谷口将紀
NIRA総合研究開発機構理事長/東京大学大学院法学政治学研究科教授

経済・社会文化・グローバリゼーション
・総論 2020年の各国政党政治
第1部 フランス 
第2部 イギリス 
第3部 ドイツ  
第4部 イタリア 
第5部 オランダ 
第6部 スペイン 
第7部 北欧諸国 
第8部 アメリカ 
第9部 韓国

INDEX

2020年の各国政党政治

 2010年代から2020年代初頭にかけて、先進各国の政党政治には、3つの変化が見られた。

 第1は、既成政党の変化である。例えば、小さな政府と自由貿易を志向してきたアメリカの共和党は、ドナルド・トランプの出現により大きく相貌を変え、トランプ政権による環太平洋パートナーシップ協定(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)見直し、そしてコロナ危機以前から財政赤字の拡大を容認した。他方、ドイツの歴史ある保守政党、キリスト教民主同盟(CDU)では、アンゲラ・メルケル首相の下で寛容な難民受け入れや原子力発電の廃止などリベラル化が進んだ。

 これとも関連して、第2に、各国におけるポピュリスト政党の伸長が挙げられる。2017年にはフランス大統領選挙では国民戦線(現・国民連合)のマリーヌ・ル・ペンが決選投票に進出し、ドイツ連邦議会選挙でも、ドイツのための選択肢(AfD)が一躍第三党となった。ポピュリズムは右派の専売特許ではなく、イタリアの左派ポピュリスト政党・五つ星運動は2018年総選挙で第一党となり、ジュゼッペ・コンテ政権を成立させた。

 そして第3の変化は、グローバリズムの動揺である。アメリカでは自国第一主義が台頭し、イギリスは2020年に欧州連合(EU)を離脱した。そして2020年に世界各国を席巻した新型コロナウイルスは、人やモノの往来を寸断し、感染症対策をはじめ各層の国際協調体制に暗い影を落とした。

 公益財団法人NIRA総合研究開発機構では、これまでも谷口将紀監修『hints——課題「解決」先進国をめざせ』(時事通信社、2017年)、谷口将紀・水島治郎編『ポピュリズムの本質——「政治的疎外」を克服できるか――』(中央公論新社、2018年)などを通じ、各国の政治事情を伝えてきた。本報告書はこれらの続編として、上記3つの変化を踏まえつつ、主要国における政党政治の最新動向を解説するものである。

1. 比較の方法

 各国の政党制は、それぞれの政治制度や経済・社会のあり方を反映するものであり、独自の要因に拠る部分が大きい。例えば、日本で政治的立場を左や右といった言葉で表すときには、日本国憲法第9条改正への賛否が大きなウエイトを占めるが、言うまでもなく諸外国に9条問題はない。

 ただ、そうは言っても西ヨーロッパ諸国を中心に、各国の政治空間には類似した要素を少なからず見出せるというのが、比較政治学の通説である。そこで本報告書では、あらかじめ各国共通の政策対立軸、言わば同じ尺度の「物差し」を設定し、これを用いて各国政治の専門家(以下、各国評価者)に各党の政策位置を評価してもらい、更に共通の物差しでは収まらない各国の独自要因を補足説明していただくことにした。

 本報告書が想定した物差し、政策対立軸は、以下の3つである。

 第1は、経済的争点をめぐる対立軸である。そこでは、大きな政府・社会民主主義などの言葉で特徴付けられる左派と、小さな政府・新自由主義といったラベルを付けられることが多い右派という、2つの立場が措定される。具体的な方法としては、ヨーロッパ諸国の各党の政策位置に関する調査・チャペルヒル専門家調査(Chapel Hill Expert Survey(注1))の2017年版のうち、LRECONという変数名が与えられている項目、すなわち


経済的争点における立場から、各党を分類してください。経済的左派は、政府が経済に対して積極的な役割を果たすことを望みます。経済的右派は、民営化・減税・規制緩和・政府支出の縮小・福祉の縮減など、政府の経済に対して果たす役割を減らすことを望みます。 最左派を0、中間を5、最右派を10として、0から10までの整数でお答えください。

という質問文によって計測された各党の政策位置(平均値)を、NIRA総研が委嘱した各国評価者に示した上で、同年以降に生じた新たな状況や各自の意見に照らし、必要に応じて修正を加えてもらった。

