新川匠郎
神戸大学国際文化学研究科講師

概要

 ドイツでは、キリスト教民主同盟(CDU)とドイツ社会民主党(SPD)という左右の二大政党が中心となって政権を担ってきた。だが2017年連邦議会選挙は、ポピュリスト政党として注目を浴び第3党となったドイツのための選択肢(AfD)、そして左翼党(DieLinke)という左右の両翼が合計して20%以上の得票率を得たことから、大きな衝撃となった。
 左右の既成政党CDU、SPDは経済的争点、社会文化争点ともに比較的中道に位置する一方で、右派ポピュリスト政党のAfDは、当初は、経済自由主義を前面に押し出すなど、経済的争点で最右派の政治的位置をとっており、反ユーロが大きな主張であった。だが、2015年のヨーロッパ欧州難民危機を契機に、AfD内でグループが分かれ、ナショナリズムや国粋主義を前面に出す政党へと変化した。左派のDieLinkeは、旧東ドイツの共産主義政党の後継という側面があるため、環境保護を訴える緑の党より社会文化的には中道寄りに位置するが、緑の党が穏健な現実路線に移行している中、経済的には最左派に位置づけられる。
 グローバリズムに関する争点では、左派のDieLinkeが反グローバリズムを掲げてきた一方で、ユーロ危機などを通じて右派のAfDが欧州統合への批判を展開し、政治問題化させていった。DieLinkeは経済のグローバル化に反対姿勢を示す内で、ドイツの西側では他政党に反発する層から、東側ではDieLinke自体を積極的に支持する層から、支持を集めている。右派のAfDは、一般的なポピュリスト政党支持層とは異なり、反ユーロ、反移民難民、反既成政党などの特徴を持つ幅広い層から支持を集める戦略が特徴的であった。
 ドイツは、「欧州の病人」と呼ばれた経済の低成長から、2000年代に取り組んだ経済の立て直しが奏功し「ひとり勝ち」と称される状態となった。しかし、2010年代にはユーロ危機や難民危機、EU統合問題などでグローバル化を巡る問題が顕在化した。こうした問題に対して、既成政党の連立政権では対応できず、二大政党が弱体化し、今後は新たな政党間での連立が模索されている。

経済・社会文化・グローバリゼーション
総論 2020年の各国政党政治
第1部 フランス 
第2部 イギリス 
・第3部 ドイツ  
第4部 イタリア 
第5部 オランダ 
第6部 スペイン 
第7部 北欧諸国 
第8部 アメリカ 
第9部 韓国

INDEX

第3部 ドイツ

ドイツの主要7政党

 ドイツの主要政党として図3-1の7つがある。その名前(略称)は、①キリスト教民主同盟(CDU)、②キリスト教社会同盟(CSU)、③ドイツ社会民主党(SPD)、④自由民主党(FDP)、⑤連合90/緑の党、⑥左翼党、⑦ドイツのための選択肢(AfD)となる。以下ではまず、これら7つの政党の概略を述べる。

 1つ目の政党はキリスト教民主同盟(CDU)であり、ドイツで初の女性首相となったアンゲラ・メルケルの所属政党でもある。同じような名前のキリスト教社会同盟(CSU)は、CDUの姉妹政党でバイエルン州のみで活動する地域政党だが、ドイツ連邦議会ではCDUと1つの会派として活動している。このCDU/CSUとともに二大政党の一角をなしてきたのがドイツ社会民主党(SPD)である。1863年まで起源をさかのぼることができる老舗の政党で、これまでゲアハルト・シュレーダー首相などを輩出している。

 このキリスト教系のCDU/CSUとSPDの両方と連立政権を組んだ経験をもつのが、自由民主党(FDP)である。ドイツ連邦議会では長い間、CDU/CSUとSPDの二大政党と比較的小さな勢力のFDPによって構成されてきた。だが1983年連邦議会選挙以降、環境保護を争点に第4の勢力として緑の党が参入している。そして緑の党は、1998年から2005年まで首班政党SPDと連立するジュニアパートナーとして政権入りを果たすに至っている。

