孫斉庸
立教大学法学部准教授

概要

 韓国は、保守系「国民の力」と、民主・進歩系「共に民主党」の二大政党の政策位置が拡がり、分極化が進んでいる。経済政策では、国民の力は小さな政府路線を掲げ、共に民主党は大きな政府路線を掲げ、社会文化政策でも同様の対立が生じている。共に民主党は、リベラルよりも中道に近いが、近年は進歩色を強めつつある。一方、韓国における政党対立は、独自の対立軸が重要視される。グローバリズムに関する政策位置は、二大政党間で収斂し、韓国では対立軸として機能していない。二大政党にとって、米韓FTAをはじめとした貿易自由化は合意争点となり、移民政策も、両党が多文化主義の推進を主張し、両党間で差がない。
 二大政党中心の政治も、2016年国会議員選挙で「国民の党」が第3党まで躍進したことで、変化の兆しがあった。加えて、2017年の朴槿恵前大統領の弾劾・罷免によって、保守系政党が大きなダメージを受け、「保守の没落」と称された。2020年総選挙では保守系政党が議席を減らしたが、近年では再び二大政党制の傾向が強くなっている。韓国では、2020年に選挙制度改革が行われた。この改革で、より小政党への議席配分を増やそうとしたが、二大政党が衛星政党という制度の抜け穴を利用したことで、小政党の議席が減り、二大政党の比重が高まった。
 韓国は、二大政党が強く、反グローバリズム政党やポピュリスト政党などの新興政党の参入が難しい。その一方で、大統領や首長は、二大政党の支持基盤を維持しながら主流派の批判や首長の権限を用いて、幅広く住民に訴えかけるポピュリスト的な支持動員を行う傾向がある。韓国政治の特徴として、二大政党が党名を変更するなど、イメージ刷新を図り、再スタートを切ることが多い。このような党名変更を繰り返しても、支持者は政党のイメージを引き継ぐため、支持率や党派性が変わることは、ほとんどない。こうした党名変更は、大統領選挙で政治家の離合集散が起きるため、新しさのアピール、イメージの刷新のために繰り返し行われている側面がある。

経済・社会文化・グローバリゼーション
総論 2020年の各国政党政治
第1部 フランス 
第2部 イギリス 
第3部 ドイツ  
第4部 イタリア 
第5部 オランダ 
第6部 スペイン 
第7部 北欧諸国 
第8部 アメリカ 
・第9部 韓国

INDEX

第9部 韓国

経済・社会文化分野における二大政党の政策的位置の変化

 近年、政党の政権公約や政治家の議会における記名投票を用いるなどの方法で、韓国の政党の政策位置に関する分析が進んでいる。これらの研究が強調するのは、二大政党間の政策距離が拡大し、分極化が進んでいる点だ。

 以下、こうした先行研究をもとに、各政党の政策位置を評価する。

 まず経済争点では、「正義党」が最左派の2、保守系の「国民の力(旧・未来統合党)」が最右派の7、その間に「共に民主党」、「開かれた民主党」、「国民の党」が順に位置する。2020年国会議員選挙における政権公約を見ると、最右派の最大野党・国民の力は、財政健全化や法人税の引き下げ、あるいは国民の税負担軽減など、小さな政府路線を掲げている。これに対して、与党・共に民主党は、最低賃金の大幅な引き上げや、非正規労働者の正規転換、あるいは公共部門での雇用拡大、所得保障、労働時間の制限など、大きな政府路線を掲げた。

 最左派の正義党は、満20歳の青年に給付金を支給する青年基礎資産制や、青年に対する住居手当拡充、教育無償化の漸次拡大を訴える一方で、住宅を多数所有する者に重税を課すなど、社会民主主義的で進歩政党らしい公約を多く提示している。