 第2の対立軸は、社会・文化的争点をめぐる対立軸である。伝統的な社会的価値観を重んじる保守/右派の立場もあれば、そうした価値観による人々の制約を最小化しようというリベラル/左派な立場もあり得る。具体的には、2017年チャペルヒル専門家調査のGALTANという項目、すなわち、


社会・文化的争点における立場から、各党を分類してください。「脱物質主義」または「リバタリアン」政党は、妊娠中絶・尊厳死・同性婚の権利や参加民主主義に賛成で、人びとの自由の拡大を望みます。「伝統的」または「権威主義的」政党は、上記のような考えには反対で、秩序・伝統・安定といった価値を重んじ、社会・文化的争点では政府は確固とした道徳的権威であるべきだと考えます。脱物質主義/リバタリアンを0、中間を5、伝統/権威主義を10として、0から10までの整数でお答えください。

という質問文を用いて操作化された値に、各国評価者の見解を加味して各党の政策位置を計測した。

 第3は、グローバリゼーションに関する政策対立軸である。前述のとおり、チャペルヒル専門家調査はヨーロッパ諸国を対象としており、EUに対する各党の立場は計測されているものの、グローバリゼーション一般に関する質問項目は含まれていない。そこで本報告書では、


グローバリゼーションに対する立場から、各党を分類してください。多国間主義は、経済をはじめとするグローバル化を不可避として、貿易・金融の自由化や、地域内または多国間協調による国際秩序形成に積極的です。一国主義は、上記のような考えには消極的で、国家の自律性を高めようとします。一国主義を0、中間を5、多国間主義を10として、0から10までの整数でお答えください。

という独自の質問文を作成し、経済的対立軸や社会・文化的対立軸と同じ要領で、各国評価者に各党の立場を示してもらった。

 本報告書では、上記3つの対立軸からなる三次元空間に各党をプロットするが、実際には各対立軸は独立ではない。概して経済的に新自由主義と親和的な政党は、社会・文化的には保守的なスタンスを取る場合が多く、グローバリゼーションには相対的に前向きである。逆に、経済的に大きな政府にコミットする政党は、往々にして社会・文化的にリベラルであり、グローバリゼーションにはどちらかと言えば慎重な態度を取ることが多い。よって、3つの対立軸は最左派(0、0、0)から最右派(10、10、10)に向かう直線x = y = z、つまり一次元の左右対立軸に集約できるというのがコンベンショナルな見方である。

 ただ、次章以下の分析で示されるように、全ての国の、全ての政党が必ずしも前記の直線上に位置付けられるわけではない。社会・文化的対立軸では両端に急進政党が存在する一方で、これらの政党が経済政策に関してはそれほど乖離していないような国もある。また、経済政策では新自由主義的立場を取りながら、社会・文化的にはリベラルな政党もなくはない。そして、特に貿易の利益が大きくなる小国では、グローバリゼーションは各党の合意争点であることも珍しくない。このような各国各党のバリエーションを理解することもまた、本報告書の目的である。

2. 分析結果の概要

 詳しくは各章をご覧いただくとして、3つの対立軸に即した各国の政党政治の特徴を概観しよう。

 イギリスでは、経済的にも、社会文化的にも、おおむね労働党、スコットランド国民党、自由民主党、保守党、ブレクジット党の順で、左派から右派へ向かって配置されている。ただ、イギリスのグローバル化を論じるときには、英連邦やEUを超えた世界市場の存在も考える必要があり、EU離脱を実現したはずの保守党(の政治家)は、自由貿易一般にはむしろ推進派である。この点を勘案すれば、ブレクジット派のジョンソン英首相が、日英包括的経済連携協定を締結したり、TPP加入を申請したりしたことも頷けよう。

 フランスでも、経済的対立軸と社会・文化的対立軸はほぼ一次元に集約される。イギリスと異なるのは、経済的争点で最左派に位置付けられる「屈しないフランス」と社会・文化的争点では最も保守的な立場を取る国民連合が、ともにグローバリズムに対してはっきり反対を掲げている点である。フランスの有権者市場は、1990年代後半から「左」「右」そして「下」に3分割されたと言われ、下すなわち既成政党に包摂されない有権者の支持を獲得したのが国民戦線(国民連合の前身)であり、屈しないフランスである。