 2005年の連邦議会選挙以降では、左翼党(Die Linke)が連邦議会に進出している。この左翼党は、旧東ドイツの共産主義系政党(ドイツ社会主義統一党)の後継政党に、SPD内の左派寄りの政治家が離脱し、合併して結成されたことが起源となっている。さらに2017年連邦議会選挙では、ドイツのための選択肢(AfD)が初めて連邦議会で議席を獲得しただけでなく、CDU、SPDに次ぐ第3党に躍進した。この年の選挙結果は左翼党とAfDという左右の両翼が合計して20%を超える得票率であったことを1つの特徴とする。AfDの躍進を含めてこの点については、後に説明する。

AfDの経済的立場の変化とCDUのプラグマティズム

 各党の経済的争点における政策位置については、チャペルヒル調査と大きな意見の相違はないが、FDPは8、AfDは7と評価した。まずFDPでは、2011年まで党首を務めたギド・ヴェスターヴェレが経済自由主義を推進していた。一方、現在のクリスティアン・リントナー党首は党大会の演説で、ヴェスターヴェレ党首時代のように経済自由主義を前面に押し出すのではなく、「社会的、かつ進歩的な」社会自由主義へ進むと強調していたことも特徴とする。この点はFDPの社会文化的な争点の評価とも関わってくるため、後に説明する。

 次にAfDは、もともと経済的に最右派に位置しており反ユーロが大きな主張であった。だが2015年の欧州難民危機を1つの契機に、政党内で経済自由主義を推すグループ、保守主義の現実路線グループ、そしてナショナリズムつまり「国粋主義」を推すグループの間の関係変化がみられた。まずは2015年以降に経済自由主義を推すグループが離脱し、さらに2017年総選挙後に現実路線のフラウケ・ペトリー元党首が離党している。この結果、政党としては国粋主義がより前面に出るように変化していった。

 CDU、CSUというキリスト教系の政党は経済的に中道から中道右派に位置する。例えば、2011年にCDUは債務を負わないようにして財政の黒字化を継続することを目標とする債務ブレーキを掲げた。またCDUは基本的に増税に対して消極的、否定的な立場をとっている。ただしFDPやAfDと同様の経済的に右派の立場であるのかというと、例えば家賃上限を設定し、最低賃金を設定するなど労働市場規制や介入も行うことから、右派とは言えない。2005年以降からメルケル首相の下で長らく政権与党であり続けた経験に伴い「説明不足のプラグマティズム(Erklärungsarmer Pragmatismus)」ともCDUの立場は評されてきた(Rudzio 2019: 109)。CSUもCDUと同じように単なる市場経済の重視でなく社会的市場経済を主張しているが、経済的に豊かなバイエルン州の地域代表でもあるため、州の負担になる政策を避ける傾向がある。

 経済左派に関しても、SPD、緑の党、左翼党の位置はチャペルヒル調査と差はない。経済的争点で最も左に位置する左翼党に関しては、SPD左派との合併にもみられるように、政党内で意見が多様で激しく対立する。その中で作成された2011年の綱領においては、旧東ドイツ側の改革派だけでなく旧西ドイツ側の原理的左派の意見も反映され、マルクス主義的な資本主義の捉え方に根差す政党であることが示されている。ただし原理的左派として連邦レベルで他党と協力が不可能という訳ではない。2021年よりベルント・リークシンガーの後を継いだ共同党首は、同年9月の連邦議会選挙を見据えて、連立政権参画の機会に左翼党が開かれていることを強調していた。

 緑の党においては党内で原理派と現実路線派に分かれているものの、アンナレーナ・ベアボック党首(2021年4月現在)は穏健な現実路線をとる。そこでは近年の環境運動の盛り上がりや党勢拡大から今後の政権入りを見越して、環境保護の単一争点というよりは、経済・産業界との意見交換も行い、雇用や経済成長などの政策と組み合わせた環境政策を主張している。

 この緑の党と比べSPDでは、財政収支の均衡化に肯定的なオーラフ・ショルツが2018年の党首選で敗れて党内の左派系候補らが党首に選出された。また2020年にショルツは緊縮財政の見直しとともに次回の連邦議会選挙における首相候補となっている。そこでは左翼党と緑の党との連立を視野に入れて、政党として多少左派に寄りつつあると評価する。