 社会文化争点については、経済争点の立場と強く関連している。正義党で2、共に民主党は5、国民の力は7とした。共に民主党は進歩系と呼ばれるが、同性婚や性的マイノリティの権利問題に対して消極的な態度をとっており、ヨーロッパを念頭に置いたCHES調査の基準をあてはめる場合はリベラルよりも中道という評価になろう。ただ、共に民主党も選挙制度改革をきっかけに正義党との政策協力を進めた影響で、最近では進歩色を強めつつある。

図9-1 韓国の政党の政策位置

独自の争点で分極化する二大政党

 韓国において、経済争点、社会文化争点以上に政党対立軸を構成するのは、やはり南北関係、対北朝鮮政策への立場だ。民主系・進歩系政党は、北朝鮮との交流を通じて平和を達成する太陽政策と呼ばれる融和的な立場をとっている。それに対して保守系政党は、米韓同盟を基軸としながら、敵対国家としての北朝鮮と対峙し、圧力をかける立場を明確にしている。2020年総選挙でも、米韓同盟とTHAAD(弾道ミサイル迎撃システム)の配備、中国との関係、北朝鮮との経済協力などの北朝鮮関連政策において、保守系と民主系の政党には明らかな立場の違いが見られた。

 さらなる重要争点として、検察や国家情報院などの「権力機関」改革が挙げられる。この争点は、最近浮上したものではない。過去の軍事独裁政権の流れを汲んでいる面がある保守系政党は、自由の統制や治安の強化策を許容する傾向がある。これに対して、かつての民主化運動に参加した政治家が多く所属する民主系諸政党は、権力の抑制や分散化を強め、より民主的で自由な制度を追求するなど、以前から二大政党間には明確な差があった。これが最近の検察改革問題と相まって、再び注目を集めている。

韓国の二大政党制の変容?

 保守系と民主系の大政党を中心とした、韓国の二大政党制にも全く変化の兆しが見られていなかったわけでない。2016年国会議員選挙では、全羅道を支持基盤とした「国民の党」が38議席を獲得して「共に民主党」、セヌリ党(保守系)に次ぐ第3党となり、有効政党数は3近くまで上昇した。

 また、2017年には朴槿恵前大統領の弾劾・罷免の影響により大きなダメージを受けた保守系政党は、党名を変えながらイメージ刷新を図ったものの、支持率が低迷し「保守の没落」と称されるにまで至った。

 一方、2020年総選挙において保守系政党が大きく議席数を減らしたものの、現在では再び二大政党制の傾向が強くなっている。2020年総選挙の後、保守系の未来統合党は党名を国民の力に変更、2021年7月現在では共に民主党と国民の力の支持率は拮抗しており、2022年に予定されている大統領選挙では政権交代をうかがうまで党勢を回復させた。また、2016年に躍進し、二大政党を脅かす存在になる可能性のあった国民の党は、2020年総選挙では伸び悩み、その存在感が大きく失われることになった。

準連動型比例代表制とその陥穽

 二大政党制の傾向が強まった背景として、韓国の議会の選挙制度が持つ特徴を指摘することができる。議会の選挙制度は、2004年から2016年までは小選挙区比例代表並立制であったが、2020年総選挙からは、直訳すると「準連動型比例代表制」に変更された。ドイツやニュージーランドなどが採用している併用制のように、全300議席を比例区の得票率に応じて「仮に」配分した上で、小選挙区における獲得議席との差の半分(を各党の合計が議員定数に合うよう調整したもの)が比例区の議席配分となる。比例得票率に基づいて配分される議席数が30議席と少なく、小選挙区における獲得議席との差の半分までしか議席が配分されないので通常の併用制に比べるとあまり比例的ではないが、従来の並立制と比べ、小政党への議席配分が増える余地を増やしたものである。

 この選挙制度改革に対して、既成の二大政党は、制度の抜け穴を利用して、議席の最大化を図った。本来、準連動型比例代表制では、小選挙区で多くの当選者を出した政党は、比例区の議席配分では不利になる。そこで韓国の二大政党は、衛星政党と呼ばれる姉妹政党を作り、一方は小選挙区だけに候補者を擁立し、もう一方を比例区だけで立候補させるという戦略をとった。これによって、小選挙区で議席を獲得しても、比例区の議席を配分するときのペナルティーにはならない。