 ドイツも同様に、中道左派の社会民主党、中道右派のキリスト教民主・社会同盟の(旧)二大政党を中心に、左派側に左翼党と連合90/緑の党、右派側にはドイツのための選択肢が位置している。ただし、経済政策では右派ながらも社会・文化的争点では左派寄りと評価される自由民主党が、歴史上しばしばかなめ政党の役割を担ってきた。欧州統合に懐疑的という意味での反グローバル勢力としては、両極のドイツのための選択肢と左派党が挙げられる。なお、最近は連合90/緑の党の支持率が社会民主党を上回る傾向が続いており、戦後長らく続いてきた二大政党(ブロック)制の行方という点でも、2021年秋の総選挙結果が注目される。

 オランダの政党政治の特徴としては、次の点を指摘できる。第1に、ドイツの自由民主党と似て、オランダにも経済的右派/社会・文化的左派の「民主66」という政党が存在する。第2に、2017年総選挙で中道左派の労働党が後退し、代わりに経済的最左派の社会党が勢力を拡大した。そして第3に、経済的には中道右派、社会・文化的にはやや保守的ながら、反EU・反移民を掲げる右派ポピュリスト・自由党が第二党となった。ただし、輸出立国がオランダの建前であり、同党とて周りの国と経済的な繫がりを断とうというものではない。

 スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの北欧諸国でも、経済的対立軸と社会・文化的対立軸における各党の配置は相関している。ただ、社会・文化的対立軸において北欧諸国の政党は、概してリベラルである。また、スウェーデンを除き、急進派を含めた左派ブロック対右派ブロックという対立図式が固定化しつつある。特徴的なのはグローバリゼーションに関する政策対立軸で、小国である北欧諸国は好むと好まざるとに関わらずグローバル経済を前提にせざるを得ず、基本的に反グローバリズム政党は成り立たない。

 イタリアでは2018年総選挙の結果、民主党を中心とする中道左派連合対フォルツァ・イタリアを中心とする中道右派連合という従来の二大政党ブロックが大きく変化した。両党が勢力を後退させた一方で台頭したのが、左派の五つ星運動と右派の同盟で、ともにグローバリゼーションに対する消極姿勢が特徴的なポピュリスト政党である。ただ、EUやユーロなくしてイタリア経済は成り立たず、これらの政党が反グローバル、反EUと言っても、実際にEUを離脱する動きにはならない点に注意が必要である。五つ星運動に支持されたコンテ政権は、第1次は同盟、第2次は民主党から分かれたイタリア・ヴィーヴァとの内訌により総辞職した。

 スペインの主要政党も、経済、社会・文化の両面での左派から右派へと、ほぼ一直前上に配置される。ただし、グローバリゼーションに関する政策対立軸においては、経済、社会・文化の両軸で左右両端に位置している新興勢力・Voxと統一ポデモスが反グローバリゼーションで、中道左派の社会労働党を含む二大政党は、ともにグローバル化に積極的である。ただし、反グローバル化政党と言っても緊縮政策反対に軸足が置かれ、EU離脱を主張するものではない。スペインでは、長い間社会労働党と国民政党が交互に政権を担当してきたが、2019年11月の総選挙の結果、社会労働党と統一ポデモスによる民主化以降初めての連立政権が結成された。

 アメリカでは、制度上二大政党以外が台頭しにくい代わりに、民主党、共和党ともに所属議員の選好には幅がある。民主党ではバイデン大統領をはじめとする穏健派がいる一方で、サンダース上院議員などの左派も根強い。一方の共和党では、従来は中道右派的な主流派により右派的なティーパーティー派が挑戦する構図であったが、公共支出を拡大しながら減税を追求するという論理一貫性を欠くトランプ派の出現により党内は撹乱された。グローバリゼーションについては、自由貿易に共和党は積極的で民主党は消極的というイメージが持たれがちだが、近年ではトランプを例外として、政権党が自由貿易を推進し、非政権党が慎重という図式とされる。

 韓国でも、保守系の国民の力が経済・社会文化争点の両面で右派、これと比べれば文在寅大統領与党の共に民主党は中道又は左寄りと、2つの対立軸の重なり合いが見られるが、それら以上に韓国政治の主要対立軸を構成するのは北朝鮮関係と、検察や国家情報院などの「権力機関」改革問題である。グローバリゼーションに関しては、かつては米韓FTA批准をめぐる対立もあったものの、自由貿易すなわち輸出促進によって経済成長を目指す方針は少なくとも二大政党間ではおおむね合意争点になっている。