図3-1 ドイツの政党の政策位置

社会文化的争点における小政党の先鋭化

 次に社会文化的な争点の評価だが、こちらもチャペルヒル調査から大きく逸れてはいない。AfDは前述の通り、2015年以降に保守主義、さらにナショナリズム(国粋主義)を前面に出していった点で最右翼に属している。このAfDの社会文化的争点における立場は後に触れるグローバル化争点とも連動して、経済的争点だけで政党間の協力を測れなくする複数の政策軸を浮き彫りにしたとも考えられる。ただしAfDは直接民主主義を標榜しており、2019年には連邦レベルでその導入を目指す法案も提出していたことについて、どのように判断するかが難しい。ワイマール共和国時代の経験を経たドイツの文脈から評価することが可能な一方で、リベラルと親和性の高い直接民主主義の導入に意欲的とも評価できる。

 CSUはカトリックの政党であり、伝統的には保守に位置づけられる。しかし近年、カトリック教会の方針が難民問題を一例に人道的な支援、ヒューマニズムといった主張を推し進めるようになり、CSUの社会文化的な保守の立場との緊張関係が見られるようになっている。さらにCSUには女性党員が少ないなど、AfDが出現するまでは社会文化的な争点で最も右に位置していた。これに比べCDUはカトリックに限らず広くキリスト教を背景に持ち、男女同権を進める姿勢を見せるなどCSUほど保守的ではない。ただしドイツには「主導文化(Leitkultur)」と呼ばれる、様々なバックグラウンドをもつ人たちを導いていく保守的なモデル・文化的規範も提起されていた。2021年1月のCDU党首選に立候補したフリードリヒ・メルツは、この主導文化の考え方を世に問うた1人である。2021年の党首選の第2回投票で彼はアルミン・ラシェットに敗れたものの、第1回投票では第1位であったことからも、保守主義の勢力がCDUに一定以上あると考えられる。

 左派陣営では、反原発運動やフェミニズム運動と結びつく脱物質的な主張を掲げてきた緑の党が社会文化的な争点で最も左に位置している。対してSPDは、もともと男性優位の労働者のための政党であった。だが緑の党に触発されて人々の自由の拡大を方針にして、また近年の党首交代で党内左派が活発化していることも見てとれる。左翼党も緑の党と同様に基本的に寛容を尊重するものの、脱物質的な主張とは対立する側面もある。そこでは左翼党が共産主義政党の後継という側面もあるため、国家介入によって社会を構築していくという考え方も見られる。このような左翼党の価値観は、環境保全活動や環境に配慮した生活などのエコロジー運動、自然自体に価値を置く緑の党のもつ価値観とは異なるだろう。そのため左翼党の社会文化的な位置は左派であるが、緑の党よりやや中道寄りとしている。

 FDPは経済的右派である一方、社会文化的には左派に位置する。FDP元党首は同性愛を公表し、その次のフィリップ・レスラー前党首もベトナムにルーツをもっていることが象徴するように、経済自由主義を奉じつつも多様な社会文化的な特徴つまり自由を重視する政党である。それゆえ、例えば移民問題に関しては、無条件に受け入れるのではなく、あくまでも経済的自由の観点から推し進める立場となる。

合意事項としての欧州統合の争点化

 各政党のグローバリゼーションに対する立場に関しては、欧州統合に肯定的か、それとも懐疑的かという視点から評価している(Häsing und Buzogány 2018を参照)。

 まず、欧州統合に関して懐疑的な立場をとっているのは、AfDと左翼党である。AfDは欧州連合(EU)解体を目指すとともに、欧州の経済的利益の共同体形成を主張しており、単に欧州統合へ反対するのではなく、現在とは別の統合の形を推進しようという意図が見える。AfDの異色さは、現状の欧州統合が既成政党間で合意事項であったにも関わらず、2010年代のユーロ危機や難民危機を通じて、EUと関係する争点をドイツで政治問題化させていったことにあるだろう。次に左翼党は、国際平和やドイツ軍の海外派遣反対、国連改革などを主張している。欧州統合に関しては、現在の安全保障政策や経済政策に否定的である。市場経済の規制や欧州議会の権限強化などの変革を主張していることから、現状のEUの枠組みや欧州統合に懐疑的な立場であると考えられる。ただコロナ禍において、共同党首であったリークシンガーなどがEUを肯定的に見るように変化してきているため、現時点での評価は難しい。

