がある。

 一方で、主要政党は、既成の様々な団体・支持基盤に頼ることができなくなった。加えて、完全比例代表制の中で、0.67%の得票があれば議席を得ることができることから、多党化が進むことで、連立政権のパズルは困難を極めている。そうなると、政治的な傾向や主張が大きく異なる政党同士が、連立を組むことが必至となる。2017年以降、キリスト教系小政党と自由主義左派政党が、連立政権を形成しており、社会的保守と社会的進歩が、まさに呉越同舟の状況になっている。これらの政党の間には、安楽死をめぐる問題への態度が、自由主義左派は安楽死を全面的に認め、キリスト教系小政党は認められないと互いに譲れない主張をしているにも関わらず、連立政権を構成している。

 このように現代オランダ政治は、さまざまな政治勢力の参入を認め、多様性を尊重しつつ、しかし政権の安定性という点では問題含みの展開といえるだろう。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)水島治郎(2021)第5部オランダ谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

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