3. 日本

 それでは、日本の政党政治はどのように解釈できるだろうか。諸外国についてはチャペルヒル専門家調査の結果をベースに各国評価者に所要の修正を施してもらう形で評価の客観性確保を試みたが、チャペルヒル専門家調査の対象国に日本は含まれていない。そこで、2019年参院選時に著者が実施した東京大学谷口研究室・朝日新聞社共同政治家調査のうち、当選者のデータを用いて、以下の要領で各党の政策位置を客観的に評価することにした。

 経済的争点をめぐる対立軸については、

●社会福祉など政府のサービスが悪くなっても、お金のかからない小さな政府の方が良い、という意見に賛成か、反対か。(1=賛成~5=反対、を反転)

●A:社会的格差が多少あっても、いまは経済競争力の向上を優先すべきだ/B:経済競争力を多少犠牲にしても、いまは社会的格差の是正を優先すべきだ、のうちどちらの意見に近いか。(1=Aに近い~5=Bに近い、を反転)

●A:民間による技術・経営革新を促すため、経済的規制の緩和を徹底すべきだ/B:既存産業や消費者保護のため、経済的規制の緩和には慎重であるべきだ、のうちどちらの意見に近いか。(1=Aに近い~5=Bに近い、を反転)


の3項目の回答の平均値を、政党別に求める。

 次に、東大谷口研・朝日調査(5点尺度)とチャペルヒル専門家調査(11点尺度)の寸法を合わせる。上記3項目に対して、社会民主党の当選者は全員が「反対」又は「Bに近い」と回答した。これ以上に左派的な位置は採り得ないから、チャペルヒル専門家調査の尺度でも左端すなわち0と評価してよいだろう。

 また、自由民主党の上記3項目の平均値は、1~5の5点尺度で2.9(尺度反転後)となった一方、各国共通の11点尺度を適用したときの自民党の得点を各国評価者に尋ねたところ、平均値にして4.8と評価された。これらを基に、反転後5点尺度の1(社民党)と2.9(自民党)をそれぞれ11点尺度の0(社民党)と4.8(自民党)に一次変換する式に、自民党・社民党以外の政党も当てはめることにより、チャペルヒル専門家調査の尺度による経済争点をめぐる各党の政策位置(0=最左派~10=最右派)を得る。

 同様に、社会・文化的争点をめぐる対立軸については、

●治安を守るためにプライバシーや個人の権利が制約されるのは当然だ(1=賛成~5=反対、を反転)

●夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の名字を称することを、法律で認めるべきだ(1=賛成~5=反対)

●男性同士、女性同士の結婚を法律で認めるべきだ(1=賛成~5=反対)


の3項目の回答の平均値を政党別に求め、当選者全員が第1問(プライバシー・私権制約)に反対、第2問(選択的夫婦別姓)と第3問(同性婚)に賛成と回答した日本共産党・社民党・れいわ新選組が11点尺度の0になるように、そして5点尺度では平均3.24(プライバシー・私権制約の尺度反転後)、各国評価者からは11点尺度で8.8と評価された自民党と縮尺が合うように、他党の社会・文化的争点をめぐる政策スコア(11点尺度、数値が大きいほど保守的)を求めた。

 グローバリゼーションをめぐる対立軸に関しては、東大谷口研・朝日調査の

●A:国内産業を保護すべきだ/B:貿易や投資の自由化を進めるべきだ、のうちどちらの意見に近いか。(1=Aに近い~5=Bに近い)


が対応している。ここでは社民党とれいわの全員が「1=Aに近い」と答えた一方、自民党当選者の平均値2.9に対し、11点尺度に基づく各国評価者の自民党評価は6.9であった。以上により、社民党とれいわは0、自民党は6.9となるように5点尺度による各党の平均値を11点尺度に変換して、グローバリゼーションをめぐる各党の政策位置(0=一国主義~10=多国間主義)を算出した。