 このような目論見の下、未来統合党は衛星政党「未来韓国党」を立ち上げた。当初は制度変更の趣旨に反する動きと批判していた共に民主党も、自党だけが不利を被ることを恐れ、最終的には同様の手法で、衛星政党「共に市民党」を立ち上げた。こうして、二大政党によって制度の趣旨は骨抜きにされてしまった。もし衛星政党がなければ、正義党、国民の党、開かれた民主党といった中小政党が、比例区で多くの議席を得られるはずであった。

 他方、投票率は2008年以降上昇が続いており、2020年総選挙では66.2%と近年では最高となった。無党派層の割合は15~18%で推移しているから、2020年総選挙は、二大政党間競争が激しく、互いの政策的な距離が離れる中で、有権者の動員が進んだものと推測できる。

グローバリゼーションをめぐる収斂

 韓国ではグローバリゼーションは、政党間の政策的差異をもたらす主要な対立軸としては機能していない。一時的に個別争点が顕在化したことはあったが、新たな政治勢力の台頭をもたらすまでには至らず、二大政党間の立場は収斂している。直近の大統領選挙や総選挙においても、グローバリゼーションは主要な争点にならなかった。

 個別争点における議論をみておきたい。第1に、貿易自由化をめぐる賛否、特に米韓FTA批准をめぐる政治的対立が見られた。2008年には、アメリカ産牛肉の輸入問題をめぐって、非常に大規模なデモが発生した。2011年には、当時の与党・ハンナラ党が米韓FTA批准を強行採決した一方、野党の民主統合党および統合進歩党は、米韓FTAの中断・破棄を要求し、その後の国会議員選挙や大統領選挙では争点の1つになった。

 ただし、米韓FTAを批准したのは保守系の李明博政権下であったが、そもそも2006年から米韓FTAの交渉を進め、2007年に締結、調印したのは民主系の盧武鉉政権であった点に注意を要する。民主党もFTAは輸出主導型の経済成長に資するものとして認識しており、FTAそのものに反対していたわけではない。ところが、国内でFTAへの反発が強まると、その間に野に下っていた民主系政党は、李明博政権や与党に対する選挙向けの攻撃材料としてFTAを利用したのであり、2012年の国会議員選挙と大統領選挙が終わると、FTAをめぐる対立も潮が引くように収束していった。2017年にトランプ大統領が米韓FTAの再交渉を要求した際も、FTAを破棄すべしという意見はほとんど見られず、いかにしてアメリカの要求を最小限に抑えられるかが議論の焦点であった。自由貿易や米韓FTAは、いまや二大政党の合意争点である。

 第2に、外国人労働者の受け入れなどの移民に関する問題がある。この問題に関しては、民主系政党は以前から外国人労働者の人権擁護や永住外国人に対する地方参政権の付与などの政策を掲げていた。近年になると、保守系政党も支持基盤の拡大を目論み、多文化主義的な政策を推進するようになった。有能な外国人労働者の受け入れを通じて経済成長につなげるという観点から、移民受け入れに伴う社会政策を積極的に進める立場をとった。このように動機は違えども、多文化主義や多文化家族の支援推進に関する二大政党の政策位置は収斂し、対立軸としては注目されにくくなっている。

 以上のとおりグローバリゼーションに関する二大政党の差は目立たなくなっているものの、正義党はいまだにFTAに批判的で様々な条項の見直しを求めており、また多文化主義に関してはより積極的、すなわち総じてグローバリズムに批判的立場と理解できる。

二大政党内でポピュリスト的な動きをする政治家

 二大政党制の傾向が強い韓国では、反グローバリズム政党や左派ポピュリズム政党など新党の参入は難しい。だが、ポピュリストの要素を持った政治家や政党の動きが全くないわけではない。大統領や地方自治体の首長は、国民や住民の直接選挙によって選ばれるため、ポピュリスト的な支持動員が生じる。