 対してグローバリゼーション、欧州統合に肯定的な政党は、FDP、CDU/ CSU、SPD、そして緑の党を挙げることができる。FDPは、欧州統合の負担と、それによる自立性の欠如には否定的な立場である。しかしEUによる安全保障や経済政策には肯定的であり、グローバリゼーションに否定的とは評価できない。例えば、2017年から暫定適用が始まったEUカナダ包括的経済貿易協定に対して、FDPは積極的に支持していた。CDUに関しても、戦後からEU統合推進が基本方針となってきたことから、グローバリゼーションに対しても肯定的と評価できる。CSUは諸国民による1つの欧州を容認するが、連邦共同体としてのEUには否定的で「ソフトなEU懐疑主義」とも言われている。ただし2019年の欧州議会選挙を見ると、CSUの主要候補としてEUを肯定的に評価するマンフレート・ヴェーバーが議員当選している。党内にはグローバリゼーションに対する賛成反対の両方の立場があると考えられるため、党全体としてはほぼ中立と評価している。緑の党は、人権や平和主義を主張し、さらにはEUの連邦共同体化を目的にしていることから、グローバリゼーション、欧州統合に最も肯定的といえる。SPDも多国間主義を主張しているが、党内には平和主義に対する現実主義路線もある点で、緑の党よりグローバリゼーションに対する肯定度を少し低く評価している。

小選挙区比例代表併用制と調整議席

 直近のドイツの国政選挙であった2017年連邦議会選挙について説明する前に、まず選挙制度を確認する(河崎2018を参照)。日本語だと「小選挙区比例代表併用制」と言われるが、ドイツ語では「個人化された比例代表制(Personalisierte Verhältniswahl)」と表現される。小選挙区制よりも比例代表制の一種として認識されているといえる。

 ドイツの選挙では2票を投票する。1票目は選挙区候補に投じ、2票目は政党の提示する名簿に投じる。この時、各党に投じられた2票目を基に議席配分計算するため、各党の得票率と議席占有率の間に見られる比例性の原理が働くことになる。ただし全ての政党が2票目の得票率に応じて議席を配分されるのではなく、5%以上の票を得た、もしくは3つ以上の小選挙区で勝利した政党にしか議席配分は行われないという阻止条項が設定されている。

 ある政党で、1票目すなわち各小選挙区で当選した候補者の合計が、2票目でその党に配分された議席数よりも多かった場合には、総議席を増やす「超過議席」があることもドイツ議会の特徴である。ただ、この超過議席によって生じる得票率と議席率の不均衡が問題視され、2013年の選挙制度改革によって、超過議席数に見合う「調整議席」が他党に与えられることとなり、2017年連邦議会選挙ではさらに総議席数が増えることになった。

二大政党の勢力減退とAfD、緑の党の躍進

 2017年の選挙結果を見ると、第1党と第2党は与党のCDUとSPDであったが、二大政党の勢力減退が目立った。なおCDUに36議席の超過議席が出たため、SPDも含め、他の政党にもそれに見合う調整議席が与えられた結果、総議席は本来の598を大きく超える709となり、XXLサイズの議会とも表現される。

 またAfDが第3党に躍進したという意味においても特徴的な選挙であった。対してFDPは、前回選挙で阻止条項によって全議席を失っていたが復活して第4党となっている。前回の2013年連邦議会選挙では、このAfDとFDPの間での票の食い合いが目立ったが、今回の選挙ではそれがあまり起きなかった。AfDは浮動票を集めたほか、むしろCDUやSPD、さらには左翼党から票を奪っていた。

 左翼党や緑の党といった左派寄りの政党は、第5、6党であった。しかしながら、会派としては最も少ない議席を有する第6党の緑の党には選挙後に様々な動きが見られた。例えば選挙直後には、緑の党がCDU/CSU、FDPとの協力を通じて連立政権に参加する可能性も生じていた。しかし、これは政策的な違い、特に経済的自由を主張するFDPと緑の党の折り合いがつかず実現には至らなかった。この交渉失敗の結果、二大政党の一角であるSPDが、儀礼的役割を通常は果たすはずのドイツ連邦大統領の働きかけもあり、CDUを首班とする政権でのジュニアパートナーとして改めて連立与党になるに至っている。しかし選挙後にSPDはCDUとの連立の継続ではなく野党として活動することを公言しており、これを覆して政権参加することの是非をめぐっては党内で議論が割れた。こうしたSPDの連立参加への態度の変化は緑の党の支持拡大の一因となっただろう。Fridays for Futureなど環境運動の盛り上がりなどとともに、2018年夏以降の世論調査で徐々に緑の党の支持率が伸びはじめる。そして2019年5月の欧州議会選挙では、緑の党の得票率はSPDを抜きCDUに次ぐ2番手に浮上している。