図0-1 日本の政党の政策位置

 以上の手順により得られた各党の政策位置を、他国と同じ要領でプロットしたのが図0-1である。

 経済的争点をめぐる対立軸に関しては、社民党、れいわ新選組、共産党が0又はその近傍に位置しているものの、2019年参院選における獲得議席は3党合わせて10議席、比例区の得票率にして15%余に過ぎない。第3四分位点(7.5)を超える右派政党はなく、自民党、立憲民主党(注2)をはじめ大半の政党は中道左派から中道にかけての狭い空間に集中している。経済対策や税制など個別争点では逐一対立しているように見えても、小さな政府/新自由主義対大きな政府/社会民主主義という原理原則にまとめた場合、各党の位置は相対的に近くなるのである(注3)

 これに対して、社会・文化的争点をめぐる対立軸では、スコアが0である社民党、れいわ新選組、共産党に限らず、野党第一党の立憲民主党も1.6と急進派リベラルの立場を取っている。一方、自民党の評価は8.8と、他国では最右派とも呼び得るポジションであり、経済的対立軸とは一転して分極的多党制の様相を示している。1955年の結党以来ほとんどの期間で政権党であった自民党が比較政治上極端な政策位置を取っていることは、日本社会における女性参画や多文化共生の遅れの一因であると同時に、右派ポピュリズム政党の伸長を妨げている――社会・文化的争点における最保守派の政治家は、新党結成による既成政党批判よりも、自民党に入って政策実現を目指す――側面もあるのかもしれない。

 そして、グローバリゼーションをめぐる対立軸では、立憲民主党(5.3)を含めて、2019年参院選後の第1~5党(自民党、立憲民主党、公明党、国民民主党、日本維新の会)が全て、中立点(5)よりも多国間主義寄りと評価されている。特に、日本維新の会と国民民主党は自民党以上にグローバル化に積極的であり、相対的に規模の大きな政党間では対立争点になっていない点が特徴的である。他方、立憲民主党と共産党、社民党、れいわ新選組の間の大きな隔たりは、今後の選挙における野党間協力の潜在的なハードルになる可能性を示唆している。

 既にお気付きの読者も多いと思われるが、上記の議論には、改憲派と護憲派、外交・安全保障政策におけるタカ派とハト派の対立が登場していない。実は、経済的対立軸(又はそれと社会・文化的対立軸が一次元に統合された対立軸)が政策空間の第一義的な対立軸を構成しない代わりに、憲法問題や外交・安全保障政策に重きを置く——かつては「保守」と「革新」の対立と呼ばれ、今は「左」と「右」、「リベラル」と「保守」などさまざまな呼ばれ方をしている——対立軸が真っ先に析出される点が、日本政治固有の特徴である。しかし、日本以外にも、例えばイギリスにおけるイングランドナショナリズム、韓国における対北朝鮮政策のように重要な政策対立軸が存在し、これらが選挙結果を左右することもある。こうした独自の側面も含めて、本報告書が各国政治のより深い理解に役立てば幸いである。

参考文献

谷口将紀.2020.『現代日本の代表制民主政治 有権者と政治家』東京大学出版会.
谷口将紀(監修).2017.『hints——課題「解決」先進国をめざせ』時事通信社.
谷口将紀・水島治郎(編).2018.『ポピュリズムの本質——「政治的疎外」を克服できるか――』中央公論新社.

<付録> 各国評価者への質問票

Q1 主要政党(直近の選挙でおおむね5%以上の票を得た政党、又は次回選挙でおおむね5%以上の得票率が見込まれる政党)の政策位置について、おうかがいします。

(1) 経済的争点における立場から、各党を分類してください。経済的左派は、政府が経済に対して積極的な役割を果たすことを望みます。経済的右派は、民営化・減税・規制緩和・政府支出の縮小・福祉の縮減など、政府の経済に対して果たす役割を減らすことを望みます。 最左派を0、中間を5、最右派を10として、0から10までの整数でお答えください。

(2) 社会・文化的争点における立場から、各党を分類してください。「脱物質主義」または「リバタリアン」政党は、妊娠中絶・尊厳死・同性婚の権利や参加民主主義に賛成で、人びとの自由の拡大を望みます。「伝統的」または「権威主義的」政党は、上記のような考えには反対で、秩序・伝統・安定といった価値を重んじ、社会・文化的争点では政府は確固とした道徳的権威であるべきだと考えます。脱物質主義/リバタリアンを0、中間を5、伝統/権威主義を10として、0から10までの整数でお答えください。