 新たなポピュリスト政党を組織するのではなく、あくまでも二大政党の支持基盤を維持しながら主流派を批判する方法、もしくは首長としての権限を用いて、幅広い住民や有権者直接訴えかける方法が取られる。

 このような二大政党内のポピュリストとして、注目されているのが、京畿道(キョンギド)の知事を務めている李在明(イ・ジェミョン)だ。反エリート主義的な立場をとり、SNSなどを利用して有権者に直接訴えかける政治スタイルが特徴である。国政レベルでは出せないような福祉ポピュリズムなど、より急進的な政策を打ち出すことで住民の支持を拡大しており、次期大統領選挙の有力候補として存在感を高めている。

党名を変えながら存続する二大政党

 新たな政党が参入しにくい韓国であるが、既存政党が党名やシンボルなどを変更してイメージを刷新し、再スタートを切ることはよく見られる。しかし、党名変更を繰り返しても、当該政党への支持率や有権者の党派性(支持政党)が変わることは殆どない。

 経済成長や汚職事件など、過去の政権に対する記憶や経験が各人の政党選択を強く規定する。ただ若年層は、過去の記憶と切り離されているから、同じ政党を支持する場合でも年齢層ごとに内容に違いが生じることがある。

 例えば、朴正煕大統領時代の農村の近代化を進めたセマウル運動のイメージが残っている一次産業従事者、農民は当時の与党の流れを汲む国民の力を支持しているが、現在では国民の力は自由経済を推進する立場をとっており、彼らの利益と相反する部分がある。

 こうした傾向は、産業・職業による組織化が殆ど進んでいないため、それ以外の要因の規定力が高いこととも関係している。韓国政治においていまだに大きな規定力を有しているのが地域対立だ。一次産業従事者の多い地域では、有権者の多くが国民の力を支持している。

 ただ、産業・職業による組織が全くない訳ではなく、一部の農民団体の中には、米韓FTAによる市場開放がもたらす破滅的な影響を訴えて、アメリカとの再交渉を要求し、従来の保守系ではなく、民主系・進歩系政党とも連携を図る向きも見られるが、決して全国的な連携ではなく、あくまでも一部の動きにとどまっている。

 二大政党が頻繁に党名を変えるのは、大統領選挙の影響が大きい。大統領選挙をめぐって政党や有力政治家の離合集散が繰り返される中で、実質的には前身政党の衣替えではあっても党名を刷新して過去との決別、新しさをアピールしようとする。そしてまた何年か経つと、その政党がさらに分裂し、別の名前の政党ができ、次の大統領選挙を機に政党再編が起きるのだ。

新型コロナ対応による支持率の盛衰

 2020年総選挙は新型コロナウイルス感染症が拡大する中で行われた。当時はK防疫と呼ばれる独自の厳しい対策により、政府は流行第1波の抑え込みに成功したと考える向きが多く、このことが与党・共に民主党の議席拡大につながったとされる。ただ、保守系政党の議席減は以前から予想されていたことで、コロナ対応が選挙結果を大きく左右したという過大評価はできない。

 総選挙以降は韓国内でも新型コロナウイルスの新規感染者数の拡大が見られ、またワクチン確保の遅れ、それ以上に不動産価格の高騰に対する不満や景気の悪化、検察改革をめぐる文政権と検察との対立などにより文大統領や共に民主党の支持率は減少し、目下、2022年春の大統領選挙を控え政界の行方は予断を許さない状況が続いている。

引用を行う際には、以下を参考に出典の明記をお願いいたします。
(出典)孫斉庸(2021)第9部韓国谷口将紀・水島治郎編『NIRA研究報告書 経済・社会文化・グローバリゼーション』NIRA総合研究開発機構

ⓒ公益財団法人NIRA総合研究開発機構

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