反グローバリズム政党と政権担当能力

 反グローバリズム政党に関しては、左派側として左翼党、右派側としてAfDを挙げることができる。一方の左派側、旧東ドイツの共産主義政党を1つの根としている左翼党は資本の規制なき自由移動を可能にする経済のグローバル化に反対の立場を取っている。その支持の特徴としては、労働者や教育水準の低い層、また共産主義の関係もあり無宗教の人々から多くの支持を獲得している。ただし西側と東側では傾向的特徴が異なる。一方の西側では、男性かつ他政党に失望もしくは反発している層からの票が左翼党に集まっている。他方の東側では、高齢者層の支持が多く、他党への拒否感というよりは左翼党自体を積極的に支持する人が多い。

 これに対して右派側のAfDには既成政治に対する批判や直接民主主義へのこだわりがある。支持者の傾向としては中年男性が多く、また公務員や会社員、自営業者からの支持を得ている。ただし一般的にポピュリスト政党の支持基盤と言われている、失業者や外国人が多く住んでいる地域で必ずしもAfDの支持率は高くない(野田2020:94-98も参照)。AfDにはユーロに批判的な人、移民難民によって不利益を被りそうな人、既成政治に反対の人、無党派の人、収入の少なそうな人をターゲットに設定して、幅広い支持を集めようという戦略が見られたことも特徴である。

 左翼党もAfDも2021年4月現在においては連邦レベルで政権参画を経験していない。ただしドイツの上院(連邦参議院)の特徴から連邦レベルの立法過程で重要な役割をもつ州政府に目を移すと、左翼党が旧東ドイツ地域の州で与党になることが稀でなくなってきている。2010年代ではブランデンブルク州やテューリンゲン州において、左翼党が連立与党となっており、後者の州では左翼党の州首相が選ばれた。これに対して、AfDとの連立は現在タブー視されている。2019年テューリンゲン州議会選挙の後に、FDPの議員がCDUとともにAfDの支持を受けて州首相に選ばれるという事件が起きた。だが連邦レベルでのタブーを犯してしまったことで騒動となり、その後にCDUのクランプ・カレンバウアー党首が辞任する一因にもなった。結局このテューリンゲン州首相は辞任し、代わりに左翼党の前首相が再任された。また2020年にはザクセン・アンハルト州において、放送料金引き上げを巡って首班政党のCDUと連立のジュニアパートナーであるSPD、緑の党の間の不和が危機として取りざたされた。この背後にも当該州議会で第2党のAfDの影響があっただろう。ザクセン・アンハルト州のCDU内には、経済的・社会的争点で異なる意見をもつSPD、緑の党という2つの政党より、AfDと連立する方が容易であるとの意見があっても不思議でない。だがAfDとの協力の実現可能性があるだけでも大きな問題となってしまう現状で、9月の連邦議会選挙も控える中、CDUがAfDに連立のシグナルを送るのは極めて難しいように思われる。

グローバル化に関する問題の顕在化と二大政党の弱体化

 再統一後の1990年代、旧東ドイツ地域の復興の遅れもあり、ドイツは低成長を続けており、「欧州の病人」と呼ばれるほど経済的に悪い状態であった。しかしSPDと緑の党の連立政権による構造改革が効果を生み、2000年代には一転して「ひとり勝ち」と呼ばれる状況まで経済を持ち直した。改革を通じてグローバル化への対応が進められた一方、2010年代以降はユーロ危機や難民危機などEU統合やグローバル化に関する問題が、経済的・社会文化的な争点と結びついてドイツで顕在化していくことになった。

 こうしたグローバル化に関連する争点への対応で、政治的な問題となっているのは、CDUとSPDという二大政党が弱体化しており、二大政党の協力(大連立)ないし大政党のいずれかと一小政党の協力(小連立)という従来型の連立で対応できなくなっていることである。そのため現在のドイツでは政党間での協力を組み直して、問題への対応を考えなければならない。その1つの試みとして2017年連邦議会選挙後にCDU/CSU、FDP、緑の党による新たな連立に向けた交渉が挙げられる。だが、この連立交渉は失敗しており、その後のCDU/CSUとSPDの交渉も難航、結果的に組閣までに100日以上要したことからも、定まった協力関係は模索中であるだろう。

他の国々のポピュリスト政党とは異なるAfD?