(3) グローバリゼーションに対する立場から、各党を分類してください。多国間主義は、経済をはじめとするグローバル化を不可避として、地域内または多国間協調による国際秩序形成に積極的です。一国主義は、上記のような考えには消極的で、国家の自律性を高めようとします。一国主義を0、中間を5、多国間主義を10として、0から10までの整数でお答えください。

注1 直近の選挙時点又は2019年末現在(すなわち、新型コロナ感染症の影響がなかった時点)でのご評価をお聞かせください。以下、Q5まで同じ。

注2 基本的に党首(または実質的な党内最高実力者)の立場を、その政党の政策位置にしてください。党内に有力な反対勢力がある場合は、別に書き加えてください。

注3 (1)と(2)は、Chapel Hill Expert Survey(CHES)に準拠しております。2017年CHES対象国については、各国政治の専門家による平均点を付記させていただきました。同調査結果のとおりでよろしければ(1)と(2)をスキップされ、(3)のみご回答いただくのでも構いません。

Q2 対象国独自の政治対立軸について、おうかがいします。

(1) Q1でご評価いただいた「経済」「社会・文化」「グローバリゼーション」以外に、主要な対立軸があれば、各党の位置とともにご説明ください。

(2) 対象国の政治対立軸に関して、各国の政治研究における通説的な理解(例、「経済対立軸と社会・文化対立軸は相関が高く1つの左右対立軸として理解されている」「グローバリゼーションに関する対立軸は親EU対反EUの性格が強く、国内最重要の対立軸になっている」など)があればご説明ください。

Q3 直近の政治事情について、おうかがいします。

(1) 直近の選挙結果(議院内閣制の国は第一院の選挙、大統領制の国は第一院の選挙+大統領選挙)をご説明ください。

(2) 議会選挙については、選挙制度のごく簡単な説明を付記ください。

(3) 選挙後に執政長官の交代、連立の組み換えその他の政変が起きた場合には、経緯をご説明ください。

Q4 反グローバリズム政党(Q1(3)で0~4点で評価され、かつ、その立場を強く主張している政党)について、おうかがいします。

(1) 各党のプロフィールをご説明ください。その際、当該政党がどのような人びと(社会・経済的属性、政治意識の特徴など)に支持されているのかにも触れていただけると有難く存じます。

(2) 当該政党が政権に参加したことがある場合、①政権参加の経緯、②政権参加の形態(執政長官、連立政権のジュニアパートナー、閣外協力など)、③当該政権の施策、④当該政権の帰結、などにつきご説明ください。

Q5 対象国における反グローバリズムの動向について、おうかがいします。

(1) グローバリズムに関する各国政治の動向に関して、これまでに述べられなかった、あるいは更に詳述すべきと思われる政治的イベント(例、ブレクジット、ギリシア危機)や社会運動などがありましたら、ご説明ください。

(2) Q4で取り上げられなかった(既成)政党の中にも、有力な反グローバリズム勢力が存在する場合、あるいは反グローバリズム政党・社会運動などの影響を受けて従来の政策・公約などに影響が見られる場合はご説明ください。

Q6 Q5までは2019年末までの時期についておうかがいしてきましたが、2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症の世界的流行を受けて、各国の政治事情も変化している側面もあろうかと存じます。2020年春以降の政治変化について、何かお気付きの点がありましたらご教示ください。

Q7 最後に、全般的なご評価をおうかがいします。

(1) 対象国におけるグローバリズムへの政治的対応について、①先生のご評価と②今後の見通しについてご意見をご教示ください。

なお、当機構においてはポピュリズムについても研究関心事項としております。①ご講話で御取り上げいただいた反グローバリズム政党はポピュリストと言えるのか、また②当該国には所謂「左派ポピュリズム政党」が存在するのか、存在する場合はそのご評価(右派ポピュリズムとの異同)についても、ご高見を賜れば幸いに存じます。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)谷口将紀(2021)「2020年の各国政党政治」谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

脚注
1. ノースカロライナ大学チャペルヒル校のゲーリー・マークスらにより行われている、EU加盟国等の主要政党の政策位置を各国政治の専門家に評価させる調査プロジェクト。調査データは、https://www.chesdata.eu/で公開されている。
2. 2020年に現・立憲民主党になる以前の旧・立憲民主党。国民民主党についても同様。以下同じ。
3. 別の分析方法により同様の結論を導くものとして、谷口(2020)第5章も参照されたい。

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