 ポピュリスト政党としてAfDには既成政治批判を中心に社会不安を煽り、不満の幅広い受け皿を目指すという戦略が見られる。ただしドイツの政党に関する制度的影響もあり、AfDは他党と変わりない民主的な党組織を採っている。そこにおいては、ポピュリスト政党といえども、党内部には国粋主義や保守主義、経済自由主義など多様な意見の存在を許容している。また、ポピュリスト政党の特徴とされるカリスマ的リーダーによる指揮がAfDには存在してこなかったことも挙げられる(Lewandowsky 2018: 167-168)。

 もう1つの特徴として、なぜAfDは各国のポピュリスト政党が採用するような福祉排外主義を前面に出す極右政党として首尾一貫しないのかという問題がある。1つは、先に述べた党組織の特徴からこれまで党内での権力闘争が絶えず存在してきたことにあるだろう。これに加えて、東西統一によってドイツでは大きく2つの政党システムが混在するようになったことも原因と考えられる。旧西ドイツ側では保守主義政党(CDU/CSU)、自由主義政党(FDP)、社会民主主義政党(SPD)の間の競合関係をベースに、環境政党の緑の党、そして再統一を契機に共産主義政党を根にもつ左翼党が政党システムに参入してきた。他方の旧東ドイツ側では、西欧諸国と似通った特徴をもつ旧西側とは異なる独特な政党システムとなっており、政策位置や政権政党などにも違いが見られる(Bräuninger et al. 2020)。多様な意見を抱えるAfDの党組織の特徴および東西地域の異なる政党システムの特徴から、他国のような福祉排外主義に舵を切る右派ポピュリスト政党としての戦略はAfDにとって難しくなっていたのかもしれない。

左派ポピュリスト路線を前面に押し出していない左翼党

 左翼党は2005年総選挙において既成政治批判を行い、幅広い支持層をターゲットとし、さらには社会不安を煽って躍進した。2005年当時の左翼党は、SPD左派の論客として党首も務めた後に離党したオスカー・ラフォンテーヌが左派ポピュリズム路線を主導していたともみなせる。しかし2005年と比べて現在の左翼党は、左派ポピュリズムを戦略的に前面に押し出していない。ただし2018年には左翼党の政治家ザーラ・ワーゲンクネヒトによる、緑の党との連立ではなく、政党の垣根を越えた運動体(Aufstehen)の立ち上げの試みも見られた(Decker 2021)。このようなAfDに流れた支持層奪回を目的とした、ある種ポピュリズム的な動きもあったことから、左翼党の内部から今後、左派ポピュリストとしての路線が活性化することも否定できない。

参考文献


Bräuninger, Thomas, Marc Debus, Jochen Müller und Christian Stecker (2020) Parteienwettbewerb in den deutschen Bundesländern. Springer VS.
Decker, Frank (2021) Etappen der Parteigeschichte der LINKE‘ Bundeszentrale für politische Bildung https://www.bpb.de/politik/grundfragen/parteien-in-deutschland/die-linke/42130/geschichte (2021年3月29日アクセス確認)
Häsing, Jens und Aron Buzogány (2018) Parteien und Europäisierung in Deutschland‘ Lisa Anders, Henrik Scheller, Thomas Tuntschew (Hrsg.) Parteien und die Politisierung der Europäischen Union. Springer VS, 313-334.
Lewandowsky, Marcel (2018) Alternative für Deutschland (AfD)‘ Frank Decker und Viola Neu (Hrsg.) Handbuch der deutschen Parteien. Springer VS.
Rudzio, Wolfgang (2019) Das politische System der Bundesrepublik Deutschland, 10. Auflage. Springer VS.
河崎建(2018)「ドイツ連邦議会選挙制度改革」河崎健(編)『日本とヨーロッパの選挙と政治』上智大学出版。
野田昌吾(2020)「「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭」水島治郎(編)『ポピュリズムという挑戦』岩波書店。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)新川匠郎(2021)第3部 ドイツ谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

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